「東海道四谷怪談」の感想です(6) 一人の女房に、二人の男。 | 1904katuoさんのブログ

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砂岡事務所プロデュース、『東海道四谷怪談』のあらすじと感想です。

沢山の間違いとネタバレ、激しい私見をお許し下さい。

台詞と順序は不正確です。

ご容赦下さい。

前回の続きです。



(赤穂浪士の討ち入りの頃の物語です。

舞台は、洋装と和装の2バージョンで演じられました)


直助(桑野晃輔さん)と、お袖(白瀬裕大さん)は、三角屋敷に所帯を持って暮らしていました。


そこに宅悦(植本純米さん)が、あんまの仕事で訪れます。

すると、お袖は、あんまが、顔見知りの宅悦だったことに驚きました。


お袖「お前は、宅悦さん?!

どうして、ここらへ来なすった?」


宅悦は、以前は、お袖が働いていた、売春宿の主人でしたが、今は、流しのあんまになっています。

そして再会を懐かしんだ後、宅悦は、お袖が髪に差している、お岩(田渕法明さん)の櫛に気がつきました。


宅悦「この櫛は、どうも見たような櫛だが…?

…そうだ!

この櫛について、とんだ話がありますよ!」


そして宅悦は、お袖が、お岩の妹だとは知らずに、恐ろしい事件のあらましを話し始めます。


お袖「…その、お岩さんという女中(女性)は、どうぞしやしんたかへ?」

宅悦「どうしたどころか、いや、大騒動でござりました!

その民谷伊右衛門(平野 良さん)という侍の、女房のお岩という人は。

もとは、焼きもちから起こって、亭主に殺されやした!」


突然に、姉の死を知らされて、お袖は驚愕します。


宅悦「それから、その伊右衛門という人が。

気が違ったか、自棄になったか。

その他に2~3人を殺して、姿を隠したが。

いやもう、思い出すと、ぞっとするほど恐ろしいことが!」


惨劇を思い出し、震える宅悦に、お袖は、必死に食い下がります。


お袖「私が為には、義理ある姉さんの仇!

その伊右衛門のありかを、言うて聞かせて下さんせ!

姉さんを、どのように惨う殺したのじゃ?!

どうか、言うて聞かせて…!!」


そのとき直助は、悲しみに取り乱す、お袖をなだめ、宅悦は、あんまの道具の足力(そくりき)を置いて、慌てて逃げて行きました。


やがて、泣き崩れていた、お袖は、覚悟を決めたように、直助の晩酌のお酒を盃に注いで、三三九度のように飲み干します。

さらに、お袖は、盃を直助に差し出します。


そして戸惑う直助が、盃を飲み干したとき、お袖は、きっぱりと告げました。


お袖「もう、祝言はすんだぞへ!」


その言葉に、直助は驚いて尋ねます。


直助「…そんなら、お前は、帯紐といて?」

お袖「…あい!」


お袖は、直助と九十九日間、生活を共にしながらも、決して身体は許しませんでした。

しかし今、お袖は、姉と父と、許嫁の与茂七(白又 敦さん)の仇討ちに協力してもらうために、直助と真の夫婦になろうとしています。


お袖「(与茂七への)

操を破って、操を立てる。

私が心!」

直助「いや、女というものは、怖いものよ…」


直助は、お袖の決意に圧倒されますが、ついに、愛する人に触れられる喜びには、あがらえません。


直助「助太刀しよう。

討ってやろうよ。

女房になるか?」

お袖「…決して見捨てて下さんすなへ!」


こうして二人は、屏風の後ろに敷いた布団の中で、初めて身体を重ねます。


しかし、そのとき、亡くなったと思っていた、お袖の許嫁の与茂七が、直助の鰻掻きの竿を手に、家を訪ねて来ました。


与茂七「もし、お頼み申します!」


そのとき直助は、お袖との愛の余韻の中におり、来客に扉を開けません。


しかし与茂七が

「外に干してある洗濯物を、盗人が持って行くぞ!」

と叫ぶと、直助は、慌てて飛び出して来ました。


そして直助は、殺したはずの与茂七に驚き、怯えて家の中に逃げ込もうとします。


直助「やややッ!

幽霊だッ!!」


すると叫び声を聞いた、お袖が戸口に現れました。


お袖「…お前は、ほんに幽霊じゃない!

正真正銘、寸分違はぬ与茂七さんじゃ!

よう達者でいて下さんしたなぁ…」


お袖は、泣きそうな顔で、与茂七の無事を喜んでいます。

そして直助は、ようやく、自分が殺した被害者は、別人だと気がつきました。


しかし与茂七は、お袖との再会を喜びながらも、なぜ直助が、同じ家に居るのかと尋ねます。


お袖は、困り果て、直助のことを

「あんまさんじゃわいな!」

と誤魔化そうとしましたが、与茂七は騙されません。


そして与茂七は、『権兵衛』と名前の書かれた、鰻掻きの竿を差し出しました。

すると直助は、竿を背に構え、見得を切ります。


直助「以前は直助。

その後は、藤八五文の薬売り。

(今の仕事は)

隠亡堀で鰻掻き。

(うなぎのように)

ぬらりくらりと世を渡る。

今のその名は、権兵衛という。

金箔のついた貧乏人さ!」


(←私見ですが、この口上を聞いたとき、常に働いている直助が、人生で報われることは、少なかったように思いました)


与茂七「では、お袖は、何ゆえここに?」

直助「この女か?

