暑中お見舞申し上げます
皆さん今
絶対しあわせですよね☺️💖
もうWラよりもインスタライヴがよね👍😍✨
車内でグテの二人が穏やかな様子だったのが、なんだか嬉しかったな
心から癒されてる気がしてね☺️
ご本人達がそんな幸せな中
物語は深刻な状況が続きます
前の記事で予告した通り今回は
🚨⚠️要注意⚠️🚨事項があります
残忍なシーンを表現した箇所があります
苦手な方はご注意下さい
前回の物語
物語の続きが始まります✨✨✨
【ナンシー】
ジョングクが今目の前にしている女性は、なんとかつてのテヒョンの初恋の相手《ナンシー》だった。
まさかこんな所で巡り合わせになるなど思いもよらないことだ。
ジョングクは人手が足りていない救護所の、新たなベッドの設置を一緒に来た兵士達と手伝った。
「お忙しいのにお手伝いまでして頂いて申し訳ありません。私達の連合軍の部隊は、治安維持と捕虜の対応に追われておりますし、医師や看護師も分かれて対応しておりまして、どうしても人手が足りなかったのでとても助かります。」
ナンシーが恐縮していた。
「いや、少しばかりの手伝いでかえって申し訳ない。」
「いいえ、とんでもございません。」
彼女は手際よく仮説ベッドを組み上げていくジョングクを手伝いながら、テヒョンの想い人としての彼の姿を見ていた。
「テヒョン様、、、いえ、大公子殿下はきっとお元気でいらっしゃるのでしょうね。」
「ええ。」
彼女に振り向きながら応え、言葉を続けた。
「とてもお元気でいらっしゃいますよ。」
『テヒョン様』と最初に言いながら、きちんとわきまえて言い直したのを聞いて、当時の二人がとても親しかったのが分かる。今は自分がテヒョンの婚約者となっているのだから、変な嫉妬心のようなものは感じられないが、無理矢理引き離され何も言わずにいなくなってしまった事をどう感じていたのかは気になった。
「そういえば、テヒョン様は暖炉の火起こしを上手になさいますが、それはあなたに教わったのだと仰っていましたよ。」
「まぁ、そのようなお話をなさったのですか?」
ナンシーは懐かしそうに笑いながら言った。
「あなたのお仕事を見ているのがお好きだったようです。」
「高貴な御方にしては私どもがする事にご興味を持たれるので、失礼ながら初めは変わった御方だなと思いました。」
「あ、それは私にも分かります。」
思わず二人で笑いが出る。
「でもどんな些細な仕事でもきちんとご理解を下さって、私は誇りを持って毎日勤められましたし、公爵家でのお仕事は楽しい思い出ばかりです。」
身分や職種に優劣をつけないのはテヒョンらしいとジョングクは思った。そこが彼の人を惹きつける魅力でもある。
「殿下といえば、サンダルウッドの香りを思い出します。」
「はい、テヒョン様がお好きな香りだ。」
「あの御方はいつもサンダルウッドの良い香りが致しました。」
そう言って当時の思い出に入り込むナンシーの横顔を見た。
室内の芳香の移り香は、かなり近付かなければその香りは分かりづらい。彼女の今の言葉で、二人が触れられるほどの距離にいたことがうかがえる。
だとするとナンシーもテヒョンに恋をしていたかもしれないと思えた。
ジョングクは切り込んで訊いてみる。
「テヒョン様は急にあなた方がいなくなって、、、かなり混乱したようですよ。」
「・・・ええ、、、」
そう言ってナンシーは少しの間黙っていた。
そして思い起こしたようにジョングクの顔を見る。
「殿下がどう思われていたのかは存じませんが、、、あの、婚約者でいらっしゃる大佐にこんな事を申し上げていいのかしら、、、私にとって殿下は初恋でした。」
『やはり、、、』ジョングクは腑に落ちた感じがした。
「でも、殿下と私とではそもそも身分が違い過ぎます。私は私の仕事を通して、ご一緒に楽しく毎日を過ごしているだけで良かったのです、、でも私の母はそうは思わなかったようで、、、」
あとはテヒョン自ら話をしていた通りなのだろう。
「しかし、、今は結婚もされて幸せなのですね。」
「はい。あの後母の親類を頼ってドイツへ渡り、私は今の夫の屋敷で女中をしておりました。
