前回の物語
物語の続きが始まります✨✨✨
【伴侶を助ける為に】
一夜が明けた_______
テヒョンが目を覚ますと、見慣れた天蓋が見えた。いつの間にか自分の部屋のベッドにいる事に気付く。
『あ、、、昨日はどうしていたのだ?・・確か・・チャリティーレースの後、、、陛下の宮殿で、、、!!、、、』
咄嗟に昨日何があったか思い出し、起き上がろうとしたが身体に力が入らない。
「まだそのままでいろ。」
大公の声がした。声の方を見るとベッドに座ってテヒョンを心配そうに覗き込む父の顔があった。
「父上・・・」
「何も言うな。・・・今、セオドラ卿が来てくれている、入ってもらうか?」
テヒョンは頷いた。大公はデイビスに合図をする。
暫くするとセオドラ卿がテヒョンの部屋にやってきた。大公は立ち上がりセオドラ卿に任せて、デイビスと共に部屋を出て行った。
「殿下、、、」
悲痛な面持ちでテヒョンのベッドに近付いた。セオドラ卿の顔を見るなり涙が溢れる。
「義父上、、、」
セオドラ卿はテヒョンを抱きしめた。
「ジョングクが、、義父上、ジョングクが〜〜あぁぁ〜〜〜・・・・」
子どもの様に泣きじゃくる背中を優しく撫でる。
「息子がご心配をお掛けして申し訳ありません。」
「そんな事はいいのです。・・・義父上、、」
「殿下、私は明日フランスへ発つことに致しました。そのご挨拶に伺わせて頂きました。」
テヒョンは身体を離した、
「え、、では私も一緒に連れて行って下さい。」
セオドラ卿はテヒョンの両腕を押さえて首を横に振った。
「・・・それは出来ません。戦争が終わったとはいえ、まだまだ混乱が残る場所へ貴方様をお連れするわけにはいかないのです。第一国王陛下の許可が必要ですよ。」
テヒョンは悲しい顔をした。
「義父上もそれを仰るのですね、、、」
「どうか、お許し下さい。その代わり私が息子をちゃんと看て参ります。」
テヒョンは応えず沈黙していたが、セオドラ卿の手を掴んで言った。
「以前、私がヴァンティーダとして覚醒する方法があると、教えてくれましたよね。」
セオドラ卿は、自分の手を掴むテヒョンの手を離そうとした。だか更にその手をテヒョンが掴んできた。
「しかし、、、前にも申し上げた通り、それは国王陛下の許可がなければお教え出来ない事です。」
「陛下の許可が必要だということは、陛下はその方法を勿論ご存知だということになりますよね。」
「殿下、、、覚醒してどうなさるおつもりでございますか?」
テヒョンはじっとセオドラ卿の顔を見つめて、
「覚醒した私の血が、ジョングクの解毒に有効な気がするのです。」
と言った。
「・・・どうしてそう思ったのですか?」
「勘ですよ。私にはヴァンティーダについての知識はそんなにありませんから。・・ただ、、、」
「・・・ただ?」
「ニュウマリー族とヴァンティーダ族両方の血を受け継いだ人間は、私一人のはず。誰もその血で耐性を持つ経験をしたことはありませんよね?」
セオドラ卿はじっとテヒョンの目を見つめた。
「覚醒した私の血でジョングクが耐性を持てば、元々劇症が強い血液の持ち主ですから、その時に出来る副産物で解毒もされるのではないか、、、と、単純に思っただけです。」
セオドラ卿は驚いた。テヒョンが聡明な事は分かっていたが、かなり鋭い分析に計り知れない知性と、何よりも恐いくらいの神性を感じたのだ。
テヒョンはセオドラ卿の手を掴んでいた両手を離した。
「義父上、、先にジョングクの所へ行って上げて下さい。私は必ず後からジョングクを迎えに行きますから。」
不安気だったテヒョンの目が、標的を捉えた鷹のような鋭い眼差しに変わっていた。
「では殿下、私は出発の支度がございますのでこれで、、、どうかご無理をなさいませんよう。ジョングクは貴方様が覚醒する事など望まない筈でございますよ。」
セオドラ卿は釘を差すように言うと、深々と頭を下げて部屋を後にした。
セオドラ卿と入れ替えにスミスが入ってきた。
「テヒョン様、朝食はこちらにご用意致しますか?」
スミスは何も訊かず、何も話さず必要なことだけを口にした。
「スミス、デイビスと共に私の旅の支度をしておいてくれるか?」
スミスは咄嗟に、
「ジョングク様の所へ行かれるおつもりでございますか?
