「天平の甍(いらか)」
加 藤 高 穂
天平の甍飛び越え春の蝶
白蝶の舞ひ現れし万葉碑
翅やすむ都府楼礎石の蝶若し
早春の昼さがり、自転車を連ね、妻と水城跡に梅を観に出かけた。萌え出たばかりの若草に腰を下ろし、昼食を広げると、軽やかな羽音がして、目白の群れが飛来した。花から花へ敏捷に飛び移り、器用に蜜を吸う愛くるしい姿に心癒される。柔らかな日ざしの下、ほのかな梅の香りに包まれ、穏やかな時が流れていく。
折角だからと、「遠の朝廷」と称された太宰府政庁跡・都府楼に足を向けた。「国のまほろば」(国のまことにすぐれたところ)にふさわしい景観が、目の前に広がる。古代人好みの優しい稜線を描く山々に囲まれ、すこしく開けた平野には、往時を偲ばせる礎石群が地表に顔を覗かせている。春の到来を喜び、ひらひらと紋白蝶が辺りを飛び廻る。恋の相手を求め、縺れ合いながら、高く舞い上がる蝶もいる。
自然界は、厳しい寒さに耐えて、冬を乗越えた歓喜に満ち溢れているかのようだった。その大地の下には、出土した天平時代の鬼瓦ばかりでない。瓦屋根の下で織りなされた、悲喜こもごも、数知れぬ人々の人生が埋もれているのだ。
その後、天平18年(746)に建てられた観世音寺を訪ねた。筑紫の征路空しく、朝倉の宮で崩御した母帝・斉明天皇のため、天智天皇が建立を発願。大凡80年を費やして完成した古寺であるが、新元号『令和』の発表前で何処も人影は少なく、静かな古都のたたずまいと情緒を、ゆっくり味わわせて貰った。