そこで彼が私の仕事の手際を褒めてくれて、看護師になる事を勧めてくれたのです。」
「あなたの伴侶もあなたをよく見てくれていたわけですね。」
「はい。彼が医者だったこともあります。勉強も一緒に見てくれて、試験が通った後も無我夢中で彼の仕事を手伝いました。・・・それで、プロポーズを、、あ!なんだか余計なことまで話してしまいました、すみません、、」
ナンシーは恥ずかしそうに顔を赤らめた。
「いいえ、構いませんよ。」
「初めてお会いした方にペラペラと、失礼致しました。・・なんだかチョン大佐が殿下に似ていらっしゃるもので、つい、、」
「似て、、、いますか?」
「ええ。よく似ていらっしゃいます。」
どんな所が似ているのか、ジョングクは詳しく訊いてみようとしたがやめておいた。
「しかし、従軍して戦場にいるなんて勇気がいることですよね。」
「危険な戦場に夫を一人で行かせることが出来なかったのですわ。渋る彼に私達には人の命を救うという共通の使命があると説き伏せました。」
ふふっと彼女は笑っていたが、真剣な目でそう語る表情に、テヒョンの顔が重なってハッとした。
『離れたくない!離したくない!僕も一緒に連れて行け!君がこの先背負う業を背負わせてくれ、、、!』___
ジョングクにしがみつきながら泣いて本音をぶつけてきたテヒョンを思い出した。
テヒョンは《一緒に背負いたい》と言ってくれた。しかし、軍事訓練を受けていない王族を連れて行くわけにはいかない。いや、王族だけではない。素人に大砲を撃たせたり、ライフルを撃たせたり無謀な事はさせてはならないのだ。
(それを平気でさせているD帝国と元凶のアルテミエフにジョングクは怒りを感じていた。)
ジョングクにとっては、テヒョンの想いが込められた言葉だけで有り難かった。
「私が出征すると決まった時、テヒョン様は自分も一緒に連れて行けと仰っていました。」
「そうですか、、、あの御方らしいですわ。・・・チョン大佐、大公子殿下にとても愛されていらっしゃるのですね。」
「そう思いますか?」
「はい勿論ですわ。お二人が御結婚を先に延ばされたと伺った時も、王族であるから大事が起こっている時に祝い事は出来ないと、お辞めになったのでしょうが、それだけでは無理がございますもの。
強い絆で結ばれているからこそ出来るのだと思います。だからこそ一緒に連れて行けと仰ったのでしょうね、、、」
ナンシーの説得力を含んだ優しい言い方に、ジョングクはあのフランシスを思い出した。
「そのように思って頂けているのは嬉しい事です。あなたもテヒョン様に似ている。」
「え?」
「あなたは伴侶の方を一人で行かせないと言った。また共通の使命があるとも言った。《運命を二人で》という所はテヒョン様も同じなのですよ。」
ナンシーはゆっくり頷いて聞いていた。
「それと、あなたによく似た人がもう一人、テヒョン様と私の共通の友人の中におります。」
「あら、、、」
「彼女も人の為に尽力する勇敢で美しい女性です。」
「まぁ、、そのような方に似ているなんてとても光栄ですわ。」
ジョングクは素直に受け止める姿を見て本当に似ているな、と思った。
「おっと、だいぶ時間が経ってしまいました。トーマス!そっちは大丈夫か?」
「はい!終わりました。」
トーマスが兵士達を連れてジョングクの所にやってきた。
「ではナンシー、私達はそろそろ戻ります。」
「大事なお時間をお借り致しました。本当にありがとうございます。少々お待ち下さいませ。・・・先生!」
ナンシーは医師である夫を呼んだ。
「連合軍の方々が仮設ベッドの準備を手伝って下さいました。」
「これは恐れ入ります。負傷者の搬送と設備にまでお手をお借りして助かりました。誠にありがとうございます。」
医師は深々と頭を下げた。
「お役に立てて何よりです。何かあれば少しの間だけですか、私達は銀行跡の建物におりますので。、、、では戻ろう。」
「はい。」
ナンシー達は暫くジョングク達を見送っていた。
「大佐、あの看護師の班長と何を話していたのですか?」
