【テーマ・かていか】


娘との2年越しの約束を
ようやく果たせました

娘が小学一年生のとき
学習発表会の劇で着た
ツーピースの
お気に入りの洋服がありました

からだが大きくなり
着られなくなったとき
「給食用のエプロンに
リメイクしてみようね」

そう約束しました
ずっと気になりながら
果たせずにいた
大切な約束でした

縫い目をほどき
布を裁つとき
わたしは小さな娘の
からだに鋏を入れるような
小さな恐怖を感じました

長い間
約束を果たさずにいた
ひとつの理由は
それでした

学校の家庭科以来
どなたからも
洋裁のてほどきを
受けたことはありませんが

並み縫いと
まつり縫い
あいじるし

糸のしまつと
折り伏せ縫い

これだけあれば
繕えました




写真はその残骸です

ピンクッションは
以前処分した
わたしの通勤用スーツの
切れ端を使った
思い出の品です



むかし
わたしが幼いころ
父方の祖母が
おさるのぬいぐるみを
こしらえてくれました

祖母が亡くなり
わたしが成人したあと
祖母の娘である伯母から
わたしの母に

「あのおさるさんを
返してもらえないか」

と申し出がありました

母はたいへん驚いて
伯母の申し出を
少し理解し難い様子でしたが
おさるのぬいぐるみを
伯母のもとに返しました

あのときは
わからなかった

おさるの持つ
言い尽くせぬ
ひとのおもい

あの厚く立派な生地は
きっと誰かの
衣服をほどいたものに
違いない

当たり前のように
和裁に秀でた
伯母の母の
手作りのしな

目にいれても
痛くないほど可愛い姪から
義理の妹にどう思われようと
取り戻さなくては
ならない品物だったのです



娘の洋服をこわし
前掛けに仕立て直しながら

しばらくのあいだ
懐かしい祖母を
思っていました



出来上がったエプロンを
娘は喜んでくれるかな

約束してからずいぶん
待たせてしまって

ごめんね




【テーマ・こくご】


ゆきぐものすきまから
こぼれる春のひかりは
わたしの肌に届く前に
北風に拐われてゆくというのに

大きなあの木々のかむる
いつか積もった重い雪は
春のひかりを受けたなら
北風さえもくぐり抜けて

まだ若芽の気配もしない
細く枯れた枝をつたって
枝の先が耐えうる限りの
小さく大きな玉になって

ぽとり

泥水のなかに落ちる



泥水のなかの生命たちは
せっかく泥炭の沈むのを
この冬いっぱい待っていたのに

ぽとり

真水の雫の落とすたびに

ふわり

また泥が浮かび上がる


ようやく息のできる上澄みに
容赦なく突き刺さる雫の
なんといういたずらか
春のひかりの肌に届かぬ
北国の春の訪れはいかにしても

かたく氷った泥水を
木の上の彼らのとろかす雪が
雫となって溶かすことからしか
始まらないのだ


だからきっと
ゆきぐもは優しく遠慮して
雨ばかりは降らせない

ぽとり

水面を叩く雨に混じって

ふわり

水面にとろける雪を降らす


北国の春の訪れはいかにも
あめゆきのような優しさで
かたく結んだ泥のなかの生命を
わずかにわずかに
溶かしながら

ぽとり
ふわり

まるで春が永遠に続くかのように

ぽとり
ふわり

少しずつやって来るのだ


あの大きな木々のかむる
いまはまだ重たい雪が
何万粒もの雫に変わって
すっかり水溜まりに落ちたころ

ようやくわたしはこの肌に
あたたかな春を感じるのだろう

泥のなかで氷っていた
生命のみんなが孵化したあとに

ようやくわたしはこの肌に
あたたかな春を感じるのだろう


ぽとり
ふわり

ぽとり

ふわり









【テーマ・りか】


息子の提案で
にんにくを
水につけました

すると数日で




いつも知らずに
切り刻んでいたんだね

いつも生きたまま
食べられていたんだね

ごめんね

それから

ありがとね