「蜘蛛と蚰蜒」(クモとゲジ)
加 藤 高 穂
咬み合ふて共に果てたり蜘蛛と蚰蜒
あまりにも速い時の流れを、今更のように感じている。49年前、西南大神学部を卒業。開拓伝道のため、鹿児島に行かせて頂いた。 時に、上村倫功兄があちらこちらを歩き回り、市内東部・カツラ山の中腹に、千坪程の土地に建つ四畳半二間・山小屋もどきの家を探し当てて下さった。南の窓を開けると、眼下に錦江湾と市街地が望まれる。周囲は実に自然豊かで、自由な空気が横溢していた。
ただ、隙間だらけの部屋には、桜島が噴き上げる灰ばかりでない。風の強い日には、どこからともなく木の葉まで舞い込んでくる。押入れを開けると、蛇が鎮座していたりもした。風呂は露天の五右衛門風呂で、星空を眺めての風韻を楽しむこともできる。
しかし、夜中、寝ていて13㌢大の百足に刺される経験を二度もした。腫れは引かず、いつまでも消えない痛痒さには閉口した。また、ゴキブリ等を退治してくれる夜行性の足高蜘蛛や蚰蜒が屋内を走り回る。
そんな夏の夜半、台所に置いていた金盥から、何やら物音が障子戸越しに聞こえていたが、気にもしないで眠ってしまった。
翌朝、金盥の中を覗くと、反対側の両端に蜘蛛と蚰蜒が遠く離れて死んでいた。あの物音は、コロセウムの剣闘士さながらに、死闘を繰り広げる音だったのだ。
互いに争いたくはなかったろう。だが、たまたま狭く逃げ場のない場所で出会ったがための悲劇だったのだ。世界が利権を求めて相争い、共に終焉を迎えることだけは避けたいものである。