いつもありがとうございます。ハクジュと申します。創作書いてます。「カメムシとトンビ」今回で完結です。

 

前回までのあらすじ。

里穂は天使に遭遇した後も、差別の被害に遭っていた。恩師に相談すると、彼の目も曇っていた。

 

【カメムシとトンビ2-3】

 

里穂は恩師にも差別されて、自宅に帰ってから泣いた。もう文通する気もない。翌年の2月。

「羨ましかったんだ」

「だから何ですか」

「許して欲しいんだ」

宵の刻だった。里穂は浅瀬の上にかかる橋の上で辰雄と対峙していた。彼とはあくまで男女の関係ではなく、彼は純粋な師弟の関係回復を望んでいた。空気は痛いくらい澄み渡り、吐く息が白かった。彼女は答えた。

「嫌です」

「どうして」

里穂は辰雄の片手に握られているバットを見た。

「あなたは自分が思ってるほど美しくありません」

辰雄は真珠のように清らかな涙を流していた。

「羨ましかっただけだよ。美しい話じゃないか。悲しいだけじゃないか」

「違います」

辰雄は泣くのをやめ、里穂をにらんで恨めしそうに呪いを吐き始めた。

「ああそうかい。結局お前は私のお母さんと小学校の時のいじめ加害者と同じだよ。美人って結局そうなんだ。私は最初から知っていた。そうだ。知っていたんだ」

辰雄の両耳からハエの群れが飛び立ち始め、同時に悪臭も噴き出した。辰雄は興奮して叫び始めた。

「私は美人の全てを知っていた。でも信じるんじゃなかったと思う。私は美人の全てを知っていた。でも信じるんじゃなかったと思う。うぉぉぉぉ! 何だ、この気持ちよさは!」

彼は乱心してバットを振り回し始めた。

「私は美人の全てを知っているが、実は裏切る美人と裏切らない美人の二種類しか知らない。善悪、美醜、白黒の中間、自分と対等、平等な美人は想像できない。

美人が想定外の行動や言動をした時は、裏切りかそうでないかに振り分けて、集団で裁く。これを偶像崇拝という。差別の多くは崇拝から生まれる」

辰雄はバットを地面に振り下ろした。途端に轟音が炸裂し、石橋にクレーターができる。彼はいい気分になったらしく、次々とクレーターを作り始めた。里穂に対するパフォーマンスだ。

里穂はアルコール依存の祖父がいたので、幼少期に辰雄のやっているような力の誇示をよく見せられた。彼らは弱者にパフォーマンスすると自分が強くなった気がする。辰雄は続けた。

「ぶん殴って全てを忘れてやる! そうしたらまた美人を信仰する無垢な少年に戻れる。悪いのは裏切った美人で、裏切らない美人がどこかにいるんだ!! 私はそれ以上考えない。今まで通り、自由になるんだあ!!」

辰雄が里穂に襲いかかった時だ。何か大きな物体が飛来して辰雄から武器を奪い、同時に彼を蹴飛ばした。里穂は声を上げた。

「トンビ!」

現れたのは女性の鳥人。翼で上手に前進、後退しながら、かかってきた辰雄に棒術で応戦している。辰雄が素手だったのでトンビは穏便に撃退しようとしているらしい。しかし、辰雄は怒り狂っているうちに、全身の関節が外れたみたいな、人間離れした動きをするようになった。彼の背中が爆発して数線匹のハエがあふれ出す。

トンビは素早く背中に翼を収納すると、たちまち旋回してバットを横一閃、辰雄の胴体を両断した。里穂は目を見張った。トンビが翼をしまったのは空気抵抗を防ぐためだ。しかし、鈍器のバットで剣のように人間を両断するとは。

辰雄は胴体が上下に離れているにもかかわらず、仁王立ちのまま絶叫した。そして、昇竜のような青い火柱になる。彼の断面からあふれたハエたちは、一瞬で焼かれていった。

青い熱風が里穂に襲いかかってきた。トンビが里穂に覆いかぶさってかばう。熱風がやんで里穂が再び目を開けると、火柱は幻のようになくなっていた。身長が50センチくらいに縮んだ辰雄が悲鳴を上げて逃げていくところだった。

里穂は救世主と一緒に上体を起こした。あたりを見回すと、周辺の住宅の屋根、軒に、別の女性トンビが二人待機していて、里穂たちに笑いかけている。里穂は救世主に訊ねた。

「あなたは」

満月が恥らいながら顔をのぞかせ始めていた。里穂をかばった若い女性トンビは、艶めく素肌で少年のようにまぶしく微笑した。瞳は知性にあふれていた。

「私は真矢。助けに来たよ」

(終わり)

 

 

【後書き】

 

少し説教臭い作品になりました。反省点は次回作に生かします。

 

辰雄のセリフの“美人”のところに、“女性”“天然”“男性”“子供らしさ”“天真爛漫”という言葉も当てはめてみてください。面白いと思います。

 

知られてはいるのに政治活動をする人がいなくて話題になりませんが、子供も子供らしさを求められる差別を受けます。子供らしさは、問題になっている女性らしさ、男性らしさとほぼ同じで、聞き分けの良さ、理解力、包容力です。こう考えると、子供らしさで子供に求められているのは、大人に服従する大人像です。


あと、ミステリーみたいな校則がいっぱいあって、学校によって“子供らしい靴下の色”が変わるそうですよ。転校する度に違う子供らしさに○ュージョンしなければならない学生は、たまったもんではないと思いますが……。

 

私の作品の暴力加害者たちは司法で裁かれることはありません。私が被害に遭った後、加害者が罰を受けるところを見たことがないからです。“バットで殴打”と、“ぐちゃぐちゃのミンチになった。でも生きていた。”は、加害者の支配と被害者の精神ダメージを短編世界で比喩表現したものです。

 

富雄、辰雄に関しては、こんな、あまりにもツッコミ待ちすぎてむしろ面白ーーゴホッ、ゴホッ、いや、不幸なモデルが実在するので書かせていただきました。小説化すると辰雄なんか、教師、男性、人間、全てのカテゴリから爽快なまでにドロップアウトしてて、キャラが立ちすぎてキャラが立ちすぎて、書いてて面白かったです。
 
最後までお読みいただき、ありがとうございました!
 
 
 
【ファンタジー過去作品】
 
お時間のない方は作詞シリーズが短くてお手頃かと思います。
 
 

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