なりません!貴方様を戦後の混乱する場所へなど行かせるわけには参りません。」
とまくし立てた。
テヒョンはフッと笑った。
「私の最初で最後の我儘だ、聞き入れてくれ。」
「いいえ!何度申されましても無駄でございますよ。」
頑として聞き入れようとはしない。
「なぁ、スミス。いつだったか私の我儘で困らせて欲しかったと言っていたじゃないか!」
「それは貴方様がお小さい頃の私の望みでございますよ。人の揚げ足を取るような事を仰らないで下さいませ。」
「誰も私を助けてはくれないのか、、、」
スミスはベッドに座ってうなだれるテヒョンの横に座った。
「貴方様を想っての事でございますよ、、、それが分からないテヒョン様ではございませんよね。」
テヒョンは頭を両手で掻きむしった。
「ジョングク様は、私にとっても勿論大切なお方でございます。ですが、一番大切なテヒョン様に従事させて頂いている立場の私が、簡単に貴方様を危険な場所へ送り出す事など出来ません。」
「分かっているよ。親同様に私のそばにずっと付いて育ててくれたスミスだ。」
スミスは涙を流していた。
本来であればテヒョンの希望通りにしてやりたい所だ。だが、身の上が公人であり国のものでもある以上、感情を優先して『はい』と二つ返事を出す事は出来なかった。
王族の一挙手一投足が、時として周囲への示しがつかなくなる恐れがあるからだ。
「スミス、朝食は食堂で食べるよ。」
落胆したように静かに言った。従事する者にこれ以上言って困らせる気もなかった。
「かしこまりました。お着替えのお手伝いを致します。」
食堂では大公が先に朝食を摂っていた。
「改めましておはようございます、父上。」
「おはよう。身体は大丈夫か?」
「はい。」
大公もテヒョンもお互いに何も言わず、いつも通りに食事を摂った。
しかしこの日は、あまりにも会話が少ないので、周りの職員も給仕係も緊張していた。
食後の紅茶を飲み始めて暫く経った。
「父上、この後お時間を頂けますか?」
「ああ、今からでもよいぞ。私の部屋に行くか?」
「はい、ありがとうございます。」
大公とテヒョンは立ち上がると二人で食堂を出る。スミスやデイビスはその場で親子の後ろ姿を見送った。
父と子で何も話さなくても、お互いに気持ちや考えが分かっている、、、そんな雰囲気だった。スミスは自分は大公とテヒョンが出す答えに従うだけだと、心に言い聞かせた。
大公は部屋に入り、『そこに座りなさい。』と、テヒョンを椅子に座らせた。そして徐ろに自分もデスクの椅子に座るとこう切り出した。
「単刀直入に言ってみなさい。」
テヒョンは父の顔を真っ直ぐに見つめ、こう話した。
「私はヴァンティーダとして覚醒し、ジョングクを助けにフランスに参りたいです。その為に王位継承の権利を失っても構いません。」
大公も息子の顔を真っ直ぐに見つめた。
そして、フッと笑った。
「お前は、、、本当に兄上によく似ている、、、真っ直ぐに前を向いて、ハッキリと主張をする時の表情が、まるであの時の兄上を見ているような錯覚を覚える。」
テヒョンは黙ったまま聞いていた。
「お前の父であり、私の兄でもあるベリスフォード王太子は、お前の生みの母のステファニア殿と婚姻を結びたいと国王に申し出た。あの時の兄上の顔は、、、今のお前そっくりだ。・・・お前は、兄上の子でもあったのだと思い出した。」
テヒョンは涙を流した。
「父上を裏切ることになるかもしれないのは、充分承知の上でございます。」
「私を裏切る?・・・お前が?なぜだ。」
下を向いたまま答えられず泣いている。
「お前は私を裏切ってなどいないぞ。人を助ける為、それも愛する者を助ける為に自身を献身しようとしているのだ。親を裏切るどころか、信念を貫く人としての高潔さは私を越えた。」
「父上、、、」
「言ったではないか、お前は何があろうが《私の息子》だ。」
テヒョンは声を上げて泣いた。
「テヒョン、、本当にお前自身を覚醒させていいのだな?」
「はい。私は何ら躊躇すらしておりません。」
「分かった。ではこれから陛下の所へ参るぞ。・・・さぁ、もう泣くな。」
「ありがとうございます、、、父上、、」
「私はあくまでもお前の付添人だ。お前自身の言葉で陛下から許可を頂くのだ。」
「分かりました。」
テヒョンは一旦自分の部屋に戻った。
ソファに座り大きく息を吐いた。こうしてじっとしていても、心は落ち着かない。その間にもジョングクは苦しんでいるのだと思うと居ても立ってもいられなかった。
「失礼致します。」
