群青と真紅 73【テヒョンの兄】 | Yoっち☆楽しくグテを綴る♡

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現在、BTSの底なし沼にハマり浸かっております
ガチガチのグテペンです
現在、テヒョンとジョングクをモデルに小説を執筆中☆



前回の物語

物語の続きが始まります✨✨✨


【親子として、兄弟として】


テヒョンはヘリオスの間を出る。
すぐに自分の部屋には戻らず、大公の執務室に寄って扉を叩いた。
中から『はい。』といつもと変わらない大公の返事が返ってきた。その声を耳にしただけでホッとした。
オルブライトが中から扉を開けた。
「テヒョン様、さぁどうぞ。」
促されて中に入る。

「父上。ご挨拶が遅くなりました。」
「おお、帰ったのだな。楽しんでこれたのか?」
「はい。存分に。」
「そうか、よかったな。昼の食事は?」
「これからです。食事の前に父上にお話したいことがありまして。」
テヒョンの言葉に配慮をして、
「では、今からお茶を持ってこさせましょう。」
とオルブライトが執務室を出た。


テヒョンは机の前まで進むと、手にしていた手紙を大公の前に差し出した。
大公は手紙を見るとすぐに視線を上げた。テヒョンは少し笑みを浮かべ静かに言った。
「今、ヘリオスの間で読んで参りました。」
「ヘリオスの間か。肖像画の前で読んだのか?」
「はい。それで、、、父上にも読んで頂きたくてお持ち致しました。」
「私に?」
大公はテヒョンの目が少し赤く潤んでいる事に気が付いた。

「私が読んでも構わないのか?」
「はい。王太子殿下と父上が一番仲の良いご兄弟だったと伺っておりますので。」
大公は頷くと手紙を受け取った。
「分かった。ではゆっくり読ませてもらおう。」
大公は一旦テヒョンから渡された手紙を机の引き出しにしまった。

「それから父上、、、」
「うん、なんだ?」
「今月は私の《兄上》の御命日がある月でございますよね。」
突然の言葉に、大公はテヒョンを見つめた。
「私の為に兄上の存在が、《無かった者》のようにされていらっしゃる事が忍びないのです。」
「テヒョン・・・・」
「是非父上と一緒に兄上に祈りを捧げたいと思っております。」

大公の目に涙が溢れた。こぼれ落ちそうなのを堪えて話し始める。
「お前に、、そのような言葉を口にさせてしまった私の方が忍びない、、。
だが、ありがとう。お前達二人の父親としてとても嬉しい、、、」
テヒョンは笑みを返しながら続けた。
「それと、、、毎年執り行われている、ベリスフォード王太子殿下の御命日の追悼ミサに私も参列させて下さい。」
「うん、、、そうだな。お前の望む通り今年から参列するといい。」
テヒョンは大公の何か解放されたような表情に、長年ずっと独りで抱えていたであろう苦しみを思いやった。

オルブライトが、茶器を持った従僕を伴って執務室に戻って来た。
「お待たせ致しました。さぁお茶を飲まれて、引き続きお二人でお寛ぎ下さい。」
大公とテヒョンは暫く一緒にお茶を楽しんだ後、テヒョンが先に食堂に向かう。
食堂にはスミスが控えていた。
「どうぞおかけ下さい。もうすぐにご用意が出来ます。」
「うん。あ、父上はもう少しお時間が掛かるようだ。」
「はい。承知致しました。ではテヒョン様のお食事を早速ご用意致します。」



その頃大公は自身の部屋に戻っていた。
手にはテヒョンから預かったあの手紙を持っている。一旦書き物机の上に置いて、その机の引き出しを開ける。
中から二つのペンダントヘッドを取り出した。
一つには、サファイアの宝石が薄く細い毛髪の束と共に埋め込まれていた。生まれてすぐに亡くなった、大公夫妻の息子のものだった。
もう一つは、毛髪を三つ編みに編み込み、肖像画を囲むようにして埋め込まれていた。ベリスフォード王太子のものだった。

大公は椅子を引いて座ると、二つのペンダントヘッドを片手に持ちながら、先程の手紙を封筒から取り出した。
一つ息を吐くと手紙の文字を追い始める。
微動だにすることなく読み進め、時折便箋を捲る音が微かにするだけだった。
手紙に集中する大公の周りには、静かな陽の光が差し込んでいた。陽射しが肩の上に優しい光の輪郭となって浮かぶと、その広い背中を包みこんだ。

ゆっくりと大切に一文字、一文字を追っていた大公は天井を仰いだ。
その瞳からは一筋二筋と涙が流れる。
便箋の束を机の上に置くと、ベリスフォード王太子のペンダントヘッドを両手で握りしめ額に当てた。
「・・・兄上、、兄上、、、」
喉の奥から絞り出すような声で、幼い頃から敬い慕っていた兄を呼んだ。そして堪えきれずに声を殺して泣いた。

