「吉岡が帰ってきました。」
若者の1人がモニターを見ながら言う。
モニターには、別の若者のアップの顔が映る。
入り口にカメラがあったのだ。
吉岡君がカメラを見て三回瞬きをする。
画像が写真ではなく生身の証拠だ。
そういえば俺を連れて来た彼も、杉の幹に向かってやっていた。
カメラはそこだろう。
入ってきた吉岡君は食料を持って来た。
スーパーの袋に缶詰めとカップラーメン、それと粉ミルクと薬や包帯など。
敵の目を避けて仕入れたのはすごい。
IHコンロや電気ポットが活躍する。
自家発電は近くの小川の水流で水車を回す発電で、ソーラーではない。
24時間発電だ。
食事を頂く。
隣で赤ん坊が力一杯鳴いている。
戦時中の防空壕なら声が漏れてしまうので、悲惨なことに発展していたはず。
今は内壁に特殊ウレタンを吹き付けて防音してある。
偵察機の熱線カメラからも守られている。
老婆が赤ん坊を見守りながらラーメンをすする。
老婆は突然背を向けると肩が上下に揺れた。
昔に同じ状況があったのだろうか?
ウレタンに埋もれた昔の内壁は知っているはずだ。