そこへデイビスが入ってきた。何やら甘い香りが漂う。
「殿下、お出掛けまでの間こちらをお召し上がりになってお待ち下さい。」
見るとそれはホットココアだった。
「うん、ありがとう。」
テヒョンは一口飲んだ。
「これは、、デイビスが入れたのか?」
「はい。まだまだ修行が必要ですが、、」
今日のデイビスのココアは違っていた。
「ジョングクのホットココアと同じ味がする、、、」
「本当でございますか!?」
「どうやって入れた?」
「私はただ単に、殿下のお気持ちが少しでも落ち着いて下さればと思い、、、心を込めて入れさせて頂いただけでございます。」
「そうか、、とても美味しい、、」
テヒョンは笑顔で続けて二口、三口と飲んだ。
デイビスは嬉しくて涙ぐむ。ココアの味を褒められた事も嬉しかったが、なによりも自分が入れた飲み物で、一瞬でも主人が笑顔になってくれたのが嬉しかったのだ。
デイビスが以前、ジョングクにホットココアの入れ方を訊いた時、特別なことはしていないと言っていた事を思い出した。デイビスはようやく気が付いた。
ジョングクはいつでも《心を込めて》大切にココアを入れていたのだ。
《技》ではなく、誰かを想い幸せな気持ちになって頂こうという奉仕の心。従僕として一番大事な事を身を以て教えられていた。
デイビスは遠い異国の地で苦しんでいるジョングクに思いを馳せた。
「殿下、、、私はチョン伯爵にお会いしたいです。」
「・・・・・うん、、、、」
デイビスは素直に口に出したが、誰もが心の中でそう思っている事であろうとテヒョンは思った。
ジョングクは勇敢でありながら、心優しく慈悲深い戦士だ。その心を鬼にして一番の元凶を身を挺して仕留め、戦争を終わらせた功労者だ。
尊敬すべき彼の事は必ず助けなければならない。テヒョンはそれが自身の使命だと信じていた。
出掛ける準備が整った事の知らせがくる。テヒョンは部屋を出る時に、
「デイビス、またホットココアを入れてくれ。ジョングクが帰って来た時も頼むぞ。」
と言った。
「はい。必ず。」
デイビスは深々とお辞儀をした。
さぁ、これからやるべき事が沢山ある。テヒョンの心に力がみなぎった。
どうなるのか等考えている暇はなかった。人の命に関わることだ。それも生涯をかけて守るべく伴侶の為に。
今回はお付きの者はオルブライトだけが同行する事になった。テヒョンと大公が馬車に乗り込み、最後にオルブライトが乗り込んだ。
「行ってらっしゃいませ。」
スミスが一人で見送る中、馬車はゆっくり動き出すと宮廷まで向かって行った。
街に出ると、ヨーロッパで続いていた戦争が終結したと、新聞で即時に報じられていて歓喜に沸いていた。その様子は馬車の中からでもよく分かった。
それと同時に、チョン伯爵の功績と共に負傷して重体に陥っている事も知らされた。
街のあらゆる所の教会では、チョン伯爵家の紋章旗が掲げられ、今回の戦争での功績を讃え、また、身体の回復への祈りを捧げる鐘の音が鳴り響いていた。
更に宮殿に到着すると、テヒョンは貴族達とすれ違う度に見舞いの言葉を受けた。
国王との面会はいつもの場所ではなく、人の往来が少ない宮殿内にある礼拝堂でということになった。
国王は侍従長と一緒に入ってきたが、侍従長は途中で立ち止まり国王は一人でテヒョン達の方へ歩いてきた。
「お忙しい所申し訳ありません。」
「いや、構わぬ。それより身体は大丈夫なのか?・・・随分と手荒な事をしたが許せ。」
「身体は大丈夫でございます、、、私の方こそ、昨日は取り乱しまして大変失礼致しました。」
テヒョンは深々と頭を下げて詫びると、早速話しを切り出した。
「陛下にお許しを頂きたい、大事な事がございます。」
テヒョンの真剣な声のトーンに、国王は真っ直ぐに見つめて表情を覗った。
「申してみよ。」
「はい。私がヴァンティーダとして覚醒する事について、許可を頂きとうございます。」
「ニュウマリー族の血とヴァンティーダ族の血を合わせ持つ者の覚醒は、まだ未知の領域である。ましてやお前は実母からの授乳を受けていない。母乳からの覚醒以外の検証が皆無である為、相当のリスクを伴う可能性があるが、、、後悔はせぬか?」
「はい。何の迷いもございません。」
「テヒョンよ、正直に申せ。一時の感情でどうにかなるような事案ではないし、万が一、取り返しがつかないことも起きるかもしれないのだぞ。」
テヒョンはにっこりと笑顔を見せた。
「ご心配頂き有り難く存じます。、、、しかしながら、ジョングクを救う為に万に一つでも可能性があるのでしたら、私はその可能性に賭けたい!