我が子を手放すという事では、大公もベリスフォード王太子も立場や状況が違えど、同じ苦しみを味わった兄弟同士である。
手紙に綴られた文字には、悲しみや苦しみの思いが滲み出ていて、それが悲哀の矢となって大公の胸を刺した。
日々体力が憔悴していく身体で、どれだけの葛藤と折り合いをつけてきたのだろうか・・・・。

大公はベリスフォード王太子の計り知れない精神力を敬った。その源にあるのはやはりテヒョンの存在だったのだろう。兄弟として、テヒョンの父親同士として、愛息子の幸せへの願いは共有すべく光なのだ。
そして大公は、先に亡くなった息子を《兄》の存在として敬意を示し、生かしてくれたテヒョンに感激していた。
大公自身、この日初めてなにか報われた気持ちになれた。敬愛する兄の子であり自分の子でもあるテヒョンを誇りに思うと共に有り難くも思うのだった。


【亡き兄の追悼ミサ】


この日の早朝は、辺りに靄がかかっていて空気が少し冷たく感じた。
大公とテヒョンは黒の正装をして馬車に乗り込んだ。その後ろにオルブライトとスミスが乗った馬車が続いた。
2台の馬車は歴代国王とその王族の御霊が眠る霊廟に向かっていた。

ロンドンから離れた郊外にその霊廟はあって、塔が高く聳え立つゴシック建築の荘厳な大聖堂だった。
馬車が並木道の間を通っていると、その姿が見えてきた。
「ここはローレンの追悼ミサと、前国王陛下の追悼ミサで、何度も訪れている場所だから馴染み深いだろう?」
「ええ。」
二人は馬車の車窓越しに大聖堂を下から眺めながら、入口に着くのを待った。
入口が見えてくると、そこには既に司教や司祭が大公とテヒョンの到着を待っていた。

大聖堂前に敷き詰められた石畳の上を
馬車が馬の蹄や車輪の音を厳かに響かせて進むと入口に到着した。
馬車から大公とテヒョンが降りて、司教と司祭の元に行く。
「おはようございます大公殿下、大公子殿下。」
「おはようございます。今日は世話になりますよ。」
大公が司教に続き司祭と握手を交わす。
「おはようございます。」
大公に従いテヒョンも握手を交わした。
「大公子殿下、今日という日によくぞお越し下さいました。」
司教が感激した表情で迎えると、テヒョンは静かに頷いた。

「さぁどうぞ中へ、、、」
案内されて大公達は大聖堂の中へ入って行った。
大聖堂の中には朝陽がステンドグラスを透って光の靄が漂っていた。
「大公子殿下、兄上様と初めてのご対面でございますね。」
司教が歩きながらテヒョンに話しかける。
「はい。随分長い事時間がかかってしまいました。」
「いいえ、今がその時期だったのでございます。」

司教は優しく笑った。テヒョンが《出生の事実》を知って、色々葛藤をしてきたであろうことを思いやった笑顔だった。
礼拝堂を超えて、ある扉の前に着くと司祭が鍵を解錠した。両開きの扉を開けて中に入る。
ここが歴代国王や王族が眠る王室の霊廟だった。
ひんやりとした空気が漂う。司教が先頭で入り、皆が入った後を確認して司祭が扉を閉めて続いた。

しばらく歩いていると、テヒョンの母である大公妃の石棺の前まできた。
すると司教は大公妃の石棺の向かい側に向いて足を止めた。
「大公子殿下、、、」
司教はテヒョンに声を掛けると場所を空けた。大公が横に並ぶ。
「テヒョン、ここに眠っておるのがお前の兄の《ジョセフ》だ。」

テヒョンは兄の石棺に静かに近づいた。
それはとても小さな石棺で、母の命日に毎回訪れてはいても、気付かない位の大きさだった。それがとても悲愴感を誘った。
石棺の上部には天使の石像があって、中に眠る小さな亡骸を守るように、両手を合わせて祈りを捧げている姿をしていた。テヒョンは右手を石棺の上に乗せると、その場にしゃがんだ。
「ジョセフ兄様、、、」
その場にいる者皆が、静かにテヒョンと亡き王子の石棺を見守った。

しばらく黙祷をして立ち上がると、スミスがそっとテヒョンに花輪を渡した。
大公とテヒョンの二人でその花輪を石棺に手向けた。
「父上、、、」
テヒョンが大公の肩に頭を置いた。大公はテヒョンの肩に腕を回して抱くと、感極まっているその心情を思いやった。

