前回までのあらすじ。
フィーナとジャックは愛し合っていたが、ジャックが裕福でなかったため結婚することができなかった。フィーナは夫のゼッケンからDVに遭って苦しんでいた。ある時、彼女は行倒れの少年を助けた。彼は天使だと言った。片やジャックは町でフィーナと再会し、助けることができない自分に絶望していた。
登場人物
フィーナ……ヒロイン、DVから繰り返し逃げる。
ジャック……フィーナと恋仲だったが、貧しさから彼女と結婚できなかった。
ゼッケン……フィーナの夫。年輩。彼女に暴力をふるう。
【もう一度、愛を2】
ロメルは熟練の宮廷医師だった。王子の風邪が大したことなかったので、仕事を終えて馬車を自宅に走らせた。時は年末。商店街は華やかで、夜も更ければきらめき始めるだろう。夕暮れ時の趣だって負けてない。日暮れの鳥が空を渡り、人間の親子づれは町のショーウィンドウに色めき立って幸福そうだ。彼は料理上手の愛妻の温かいスープが恋しくなっていた。
ある時、彼一人の馬車に、唐突に同乗者が現れた。若さにあふれた愛くるしい少年だった。ロメルは狐につままれた気分だった。
「どこから入ったんだ」
「天井から」
「嘘を言いなさい」
「僕、天使なの」
少年は邪気のない口調で言った。
「おうちの人は?」
「外を見て」
ロメルは窓の下を見て声を上げた。馬車は雲の上を走っていた。眼下に豆のように小さくなった町が広がった。
「僕、天使なの」
「わかった! わかったから下ろしてくれ」
次の瞬間、馬車はいつもの通りを走っていた。ロメルは胸を撫でおろした。
「私に何の用だね」
「僕が言わなくても、あなたはすると思う」
そう言って天使はいなくなった。
華やかな年末。どんなにきらびやかな街もジャックにとっては意味がなかった。なぜならフィーナのいない町は灰色でしかないからだ。彼が道端で泣いていると、そばで足を止める馬車があった。
「君、どこか具合が悪いのか」
ふくよかで優しそうな貴族の紳士が馬車を降りて訊ねた。
「私は医者のロメルだ。診せてみなさい」
「いえ、私はただ」
ジャックは泣いていたとは言えなかった。ロメルはジャックの前にかがんでまず顔色から診ようとした。そして突然、凍ってしまった。ロメルの声は上ずった。
「あなたは」
「何です」
フィーナは大晦日の昼下がり、ゼッケンから逃げた。冷たい空っ風が、着のみ着のままの彼女をあざ笑う。彼女は西部劇風の立ち食い蕎麦屋の門をたたき、助けを求めた。ゼッケンが追ってきた。そして彼女を玄関で保護した店員にまた説明した。
「彼女いつも大げさなんです」
「嘘言うな!」
近くで馬車が急ブレーキ。青年貴族が飛び降りてきた。ゼッケンはいらだって迎えうった。
「何のご用ですか」
「激情ぉぉぉぉぉぉぉぉ! ボン・バァァァァァァァァ!!」
「あばびゅうぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ?!」
青年が両手から巨大な光弾を繰り出し、直撃を受けたゼッケンがよくわからない奇声を発して、きりもみしながら吹っ飛んでいく。フィーナは目を見張った。青年の繰り出した技で、立ち食い蕎麦屋が蒸発し、町の三分の二が丸剃りになった。
「あなたはジャック!」
ジャックは見違える姿で彼女の前に立っていた。
「フィーナ、今度こそ結婚してくれ。おれは王子と生き別れの双子の兄だったんだ」
「ええっ?!」
「今の技は王家に伝わる神力だ。使い方を弟から教わった」
「ジャック!」
「フィーナ!」
三分の二、丸剃りになった町を無視して、二人は見つめ合った。そして全ての人権を踏み倒し、熱望していた抱擁を交わし合ったのだった。最後に唇が重なる。エンディングテーマとスタッフロールが流れる。
(終わり)
【後書き】
あけましておめでとうございます。年末年始スペシャルでした。スペシャル言いたかっただけで、特別なことはしていません。本年もよろしくお願いします。全ての人がたくさんの幸福に恵まれる年でありますように。
今作は劇中劇として考えたものです。本編もいつか発表したいです。
DVから繰り返し逃れる女性は救われるに値するような書き方をしています。女性読者様は不愉快になるはずです。解決を被害者女性の分担にする考え方だからです。
以前、男性作家さんがこんな感じのシリアスものを発表していたので、これを劇中劇にして私なりの考察を書く予定でした。本編が少し長くてギブアップしているのと、最近ストレスが溜まっていたので、純粋にギャグってノリで発表しました。ご覧くださった方に感謝。
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