彼が命を懸けて戦いに挑んだのであれば、伴侶である私が命懸けで助けるのは、至極自然の成り行きではないでしょうか。」
その場にいた者が、このテヒョンの崇高な《正論》にぐうの音も出ない。恐れなど微塵も感じさせない物言いに、反論する言葉など無かった。
国王は大きなため息をつくと、笑い出した。
「叔父上、全く想定内過ぎて笑ってしまいましたよ。」
「本当に、、、どうしてこうも我々の周りは頑固者が多いのでしょうか。」
大公も笑っていた。不思議そうな顔をしたテヒョンに国王は種明かしをした。
「セオドラ卿が朝早く私の所に来て、お前が《必ずヴァンティーダに覚醒したいと願い出てくるであろうから、対応をお願いします。》こう申していったのだ。」
「セオドラ卿が、、、?」
「お前がしようとしていることは、ある意味神の領域だ。だが臆せずやり抜こうとするだろうと、皆分かっているのだ。だが、少しでも躊躇しているようであれば、私は絶対許可はしなかったであろう。」
「では、許されるのであれば、時は待ってはくれませんので、覚醒の方法をすぐに教えて下さいませ。」
国王が大公の方を見ると、二人は頷いた。
「テヒョン、お前は生みの母であるステファニア殿に会う必要がある。」
「生みの母、、、」
テヒョンは大公の方を見た。大公は息子に対して深く頷いた。国王は続けて説明をした。
「覚醒する為には実母である彼女の血液を《捧血》して貰わなければならない。しかし、赤子の時に血液から作られた母乳を貰って覚醒するのとは違い、直接血液を取り入れるやり方は身体に多大な負担がかかるだろうと言われている。」
「覚悟致します。」
「ただな、、、ステファニア殿が応じてくれるかどうかは分からぬぞ。お前をキム公爵家に託す時に《母》の立場もお前の育ての母に完全に託したそうだ。彼女は立場をわきまえる頑固な方だそうだからな。」
「陛下、私は何もかも何事もなく上手くいくなどと思ってはおりません。それでも前に進むしかありません。」
想定していた事とはいえ、テヒョンの凛とした言葉に国王は圧倒されていた。前夜のようにジョングクの状況を聞いて我を忘れ、取り乱した姿はどこにもない。
テヒョンは自分から生みの母であるステファニアに、面会の申し入れをすることに決めた。それも《大公子》として宮廷から正式に手続きを踏む形にしたのだ。
早速手配を進めた。
ヴァンティーダとして覚醒する事の許可を実質的に貰い、礼拝堂を出て行くテヒョンを国王は呼び止めた。
「テヒョン、教えてくれ。お前をそこまで突き動かすものは一体何だ?
それは愛ゆえなのか?」
国王からの問いに、笑顔できっぱりと言った。
「ジョングクゆえに、、、でございます。」
国王はその答えに、自分の問いが愚問だったと思いつつ全てを理解する。
テヒョンが実の母に送った面会の申し入れに対する返事が二日後に届いた。
ステファニアは面会を受諾した。
「ステファニア殿が会って下さるぞ。」
「ようございましたな。・・・いつかテヒョン様は実の御母上にお会いになる事があるかもしれないと、なんとなく思ってはおりましたが、遂にその日がやって来たのでございますね、、、」
スミスは努めて明るく言ったのだが、感慨深げだった。これがただ単に感動的な親子の対面であれば、喜ばしい事として受け止められたのだろうに、、、
『慌てるな、焦るな、、、』
テヒョンは母からの面会を受け入れる知らせに気持ちが馳せながら、ジョングクの身に突き付けられているタイムリミットを考えていた。
事を急いだ所で、自分がしようとしていることが万事上手くいく確証も保証もない。
実の母に会ったとしても、テヒョンの希望通りに覚醒を承諾してもらえるのかどうかさえ分からない。
『あの方なら、どうしたのだろう・・・』
テヒョンはヘリオスの間の亡き父の肖像画の前にいた。
『ベリスフォードの父上、、、今の私にどうか力をお貸し下さい!』
絵の中の父親を見上げ、そう心の中で話し掛けた。胸の内ポケットから大切にしまってあった実の父からの手紙を取り出すと、もう一度読み返す。
そして、あの一文に再会する。《一番大事な事を伝えよう》と前置きがされた尊いメッセージだ。
君はどんな立場であっても、自分の意思で活きていって欲しい。
君が信じられる活き方を選んでいけば間違いはない。
君の人生は君だけのものだ。誰も代わりには活きることは出来ないのだから。
初めて読んだ時は、文面と筆跡に圧倒的な父親の愛情を感じ震えたが、今は導かれ、背中をグッと押された気がして、胸の中心が熱くなるのを感じた。
『ありがとうございます。父上、、、』
【母との対面】
まだ陽が明けていないある日の早朝、マントを被った大公とテヒョンは、オルブライトを付き添いに、国王がキム公爵家に遣わした宮廷の馬車に乗ると、暗い街中を走り出した。
人目を避けるようにして出掛けたのは、テヒョンの生みの母であるステファニアに面会に行く為だ。
