前回の物語
物語の続きが始まります✨✨✨
【立場と責務】
ジョングクの派遣が世間に公表された。
勿論、表向きは3次連合軍、野戦部隊の指揮官として戦地に向かう事になっている。国民は大公子との結婚を延期した上、戦地に赴く事になったチョン伯爵に対して敬意を表した。
そして、テヒョンは身の回りの世話をする従僕のデイビスを伴い、ジョングクが出発の日を迎えるまで、特別にチョン伯爵家で過ごせるように配慮された。それまでの公務は多少免除され、公爵としての仕事量も減らした。
伯爵家で王位継承権を持つ大公子を預かることになり、公務の拠点も一時的に預かる事になるので、館内には警護が配置され多少の環境が変わった。だがより一層心のこもった世話が出来るように、ハンスは従僕や女中達に命じた。何よりも戦争のせいで離れ離れになってしまう二人に心を寄せた。
あの日以来テヒョンは泣き言を言わなくなった。二人が一緒にいられる時には共に食事を楽しみ、アフタヌーンティーを楽しみ、パックスと遊び、庭園を散策し草木や花々を愛で、もっと時間が許す時の晴れた日には遠乗りに出掛け、雨の日にはジョングクの部屋でチェスやカードゲームに興じ、オペラ歌手を伯爵家に招いてはその歌声に酔いしれ、テヒョンが詩集を朗読して聞かせ、そのまま眠ってしまったジョングクと昼寝をして、、、
そうして日常を静かに、お互いに愛情を寄せ合いそばにいる日々を過ごした。
伯爵家にはソレンティーノ伯爵やアンジェロも滞在していたのだが、婚約者同士の時間を尊重して敢えて食事の時以外は関わることを遠慮した。
続々とロンドンにヴァンティエスト達が集結する。現地に行くには遠回りになってしまう国の者達もいたが、彼等の目指すものはただ一つ。
戦闘の援護などではなく、この暴動やそこから波及した戦争の元凶になった者達の《処刑》が目的だ。
もう身柄をただ確保するレベルはとっくに越えていた。
刑を執行する事が出来る権限は、各同盟国の最高責任者達からヴァンティエスト達に与えられている。裁判無しにそれが可能になったのは、何世紀にも渡り処罰を受けてきたにも関わらず、残った子孫達が処刑される代わりに受けた恩赦に対し裏切り続けていたからだ。
傾倒した思想や私利私欲によって、なんら関係のない市民を巻き込み、暴動や戦争にまで発展させてきた。また、彼等をかくまった過激派達も同罪とみなされた。
敵方の首謀者であるセルゲイ・ヴィダ・アルテミエフがP国の王位継承権を略奪出来た暁には、この過激派組織がD国とP国を共に統治出来るよう、約束を取り交わしていた事も判明している。
そしていずれは、必ずヨーロッパだけでなく世界征服への野望を広げる事になるだろう。
だからこそ断じてP国の王位継承権は略奪されてはならないのだ。
ジョングクが訓練に出ているある日の事、テヒョンはセオドラ卿の部屋の扉を叩いた。
「これは殿下、さぁどうぞ中へお入りく下さい。」
「突然に失礼します。お忙しくなければお話をさせて頂きたいのですが。」
「そのようにお気を遣わずとも、いつでもなんなりとお話し下さい。」
セオドラ卿はソファに座るようすすめた。
「ありがとうございます。」
「あらたまったりなさって、いかが致しました?殿下はもう私にとってはおそれながらも息子同様と思っております。」
テヒョンはその言葉に満面の笑みで応えた。
「お飲み物を持ってこさせましょう。」
「いいえ、それには及びません。」
なにやら真剣な雰囲気を感じ、セオドラ卿はテヒョンの近くに椅子を寄せて座った。
「単刀直入にお訊きします。」
「はい。なんなりと。」
「私がヴァンティーダとして覚醒する方法はあるのでしょうか?」
セオドラ卿はテヒョンの瞳の奥を探るように見つめた。
「何ゆえにございますか?」
「可能性のお話です。あるのか、ないのか。」
真っ直ぐ向けてくるテヒョンの眼差しに、セオドラ卿は笑い出してしまった。
「あ、いや、、失礼致しました。さすが大公殿下は貴方様のお父上でいらっしゃいますなぁ、、、」
テヒョンはわけが分からず呆気にとられた顔をした。
「あのお方は貴方様がその事で、私にお尋ねになるだろうと分かっていらっしゃいましたよ。」
「父上が?・・・」
「ええ。では私も単刀直入にお答え致しましょう。貴方様の《覚醒の方法》はございます。」
