【テーマ・どうとく】


子どものころ
嵐は突然やって来ました。

朝目覚めたときに空を見上げて
はじめて晴れか曇りか
はたまた嵐か
渦中にあってやっと気づくのです。

横殴りの風雨のなか
黄色いカッパを着て
当たり前のように
学校へ向かったものです。

大人になるにつれて
嵐には予兆があると知りました。

天気予報をうかがい
予定を調べなおし
横殴りの雨の日は
ずる休みすることを
覚えました。



子どものころ
嵐はわたしから
いろいろなものを奪いました。

突風が吹くとも知らず
開け放ったままの窓から
大切なものが飛んでいってしまった。

雨が降り注ぐとも知らず
表に出しっぱなしのものは
大切なものもずぶ濡れになった。

からりと晴れた翌朝には
変わり果てた自分の姿に
少し唖然としながらも

またランドセルを背負い
当たり前のように
学校へ向かいました。

嵐がわたしから奪ったものは
失っても生きていける
その程度のものだったのです。


大人になるにつれて
嵐はわたしから
何も奪わなくなりました。

突風に備えて窓を締め切り
豪雨に備えてモノを抱え込み

約束された学びも
期待された出会いも
何もかも投げ出して
部屋に閉じ籠り
嵐が来るのを待ちました。

突風に息を詰めることがない代わりに
閉めきった部屋の二酸化炭素に
息を詰めて苦しみました。

雨に身体を濡らすことがない代わりに
不安に晒され流す涙に
こころを濡らして凍えました。

からりと晴れた翌朝には
酸欠と寒さに疲れたわたしは
閉ざした部屋から外へ踏み出すことが
できなくなっていました。

わたしが嵐から守ったものは
あってはかえって生きられない
その程度のものだったのです。


嵐の予感がします。

嵐に備える時間があります。
けれどもどんな嵐にも耐えうるような
入念な準備や修繕をする余裕はありません。

わたしにできるのは
ごはんを食べてよく眠り

嵐のなかでも約束を果たし
嵐のなかでもひとと出逢い
嵐のなかでも生きることです。

横殴りの雨のなかを
黄色いカッパを着て出掛け

突風に息を詰まらせて歩き

からりと晴れた翌朝には
嵐の去ったことに
こころから安堵することです。

そしてまたランドセルを背負い
晴れた通学路を歩くことです。


嵐の予感がします。

風がわたしのほこりをはらい
雨がわたしのけがれをあらい

からりと晴れた翌朝には
限りなく素朴なわたしでありたい

そのための備えをします。











【テーマ・りか】


もしかして花になるの?
小さなふくらみがありました。





薄黄緑色の蝶々みたい?
あらたな双葉が芽生えました。





北海道の夏は短いものだと
漠然と思っていましたが
ずいぶんと傲慢なことを
思っていたものです。

どんなに短くても
わたしは三十数回の夏を
繰り返し経験しながら
また来年夏が来ることを
当たり前に知っています。

けれどもこのあさがおたちは
この短いひと夏が一生なのです。

芽が出てふくらんで
花が咲いたら種子になり
種子が弾けて枯れるまで

長いも短いも関係なく
ことわりの通りに生きています。

いまが夏だということも
この夏もいつか終わることも
あさがおは知らないでしょう。

一晩で姿を変えるあさがおを
その成長を早いとみるのは
わたしが与えられた一生を
のんべんだらりと暮らし
一刻一刻を大事にできない証です。


わたしの一生があさがおの一生を孕み
人類の一生がわたしの一生を孕み
地球の一生が人類の一生を孕み
宇宙の一生が地球の一生を孕み

時間がすべての生涯を孕み
すべてのものが同じ時を
一刻一刻と刻んでゆくのだから

時間がもしも永遠ならば
ひと夏のあさがおも
ひと世代のわたしも

きっと永遠なんだろうと
なんとなく思いました。










【テーマ・こくご】


色とりどりの光る小石の原で
ある日わたしたちは出会った

きらきら光る小石のなかから
あなたは赤く透き通った小石を
わたしは青く透き通った小石を
それぞれ拾って御守りにした

あなたもわたしも
誰かを探して旅をしていた

あなたはいつも強かった
旅の途中で出会う魔物も
あなたの剣には敵わなかった

あなたのからだは
倒した魔物のかえり血を浴びて
赤い小石のように光っていた

魔物と闘うあなたの姿は
命を奪って生き延びる喜びと
命を脅かされて生じる怒りで
赤い小石のように燃えていた


わたしはいつも弱かった
旅の途中で出会う魔物も
わたしなぞには構わなかった

わたしのからだは
にらむ魔物のまなこに怖じけて
青い小石のように光っていた

魔物に怯えるわたしの姿は
命を奪われてついえる恐怖と
身の守りさえ忘れた悲しみで
青い小石のように冷えていた


そうしてついに
あなたとわたしは
探していた誰かを見つけ出した

それは大きな
大きな女のひと

数えて七つの眼をもち
大地を呑み込む口をもち
両手を広げればこの世のすべてを
覆い隠してしまうほど

おおきな女の化け物だった


あなたはあなたの限界を超えて怒り
あなたはあなたの限界を超えて闘う

わたしはわたしの限界を超えて怯え
わたしはわたしの限界を超えて叫ぶ

あなたの剣は折れて
あなたは闘いに敗れ
あなたの赤い小石が砕ける

わたしの胸は裂けて
わたしは絶望に陥り
わたしの青い小石が砕ける

身代わりのお守りが砕けたとき
あなたとわたしはどこにいたのか


女のひとが泣いている
女のひとが大切にしていた
虹色のガラス玉が割れたのだ

女のひとの身を守る
虹色のお守りが砕けたのだ

きらきら光るガラス玉の
破片はまるで小石の原だ

あなたとわたしは
そこで生まれて
あなたとわたしは
そこで出逢った

あなたは赤い小石のように怒り
わたしは青い小石のように嘆き

あなたもわたしも
あのひとを探して旅に出た


あなたはわたしで
わたしはあなた

わたしたちは
虹色のガラス玉