馬車は日頃あまり通らない道を行く。
この方向にあるのは、国王が直接管理している特別区の地域で、国の機密事項に関わる事業所があり、更にそこに従事する者達の居住地になっていた。
また、重要機密扱いになっている人達が身の安全を守る為にこの地域内に居住していた。
ステファニアはテヒョン出産後、伯爵夫人の称号を与えられており、ベリスフォード王太子が亡くなった後はこの地域に住まいを与えられ、引き続き伯爵夫人として生活をしていた。
彼女はこの地域内であれば、自由に外出が出来たし、ヴァンティーダであれば再婚も許されていた。しかし、ベリスフォード王太子に一生を捧げる誓いを立てて独身を貫いていた。
テヒョン達を乗せた馬車がこの特別区に入った頃、ようやく朝陽が昇り始めた。まだ静かな道に、馬の蹄と車輪の音だけが響く。
暫く走り続けて行くと、ある館の門前で止まった。門番が鉄の門を開けて馬車が通される。
丁寧に整えられた木々を越えると、館の玄関が見えた。執事らしき人影と女中二人が立って待っていた。
馬車がその前で止まると、大公が先に降りて執事と挨拶を交わした。久しぶりの再会らしく、執事が感激しているようだった。
続いてテヒョンが降りた。
「朝早くに失礼します。」
「ようこそおいで下さいました、大公子殿下。」
執事はテヒョンと握手をしながらもう既に涙目になっているようだ。
「では、主人のステファニア様の所へご案内致します。」
大公とテヒョンは館の中へ案内されると、執事の後に付いて奥の方へ進んで行った。階段を上がりまた暫く歩いていくと、扉が大きく開放され、明るく灯りが廊下に漏れている部屋の前まで来た。
執事が扉の中に一歩入ると、中にいる人へ向かい声を掛けた。
「ステファニア様、大公殿下、大公子殿下がお見えになりました。」
「はい、分かりました。」
中から美しく優しい声が漏れ聞こえた。
執事がもう一度廊下に出ると『どうぞお入り下さいませ。』と、テヒョン達を案内した。
大公が先に入り、テヒョンがそれに続いた。オルブライトは扉の所に待機した。
部屋には立居振舞もスラッと美しい婦人が立っていた。
「ステファニア殿久しぶりですな。」
「大公殿下、再びお会い出来て光栄でございます。」
その女性は静かにカーテシーでお辞儀をした。
「さぁ、これが私の息子ですよ。」
テヒョンは前に出ると、初めて自分を産んでくれた人と対面した。
「キム・テヒョンです。」
「よくおいで下さいました。・・・殿下はとてもご立派になられました。」
遥か昔に自分の元から離れた赤子の息子が、今、青年となって目の前に立っているのが信じられなかった。
「・・・母上、、とお呼びしても?」
「いいえ、畏れ多いことでございます。貴方様の御母上は、大公妃ローレン様でございます。」
ステファニアはテヒョンの口から《母上》という言葉を聞いて、一瞬母親の顔をのぞかせた。しかし、手離した子どもであると自分を律した。
「ステファニア殿、テヒョンから貴女にお願いがあるそうなのだ。話を聞いてやってくれるか?」
大公が切り出した。
「分かりました。」
「ではまた後ほど。」
大公はテヒョンの肩を叩くと部屋を出て行った。
「それでは大公子殿下とお話致します、、、」
ステファニアがそう言うと、執事も部屋を出て行った。
テヒョンとステファニアは二人だけになった。しかし、実の親子とはいえお互いどう接したらいいか分からず沈黙が続いた。
「どうぞ殿下、お掛けになって下さい。」
これ以上テヒョンに気を使わせるわけにはいかないので、ステファニアの方から話し掛けた。そして予め用意されていた紅茶の支度をする。テヒョンはずっとその様子を見ていた。
「そういえば、殿下は私の甥のジョングクとご婚約をされたのでしたね。おめでとうございます。」
「・・・その彼が、今重体で苦しんでおります、、、」
ステファニアは手を止めた。
「私が今日ここに参りましたのは、あなたにお助け頂きたいからです。」
「殿下・・・」
テヒョンは立ち上がり、
「お願いでございます!《棒血》を私にして下さいませ。」
と、頭を下げた。
ステファニアは止めていた手を再び動かし、紅茶を注いだ。
「さぁ、頭を上げて下さい、、、貴方様は大公子でいらっしゃいますよ。」
ティーカップを『どうぞ』とテヒョンの前のテーブルの上に置くと話を続けた。
「棒血をするということは、貴方様がヴァンティーダとして覚醒するということになります。」
「そうです。それで私の血液をジョングクに取り込んで耐性を造れば、彼の体内にある毒を解毒出来るかもしれません。」
ステファニアは暗い表情になった。
「しかし、、、貴方様は棒血で苦しまれるリスクがあります。・・・それに、覚醒したとしても、その血液でジョングクの身体から毒を排除出来るという確証もありません。」
テヒョンは想定していたこととはいえ、やはり面と向かって否定されると心にこたえた。
