前回の物語
物語の続きが始まります✨✨✨
【テヒョンの父】
テヒョン達の結婚式を前に、大公が正式に宮殿に移ることになり、名実共に宮廷の管轄下に入ることになった。
これで、国王と同等な待遇を受ける事になるのだが、若干、自由な行動が取りづらくなる。
「若干なわけがなかろう。がんじがらめになって自由がなくなるのだ」
「大袈裟でございますよ、父上。子どものような事を仰らないで下さい」
テヒョンの指摘に、大公は恨めしそうな視線を向けた。
「王位を継ぐご身分でございますよ。今まで自由過ぎたのが、おかしいのでございますよ」
「オルブライトまで申すか」
大公が珍しく、駄々をこねて文句を言っているので皆が笑った。
「お前達、他人事だと思って笑っておるのだろうが、いずれは我が身なのだからな」
目の前でケラケラと笑う《息子達》に食って掛かった。
「それは、とばっちりというものでございますよ、父上」
「屁理屈ばかり言いおって」
大公がかなり拗ねたので、更に笑い声が上がった。
「それにしましても、、、本当に何も無くなってしまい、寂しいです」
話の流れを変えようと、ジョングクが大公の部屋を見回しながら言った。
「元々フランスに長く駐在しておったから、物自体はそんなに無かったのだ」
大公は部屋を歩きながら、暖炉のマントルピースの大理石や、柱などに触れながら話した。そして、ベッドまで来るとヘッドボード側にある、天蓋の柱の所でしゃがんだ。
柱の何かに触れると、振り返ってテヒョンを呼んだ。
「これを見てごらん」
「はい、何でしょう?」
「まだ残っていたのだな。お前がまだ2、3歳位の時に、持っていた玩具で付けた傷だ」
見ると、柱の下の方に小さい打痕の傷が付いていた。テヒョンはしゃがんで覗き込む。
「ああ、この傷のことですか?」
「昔、テヒョン様が毎朝お父上を起こしに来られましてね」
オルブライトも近付いてきて、懐かしんで話し出した。
「毎朝おもちゃをご持参なさって、お一人でこのお部屋にいらっしゃるのですよ。あの頃こちらでご一緒に、朝食を召し上がっていらっしゃいましたね」
「ああ、そうであったな。朝食の支度までの間、ベッドに上がってきたお前と、よく一緒に遊んだものだ」
「そうだったのですか、、、初耳でございます」
テヒョンは改めて柱の傷に触れてみた。ジョングクも隣にしゃがみ込み、その傷を見た。
「なぜそこに傷がついたと思う?」
大公は、理由を知っているオルブライトに、目で合図をしながらテヒョンに訊いた。
「さぁ、、、私の遊び方が乱暴だったとか?」
大公とオルブライトが同時に笑った。
「テヒョン様が、勢いよくお部屋に入って来られた日がございまして、その勢いが余ってベッドの手前で思い切り転ばれたのですよ」
「その時、持っていたお前の玩具が当たったのだ」
「火が着いたようにお泣きになったので、お怪我をされたのかと慌てました」
「そうだ、そうだ。しかし後から来たスミスが、一番慌てておったな」
大公はオルブライトと、懐かしそうに盛り上がる。
「当時を知らない私でも、お小さいテヒョン様が目に浮かぶようです」
「そうか?」
「はい。これからは絶対に転ばないよう、おそばにおります」
「ははは、僕は成人だぞ」
ジョングクは、テヒョンの手を柔らかく掴んで少し真顔になると、
「あなた様は、これまでずっと大人でいらしたのですから、これからは存分に甘えて頂きたいのです」
と言った。テヒョンは、その掴まれた手を見るとふわりと笑って、
「過保護にされれば、甘えが過ぎるようになるぞ」
と返した。
「二人の世界に浸っている所悪いが__ 」
大公がテヒョンとジョングクの肩にがっしりと手を掛けて、
「少しジョングクを借りてもいいか?」
とニコニコしながら、テヒョンに訊いた。
「勿論でございます。私に訊かずとも、彼も父上の息子になるのですから」
「そうだな。では遠慮なく連れて行くぞ」
大公はジョングクの肩を叩くと、部屋の外へ連れ出した。テヒョンは面白がるように、手を振って見送る。
「あの、、大公殿下、どちらへ?」
