初老期を豊かにおくる勉強会 第2回 | TAKのブログ

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 8月30日(土)、 昨年の10月に続き、「初老期を豊かにおくる勉強会」第2回が催された。第1回の模様はこちら

 今回はT先生のご発表で、テーマが『リスクと日本人』。ご著書の中の1章について、丁寧なご解説を頂いた。レジュメとともに署名されたご著書を、我々に贈呈していただいた。なおT先生のご専門は「保険論」。

 

 日本人のリスク意識は弱いのではないかという仮説を立て、行動様式、リスク関連語(やまとことば)、自然の影響や信仰などの検証をされた。行動様式(私が便宜上まとめてこの用語を用いています)をとりあげた中で、とりわけ以下の検証が興味深かった。


①ドアの構造

 日本は基本的に「引き戸」(横開き)。しかしドアの場合は「引いて」中に入るが、西欧は「押して」入る。かつてから欧州ではさまざまな民族が混在しているので、警戒する文化が育成された。家に賊が押し入ろうとするとき、「引いて」入るドアだったら、中からそれを阻止しようと力の限り引っ張っても、力負けすると簡単に入られる。もし「押して」入るドアなら、荷物をドア前に置くと「開かない」。これはリスク意識の違いである。

※なお会では日本のドアがどうして「引く」のかは議論しなかったが、履物を脱ぐ習慣がある日本では、内側にドアが開くと、その靴を押しやってしまうためのようだ。


②大都市における駅の設置状況

 たとえばパリの地下鉄は「環状」になっていない。一方東京の山手線は「環状」になっている。これはテロリストがどこかの一駅を占拠すれば、瞬時に交通機能を不能にしてしまえる。加えて他の線が並行して走っている区間の駅(たとえば京浜東北線)であれば、そのダメージは甚大になる。このような交通網を形成する日本社会は、リスク意識が弱いという現れではないか。


③紙幣に対する感覚

 日本人は「新札」を好むが、欧州では「使い古し」の紙幣が好まれる。それだけ人の手を渡ったということは、その紙幣には「信用」があるということ。新札を差し出せば、じっくり時間をかけて隅々までチェックされる。使い古しの紙幣はリスクが低いということ。


④契約に対する意識

 BSE問題の時、何人もの農林省(当時)の役人たちの目をくぐりぬけてきた、肉の輸入に関する、ある契約書に「○℃で熱処理をすれば菌は除去できる」と書いてあったので、当該国からの輸入を認めた。しかし当該輸入品から菌が検出された。なぜだという農林省の問いに対して、当該国の回答は「菌は除去できる」と書いてあるが、「その処理をする」とは書いていない、ということだった。契約書の細かな文言はあまり気にしない日本人。相手が善だという前提でものを考えるというのは、リスク意識が低いと言えよう。


 この4点は「目から鱗」だった。

 私の方からは、日本史において「リスク意識が低下したのは江戸期ではないか」、「階層によってもリスク意識は異なったのではないか」等、という意見を申し上げた。K君の「お守りもリスク回避と考えられる」という意見は、面白かった。費用対効果が計測できないリスク管理か。また子ども園経営者のT君が、「赤ん坊が大声で泣くのはリスク回避の行為である」ことを説明した。う~ん、なるほど!本当に膝を叩いた私でした。


【なぜこの日この会への出席を選択したか】

 今回は招集が急だった。T先生がこの日だけなんとかなるということだったので、おっとり刀で先生宅に出向いた。前回出席したI君が来られず、かわりに我々が在籍した大学職員のFさんの参加があり、合計5名。勉強会の後、前回同様、自宅の畑で採れたての野菜をたっぷり使ったT先生奥様の手料理をとても美味しく頂いた。


 その後T先生からお知らせが…

 30年ほど前から、現在の田舎暮らし(相当な山間部)をされているのだが、東京に完全移住されるとのこと。いくつか理由はあるけど、カッコよく言うと「ここを卒業」ということかな。ここにいると研究もしにくいし、のんびりしすぎる。東京に出てもう一度自分を試したいとのこと。9月中には引っ越しをされるので、いろいろな手続きがあり、この日だけ空けられるということで、急な招集となった訳だ。  


 実は当日と翌日、日台合同の国際会議があり、事務局員でもあるためそちらへの出席を考えていたのだが、勉強会を選択した。体調を崩され、68歳で早期退職されてから2年半。喜寿を迎え、これからもうひと頑張り。その言葉を聞き、姿勢を見ることがこの日この会出席を選択した意味だったのだろう。


 54歳の私が枯れ始めてはいけない。もう「ふた踏ん張り」くらいできるだろう、いや、やろうぜ!というように、気持ちを新たにした。やはり見えない声に呼ばれて出向いたのだろうな。