「国王陛下や大公殿下がお許しになったとしても、、、私は反対でございます。」
「なぜです?私は全て覚悟の上です。」
「殿下、、お願いでございます。お考え直しを、、、ヴァンティーダであれば、自身で解毒は出来ます。」
「いいえ、今回の毒はトリカブトのような今までのものとは違う、複数の化合物で出来たものだと聞いています。」
テヒョンとステファニアは見合ったまま言葉を止めた。そして、彼女は尚も反対した。
「王族でいらっしゃる貴方様でなくても他のヴァンティーダが対応致します。」
テヒョンは涙を流した。
「ニュウマリーとヴァンティーダ、両方の血を持つ私でないと駄目なのです。ましてや、ジョングクは私の伴侶です。私にしか彼を救うことは出来ません。」
「しかし、そのような無謀な事をなさって貴方様に万が一の事があれば、慈しみお育てになった大公殿下が苦しまれます。」
「もう沢山だ!!」
テヒョンが急に怒り出したので、ステファニアは驚いた。
「あなたは、、、、、私が苦しまなかったとお思いですか?・・・この際だから全て言わせて頂きます。」
二人の空気に緊張感が走る。
「ベリスフォード王太子とあなたは、愛を貫き通したではありませんか。それも、お二人はニュウマリーとヴァンティーダで、あなた方の方がどれだけ無謀な事をなさったのか、、、」
ステファニアはテヒョンの言葉に打ちひしがれる。
「生みの母から引き離され、育ての母を早くに亡くし、、、何も知らない私はただ現実の寂しさから逃れる為に、子どもらしい我儘も甘えたい気持ちも封印してきた、、、それが、大人になって生い立ちを知り、、それはもう衝撃でした。
だけど、私のそばにはジョングクがいてくれた。彼のおかげで、彼の愛で私は何者であってもいいのだと教えられた、、、そんな彼を助けられないのだとしたら、、私の存在も無意味です!」
ステファニアは思わずテヒョンを抱きしめた。
「ごめんなさい、、、ごめんなさい、、あなたには、無事に人生を生き抜いて欲しくて、、それだけが、、、あの方と私の願い、、、」
「・・・ズルいではないですか、、自分達の思いばかり。それでもベリスフォードの父上は、こう仰って下さった。
《君はどんな立場であっても、自分の意思で活きていって欲しい。
君が信じられる活き方を選んでいけば間違いはない。
君の人生は君だけのものだ。誰も代わりには活きることは出来ないのだから。》」
「ベリスフォード様・・・」
ステファニアは改めてテヒョンの顔を見た。自分が愛した人の面影を持った息子が、目の前でしっかりと自身の思いを語っている。その姿は命を懸けてまで愛を貫こうと言ってくれた、ベリスフォード王太子となんとそっくりな事か、、、
在りし日の若い二人が種族の掟を越えて、その絆を守ろうと奮闘した日々が蘇る。
「あの方はあなたに父としての教えを授けていたのですね、、、それでは、今度は私が母としての責任を取る番が来たということになりますね、、、」
「母上、、、」
「はい、私はあなたの母ですよ。私から離れても、、、ずっと可愛い私の一人息子、、だって、、私が愛した方との愛の証ですもの、、、一度も忘れたことなんてありません、、」
ステファニアは涙を流し、『テヒョン、テヒョン、、』と名前を呼びながら目の前の息子の涙を両手で拭うと、もう一度抱きしめた。二度とこの腕の中で抱きしめることは叶わないと思っていた愛する息子だ。それが、今こうして腕の中に抱きしめているという事実に更に涙がこみ上げた。テヒョンは母の胸に抱かれ、その温かさを知る。しばらく二人の親子はお互いを抱きしめ合っていた。
テヒョン自身は気持ちが落ち着いていくのを感じ、母に甘える感覚とはこういうものなのかと、思いを巡らせていた。
テヒョンの耳に子守唄が聞こえてきた。ステファニアは息子を抱いたまま、かすかに揺れながら子守唄を歌っていたのだ。
その声色はなんとも心地よくテヒョンの心に染み込んだ。きっとまだ王太子夫妻の子として一緒に過ごした頃に、歌ってもらった子守唄なのだろうと想像した。
「・・・母上、酷いことを申し上げてすみませんでした、、、」
母の胸の中でテヒョンは言いたいことを言い放った事を謝った。ステファニアは息子の額に口づけて、
「反抗期の息子を持つ母親の気分が味わえました。」
と言って笑った。
「ですが、そのおかげで大切な事を思い出しました。・・・感謝致します。そして、母として申し訳ない事をしたと謝ります。」
「いえ、謝るなどしないで下さい。私は決して可哀想な子どもではありませんでした。なにせ、親が4人もいるのですよ。出生の事実を知る前も知った後でも、子の立場として色々葛藤はありましたが、私は沢山の愛情を貰いました。そして、私の人生は唯一無二、誰も経験したことがないものです。今はこの自分を誇りに思っています。」
ステファニア自身もそんな息子が誇らしかった。
部屋の扉が開けられると大公と執事が入ってきた。