テヒョンがすぐに身を乗り出したのでセオドラ卿は制するように続けた。
「今は《方法がある》とだけしか答えられません。この先の事には国王陛下の許可が必要でございます。」
テヒョンは事情を察して、それ以上は訊く事をやめた。
「聡明でいらっしゃる貴方様の事、色々な思いや気付きがございましょう。お察し致します。」
テヒョンは静かに首を振ると、
「ただ、、、ヴァンティーダの血を半分でも受け継いで生まれた以上、私も種族としての義務を負いたい。そう思ったのです。」
と静かに言った。セオドラ卿は優しく笑うと、膝の上で固まるテヒョンの拳を握った。
ジョングクだけに責務を負わせたくないというテヒョンの思いは、セオドラ卿にも通じていた。
しかし、テヒョンが覚醒をして敵側に《血の秘密》を悟られてしまう事は、余計に事を難しくしてしまうという危惧もあって本人には言えない事だ。
この出生に関わる事が、国の最重要機密事項にされている理由も、テヒョン自身の身の安全を確保する為でもあるのだ。聡明すぎる為に色々思い悩む事が多いテヒョンを見て、可哀想には思うのだが致し方ない事だった。
「殿下、ここで私と一緒にお茶を召し上がって下さい。」
セオドラ卿はそう言うとハンスを呼んで、アフタヌーンティーの用意をさせた。
紅茶を飲みながら雰囲気を変える為に、他愛もない話をした。相変わらずセオドラ卿は機転を利かせた話題の振り方をした。
しばらくするとハンスがパックスを連れてきた。
「失礼致します。《お坊ちゃま》を連れて参りました。」
テヒョンの姿を見るなり素早く腕から降りて走ってくると、足元でキュンキュンと鳴いた。
「この仔はこの屋敷に貴方様がいらっしゃると、おそばに居たいようでジョングクがいない時は特に出して欲しいと鳴くようですよ。」
セオドラ卿はテヒョンの足元で興奮しているパックスの様子を見て笑った。
「どれ、、、はいはい分かったから、待て待て。」
テヒョンは飛び跳ねるパックスを抱き上げると膝の上に置いた。ペロペロと手を舐めたり、頬を舐めたりで忙しい。
「お前は本当に可愛いな。」
まだまだ落ち着かないパックスに呆れ笑いをするが、見つめる視線は愛おしそうだ。
「ジョングクが遠征中も屋敷に来て頂いて、よく面倒を見て下さいましたなぁ。」
「この仔はもう私にとって我が子みたいなものですよ。」
パックスはやっと落ち着いて膝の上で寛いでいた。セオドラ卿は目を細めて《二人》を見た。
「この仔を我が家に迎え入れたのは、ジョングクが余りにも他者と関わろうとしないからで、、、。」
テヒョンはセオドラ卿を見た。
「ヴァンティーダとして生まれた以上、色々制約があるのも理由だろうと分かっておりましたが、しかしそれでは余りにも寂しい、、。仔犬の躾を任せることで、外に感情を出せるようになればと思った次第でして、、、。」
セオドラ卿は言いかけてニコニコとテヒョンを見つめると、
「でも既に貴方様と出会い愛情を示す体験はしていたわけですな。気が付けばジョングクは随分と表情も性格も穏やかになっておりました。」
テヒョンは黙ったままで照れたようにパックスの頭を撫でた。
「誰もが殿下とジョングクの結びつきを《運命》と申します。私も初めて貴方様が我が家にいらした時にそう感じておりました。」
「そう言って貰えるのは本当に嬉しいことです。私自身も彼のおかげで世界が広がりましたから、もう感謝しかないですよ。」
「ジョングクの伴侶になる方が、貴方様で本当に良かった、、、。私が貴方様の《父》になれるご縁も、誠に光栄な事でございます。」
義理の父になる人からの言葉は心から嬉しく思え幸せだった。
セオドラ卿はテヒョンが運命に従い、同等の立場でジョングクと共に戦おうとしている事に感激をしていた。
ただ単に二人が運命で結ばれただけではなく、行動を共にして添い遂げようという気合が見えてとても尊いことだと思ったのだ。
しかし、例えテヒョンが同じ血筋を受け継いでいるとはいえ、置かれている立場や担うべき責務が違うので、現実にはそれをさせるわけにはいかないだけなのだ。
王侯貴族社会で、それも国王をはじめとする王族が、これほどまでに人間らしさを感じさせる国は、他国には見受けられないとても珍しい事だとセオドラ卿は思っていた。
