前回の物語
物語の続きが始まります✨✨✨
【新たな試練前】
宮廷内の私室で二人だけの時間を過ごしていたテヒョンとジョングクは、国王から昼食に呼ばれて食堂へ向かった。
食堂では国王と大公がお茶を飲みながら、なにやら楽しそうに談笑していた。
「楽しそうに何をお話だったのですか?」
「おお、テヒョン。ちょうど陛下と昔の話をしておったのだ。」
「お仲間に入れて下さい。」
「私も宜しいでしょうか?」
国王と大公は手招きで二人を同席させた。
「テヒョンが物心つく頃は、王族の子ども達と共に宮廷で過ごす事が多かったのだが、一番懐いていたのが陛下でな。」
「授業の時間以外はほぼ私と一緒であったな。」
「あーー・・・私の子どもの頃の話だったのですか。」
テヒョンは立ち上がろうとしたが、ジョングクがそれを止めた。
「宜しいではありませんかテヒョン様。私は是非お聞きしたいです。」
「おいおい、僕がセオドラ卿に君の幼少期の話を君の目の前で聞くのと同じことになるのだぞ。それは平気か?」
そう言われてジョングクは、少し考えていたが、
「はい、構いません。」
とにこにこしながら答えた。
「え?君はいいのか?」
「はい。私には皆が驚くような子どもの頃のエピソードはなかったと思いますので。」
テヒョンはため息をついた。
二人のやりとりを聞いていた国王と大公は笑い出した。
「ジョングクが聞きたいと申しておるのだから、テヒョンのやんちゃな幼少期を教えてやらねばな。」
大公がからかうように言うと、
「そうだぞ、テヒョンのおかげで侍従長や臣下達からよく叱られたわ。」
と国王が追い打ちをかけてきた。
「陛下も父上もお手柔らかにお願い致しますよ。」
焦っているようなテヒョンの様子にジョングクは思わず笑ってしまった。
「こら、ジョングク〜〜〜」
顔をクシャクシャにして笑うジョングクを見て、キリッと締まった軍服姿に似つかわないあどけなさを感じ、テヒョンは複雑な気持ちになった。
この笑顔の持ち主が、何人もの人間を吹き飛ばす事が出来る、砲弾発射の命令を下せるとは到底思えなかった。
国王と大公はそんなテヒョンの心情に気遣って話し始めた。
「さて、どの話を聞かせようかな。」
「陛下も私もそれぞれに持ち駒がありますからな。」
「分かりました覚悟致しましょう。
その代わりジョングク、近い内にセオドラ卿から君の小さい頃の話を聞きに行くぞ。」
「ええ、是非いらして下さいませ。」
「ほぉ〜〜ずいぶん余裕なんだな。必ずとっておきの話を訊き出してみせるからな。」
むきになるテヒョンにジョングクは笑って頷いた。
国王と大公が話すテヒョンの懐かしい話は、食事が始まってもまだ続いた。
やんちゃな話や可愛らしい話などエピソードが次々に出てきた。
周りの者達から沢山の愛情を注がれていた事が話の中の随所に見えて、微笑ましい内容ばかりだった。
宮廷のあちらこちらで、はしゃいだ声を響かせていた小さな《王子》の話は尽きることがなかった。
食事が終わり、食後のお茶が用意された。
「そうだテヒョン、もうじき調印式だな。」
「はい。測量も地質調査も全て終わりましたので、予定通り調印式を迎えられるようです。」
「大学に在籍しておる土木と地質の学者達が、ニールを貸してもらいたいと申し出ておるぞ。」
「ほぅ、そうですか。でも今はこれ以上の仕事は許容範囲が超えましょう。是非工事に参加されるよう陛下から進言なさって下さいませ。」
「そうだな。そう言っておこう。」
ニールの細かく丁寧で多角的な視点からの調査は、学者達も驚嘆していたようだ。その調査のおかげで沢山のデータが揃い、工事の段取りがつきやすかった。
こうして前評判が高いこの大掛かりな土木事業は、調印式が済み次第本格的な工事が始まることになる。
「調印式にテヒョン様のおそばにいられない事が、心残りでなりません。」
ジョングクが寂しそうな顔をした。
「気にするな。仕方のないことだ・・・」
