前回までのあらすじ
北崎ゆかりはあさかの丘病院ケースワーカーをしていた。入院患者の片桐皐月が助けを求めてきた時、彼女にざまあみろと言った。その後、着物を着た正体不明の人物に遭遇する。
直後からゆかりは自分が勤務していた病院に、今度は患者として入院することになった。腹違いの兄、智樹と病院側から統合失調を認めるよう自白強要をされる。その後、智樹の経済的虐待とモラルハラスメントを受ける。
登場人物
北崎ゆかり……四十代、あさかの丘病院ケースワーカーの美魔女。統合失調の烙印を押される。家族は全員、列車の事故で昏睡中。
青木智樹……ゆかりの腹違いの兄。入院中のゆかりの保護者。
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【私は全5】
ゆかりは入院前は病院勤めのケースワーカーだったが、何故だか自分の武器である全ての知識を忘れてしまった。三十代女性ナースの駒田に相談した
「兄が怖いんです」
「そういう事情だったら、お兄さんとマンツーマンにしないこともできます」
「本当ですか」
秋分の季節が巡ってきた。しかし病棟は一面の白い壁。寒いか暑いかの違いだけで、季節感などない。家族から差し入れられた衣類が楽しいものであれば別だが、ゆかりは智樹から性別を否定された衣類しか受け取ることができなかった。
ある日、五十代女性ヘルパーがゆかりのところに、息せききって嬉しそうに走ってくる。
「ゆかりさん! お兄さん来たよ! よかったね! 面談室で待ってるよ!」
「マンツーマンにしないって言ったじゃないですか」
「そんな話、初めて聞いた。今日は我慢してください」
ゆかりはもう一度駒田に相談した。
「二人っきりが怖いんです」
「マンツーマンにしないことができます」
病棟に極寒の季節がやってきた。ゆかりは智樹からレッグウォーマーは送られたが、靴下はよこしてもらえず、ぶるぶる震えて過ごしていた。
ある日、智樹が面談に来た。女性ヘルパーはゆかりの幸福を喜び、天にも昇るような表情で息せききって走ってきた。
「ゆかりさん、お兄さん来たよ! よかったね!」
「マンツーマンにしないって言ったじゃないですか」
「そんな話、初めて聞いた。今日は我慢してください」
ゆかりと智樹が向かい合って座る。面談室の中で二人きり。
「また太ったな。みっともない吹き出物作って。おれ、お前の顔、大嫌い。最低の顔してるな。またひどいアトピー顔になって。お前の努力が足りないからアトピーになったんだ。そんな顔じゃどこにも出せない。その顔、何とかしろよ」
「兄さん、アトピーってね、一生治らないの」
「被害妄想だね。お前ってそういう奴だよ」
「本当だったら何て言うつもりなの」
「そんなの知らなかったで済ませるに決まってんじゃん。おれ、自業自得のお前みたいなやつには口が裂けても謝らないからな。おれ自分を磨かない怠け者って一番嫌いなんだ。とっととアトピー治せよ」
「どうして見た目の採点ばかりするの」
「きれいだから心配して言ってんだよ。もっと努力したらどうなんだよ」
「もう顔の事言わないで」
「おれに失礼だろ! そういうこと言うなら、緊急連絡先、やめてやったっていいんだぞ」
(続く)
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