中でもテヒョンは喜怒哀楽を素直に表に出せる、一番人間らしさが感じられる王子だと思えた。
心を寄せる婚約者のジョングクをヴァンティエストとして戦場に送らなければならないと分かった時、この純粋で真っ直ぐな心の持ち主は、どんなに辛く葛藤したのだろうかとセオドラ卿は胸が詰まる思いがした。
【従兄弟同士】
訓練を終えてジョングクはアンジェロと共に帰宅する。
「お帰りなさいませ。」
「お帰り。」
出迎えをするハンスの隣でテヒョンもジョングクを出迎えた。
「ただ今戻りました。わざわざお出迎え頂けて光栄でございます。しかし、テヒョン様今日はまだご公務中ではないのですか?」
「うん。それが予定よりかなり早く終わったのだ。」
「多少なりともジョンと水入らずの時間が増えましたな。」
アンジェロが二人をひやかすように言う。
「アンジェもジョングクも明日は休暇ですよね?今日は三人で一緒に飲みませんか?」
テヒョンの誘いにアンジェロがジョングクに顔を向けた。
「せっかくのお誘いですから一緒に飲みましょう。」
「お邪魔ではありませんか?」
テヒョンとジョングクを交互に見て訊いた。
テヒョンがにっこり笑って首を振って、
「ジョングク、君の部屋でもいいか?」
と訊いた。
「勿論でございます。」
最近は《二人の部屋》になっているジョングクの私室。二人だけの、、、という大切な空間になっていたので、テヒョンからの部屋飲みの提案が意外だった。
「デイビス、夕食後に酒宴の準備を頼んでくれ。これは私の奢りだ。」
「かしこまりました。」
少し下がって立っていたデイビスはすぐに伯爵家の厨房に向かった。
「テヒョン様と親しくお酒を飲めるなんて嬉しい限りですな。てっきり私は嫌われてしまったと思っていましたから。」
「嫌うなどありえませんよ。・・・ただ、、、私が大人気なかったのです。」
そう言いながらチラリと視線をジョングクに向けた。テヒョンの視線を感じてすぐに笑顔で返す。
二人の親密なやりとりを見ていたアンジェロが、
「おーっと、こちらは傷心の身ですからね、、、あてられたらたまりませんよ。」
と、からかうように牽制した。
三人で笑ったがテヒョンは《傷心》の言葉が気になって、ジョングクに絡んでいるアンジェロの笑顔を様子見た。しかしすぐに、
「是非部屋着でどうぞ。」
と言って余計な事は訊かなかった。
夜、テヒョンとジョングクが部屋で寛いでいるとアンジェロがやってきた。その後ろにはデイビスが厨房の職員と酒宴のワゴンを運んで来ていた。
「丁度いいタイミングだったかな。お邪魔しますよ。」
アンジェロはテヒョンが提案した部屋着に従いラフな格好だった。しかし、羽織るガウンコートがアラベスク柄で色彩が豪華だった。
「これは見事なデザインですね。」
テヒョンが興味津々でガウンコートを見た。
「私達の国では好まれるデザインですよ。私も好きな柄です。テヒョン様がお召しのガウンコートも素敵ですね。」
「ええ、これはジョングクから貰いました。」
テヒョンがホロッとした柔らかい笑みで応えると、ジョングクが着ているガウンコートにも目が行った。
「あ、これはジョンと色違いのお揃いなのですね。」
と気付くと、どこまでも仲の良い二人にすっかりからかう気力も薄れて笑った。
お酒やつまみの準備を終えたデイビスがここで声を掛けた。
「お待たせ致しました。どうぞお召し上がり下さいませ。それからアンジェロ様がナポリのワインをご用意下さいました。」
「わぁ、、ありがとう!楽しみです。」
テヒョンが嬉しそうに応えた。
「さあ、アンジェもジョングクも座って。」
テヒョンが二人を座らせる。
「さて、最初は私が二人のグラスに酌をさせてもらおう。」
ジョングクとアンジェロは言われるがまま待った。
「こちらはフランスにございます、殿下所有のシャトーより取り寄せたワインでございます。」
デイビスはワイントーションの上にワインのボトルを乗せ皆に披露した。そして封を切りコルクを抜くとグラスに少し注いでテヒョンに渡した。
受け取ってワインの香りを確かめ、口に含みテイスティングをすると、うん、と頷く。デイビスはそれを見届けると道具をトレーの上に戻した。
「テヒョン様、何かあればお呼びつけ下さいませ。私かハンス殿が参ります。」
「うん、分かった。ありがとう。」
デイビスはにっこり笑うと頭を下げて、職員達と部屋を出た。