テヒョンは内心切なかったのだが、肩に手を置いて気落ちしているジョングクを慰めた。そしてつい独り言のように口にしてしまった。
「遠征、、、本当に行ってしまうんだよな・・・」
「え?」
テヒョンは『いや、、』と首を横に振ると、なんでもないふりをした。
国王が公務に向かい、大公とテヒョンも帰る支度をする。
「テヒョン、先に行っておるぞ。」
「はい、直ぐに参ります。」
「ジョングク、ではまたな。」
「はい、大公殿下。」
ジョングクは頭を下げて大公を見送った。
部屋にはテヒョンとジョングクの二人だけになった。
「君はこれから職務に戻るのか?」
「ええ。遠征に従事させる師団の兵士達を選び、編成を組む仕事があります。」
「そうか、来週からであればもう時間がないものな。」
言葉が続くことなく、二人の間には沈黙が続いた。
「「あの・・」」
言葉が重なった。
「なんだ?」
「いえ、テヒョン様からお先に。」
お互いの視線が絡み合うと、ジョングクがテヒョンの手首を引っ張り、胸の中に引き寄せた。
「あなた様から離れることになるのが、こんなに辛いなんて・・・」
ジョングクの言葉に、テヒョンは泣きそうになり顔を隠した。
「もう、、何も言うな、、、」
テヒョンの消え入りそうな声に、ジョングクも泣きそうになった。
両手でそっとテヒョンの頬を包むとそっと唇を合わせた。
どれほど口づけを交わしても、抱きしめても、これで充分などとなるはずもなかった。
更に想いは深くなり、いつまでもそばにおりたい、いて欲しいとお互いを独占したくなるばかりだ。
「ジョングク、、出発をする前に会えるのか?」
袖を強く握って縋るような瞳を向けられたジョングクは、『勿論でございます!』と応えて力強くテヒョンを抱きしめた。
「馬車までお見送り致します。」
部屋を出ると二人は回廊を歩いて馬車に向かう。
「テヒョン様、兄であられる王子様の追悼は如何でございましたか?」
「うん、、、兄の存在自体が世間に対しては極秘扱いであるからな、、、僕としてはとても複雑だ。」
「お気持ち、、お察し致します。」
「石棺がとても小さいのだ。ああ、兄は本当に世の風に触れる前に、逝ってしまわれたのだと、、そう思ったら胸が苦しくなった。」
ジョングクは、思い出して胸をおさえるテヒョンの背中を擦って慰めた。
「しかし今では、きちんとその御霊を敬う弟君がいて下さるのですから、お兄様は浮かばれましょう。」
「ああ・・・ありがとう、、ジョングク。」
心が揺れ動く事があると、必ずジョングクが包みこんでくれる。しっかりと心の機微を感じ取ってくれる事に有り難く思うと共に全信頼を寄せる事が出来た。
王族専用の馬車寄せに着くと、キム公爵家の馬車が停まっている。
中には既に大公が乗っていて、テヒョンを待ちながら書物を読んでいた。
「ではテヒョン様、こちらで失礼致します。」
「うん、ありがとう。来週を待っている。」
ジョングクは笑って頭を下げた。その様子を見届けて、テヒョンは馬車に乗り込んだ。
「お待たせ致しました、父上。」
「うん。では参ろう。」
馬車が動き出した。テヒョンは窓に顔を寄せて、じっとこちらを見送るジョングクを目で追った。
【遠征前のひと時】
10月に入るとすっかり木々の葉が色づいていた。
テヒョンが暮らす宮殿も、庭園の並木道には見事な黄金色が広がっている。
それがテヒョンの部屋や執務室からも眩しく見えた。
その日の朝は早くからテヒョンは庭園を散策していた。時折はらはらと肩に落ち葉が乗ってきたが、それを取って耳の上の髪に挿して歩き続けた。
あまり色々考え事をしたくなくて、歩みを止めることなく、多種多様な黄金の葉が揺らめく木々を眺めていた。
しばらく歩みを進めていると、
「テヒョン様!」
ジョングクの声と共に馬が駆けてくる蹄の音が聞こえてきた。
声がした方へ振り向くと、馬に乗ったジョングクがテヒョンに向かって走ってくるのが見えた。
「ジョングク!」
手を振って呼んだ。
ジョングクは馬を止めて降り立つと、ゆっくりテヒョンに向かって歩いてきた。