こりゃあ、俺が女房さ!」


そして二人は、困惑するお袖の前で、左右に離れて胡座で座り、にらみ合います。


与茂七「一人の女房に、二人の男」

直助「昔の御亭主!」

与茂七「今の御亭主!」


二人は、一歩も引きません。

そして与茂七は、直助の手に渡った、赤穂浪士の回文状を返せば、お袖を譲ると約束します。

しかし与茂七は、本心では、討ち入りの秘密を知った直助を、口封じのために、殺害しようとしていました。


一方、直助も、「回文状などは知らない」と嘘ぶいています。

しかし彼は、高野(吉良)家に回文状を渡して褒美を貰い、与茂七を亡きものにしようとしていました。


そのとき、お袖が、そっと直助に頼みます。


お袖「与茂七殿も以前は武士。

もしも、お前に怪我があっては、誰を力に親姉の仇を、討ってもらうことが出来ましょう」


直助は、お袖が、与茂七を庇っていると疑います。


しかし、お袖は

『奈落の底まで、お前と夫婦』

だと約束し、与茂七を殺す計画を話しました。


直助「合点だ!!」


直助は、喜んで同意しました。


その後、お袖は、直助をすぐにも斬ろうとしている、与茂七にも同じ計画を話します。


お袖「あの直助も、以前は武士。

ことに常から強気者」


そして、お袖は、高野(吉良)邸への討ち入りを前にして、与茂七にもしものことがあれば、忠義に反することになる、と説得しました。

さらに、お袖は、取り潰された塩谷(浅野)家は、私にとっても主君であり、忠義によって、ためにならない直助を、殺す手引きをする、と約束します。


与茂七「でかした、お袖!

それはそうと、どのようにするのだ?」


お袖は、直助に寝酒を勧めて、正体を失ったときに、屏風越しに、行灯の灯りを消すのが合図だ、と話します。


与茂七「あの直助めを、たった一突き!」


与茂七は、意気揚々と去って行きました。

その後、お袖は、一人静かに泣き出します。


お袖「水の流れと人の身は、移り変わると世のたとえ。

思えば因果な、私の身の上…」


(←白瀬さんのお袖は、大変に聡明な印象でした。


私見ですが、お袖は、与茂七が信じて疑わない『忠義』と、直助が代表する『個人の幸せ』の間で、引き裂かれたように思えました。

そして、二人の夫は、自分の価値観を疑いもしないため、お袖の苦しみに気がつきません。


二人を愛しながらも、どちらにも戻れないお袖は、彼らの殺し合いを止めて、与茂七が仇討ちを成し遂げ、直助が生き続けてくれることを、願ったのだと思います)


その後、お袖が、行灯の火を吹き消すと、左右から、直助と与茂七が、屏風の後ろに斬りかかりました。

すると、屏風が倒れ、瀕死のお袖が、横たわっています。


そしてお袖は、驚愕する二人に、苦しい息の下から、一生懸命に告げました。

最初から私は、命を捨てる覚悟だったと。


そして与茂七に、直助と夫婦になり、操を破ったことを詫びました。

さらに、お袖は、へその緒の書き置きを直助に渡して、血の繋がった、本当の兄さんを、訪ねて欲しいと頼みます。

(←お袖は、幼い頃に、四谷家の養女になったようです)


そのとき与茂七は、直助が、自分と間違えて、奥田庄三郎(水貴智哉さん)を、闇討ちにしたのだと知りました。


与茂七「さては、おのれが庄三郎を!!」


与茂七は憤り、刀を抜いて、直助を斬り捨てようとします。

そのときお袖は、叫びながら、直助の前に飛び出し、刀の前に手を差し出して、必死に与茂七を止めました。

直助は、自分が人殺しであり、騙して結婚したと知ったうえで、お袖が、必死に庇ってくれたことに驚きます。


そして次の瞬間、お袖から託された、書き置きを見た直助は、激しいショックを受けました。

直助は、突然に瀕死のお袖の頸動脈を、刀で斬って即死させます。


与茂七「女の首を?!」


その後、直助は切腹し、死に際に与茂七に訳を話します。

書き置きを読み、お袖が、実の妹だったことを知ったと。

そして、自分が殺した奥田庄三郎は、元の主君の息子だったと。


直助「…地獄へ急ぐ置き土産。

いつぞや手に入る廻文状…」


こうして、貧しく不幸な境遇の中でも、一人の女性を愛し抜き、必死にあがき続けた、小悪党は生涯を閉じました。

(←自分の切腹と、近親姦を知らせずに、お袖を先に死なせたことに、直助の愛情を感じました)


そして、直助から廻文状を受け取った与茂七は、お袖の姉の仇である、伊右衛門を討つために、走り去って行きました。



後一回、続きます。

読んで下さったかたに心から感謝します。

本当にありがとうございます。