テヒョンは二人のグラスにワインをトクトクトクと軽快な音を立てて注いだ。するとアンジェロがすかさずボトルを取り、
「さぁ、貴方様もグラスをお取り下さい。」
と言ってボトルの口を向ける。テヒョンがグラスを取って差し出すとそこに注ぎ入れた。
「テヒョン様の貴重なワインが頂けるとは楽しみです。」
アンジェロは嬉しそうに目を細めて、ラベルをまじまじと眺めた。
「セオドラ卿と伯父上にも届けさせてもらっているぞ。今頃賞味して頂けているかもな。」
「さ、さ、テヒョン様、私達も早速乾杯致しましょう。乾杯のお声をお願いします。」
ジョングクが急かした。
「ではグラスを掲げて、今宵の僕達に___乾杯。」
従兄弟同士の三人は、この夜初めて揃って親しく酒宴を交わした。
ワインを飲みながら話題はアンジェロが暮らすナポリ王国の話から始まり、生い立ちや兄弟についてと、また士官学校留学時代の話題にまで及んだ。
「そうですか、アンジェには兄上がいるのですね。」
「はい。兄は頭脳明晰で国内の士官学校に入りましたが、軍事に関しても学問に重きを置いていました。私とは真逆ですよ。
兵学者になりましたが、今は軍師として連合軍に就いています。」
「兄上は連合軍として既に戦地に赴いているのですね、、、。」
テヒョンは呟くように言った。
急に神妙な表情になるテヒョンを見たジョングクとアンジェロは、なにか思う所があるように見えたので、お互いに目を合わせた。
「テヒョン様、いかが致しました?」
「うん?、、、いや、、、」
言いにくそうに言葉を鎮める様子に、アンジェロが言葉を掛ける。
「どうぞ、言いにくい事はお酒の力を借りて仰って下さい。私達は身内なのですから、遠慮なさらず。」
テヒョンはアンジェロを見ると、フッと力が抜けた笑みを浮かべて、手にしていたグラスのワインをクイッと一気に空けた。
「おー!」
アンジェロが驚きの声を出した。
「大丈夫でございますか!?」
ジョングクは心配の声を上げる。
空になったグラスをテーブルに置くと、フーと息を吐いて話し始めた。
「ヴァンティーダの者は皆、何かしら今回の戦争に責務を担っている。」
二人はテヒョンが何を言おうとしているのか、黙って続きを待っていた。
「ヴァンティーダの血を半分受け継いでいる僕は、本当に何も出来ないのか?」
いきなりの問い掛けに一瞬静まり返る。
しかしテヒョンは更に続ける。
「セオドラ卿に訊いたのだ。僕が《覚醒》する方法があるのかと。」
「え?、、、なぜそのようなことを?」
ジョングクは困惑した。アンジェロは黙ってテヒョンの顔を見ていた。
「《方法》はあると仰った。」
テヒョンの言葉にジョングクがすぐに反応した。
「いえ、例え方法があったとしてもあなた様を覚醒させる?、、ましてやヴァンティエストとして参戦など以ての外でございます!」
「ジョン!まぁそう興奮するな。テヒョン様のお考えを伺わないと話が進まないだろう?」
言葉の勢いが止まりそうもないジョングクを制した。
少し睨むようにしてテヒョンは目線を上げた。
「勿論、セオドラ卿はそれ以上は教えてくれなかったよ。国王陛下の許可が必要だそうだから。」
「当然でございます。あなた様は一番守られるべきお方なのですから。」
「当然?どうして?僕が王族だからか?」
今度はテヒョンが食って掛かってきた。しかし、理由が《テヒョンの血が狙われるから》とは言えない。
更に何か言い出しそうになる二人の間にアンジェロが割って入った。
「テヒョン様もジョンもここまでだ。」
二人は我に返ったように深く息を吐いた。
「僕にも守りたいものがある。」
テヒョンが静かに言った。思い詰めたような表情で、それでいて鋭さが光る眼差しには強い信念を感じた。アンジェロが応えた。
「分かっておりますとも、テヒョン様。ジョンお前もよく理解しているよな?」
ジョングクは優しくテヒョンの肩に手を回した。
「人にはそれぞれ役割というものがございます。私やアンジェ兄さんのように軍事訓練を受けた者と、国を司る教育を受けて来られた国王陛下をはじめ、大公殿下やあなた様というようにです。」
「大丈夫でございます。私とジョンはしっかり役目を果たして戻って参りますから。貴方様はここで陛下と一緒に国民をお守りになっていて下さい。」