棺が安置されている王族専用の霊廟の奥には祭壇もあって、ジョセフ王子の追悼ミサは毎年そこで執り行なわれた。
完全なる非公開である。
祭壇にはキム公爵家の花輪の他に、国王からの花輪も届けられていた。
「お前が祈りを上げてくれる日が来るなんて、、、それも一緒に、、、私
は本当に嬉しい。」
大公は隣で寄り添ってくれるように参列に加わるテヒョンに、嬉しさと一緒に頼もしさも感じていた。
「私も既に大人でございます。父上から引き継がせて頂いた、家長としての務めは共に担いたいと思っております。
それに、おそばにいらっしゃらなくても兄上は私の大切な家族でございますから。」

大公はテヒョンの顔を引き寄せて抱きしめた。オルブライトとスミス、司教も司祭も大公親子の姿に心打たれて、ずっと見守り続けていた。
こうしてテヒョンの兄、ジョセフ王子の追悼ミサはテヒョンが初めて参列して、ようやく家族揃って執り行われる事になった。
大公もテヒョンも、今は亡き幼い王子の御霊の為に深く祈りを捧げた。

大聖堂に鐘の音が鳴り響く。
毎年この時期には、周りの市民達がこの鐘の音で目を覚ましていた。
公に出来ない一人の王子の為に、ひと月の間早朝に鳴り響く鐘の音。
市民達は9月の早朝にだけ鎮魂の鐘が鳴る理由を知らない。だけれども毎年の風物詩と受け取られていた。


ミサが終わり大公とテヒョンは大聖堂を出た。司教と司祭に礼を言い握手を交わす。
テヒョンは大聖堂を振り返るとそのまま空を仰ぎ、頬に触る空気の冷たさに秋の深まりを感じた。
ジョセフ王子はこの風に触れることなくこの世を去って逝ってしまったのだ。
『兄上、、見えておりますか?』心の中で呼びかけてみる。大聖堂の敷地に立ち並ぶ木々の葉がそよいで、テヒョン達の横を風が通り抜けていった。


大公とテヒョンは宮殿に戻り、朝食を摂り着替えると国王の元に向かった。
ジョセフ王子の追悼ミサの報告の為だ。
控えの間で待機をしていると、侍従長が案内に来た。
「大公殿下、大公子殿下お待たせ致しました。」
大公とテヒョンは立ち上がると控えの間を出て国王の私室に向かった。

侍従長が扉を叩く。
「国王陛下、大公殿下と大公子殿下をお連れ致しました。」
『どうぞ。』と声がすると部屋の前で警護する近衛兵が扉を開けて二人を通した。
「失礼致します。国王陛下。」
大公とテヒョンは中に入る。すると敬礼をしながら自分達を迎えるジョングクがそこにいた。
「おはようございます。大公殿下、テヒョン様。」

その声にテヒョンの胸がホッと温かくなった。

「おはよう、ジョングク。」

ジョングクも愛おしさが隠せない瞳でテヒョンを見つめた。
国王と大公が二人の様子を見ると、お互いに見合って笑った。
「ジョングクには朝から宮廷に来てもらって、遠征訓練の話をしていたのだ。」
国王が皆に座るように促しながら話した。
「遠征?どこに行くのだ?」
テヒョンがジョングクに向かって訊ねた。

「テヒョン、お前の側近に側近らしい仕事をさせてやれずにすまないな。」

少し不安気なテヒョンに国王が言った。

「いいえ、、、軍務については元々、代々のチョン伯爵が受け継がれている事ですから。」
そう言いながらも、テヒョンの不安は拭えなかった。国王もテヒョンの動揺を気に留めていた。
「その話はまた後ほどしよう。」
大公やテヒョン達にお茶が配られると、国王が手で合図をして人払いをさせた。


「本日、テヒョンと初めて亡き息子ジョセフの追悼ミサに行って参りました。」
「家族揃っての祈りが出来たわけですね。」
「はい、おかげさまで。陛下には毎年の御心寄せをありがとうございました。」
「いいえ、決まり事とはいえ従兄弟の追悼への参列が出来ず、いつもながら心苦しい思いがします。」
「それはもう仰いますな。陛下はこちらで祈りを捧げて下さっているのですから。」
国王は居住する宮殿内にある礼拝堂で、毎年ジョセフ王子の命日に祈りを捧げていたのだ。

「叔父上、ある程度テヒョンの事については報告を受けてはいますが、ジョセフ王子の追悼ミサへも行かれて、尚且つ二人揃ってこちらへ来られたという事は、ヴァンティーダとしての話や、出生についてテヒョンは承知しているという認識で宜しいですか?」
「はい。」
「全て承知致しております。」
大公の返事の後にテヒョンは自ら応えた。

