はじめての方、ようこそ。再来、応援してくださっている方にありがとうございます。ハクジュと申します。集団ストーカー被害記録と、趣味のファンタジーといろんなジャンル書いてます。ご興味のある方はこちら。

ファンタジー過去作品はこちら。お時間のない方は作詞シリーズが短くてお手頃かと思います。


前回までのあらすじ。
舞は若い人気キャスター。DV被害者女性に取材して、どうして逃げられなかったのかと訊ねた。

※情報クローズアップ・・・舞がキャスターをつとめる番組。



【報道とエンジェル1ー4】

 舞は昼休み中、買い物に出た。付き人の立川が止めたが、だて眼鏡をかけたら誰も自分だとわからない、と説明して振りきってしまった。お弁当と飲み物を買いにコンビニに入る。おやつに特大のしろくまを見つけ、ほくほくして店を出た時だ。
 「すみません。TVハヤテまでどう行ったらいいか、ご存じですか」
 若い青年が道に迷って困っていた。舞はにっこり笑った。
 「私もそちらの方に向かいます。ご案内しましょう」
 「ありがとう、おねえさん」
 二人はコンビニについてる駐車場前を通り、公衆トイレにさしかかった。すると彼は彼女を乱暴に抱え、引きずるようにトイレの裏に連れ込んだ。彼はお弁当を取り落とした彼女を建物の壁に張り付け、懐から出した刃物を突きつけた。
 「キャッシュカードを出せ」
 「誰か・・・」
 「騒ぐな。きれいな顔を切り刻むぞ」
 彼女は戦慄した。誰も来ない。
 「キャスター舞、何億も稼いでるんだろうな」
 「違う」
 その時だった。彼女の目では確認しづらい、細いものが飛んで来る。犯人の首に巻き付いたのを見ると、鞭だ。近くに使い手がいる。
 犯人は鞭ごと引っ張られ、転倒した。鞭の使い手が滑り込んで来て、犯人にきつい蹴りを見舞い、刃物を蹴飛ばした。犯人はうめいたまま起き上がれなくなった。
 「舞さん、怪我はない?」
 「あなたは天使!」
 鞭の使い手は、眩しいほど整っていて、若くストイックな容姿の青年だった。一般人と同じ服を着ているが、天使かどうかは見ただけでわかる。
 「僕はラディ。用があって降りてきた」
 彼はそう言って鞭を持ち手のところから外し、ロープ代わりにして犯人を縛った。柄の方はズボンの太ももに仕込む事ができるようだ。ラディは舞のお弁当を拾って渡してくれた。そして公衆トイレの前に出て行き、ぽっちゃりした中年サラリーマンを呼びとめた。
 「お兄さん、警察を呼んでください」
 「うわ天使」
 「ラディです」
 サラリーマンはラディの後ろにくっついていた彼女を見て声をあげた。
 「うわキャスター舞! 何て完璧な組み合わせなんだ」
 ラディは言った。
 「刃物男を捕まえたんです。お兄さんに助けて欲しい」
 「わかった、ラディが言うなら」
 キャスターが襲われたとなると人に囲まれて大スクープになるところだったが、ラディは舞のために少々細工した、と言った。舞に気がついた一般人はラディが助けを頼んだサラリーマン豊田だけ。三人一緒に警察に協力したが、そこでも取材陣が押し寄せることはなかった。
 三人は夕暮れ時に解放され、帰り道で解散することになる。縁日の屋台が真っ赤なリンゴ飴を並べている。豊田は舞の大ファンでサインを欲しがった。交差点で名残惜しむ豊田と別れることになる。舞はラディと二人きりになった。彼は言った。
 「情報クローズアップ拝見してるよ。とても興味深い。僕、舞さんにお話があって来たんだ」
 「なあに」
 お面をつけた小さい子供がヨーヨーを振って浴衣女性のところへ走って行く。ラディは舞に訊ねた。
 「あなた、女性は嫌いですか」
 「いいえ。私はキャスター、女性の権利のために戦いたいの」
 「じゃあ聞きます。どうして女性の分担ばかり考えるの?」
 舞ははたと考えた。ほんの一瞬、これまでのDV事件を振り返っていたら、ラディはいなくなっていた。浴衣の男女の涼やかな姿。わたあめ屋から祭りのしらべ、店主の景気のいい声ーー。
 (続く)



【アメクリップ】