「ああ、、、彼女は昔、母親と共にキム公爵家で働いていたそうなのだ。それで思い出話を聞かせてもらっていた。」
「ええ!?そんな偶然があるのですか?それもテヒョン様ではなく婚約者のジョングク様と巡り合わせになるなんて、、、」
トーマスは只々驚いていた。
「そうだろう?私もびっくりしたぞ。しかし不思議な出会いだった。人生何があるか分からないものだ。」
部隊の設営場所に戻る途中、ジョングクは今日あったことをテヒョンに話そうかと考えた。しかし、手紙ではなく無事に帰国した時でもよいだろうと思った。
またナンシーという女性は、はつらつとしたたおやかな人だなと思い、テヒョンが彼女に惹かれたのも分かる気がした。いや、テヒョンだけではなく、誰からも好感を持たれる人柄だろう。
自分の大切な人の初恋の相手が、幸せに人生を送っているということも喜ばしいと思えた。
「ナンシー、ちょっと来てくれるか!」
「はい、只今。」
医師が昼間ジョングク達が搬送した妊婦の診察を行っていて、慌てて班長のナンシーを呼んだ。
「どうしたの?」
「大腿骨を見てご覧。」
「・・・あら?あれだけ腫れていた患部が、、、」
「そうだろう?君もあの時見ただろう?触診で骨折の変異も診たのだぞ。本来であれば今頃は腫れのピークになっている筈なんだ。」
二人の会話に妊婦の女性は不安げな表情をした。
「あ、ごめんなさい。脅かせてしまって。あのね、あなたのこの脚なんだけど、今の痛みはどうなのかしら?」
「あの、、、痛みはそれほど感じません。」
医師が聴診器で心音を聞き、触診で高熱の有無を調べた。
「発熱はないようだね。吐き気はあるかい?」
妊婦は首を振って答えた。
「助け出された後は、感覚もなくて分からなかったのですが、腫れが出た時に痛みを感じ始めて、、、でも、こちらに搬送して頂いて数時間後からは、逆に和らいできました。」
ナンシーと医師は顔を見合わせて首を傾げた。負傷した後の一連の身体の反応とは相反する症状に、何とも不可解な思いが隠しきれなかった。
「魔法としか思えん。」
「あら先生、医師が魔法だなんて言ってはいけませんわ。」
「確かにな、、、」
二人は思わず笑った。
「あなたの症状が悪くなっているわけではないから心配しないでね。ただ、あり得ない速さで治癒しているものだから驚いているの。」
妊婦はそう聞いて安心したようだ。
夕暮れも暗さが増していく頃、ナンシーがドイツの連合軍と共にジョングク達が設営する銀行にやって来た。
食料や飲料水と共に医薬品、医療品の補給に来てくれたのだ。
ジョングクとアンジェロとトーマスは、ドイツの連隊長から現状報告も併せて受けた。
「ナンシーが彼等を案内してくれたのだな、ありがとう。」
ジョングクは礼を言った。
「いいえ、こちらもお渡しする物がありましたので。・・・あ、それから、、」
ナンシーが何か思い出したように言う。
「ん?どうかしたか?」
「助けて頂いた、あの妊婦の女性なんですけれど、、、大腿骨の骨折の症状が見られたのに、嘘のように腫れが引いてしまいましたの。」
「ほう、、、」
「夫も私も未だに信じられないのですが、現実に目の前で起こっていることなので、、、医療従事者が言う言葉ではありませんが、魔法が掛かったとしか思えなくて、、、」
「案外本当に魔法が掛かったのかもしれませんよ。」
ジョングクが冗談めかして言った。
「まあ!」
ナンシーはケラケラと笑った。
「でも悪くなっていくわけではないので良かったですわ。」
「そうですね。引き続きお大事にと伝えてやって下さい。」
ジョングクはそう応えた。
一通り補給品の受け渡しが終わると、彼女はドイツの連合軍と共に帰って行った。
「おい、ジョン。今の話聞いたぞ。お前、、マージリングを使っただろ。」
ジョングクは何も答えず笑みを浮かべた。
「《捧血》を受けて来ているとはいえ温存しておかなければ、この先必要な時に使えなくなるぞ。」
「命を授かった妊婦を殺伐とした戦場の中から助ける為ですよ。」
「その優しさだ・・・お前や俺の父親達が心配していたお前の一番危うい所だぞ。」