「さぞかし驚いたであろう・・・?」
「はい。陛下も驚かれたのではありませんか?」
「そうだな。弟のように可愛がっていたテヒョンの身の上が、あまりにも壮大すぎたからな。

私は国王に即位した時にお前の話を全て教えられた。国としても王室としても《重要機密事項》の扱いだったのだから震えたし正直泣いた。」

「私もその時同席していてな。国王陛下がお泣きになったから、本人のお前が知る時にはどうなるのかとても不安だった。」


大公がテヒョンを見ながらその当時を思い出しながら話した。

「色んな感情が入り混じりましたし、自分が本当は何者なのか分からなくなりましたが、、、」

テヒョンは言葉の途中で目を瞑る。

「しかし、実際には何も変わりませんでした。それよりも私は沢山愛されて来たことが分かって嬉しかったです。」

テヒョンは笑顔でそう話すとジョングクを見て頷いた。ジョングクも笑顔で応える。



「さて、ジョングクの軍務の話になるが、、、国王の私と王位継承権第一位の叔父上以外には話せない特殊部隊がある。最高機密の中でも更に口外出来ないことがあるのだ。例えお前の側近であっても知らせるわけにはいかない事だ。」

「分かっております。」

「すまないな。だか、今回の遠征訓練の事に関しては機密事項ではない。

来週からジョングクが率いる師団が砲弾を配備する為の実践訓練を行う為に、スコットランドに赴く事になったのだ。」

「スコットランドへですか?」


遠い・・・とテヒョンは思った。ロンドンからはるか北の地域。

ジョングクと出会った、あのエジンバラの離宮がある地だけれど遠すぎた。

「テヒョン様、側近としてはしばらくおそばに就く事が出来ません。申し訳ありません。」

『なぜだ?なぜそんなに落ち着いていられるのだ、ジョングク。』テヒョンは冷静に言葉を話すジョングクに少し驚いた。だが軍服をきちんと着用し仕事モードである為だろうと、頭を切り替えることにした。



しばらく四人で懇談を続けた後、国王と大公が個別の打ち合わせをする為、テヒョンとジョングクは国王の私室を出て、宮廷にあるテヒョンの私室へ向かう。

「何もお訊きにならないのですか?」

「ん?何をだ?」

ジョングクが歩きながらテヒョンの様子を見ていた。『そんな熱っぽい目で見ないでくれ。』テヒョンはジョングクを見ることが出来ない。


部屋に着いてジョングクが扉を開いてテヒョンを入れた。

そのまま部屋の中へ進もうとするテヒョンの手首を摑んで扉を閉めた。

テヒョンが振り向くと、ジョングクは掴んだ手首を自分の方へ引いて強く抱きしめた。そして優しい笑顔を向けて口づけをした。唇でお互いの存在を確かめるように求め合う。

しかし、唇を離してもお互い黙っていた。

「何かおっしゃって下さい。テヒョン様。」

「嫌だ、、、。」

「え?」


思いもよらない返事にジョングクはテヒョンの顔を覗き込んだ。

「今の僕には、、、君を引き止める言葉しか持ってない・・・」

なんともその言葉がとてもいじらしい。

「君を困らせたままスコットランドに送りたくないんだよ、、、」

ジョングクはたまらずに、また強くテヒョンを抱きしめた。

「何で笑っているのだ!」

テヒョンが不貞腐れたように言った。


言葉とは裏腹に素直に甘えてくれることに、ジョングクはより大きな愛しさを感じていた。

「向こうに行ったきりになるわけではありません。勿論手紙も送らせて頂きます。」

「・・・手紙で口づけは出来ぬではないか、、、」

「まったく、、あなた様というお方は、、、」


テヒョンがあまりにも可愛らしい事ばかり言うので、ジョングクは本当にスコットランドに赴けなくなるのではないかと思った。

「休暇もちゃんとありますから、その時はあなた様の元に真っ先に帰って参りますよ。」

その言葉にテヒョンが抱きついてきた。

「あ、お待ち下さい。」

ジョングクは軍服のボタンを外し上着を脱いだ。


「こうした方があなた様の温もりをより一層感じられます。」

テヒョンが嬉しそうにその懐に入っていく。

二人はしばらくの間何も語らず抱き合う。こうしてお互いが寄り添うことで、体温を通してエネルギー交換が出来た。

また二人はこの先の会えなくなる時間を埋めるかのように、お互いの唇を求め合った。


同じ街にいて会えないのはそんなに辛いことではないが、日帰りで行ける距離ではない場所では、胸が痛くなるほど辛いことだ。

二人の間にあった《宿命》としての隔たりが無くなった途端に、今度は《距離》という試練が訪れた。

しかし、テヒョンとジョングクはそれも新たなスパイスとして受け入れようとしていた。



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