【テーマ・どうとく】


捨てる儀式は
まだまだ続きます

体調や時間の都合と
相談しながら
あまり見切り発車に
ならないようにと
気をつけていたのですが

衣替えをきっかけに
クローゼットを
開けてしまったのが
修羅場への入り口でした

上から下へ
右から左へ

重力と慣性に
流されるまま

これまで押し込んできた
さまざまなものが
クローゼットの暗がりから
これでもか
これでもかと
溢れ出してきます

いま
部屋はたいへんなことに
なってしまっていて

一緒に住む家族の
精神衛生にも
よくありません

自分が始めたことだから
自分でカタをつけねば
なりません

仕事で着ていたスーツ
繁華街を闊歩したコート
買った覚えのない下着
原色づかいのシャツや小物

子どもたちのベビー服
母の手作りのおくるみ
亡くなった義母の遺品

埃をかぶった白い箱
もう捨てた電化製品の
取扱い説明書



断捨離では
ものを捨てるとき
いまのじぶん を基準に
考えましょうと
いうことです

いまのじぶんに必要か
過去でも未来でもなく
いまここの自分に必要か

必要か不必要か
それでいえば
大半が不必要な
ものばかりです

わたしはクローゼットに
想い出を生きたまま閉じ込めて
いつか息絶えるのを
待っていたのでした

仮に息絶えたところで
残骸の処理ができるかといえば
それだって難しいに
決まっています

引っ越しのたびに
箱から箱へと移しかえて
息があるのを確認して

どこかでホッとしていた…

もう終わりにしたいのです

だから
いまのじぶんを見つめ
捨てる儀式を
続けなければいけません


足の踏み場のない部屋で
子どもたちを寝かせるわけには
いきませんしね
【テーマ・こくご】


ハナコちゃんは三歳になった

もうすぐお姉ちゃんになるんだよ
お母さんのおなかには
かわいい赤ちゃんがいるんだって

ある日お母さんが
ハナコちゃんに言った

「お母さんがお買い物にいくあいだ
ひとりでお留守番できるかな?」

「おするばん、する!」

ハナコちゃんは
生まれてはじめて
ひとりで おするばん
することになった


お母さんがおうちを出ていった
急にしいんと音が聞こえた

パチンと台所で何かが鳴った
テレビのブラウン管が
すこしくもっていて
まんまるになった
ハナコちゃんの顔が映った

だんだんおうちが
狭くなってきた
なのにトイレはあんなに遠い

お母さんまだかな…


お母さんはしっかりと
おうちに鍵をかけたけれど
ハナコちゃんのこころには
ドロボウが入ってきた

胸の奥でぎゅうっと音がした
盗られたくないものを
今すぐに隠さなくちゃ!

こわいこわいよ
お母さんまだ?

こころに浮かんだ
お母さんのすがたを
ドロボウは
見逃さなかった

ハナコちゃんは
こころに入ったドロボウに
大好きなお母さんを
盗まれてしまった


お母さんは
帰ってくるけど帰ってこない
お出かけしたお母さんは帰ってくるけど
盗まれたお母さんは帰ってこない



ハナコちゃんは三歳になった
もうすぐお姉ちゃんになるんだよ

ハナコちゃんは気づいてしまった

いつかお母さんは
いなくなるんだって


生まれてはじめての
おするばん

いったいいつまで
続くのかな


【テーマ・こくご】


紫色の小さな炎は
風に吹かれて
ちらちら揺れる


あるとき炎は
いろりの中の炭だった
鍋をあたため魚を焼き
曾祖父たちの頬を照らした

あるとき炎は
怒りに狂った戦火だった
まちを焼きひとを焼き
悲鳴を焼いて煙をあげた

あるとき炎は
闇を照らす松明だった
旅人に寄り添い道を照らし
朝がくると目をつむった

あるとき炎は
天をも焦がす焚き火だった
若者に囲まれ歌をきいて
彼らの勇気を駆り立てた

あるとき炎は
肉体を解き放つ荼毘の火だった
死者を弔い生者を慰め
たましいを空に運んでいった

あるとき炎は
世界でただひとつの灯火だった
世界中をリレーして
世界中がそれを知っていた

あるとき炎は
盗まれたお宝だった
ひとは炎とともに生きて
ひとは罪を背負うことになった

あるとき炎は
ケーキの上のろうそくだった
祝福に溢れ感謝に満ちて
願いを託され揺れていた


紫色の小さな炎は
風に吹かれて
ちらちら揺れる

わたしの吐息に
ゆらゆら揺れる