「アンジェ兄さんも心配性ですね。」
意に介せずといったような返事に、アンジェロは黙ったままジョングクの顔をじっと見据えた。
慌ただしかった救護所も、患者が就寝し始めたのでだいぶ静かになった。
この救護所の医師は、ナンシーの夫の他にもう一人いて交替で対応していた。看護師も班長の他8人いて、昼勤務と夜間勤務を交替で行っていた。
夕食を終えた後、ナンシーと夫の医師は、交替前に今現在収容されている患者の情報整理をしていた。
「珈琲が入りましたわ。」
「うん、ありがとう。・・・ところでナンシー、昼間来た英国の連合軍の大佐は君の知り合いなのか?」
「チョン大佐ですか?いいえ、お会いしたのは今日が初めてですわ。
ほらチョン・ジョングクと聞いてお分かりになりません?英国の大公子殿下の婚約者でいらっしゃる伯爵ですわ。」
「英国の大公子?、、、ということは、君は初恋の殿下のご伴侶とお会いしたことになるのか。」
「・・・ええ。面白い巡り合わせで驚きました、、、」
二人は珈琲を飲みながら黙り込む。医師が徐ろに切り出した。
「懐かしいな、、、君がうちに女中として来た時、夜中に泣き出すから眠れないと他の女中から苦情が来た事を思い出したよ、、、」
「あら、やめて下さいませ。あの頃はまだ私も子どもでしたわ。」
「そんな子どもの君が泣いている理由が、初恋の人と引き離されたからだと知って驚いたがな。」
もう!というように彼女は医師の腕を叩いた。
「・・・お別れの言葉も伝えられずお屋敷を出たのですもの、、心残りで辛かったのよ。」
「本気で恋をして、また本気で失恋までして傷付いている君はいじらしかったよ、、、」
在りし日の妻の姿を懐かしむように話す。
「まあ!からかわないで下さいな。」
「いや、褒めているんだよ。例え夜は泣いていたとしても、昼間はしっかり仕事をしていただろう?要領もよく丁寧だったしね。だから僕は君に看護師の道を勧めたのだ。」
「まさか私が看護師になれるなんて思ってもいなかったけれど、あなたには感謝しかないわ。」
「その前に、、、身分に関係なく文字の読み書きを君に教えて下さった、大公子殿下のおかげだろう?」
「本当に、、、私はとても恵まれていたのだと今なら心から思えるわ。殿下とあなたに救われたのですから。」
「そういう事が言える君は、ちゃんと自分の力で乗り越えたのだ。」
医師は妻の手を握りしめる。そしてナンシーは夫の肩にもたれかけた。
少女の頃、母親に強制的にテヒョンから引き離された時は、かなり苦しんだのだ。それを誰にも打ち明けることが出来ず、唯一打ち明けられたのは今の夫だけだった。
彼女は精神面での成長と共に乗り越え、幸せも掴むことが出来た。
そして、思いがけずテヒョンの今の想い人であるジョングクと出会って、彼女の初恋は昇華された。
【残忍さとジョングクの怒り】
銀行跡の建物にジョングク達特殊部隊と連合軍の拠点として設営をして1週間が経った。
そこに最後の波動を終えて、皇帝に掛かっていたアルテミエフからの洗脳が完全に解けた事を確認した偵察隊がやって来た。
「チョン大佐、ご指示の通り我々は皇帝宛にアルテミエフの身柄拘束と引き渡しを求め、皇帝自らも出頭するよう、D帝国軍陸軍元帥を通じて通達して参りました。
尚、こちらの要求が全て満たされない場合、全連合軍包囲で以てアルテミエフと皇帝を含む《即時処刑》が執り行われる可能性も示唆し警告致しております。」
「ご苦労だった。回答に要する猶予は24時間としたが、相手側からの回答は?」
「はい、まだありません。」
「万が一の時の全連合軍包囲体制について、それぞれの連合軍への召集はどうなっておる?」
「鎮圧に成功した各地から、D帝国首都に向かっており、間もなく到着の頃だと報告が来ております。」
「この度は、D帝国軍が立て続けに降戦したという情報を我々が各地で触れ回った為、援軍を得られなくなったと悟った同国の軍隊が、もろくも次々に体勢を崩しました。そこで追撃を掛けて降伏させました。」
「なるほど、、、ことの真偽はわからぬとも、色んな情報が錯綜していただろうから、パニックになっていたのだろうな。」