「大公殿下、テヒョン様に《棒血》をすることとなりました。貴方様のお子様がヴァンティーダとして生まれ変わる事になります、、、」
ステファニアは大公に覚悟はよいのか目で訊いた。
「私は息子の選択に従う覚悟は出来ていますよ。」
ステファニアは大公を抱きしめた。
「素晴らしい青年にお育て頂けて、感謝申し上げます。」
「ええ、私の自慢の息子ですからね。」
最後に二人の親は手を取り合って笑った。
ステファニアからテヒョンへの《棒血》は、時間の猶予が無いながらもテヒョンの身の安全を考え、この日の夜から2日間に渡って行われることになった。
ヴァンティーダの医師が注射器を用いて、血液を注入することになるのだが、後からテヒョンの主治医であるロバート・ウォルシュ医師も付き添うためにやって来た。
「ではテヒョン、公爵家で待っているぞ。」
大公が帰ることになった。
「父上、何から何まで私を信じて下さりありがとうございます。」
テヒョンは大公を抱きしめた。大公も力強くしっかりと抱きしめ返した。
大公とオルブライトは、ステファニアの館を出ると、国王にこの件の報告をしに馬車を宮廷に向けて走らせた。
「テヒョンはステファニア殿と親子の話が出来たようだな。」
車窓を眺めながら大公が言った。
「そうですか?」
「二人とも目が赤かった、、、それに、殿下と呼んでいたステファニア殿が、最後テヒョン様と名前を呼んでいただろう。」
「よくお気付きになられましたね。」
「ステファニア殿については、私の長年の気がかりであったのだ。」
テヒョンの出生については、国の最重要機密事項だった為、王太子が存命の内は夫婦で養育が出来たのだが、亡くなった後は国の管理下に置かれる事になった。しかし、大公夫妻がテヒョンを引き取る事で管理下に置かれることはなかった。
「テヒョンを守る為に国が決めた事とはいえ、母親ならば我が子をそばに置いておきたいという思いは、決して消えることはあるまい。それが自然なことだ。
ジョセフを亡くした後のローレンを見ていてよく分かっていた、、、」
「フィリップ様、、、」
「テヒョンを我が家に迎えた時から、いずれ何もかもあの子が知った時、生みの母に会いたいと希望をすればそれは叶えてやるべきだと思っていた。・・・だがな、、このような形ではなく自然な形であったらと思う、、、」
大公は泣いていた。
オルブライトはただ黙って大公を見守った。
「テヒョンには、、、試練が多すぎる、、、なぜもっと簡単に幸せを享受出来ないのか、、、一番幸せになっていいはずなのだ、、」
「テヒョン様は、妥協せずにご自身に正直に生きておられます。それは時として難問が立ちはだかる事もございましょう。それでもあの方は乗り越えられるのです。、、、きっとその先にあるものを信じていらっしゃるのでしょうなぁ、、、それが本当の幸せだとご存知なのかもしれません。」
「・・・本当の幸せか、、、」
「テヒョン様は、やはり神の子でいらっしゃるのですよ、、、」
誰もが幸せを願う者が、一番試練を抱える事になる、、、《神の領域》に引きずり込まれるのだ。
「フィリップ様、貴方様こそもうそろそろ幸せを享受なさって下さいませ。テヒョン様を見守られながらご一緒に耐えて来られたのですから。ローレン様やジョセフ様も夫であり父である貴方様の幸せを天から願っていらっしゃるはずです。」
大公は目を閉じて馬車の窓枠にもたれた。
《棒血》の準備が進められた。
今夜ステファニアから採血された血液をテヒョンの体内に注血し、明日朝に同じように採血をし注血する。それを2日に分けて行われる。
ステファニアの希望で、それらの処置はステファニア本人の私室で行われる事になった。
テヒョン用のベッドが彼女の部屋に運ばれ、必要とされる医療器具も運ばれた。
「テヒョン様、ずっとおそばにおりますから。何があっても必ず私がお助け致します。」
「母上、、心強うございます。」
最初の採血が行われた。
テヒョンは既に準備をして、採血をしているステファニアの隣でベッドに横たわっており、その血液は直ぐに注血された。
採血の後処理を終えたステファニアが、息子のベッドに付いて、手を握りながら様子をうかがった。
しばらくすると、テヒョンの体温が上がりかなりの高熱になった。更には呼吸が荒くなったので、医師がすかさず診察をした。
『ベリスフォード様、私達のテヒョンをお守り下さい、、、』ステファニアはテヒョンの手を握り締めながら、亡き夫の御霊に祈った。
「今、殿下の体内ではステファニア様の血液を受け入れる為に過敏に反応している状態でございます。一般の人間では好転反応と呼ばれるものに似ております。うまくいきましたならば、症状は落ち着いてまいりますが、稀に拒絶反応が出ることがありますので、まだ注意が必要でございます。」
ステファニアはテヒョンの主治医と共に、ずっとテヒョンに付き添っていた。