「おはようございます。宮殿に到着しましたら、テヒョン様がこちらにいらっしゃると伺いましたので、お待ちせずにお迎えに参りました。」
テヒョンは黙って何も応えず、ジョングクの手を取ると、ぐいっと力を入れてそのまま木々の間に引き連れた。
首を左右に振り周りを伺った後、ジョングクの両頬に手を添えると深く口づけをした。時が止まったような空気の中に二人は包まれる。そして、ゆっくり唇を離すと同時に囁くように言った。
「おはよう、、、ジョングク。」
「・・・誰かに見られたのではありませんか?」
ジョングクがいたずらっぽく言った。
「大丈夫だ。誰も見てはいないよ。」
テヒョンはふふっと笑って続けた。
「僕は見られても構わないけどね。」
その言葉に反応してテヒョンの頬を両手で包むと、今度はジョングクから優しく深い口づけをした。
馬が鳴いて二人はやっと離れた。
「アルミラージがやきもちを妬いている。」
ジョングクは笑ってアルミラージの鼻筋を撫でてやった。
「先程から見ておりましたが、可愛らしい髪飾りですね。とても似合っています。」
ジョングクはテヒョンの髪を指で優しくとかしながら、耳の上に挿した黄色い落ち葉を一つ取ると、上着のポケットに挿した。
「これは頂きますね。」
と言ってポケットをそっと押さえながら、もう片方の腕でテヒョンを抱き寄せる。
いつもなら、ときめいた幸せな想いに浸れるところだったのだが、今のテヒョンには、ジョングクのこの行為に切ない想いも湧き上がる。
暫く離れた日々を送ることになる二人には、親密な仕草は寂しさを誘うものにもなっていた。
「・・・テヒョン様、お顔を見せて下さいませんか?」
ジョングクに請われて顔を向けると、テヒョンの瞳は潤んでキラキラと輝いていた。
「ああ・・・今はまだ泣かないで下さい、、、」
ジョングクの言葉に反応したのか、みるみるうちに涙が溢れて、とうとう頬をこぼれ落ちてしまった。
ジョングクは瞬時に指で受け止める。
「あなた様の涙が私のせいであるなら、一滴も逃したくはありません。」
「違う・・・君のせいなどではない、これは全部僕の君への想いなんだよ、、、」
二人はまた抱き合い唇を重ねた。今度はアルミラージが鳴いてもしばらく離れることが出来なかった。
二人だけの庭園内はとても静寂に包まれていて、テヒョンとジョングクの息遣いだけが聞こえていた。
「今日は僕が君の所に行ってもよかったのだぞ。」
宮殿に戻りながらテヒョンが言った。
「いいえ。お帰りになる時にあなた様をお見送りしなくてはならないのが、寂し過ぎるのでこれでよかったのです。」
「それでは僕が君を見送る時が寂しいではないか。」
ジョングクは歩きながら足先を見つめていた。しばらく何も言わなかったが、歩みを続けたままそっとテヒョンの手を握った。
「私はとても我儘な人間なのです。お許し下さい。」
テヒョンは哀願するような視線を向けられて、胸が詰まってしまった。
ただにっこりと笑って、握られた手を強く握り返した。
《戦地に行くわけではない》ただそれだけがテヒョンとジョングクにとって唯一の救いだった。
「空も地面もずうっと続いて繋がっているのだな。」
テヒョンが空を見上げて呟いた。何を言いたいのかは、勿論ジョングクには分かっていた。
二人は庭園を抜け宮殿が見える所まで戻ってきた。ちょうどそこに馬丁が立っていて、テヒョン達を見ると頭を下げた。ジョングクはアルミラージの手綱を渡した。
「お預かり致します。」
手綱を預かると一礼をして、馬丁はアルミラージを連れて厩舎に向かって行った。
「アルミラージもそうだが、パックスも君が留守にする間寂しがるだろうな。」
「そうですね。私が寝ているといつの間にか、ベッドに潜り込んで寝ていますからね。」
「そうか、可愛いな。」
想像がついてしまうジョングクの愛犬の寝姿に二人は笑う。
宮殿に戻った二人は、テヒョンの部屋で時間を過ごすことにした。
