【テーマ・りか】


遺伝の勉強です


お母さんのお母さんはおばあさん
おばあさんのお母さんはひいばあさん

あなたにとってはね

ひいばあさんはお母さん
おばあさんにとってはね

おばあさんはお母さん
お母さんにとってはね


ご先祖さまだなんて
いっぱひとからげは
失礼だからおやめなさい

一世代ごとに
遺伝を感じなさい

流れる血に受け継いだ
歴史に遺伝を学びなさい


たかだか
たった一世代

なぜわたしを産んだのかと
疑問や憎しみを抱くことが

いかに浅はかなことか
わかるでしょう

母があるなら
母には必ず母がある

遺伝を憎むくらいなら
血の歴史を思いましょう

遺伝を哀しむくらいなら
血の歴史を学びましょう



【テーマ・どうとく】


誰のなかにも
悪しき心があります

道徳における善悪は
とても一言で片付かないどころか
ひとがその一生を掛けても
人類がその全歴史をもってしても

確固たる定義もできなければ
理性ある抑制もできないという

なんとも恐ろしいものです

そんな恐ろしいものに
わたしたち個人は
日々向き合わされ
日夜付き合わされ

逃れることも
納得することも
許されないわけで

身のうちに巣食う
怒り憎しみの感情を
悪として裁き個性を正義に保つか
善として翻し個性に取り込むか

ゆらゆら揺れながら
人生の大半を
グレーゾーンで過ごすわけです


食事のすべてが
生命の犠牲であることから
戦闘のほとんどが
生命の奪取であることまで

全部が悪だと思えば
それは日々無事に生きることが
いかにも罪であるように
感じても無理はないです

しかしながら
少なくともわたし個人は
そんな大それた責任や罪を
生まれながらに背負いながら
人生のすべてを
償いに費やせるほど
覚悟のある生き方は
してこなかったし
これからも
はっきり言って
できる気がいたしません

だからと言って
生きることが
必要悪だと開き直っても
他人に迷惑な生き方に
なるでしょうし

生きることが
罪だといって懺悔に生きても
誰かと幸福を共有できる
生き方にはならない
ような気がしています

それでだいたいが
ゆらゆら揺れながら
一見優柔不断な
灰色な生き方考え方で
人生を辿っていくわけです

見方によっては
善悪を判断する然るべき時に備え
常にスタンバイ状態を維持しているとも
言えるかもしれないけど

他人からどう見られるかを
気にしながら生きる生活において

白黒つかない状態を
あえて維持することは
非常にしんどいことです

あるときはあるひとに
ニッコリ笑いながら
それは善いことだと言い

あるときはあるひとに
眉間に皺を寄せながら
それは酷いことだと言い

自分のなかでは
白黒つかない
曖昧で未熟な状態を
キープさせるわけだから

自分で自分が情けなくなったり
自分が信じられなくなったり

うっかり他人に染まったり
うっかり投げやりになったり
してしまうんですね

そうして
あれこれ考えているうちに
すっかり面倒くさくなって
それまで懸命にこねくり回していた
考え方や生き方が
手垢で汚れたくだらないものに
見えてきてしまって

思わず放り出してしまう

けれどもされども
人生は続いていくので

半ば惰性的に開き直るか
半ば絶望的に死を急ぐか

白か黒かでしか
生きられなく
なってしまう



長生きしたければ
灰色な生き方に
耐えねばなりません

身のうちに生まれながらに潜む
悪しきと思われるあらゆるものに
思考を挑まねばなりません

なぜそれは悪なのか
なぜそれを悪とするのか
悪を悪たらしめているのは
なんなのか


なにを面倒くさいことを…
と思うでしょうが

誰でもみんな
毎日やっていることです

きっと
毎日やっていることです

この自問自答なしには
ひとは生きてはゆけないと
言っても過言ではないと

わたしは考えています


【テーマ・どうとく】


ものを捨てると
ひとことで言っても
一連の動作のなかに
幾つかの段階がある


一、
手離す決心をする
数ある所持品のなかから
不要と思われるものを選び
捨てることに決める気持ちの作業だ

二、
捨てると決めたものをゴミ袋に詰める
一見からだの作業だが
一度決めたことが揺らがないよう
気持ちを整える作業でもある
どうしても
まだ使えるかもしれないとか
まだ着られるかもしれないとか
もったいないとか
捨てるのを躊躇させる感情がわく
ものを手に取るまでは忘れていたはずの
いろんな思い出がよみがえり
執着心がわいてきて作業の邪魔をする

捨てたい
捨てたくない

小刻みな葛藤を感じながら
ごみ袋の口を縛る

三、
ごみ出しのルールがあり
まとめた袋をいつでもすぐに
ごみとして出せるわけでない
ごみ出しの曜日が訪れるまで
しばらくの間ごみ袋は
そのまま待機することになる
捨てるのをやめることも
いまならまだできる
捨てるのをやめることを諦めることも
この時間にできる
大きな葛藤に揺れる時間でもある

四、
袋を然るべき場所に置き去りにする
ついに別れのときである
他人が捨てた他のごみの山に
自分のちからで積み上げる
捨てる決心をしたときと
同じくらいかそれ以上の
エネルギーが必要な
気持ちとからだの共同作業だ

五、
収集車がやってきて
作業員が持ち去るのを
想像しながら黙って待つ

もう二度と手にすることはないと
思い出と
最後に触れた手触りと
捨てた自分の決心を
繰り返し繰り返し噛みしめる

六、
捨て去ったことを
決して忘れない




丁寧に捨てる

もったいないことをする償いのために
同じ間違いを繰り返さないために
思い出から逃げないために
未来を受け入れるために

丁寧に捨てる


捨てずに残したものに
必要と愛着を感じられる

見えなかったものが
見えてくる

見たくなかったものも
見えてくる



なかなか片付けができないのは
忙しくて時間がないからとか
さんざん言い訳してきたけれど

実は捨てる作業が
ものすごくしんどいことを
知っていたからかもしれない

実は捨てる作業を
丁寧に行わずいい加減にやってしまったら
あとあと厄介だと
知っていたからかもしれない

と思った