「奥様、お食事を召し上がって下さいませ。奥様の体力が持たなければ棒血が続きません。」
ステファニアが部屋に用意された食事に手を付けていないのを見て、心配した女中が声を掛けた。
「ありがとう、、、だけどテヒョン様も何も召し上がれないのに、私だけ頂くなんて出来ないわ。」
「ではせめてスープだけでも召し上がって頂けませんか?」
「ステファニア様、お食事の間は私がしっかり看ておりますから、どうぞ召し上がって下さい。大丈夫でございますよ。私は殿下がご幼少の頃から診ておりますから。触発反応の時もしっかり乗り越えられましたよ。」
ロバート医師も食事を摂るように勧めた。
ステファニアは言う事に従って、スープだけは貰うことにした。
明け方になるとテヒョンの熱は徐々に下がり、呼吸も落ち着いてきた。
しかし、次の朝の注血の後には同じようにまた熱が上がった。相当辛いらしくうんうんと唸っている時もある。その度にステファニアが背中を擦ってやっていた。
「テヒョン様、他にお苦しい所はございませんか?」
母の問いに額に汗を滲ませながら応える。
「・・・父も、、ベリスフォード王太子殿下も、、、苦しみに耐えたと、、聞きました、、、私も負けられません、、、」
「まぁ、、、なんということを、、、競るものではございませんのに、、、」
父が耐えたものならば自分も愛する者の為に耐えようぞ、としている姿にステファニアは血は争えないと思いつつも、息子がいじらしくとても可愛いと思った。
その頃キム公爵家では、大公もオルブライトもスミスも落ち着かない様子で、テヒョンの棒血が無事に終わるのを待っていた。
「やはり私がおそばに付き添った方が宜しかったのではないでしょうか。」
スミスが居ても立ってもいられないというように大公に訴えた。
「大丈夫だ。向こうにはテヒョンの主治医も行っている、、、、何よりもステファニア殿には母としてテヒョンの世話をさせてやりたかったし、テヒョンには母の温もりというものを感じさせてやりたいと思った。今回は良い機会だったのだ。」
「ああ、、、確かに、そうでございますね、、、」
スミスが納得する。
「ステファニア殿の屋敷から帰る途中、オルブライトに同じような話をしたのだが、、、例えどんな理由があるにせよ《親子の縁》を取り上げるような事は自然の理に逆らうものだ。テヒョンを息子として迎えてから、ずっと何やら後ろめたいような違和感を心のどこかで感じていたのは、そういう事だったのだと、テヒョンに出生の事実を伝えてから気付き始めた、、、これ以上気付くのが遅くならなくてよかった。」
「フィリップ様は、正真正銘テヒョン様のお父上でいらっしゃる。今のお話を伺いましてそう感じました。」
オルブライトが実感を込めて言った。
「はい、何者もこの事実は変えられません。」
スミスも同意して言った。
生みの親の気持ちを理解し、子どもに対しても生みの親の愛情を感じさせようとする行いは、大公とテヒョンの間に強い親子の結びつきがあるからこそ出来る事だと、オルブライトもスミスも実感した。
昼を迎える頃、テヒョンの調子もまた戻ってきた。
「テヒョン様、たまごスープをご用意致しました。」
ステファニアはテヒョンが起き上がろうとするのを手伝った。しかしまだフラフラとする様子を見て、スプーンでスープをすくうと、少し冷ましそれをテヒョンの口元へ運んだ。
「はい、どうぞ召し上がれ。」
テヒョンはステファニアの顔を見ながらスープを飲ませてもらった。そしてゆっくり飲み込むと、ふっと笑みが漏れる。
「・・・大人になって、、、こうして、食べさせて貰ったのは、、、ジョングク以来ですよ、、、」
「あら、そうですの?」
「私が落馬して、、、身体が動かせなかった事が、、、ありましたから、、、」
「ああ、、そのような事がございましたね、、知らせを聞いた時は心臓が止まる思いでございました、、、そうでございましたか、、、ジョングクがお世話をさせて頂いたのですね、、」
「落馬の事はご存知だったのですか、、、?」
「勿論でございます。そればかりではございません。貴方様の節目節目のお祝い事や、公爵として事業をなさっている時のニュース等は、新聞を切り抜いてずっと取ってありますよ。」
ステファニアはそう言うと立ち上がり、直ぐ目に付く所に置いているノートを持ってきた。
革製のカバーがかかったそのノートの中を開くと、テヒョンに関する記事ばかりが所狭しと貼ってあった。
テヒョンが幼少の頃から10代、成人と王室からの情報や公式行事の記事など、様々な内容の記事が貼ってある。
既に古く色褪せたものもあった。
彼女にとってはこのテヒョンの記事を1枚1枚貼っていく事が、息子の成長記録のようなものだった。
テヒョンはこのように生みの母の密かな、それでいて愛情深い想いに癒された。例え大人になっていたとしても、それはいつでも受け取る事が出来ることを知った。
つづく______