テヒョンは生みの父である王太子の最初で最後の手紙をジョングクに見せた。
「私が見せて頂いても宜しいのですか?」
「父上にも見て頂いた。君にも見て貰いたいのだ。」
テヒョンが差し出した封書を恐る恐る両手で受け取る。
「では、、失礼致します。」
ジョングクはソファに座ると、丁寧に中の便箋を取り出した。
何枚も重なった便箋をゆっくりと開いてみると、まずその圧倒的な筆跡に驚く。子に対する父親としての愛の力がそこにはあって、とても命の炎が燃え尽きようとしている人間の、ペンの進め方には思えなかったのだ。
心して読み進めていくと、深い愛情の中に引き込まれた。
また、父親として最後まで生き永らえない悔しさが心に染み渡り、勝手に涙が溢れて止めようがなかった。
命を懸けて我が子を慈しむということが、どれほどの力を生むのか見せつけられているような感覚を覚えたのだ。
だがそれだけでなはかった。
テヒョンに対する繊細な想いが、言葉の揺りかごとなって包み込んでいくのだ。
ジョングクは目の前にいる想い人が、どれほど大切に育まれ愛されてきたのかを改めて思い知る。ただ単に王族の王子というだけではない、《神の御子》のように貴ばれてきた人なのだ。
更にこの偉大な父親から、自分が想い人として、相応しい力量を持ち合わせているか問われているような気さえした。
今の自分に命を懸けて慈しみ、守り抜く覚悟が備わっているのか、、、ジョングクは自らに問うてみた。
「ジョングク・・・」
テヒョンが動けなくなっているその肩に手を掛けた。我に返ったジョングクはその手の上に自分の手を乗せて、包み込むように握った。
「あなた様が、、、尊すぎます。」
「ん?・・何?」
涙声のジョングクはテヒョンを見上げて続けた。
「私は愛には色んな形があるものだと、思っておりましたが、、、」
テヒョンは話を聞きながら、ジョングクの手を取り隣に座った。
「亡き王太子殿下の、、、あなた様へ弛みなく注がれた強い慈愛に、私は圧倒されております。」
テヒョンは笑みを浮かべ、指でジョングクの頬の涙を拭った。
「命を惜しむことがなく、愛に向けられた御心を私は、、、これまで目の当たりにした事がございません。」
「うん、、、僕はこの手紙を見て、今まで知らない所で僕がどれだけ愛情を込められて、ここまで生きてこられたのか分かったんだよ。」
テヒョンの言葉を聞きながら、ジョングクは改めて便箋の筆跡を見つめた。
「なんという過酷な人生であるのか、、そう思うと苦しくはなりますが、お父様としての王太子殿下は、あなた様がいらっしゃるおかげで、どれほどお幸せでいらしたのか、、、」
「そう思ってくれるか?」
「はい。勿論でございます。それは大公殿下も同じ想いでいらっしゃるはずです。」
テヒョンは嬉しそうに笑った。
「テヒョン様、、、」
「ん?」
「愛情深い偉大な御父上をお二人もお持ちで、とてもお幸せな人生でございますね。」
テヒョンはジョングクのこの前向きな解釈を有り難いと思った。更に自分と同じ感性を持ってくれていることが余計に嬉しかった。
「ありがとう、、、ジョングク。」
テヒョンはそのまま抱きついた。
ジョングクはテヒョンを受け入れたまま、その背中で便箋を丁寧にたたみ封筒へ戻した。そして背中を擦ると、
「テヒョン様。王太子殿下や大公殿下には敵いませんが、、、改めて申し上げます。私の命に変えてもあなた様を生涯お守り致します。」
と言った。ジョングクの目には覚悟の眼光が放たれていた。
「ありがとう、とても嬉しいよ。・・・だけど、本当に命を懸けてはだめだぞ。」
ジョングクを見つめるテヒョンの目にも鋭い眼光が放たれていた。
この時、テヒョンはジョンソン夫人が言っていた言葉を思い出していた。
《あの方は貴方様を守る為に、黙ったままご自身の事を犠牲にしようとなさるでしょう。》
温和で優しい心根のジョングクだが、信念に基づいて突き進む実直さがあることは分かっていたので、ジョンソン夫人の言葉を忘れるわけにはいかなかった。