「はい。全ての武器を没収した後、捕虜達の身柄は警察隊に監視管理を任せました。」
「後は1点集中ということだな。」
「はい、残すは皇帝居住区のある首都だけでございます。」
「期限の24時間まで後どの位残っている?」
「9時間でございます。」
ジョングクの瞳の色が紅く揺れた。
「よし、ヴァンティエスト出軍の準備だ。」
「承知した。」
側にいたアンジェロが応えると、すぐさまヴァンティエストが控える詰め所に向かった。
「よくここまで首尾よく、我等に有利な戦闘状況に整えてくれた。礼を言うぞ。」
「恐れ入ります。」
「いやしかし、こちらの指示以上の裏付けと、念には念を入れた仕事ぶりに感服している。」
「勿論任務ですので当たり前の事を致しただけでございますが、この度の任務は全て大公子殿下とチョン伯爵であられる大佐への、皆の一途な忠誠心が働いたもの。」
ジョングクは真っ直ぐに視線を向けてくる捜査官の言葉に聞き入る。
「自身を匿ってくれた皇帝や過激派をそそのかして暴動を企て、王位を利己的な欲望で狙うアルテミエフには、我々誰もが辟易しております。」
「そうだな。」
「ヴァンティエストとして婚約者でいらっしゃる、大公子殿下の為に出征された貴方様の尊き御覚悟に寄り添い、我々一同そのお役目が果たされるまで尽力致します。」
「ありがとう。私のお祖父様がヴァンティエストとして戦った時、君達組織の働きがどれほど功を成したか、その功績は計り知れないと絶賛していたよ。」
「チョン伯爵家がヴァンティーダ統治時代に王位を持たれていた頃からの、永い主従関係でございます。代々変わらない信頼を寄せて頂けてありがたく思います。」
「それは私も私の家族も同じ思いだ。」
国王の隠密としてヴァンティーダ統治時代から仕えている捜査官達は、統治をニュウマリー族に譲った後は爵位が与えられ、平時は貴族としての生活が保障されていた。
その為、彼等には何世代にも渡りチョン伯爵家に対して大きな恩義があり忠誠心は強かった。
「いよいよだな。」
「はい、その時が参りました。」
ジョングクはリーダー格の捜査官としっかりと握手を交わした。
「トーマス、我々ヴァンティエストは今夜出軍する。」
「はい。我々援護の者達にも準備をするよう伝えております。あと大佐、、、これを」
ジョングクは革の書類ケースを渡された。
中を見ると英国国王からの封書と、テヒョンからの私信の封筒が入っていた。懐かしい筆跡を見て自然に口角が上がる。
「先程、連合軍の報道部隊から届けられました。」
ジョングクは早速国王からの封書を開けた。
「ん?」
一緒に別の封書が入っていたようだ。宛名を見ると笑った。
「トーマス、お前宛てに手紙が来ているぞ。」
「・・・私にですか?」
「ほら。」
トーマスが差し出された封書を受け取ると、裏返して送り主の名前を見た。
「フランシスからの、、、」
「陛下の計らいであろう。ヴァンティエストに付いていると信書の受け渡しに制限があるからな。」
「ありがとうございます。」
「出軍の前に読んでやれよ。」
「はい。」
「出軍の時刻は3時間後だ。」
「はい、承知致しました。」
トーマスはフランシスからの手紙を持って、自身の隊に戻って行った。
いよいよジョングク達ヴァンティエストの最終目標にまで近付いた。敵の所在はもうすでに目の前と言っていい。
ジョングクは一人になって、テヒョンからの手紙を読むと便箋に顔を近付けた。それから丁寧に畳むとそのまま胸の内ポケットにしまい込む。
そしてその手は首に掛かるネックレスを引き上げて、ロケットペンダントを取り出した。開いて中にいるテヒョンの顔を慈しむように見た。
『テヒョン様いよいよです。この度の戦いで私が背負う事になった、殺めた命の数々と、その報いをあなた様には負わせません。』
心で唱えて口づけた。
ポケットに手を忍ばせ、プロテクターを取り出して口の中に装着させた。超軟合金は直ぐに歯茎に馴染んで包みこんだ。
「尊きお祖父様、我等ヴァンティエストに力を!神よ、我が愛する人に慈愛を!」
