ひと月ほど経った頃、平清明の親戚の若者、平教親がそれほど悪いのか見舞いに行きたいと文をよこしてきた。そのことに秀島が困っていると源義前の息子、義守からも見舞いに行きたいと文が届いた。断ればあとあと困ることになるやもしれぬと困った秀島は平教親にはふせているので遠目からならばと返事を出した。
平教親が来るという夕方には羽月に朱の色を顔にぬらせ床につかせた。卯月は家の奥に隠れさせることにした。
狭い庭から御簾をおろした部屋で燭台だけが明かりの羽月を見せることにした。訪ねて来た平教親は羽月に声をかけた。
「羽月は熱で声が出にくいのです」
秀島がそばから代わりにこたえた。
「そんない酷いのか。いずれ妾にと思っていたのに。一目顔を見たいのだが」
教親が秀島を見た。
「顔が赤く知っている羽月ではないですよ」
秀島は首を振り伝えた。
「顔は赤い」
教親はよからぬものを想像したようだ。
「あっ、鬼ではありませんよ。熱で赤くなっているだけで。それでもよいと言うのなら御簾ごしに会わせましょう」
秀島は階からあがり御簾の中の羽月を起こし教親のほうへ向かせた。光の陰になるから顔はわからないはずだ。羽月を寝かせて教親のもとへ行き
「ごらんなられましたね」
判別はつかないであろうと確信しながら教親に言った。
「治ったら知らせてほしい。会いに来る」
教親は言うが、
「いつのことやら」
教親に期待してもらっては困る秀島が返事をした。