ジョングクはテヒョンの頬に触れ、視線を外さず真っ直ぐに見つめてくる瞳に口づけた。
穏やかな時間がゆっくりと流れていた。でもこの二人の貴公子達には、いつもより早い陽の光の変化に思えた。
二人で一緒に食事をして、スミスやデイビスなども交えて会話を楽しみ、夕方からはまたテヒョンの部屋で二人きりの時を楽しんだ。
いつもの様にチェスをしたり、トランプカードでゲームをして遊んだ。お互いに手加減なしで競い合い、楽しそうな笑い声が廊下まで漏れ聞こえた。
「ねぇ、君のホットココアが飲みたいな。」
カードを切りながらテヒョンが言った。
「では少し休みましょうか。早速ご用意致しましょう。」
ジョングクは快く承って、すぐに席を立って厨房に向かった。
ジョングクにとっては勝手知ったるキム公爵家である。家の者に取り次がなくても、自由に宮殿内のあらゆる設備を利用する事が許されていた。それはテヒョンのプライベートエリアも同様だった。
厨房でポットに出来上がったココアを淹れていると、シェフが近づいてきた。
「チョン伯爵、こちらの焼き菓子もどうぞご一緒にお召し上がり下さい。きっとココアを淹れに来られると思いまして、ご用意させて頂きました。」
「これは、、、!ありがとう。美味しそうだ。」
「しばらくロンドンをお離れになると伺いましたので、寂しくなります。チョン伯爵がいらっしゃる時は、いつもより皆様沢山お召し上がり頂けるので、私共にとっては作り甲斐があって、活気に満ちた厨房になるのです。」
厨房にいる他のスタッフ達もシェフの言葉に頷いた。
「あなたが作る食事がいつも最高で、私は普段より多く食べてしまうのだ。」
ジョングクがそう言うとシェフが嬉しそうに笑った。
「キム公爵家の専属シェフが作る料理は、社交界では超がつくほど評判で、皆が一度は賞味してみたいと切望している筈だからね。」
「格式の高い公爵家で調理をさせて頂いている身と致しましては、そう仰って頂ける事は誠に誉れでございます。」
ジョングクは大いに頷いた。
「しばらくこちらでご馳走になれないことが、残念でならないよ。」
「休暇の折には、大公子殿下にお会いに来られますよね?その時には更に腕を振るわせて頂きます。」
「ありがとう。職務の励みになるよ。」
ジョングクはそう言うと、ココアが入ったポットとシェフから受け取った焼き菓子を持って厨房を出た。
テヒョンの部屋に戻ると、テヒョンがカードを握ったまま、テーブルの上に頭を乗せて眠ってしまっていた。
テヒョンの反対側に、持ってきたココアを乗せた盆を静かに置いた。
ジョングクはベッドに寝かせようと思い近付いた。
「ん・・・・」
テヒョンが目を覚ます。
「いい匂いだ、、、」
「お目覚めですか?今カップに淹れますね。」
「ありがとう、ジョングク、、、」
テヒョンは起こした頭をジョングクの体に預けた。
ジョングクは、こうして自然に甘えてくるテヒョンにいつも心が満たされた。
出来ることならずっと片時も離れずに、そばでお守りしていたいと思った。
「はい、どうぞ。」
「ありがとう。」
「こちらもどうぞ。シェフが焼き菓子を用意してくれていました。」
「うちのシェフは君が来ると張り切るみたいだな。」
「有り難いことです。」
テヒョンはジョングクが家の者に好かれている事が嬉しかった。
二人は向かい合ってココアを飲んだ。
テヒョンの好きな《苦みが強めの味》は変わっていない。シェフが作って用意していてくれた焼き菓子も、ココアの苦みに合う甘さだった。
「君のココアもこの焼き菓子も、本当に美味しいね。」
テヒョンの称賛に、ジョングクは焼き菓子を頬張りながら笑顔で応えた。子どものような仕草に可愛さを感じて笑ってしまう。
そしてテヒョンは、暫く飲めなくなるジョングクのホットココアを一口ずつ、じっくりゆっくり大切に味わった。
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