「あなた様はきっと、ヴァンティーダとしての血を受け継ぐ者として、一緒に戦いたいと思って下さったのですよね?、、、有り難い事ですしそのお気持ちはとても嬉しいです。」
ジョングクは心からそう思っていた。
「でも、私個人としては大切なあなた様を危ない所には行かせたくはありません。王族だからとか、王位を継承する立場だからとか、、、そういう理由ではありません。」
テヒョンが真っ直ぐにジョングクの目を見た。
「私の我儘だと仰られても構いません。愛おしいテヒョン様だから行かせたくはないのです。」
慈しみの思いを込めて諭すように言った。
「はい!そこまでだ。」
アンジェロが急に止めに入った。
「ジョン、お前すっかり俺の存在を忘れていただろう。危うく二人だけの世界に巻き込まれる所だ。俺は傷心の身だと言ったよな?」
「アンジェ、、国で何かあったのですか?さっきも《傷心》の言葉を口にしてましたよね。」
テヒョンの問い掛けに真顔に戻った。
「あ、言えなければ無理にじゃなくていいのです。」
「いえ、、、そういうわけではありません。ははは、参ったな」
自分の事となると困った顔をするアンジェロに、ジョングクが助け舟を出した。
「私からお話しましょうか?」
「大丈夫だ。」
「何かを抱えて戦地には行って欲しくありませんよ、あなたも僕の身内なのですから。お酒の力を借りて話してしまって下さい。」
テヒョンが笑顔で頷いて促した。アンジェロは座り直して背筋を伸ばした。
「ジョンにも話したのですが、、、私には結婚をしたいと思う人がいて、、」
言いかけてグラスのワインを飲み干す。空になったところに、テヒョンがすかさず新しいワインを注いだ。
「彼女はガヴェレナ系のヴァンティーダで、、、今回の王位継承権略奪を企てた輩がガヴェレナの者だからと、同族が起こしたことへの責任を感じて、皆が離縁をしたり、、、アイゼナの私達から離れて行ったのです。」
「では、、アンジェの想い人も?」
アンジェロは『はい』とだけ答えてグラスを勢いよく空けた。
テヒョンはその様子を見てジョングクに視線を向けた。目が合うと悲しげな笑みで返してきた。テヒョンは憤りを感じた。
「ほぅ、、、貴方様の瞳は青く揺らぐのですね。」
アンジェロがテヒョンの瞳の中に怒りを感じた。
「許せない、、、」
静かな声だったが、瞳は更に青く揺れた。
「貴方様もジョンもよく似ている。素直に感情が出てしまう所は純粋すぎるし、、、、危険だ。」
アンジェロはこの二人が運命で結ばれていると言われている意味をこの時ようやく理解した。そして純粋さには危険が伴うということも。
「さぁ、、、テヒョン様もジョンも飲み直そう。夜はまだまだこれからですよ。」
「そうだな。・・・お、もうこれは空になっている。」
「では私が新しいボトルを開けましょう。次は何を飲まれますか?」
ジョングクが並んでいるボトルを色々見せてきた。
「君が飲みたいものでいいよ。」
「じゃあ、、このワインを!」
そう言ってアンジェロが持って来たボトルを掴むと、ソムリエナイフを手に取り開封を始める。
「今度は怪我をするなよ。」
テヒョンが意味ありげな言い方をしたので、ジョングクは思わずニヤけた。
「なんだ?ワインの開栓で何かあったのか?」
アンジェロが興味津々で訊いた。
「全てはそこから、繋がっていった、、、っていうことになりますかね。
あの時、ジョングクがヴァンティーダだってことも、僕自身の真実も知らなかったわけだから。」
「なになに?どんな事があったのか聞かせてもらわないとな。」
アンジェロは前のめりで興味をそそられていった。
「構いませんよ。その代わり長い長い話になりますけれど。」
テヒョンがおどけたように言った。
「大丈夫ですよ。夜はこれからだと言ったではないですか。」
するとジョングクが、
「テヒョン様、そのお話をするという事は、、、私達の馴れ初めもお話しなければなりませんね。」
と、輪を掛けておどけた。
「おー、そうだな。しっかり聞いてもらおう!」
アンジェロは思わず両手で頭を抱えた。
「・・・これは迂闊だった。がっつりと二人にあてられるってことですね、、、これは酔わなきゃ聞いていられない。」
言い終わらないうちに、ブランデーのボトルを掴んで急いで栓を開けた。
※ 画像お借りしました