「心配するな。溺愛する息子を取られた恨みで、お前をどうにかしようなど、するわけではないからな」
「いや・・・そう仰られるのが、かえって恐いです」
「ハハハ・・・いつもの私の冗談ではないか。そろそろ慣れてくれ」
大公は笑いながら構わずにどんどん廊下を進んで行った。
二人が着いたのは、大公が使っていた執務室だった。
中に入ると、執務室も大分整理がされていた。大公は部屋の奥の窓辺まで行くと、暫く外の景色を眺めた。そして、そばまでくるように手招きをすると、ジョングクも窓辺に近付いた。
「お前に渡したい物があるのだ」
「はい」
大公は、徐にジャケットの胸ポケットに手を入れると、ある物を取り出した。
それはベルベットで覆われた、何かのケースで、大公はそっと蝶番の蓋を開けると、中に入っている物に手をかざして静かに撫でた。
「やっとこれを託すことが出来る」
中にはチェーンに繋がれた、ペンダントヘッドがあって、大公はそれをそっと取り出した。
ジョングクは黙ったまま大公の手元を見つめていた。
「ジョングク、今日からお前がこれを持っていてくれ」
ジョングクが手を差し出すと、その上にペンダントヘッドを置いた。
「これは_____ !?」
「私の兄であり、テヒョンの父でもある、ベリスフォード王太子の遺髪だ」
「そのような大切な物でしたら、むしろ私ではなく、テヒョン様が持たれた方がよいのではありませんか?」
大公は首を振った。
「これは、テヒョンを守る者が持つから意味がある。守る者の為の《お守り》なのだ」
ジョングクはペンダントヘッドに描かれた、ベリスフォード王太子の肖像画と、それを取り囲むようにして編み込まれた遺髪を改めて見た。
「兄上が亡くなった時、当時の国王陛下の許しを得て、私とステファニア殿だけが貰い受けたのだ。
テヒョンを我が家に迎え入れて、しばらくしてからそのペンダントが届けられた。
その時私は兄上に誓った。テヒョンが独立するまで必ずや守り切ると」
ジョングクは真っ直ぐに大公の目を見つめた。
「フランス駐在中も、肌身離さず持っていた。テヒョンに何かある度に祈ったものだ。ポロ試合の落馬の一報を聞いた時も、ヴァンティーダに覚醒すると言われた時も、瀕死のお前を迎えに、フランスへ向かった時も、、、兄上に私は祈り、また支えられた」
ペンダントに重ねられた、数々の大公の祈りを想うと、ジョングクは王太子と大公の兄弟愛を強く感じた。
「私は兄上との約束を果たせたと思っているが、どうだ?」
大公の言葉に、ジョングクの目に涙が溢れてきて、何度も頷くとボロボロと零れ落ちた。
「本当に涙もろいやつだなぁ」
大公は笑って頭をポンと叩いた。
「・・・大公殿下」
「もう、いい加減に父と呼ばないか?」
「いえ、畏れ多い事でございます、、、」
「お前はもう既に私の息子だ。・・・まぁよい、結婚式には必ずや父と呼べ」
「はい」
ジョングクは押し切られた感じで返事をした。
大公は、ジョングクが相変わらず謙虚なのを呆れたように笑った。しかし、それが彼の誠実さの表れであり、良いところなのだと納得している。
「あの、、、本当に、この王太子殿下のペンダントは、私が預かっていて宜しいのでしょうか?」
「持っていてくれ。テヒョンを守る私の役目は終わった。次はお前がその役目を引き継ぐのだ」
大公はそう言いながら、グッとジョングクの身体を引き寄せ、抱きしめると背中を叩いた。
「・・・頼むぞ。二人末永く幸せでいて欲しい」
大公の低くて暖かい声が、ジョングクの肩に深く響いた。
「はい、、、必ず」
返事の言葉と共に、胸の奥からこみ上げてくるものに震えた。この時、大公の父親としての絶対的な貫禄を思い知る。
それだけではない。大公は実の兄と妻と子を立て続けに失うという、途方もない辛い人生も経験しているのだ。しかし、それを表に出さず、その孤独な痛みと言っていい程の運命を全てテヒョンへの愛情で乗り越えて来た。
ジョングクは大公の生き方を尊敬した。
「さ、戻るぞ」
感動に浸るジョングクだったが、大公の声は既にいつもの明るさに戻っていた。
二人は執務室を出ると、そのまま食堂へ向かった。
つづく_______