軍服の襟を正すと揃って待つ仲間の元へ向かった。
出軍の時間がきた。各々が馬に跨り指示を待っている。
ジョングクが馬に乗ると、ヴァンティエスト達の顔を一人づつ見て回る。
「最終局面に来た!誇り高きヴァンティエスト諸君、目指すはアルテミエフの身柄拘束と処刑のみ!」
「「おーー!!」」
「出軍!」
夜の荒廃した街をヴァンティエストの特殊部隊が進軍して行く。戦闘の中で破壊を免れた街のガス灯が足元を照らした。
「ジョン、ギリギリまで返答がないというのは、相手側は抵抗するつもりかもな。」
アンジェロがジョングクに近付いて言った。
「はい、それが濃厚かもしれませんね。」
24時間という首謀者の引き渡しまでの猶予時間が与えられた場合、駆け引きの為にギリギリまで答えを出さないという場合はあるが、今回は応じなければ皇帝も処刑対象になってしまう為、近衛兵にアルテミエフを逮捕拘束させ即刻引き渡しに応じる筈だった。
しかし、18時間以上経過しても応答がないのはアルテミエフが抵抗を続けているか、更なる陰謀を企てている可能性がある。
どんな場合でも、敵対する相手と交渉する時は、あらゆる事態を考慮しなければならず、最悪な状況に瞬時に対応出来る体勢を取る必要があった。
「アンジェ兄さん、期限の24時間前に相手側からの何らかの動きがない上に、宮殿前の武装解除もなければ、時間と共に我々は突撃する旨ジョンソン大尉に伝えて下さい。」
「分かった。」
アンジェロは援護するトーマスの連隊に向かった。
ジョングクは首謀者逃亡の可能性を踏まえ、前もって宮殿の周り、都市の城門や国境の周辺の警備を他の連合軍に指示していた。
特に宮殿周辺を監視している連合軍は、宮殿を守るD帝国軍と対峙している状態だった。
ジョングク達が宮殿に到着したのは、期限の3時間前だった。
皇帝の居住区である都市部は外出禁止令が出されていたので、街は気味が悪い位の静寂に包まれていた。
宮殿前に就いていた連合軍の指揮官の一人が近付いてきたので、ジョングクは馬から降りた。
「フランス連合軍の大尉、アルマンでございます。」
「アルマン大尉ご苦労だな。ヴァンティエスト特殊部隊大佐、チョンだ。皇帝側からの動きは?」
「はっ、まだ何も言ってきてはおりません。」
「そうか、ここは確か教会の鐘が毎時鳴る事になっておるな?」
「はい。」
「今の時刻より3度目に鳴る鐘の、最初の1打音と共に、我々は宮殿へ突撃することになっている。」
「はっ」
「ただ、この時を迎え最悪な事態も否めない。いつ突撃になるかもしれぬ、備えよ。」
「はい!」
その時、宮殿側から叫び声のようなものが聞こえた。ジョングク達は声がした方へ目線を向ける。
その声は一人二人と連鎖して、やがてどよめきになり波となって近付いてくる。
「皇帝陛下〜〜〜〜!!」
いきなり一人の泣き叫ぶ様な声が響き渡った。
D帝国軍の指揮官らしき人物の元へ何かが運ばれて来のだ。受け取ったモノを凝視したまま顔からみるみる血の気が引いていく。一体何を渡されたのか、、、
その者の両手にあったモノは、見るも無惨な血まみれの人の首だった。遠目のジョングクの目にもそれがしっかりと見えた。
「おい、ジョン、、あれは、、」
アンジェロが呟くように言う。
「皇帝の首のようですね、、、」
そう言ったと同時に、ジョングクは宮殿の門を開けさせ、中へ入っていく。
「おい、待て。一人で行くな!」
アンジェロが後について行った。更にトーマスも部下を数名連れて護衛としてその後に続いた。
生首を持ったまま微動だに出来ない敵国の指揮官の元に行くと、肩を叩いた。
「君達の元帥はどこだ?」
ジョングクの声を聞いたこの者は、震え出すとゆっくりと振り向いた。答えようと口を動かそうとするのだが、震えて声が出ない。
「しっかりしろっ!!」
激を飛ばされて、今度は次から次と涙を流し始めた。ジョングクは後から付いてきたトーマス達に指で合図をすると、数名が布を持ってやって来た。
「両手を離せ。」
生首を持った指揮官は、言われて広げられた布の上にゆっくりとそれを置いた。
「これは君達 D帝国の皇帝か?」
改めて身体から切り落とされたその首の顔を見るとワナワナと泣き出し『は、、い、こ、皇帝陛下であります、、、』と答えてその場に崩れ落ちた。
「先程も訊いたが、元帥はどうした?どこにおる?」
「閣下は、、、宮殿に入られてから、、、ずっと中に、、、」
ジョングクはアンジェロの顔を見た。
「大佐、、これは、、かなりマズイぞ。」
「ええ、、」
ジョングクの瞳が更に紅く揺らいだ。そして宮殿を守る為に連合軍と睨み合っていた、 D帝国軍の兵士達の方を向くと声を張り上げた。
「これがこの度の戦争の結末だ!それでも君達は、アルテミエフに付いて行くのか?」
自分達が守り通そうとした皇帝は首を落とされてしまったのだ。それも信じて付いてきたアルテミエフが手を下したのは明白だ。当然動揺は隠せない。あちらこちらからすすり泣く声がしていた。
「我々は今から宮殿内に突入し、アルテミエフの処刑を執行する。邪魔をする者は容赦なく撃つ!」
緊張感が張り詰めた。だが構わす次の行動へ出る。
「ヴァンティエスト諸君!突撃だ!進め!」
ジョングクは仲間の方へ振り向くと命令を下した。続いてトーマスが命令を出した。
「ヴァンティエストを援護せよ!!」
トーマスの連隊がライフルを構え、ヴァンティエスト達の前へ進み出て、宮殿の扉の前に揃った。
「中は過激派の集団が張っている。扉を突き破ったら攻撃開始だ。」
きっちり閉められた扉を数名の兵士達が、スレッジハンマー等で叩き壊し始めた。そしてバキバキという音がして扉が粉々になり始めると、中から銃声がした。
「撃てーーー!!」
トーマスの号令の後、一斉にライフルから銃弾が撃ち放たれた。
「進めーーー!!」
間髪を入れずに連合軍の兵士達が中へ突入した。
すると、ジョングクが彼等を追い越す勢いで突き進んで行こうとするので、アンジェロが思わずベルトを掴んで止めた。
「おいおい、ジョン待て!」
硝煙が立ち込める中を連合軍の銃撃によって倒れた、過激派の者達の死体を跨いでヴァンティエスト達も乗り込んで行く。
撃たれても軽傷だった者が、短刀を握り締めヴァンティエストに襲いかかる。しかし、あっけなく払い除けられ首の根を掴まれると、鋭い犬歯が頸動脈を仕留めた。鈍いうめき声と共に鮮血が勢いよく噴き出した。
ジョングクにも敵が向かって来た。だがあっという間に頸動脈から血がほとばしる。、、、、瞬殺だった。
ヴァンティエスト達が相手に犬歯を刺した時に触れる唾液が毒性を発揮した。だからただ単に大量出血で死亡するのではない。その毒性が殺傷能力となるのだ。
『一人、、、』『二人、、、』
ジョングクは敵を殺めて行く度に、数を数えていた。
そこへ偵察隊の捜査官がスッと近付いて、アルテミエフがいる場所を知らせた。
「大佐、この階段を上り切った右側に大きな扉がございます。そこにアルテミエフの気配を感じます。」
ジョングク達の目の前に大階段があった。まず連合軍の兵士達が上り残党がいないか確かめる。階段の上は誰一人もいなかった。戦闘を繰り広げた階下とは別の世界のような静寂だ。トーマスが上からOKのサインを出した。
「我等も行くぞ。」
ジョングクが部下に合図を送ると、階段を上った。
上り切ると右にしっかりと閉め切られた大扉を見た。中から撃ってくる可能性があるので、連合軍もヴァンティエストも扉の左右に分かれた。
連合軍の鉄砲隊数名が扉の前でライフル銃を構える。体格の良い兵士が二人でハンマーを振り上げ扉を叩く。程なくして扉は叩き壊された。しかし相手側からの発砲はなかった。
中を見るとマントを羽織った男がただ一人、小さな子供を抱き上げ立っていた。
「これはこれは、ようこそ!ヴァンティエスト諸君。」
「なんだ?あれは。」
アンジェロが呆れた声を出した。
立場をわきまえていない傲慢なその態度に、アルテミエフであることがすぐに分かる。ジョングクの眼光が真っ赤に燃えその者を真っ直ぐに睨み付けた。
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