群青と真紅 2【《㉒》母国への帰還】 | Yoっち☆楽しくグテを綴る♡

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テテとグクの Me Myself写真集にインスピレーションを得て【群青と真紅】をブログ内で執筆中です️




前回の物語
物語の続きが始まります✨✨✨


【帰国の途へ】

帰国の日を迎える。
この日、いつもは静かなフォンテーヌブローの地域も、英国の大公子とチョン伯爵を一目見ようと朝から賑やかだった。
帰国とはいっても、カレー港までは距離がある為、パリで一旦宿泊して、そこからは汽車を使って港まで行く事になっていた。
テヒョンがパリまで汽車に乗った事がきっかけで、簡易的に貴賓車両が設けられていた。ジョングクもセオドラ卿も是非乗ってみたいと興味を示し、鉄道を使っての移動が決まった。

支度を整えたテヒョン達が宮殿の出入り口に向かうと、英国駐在大使が見送りに来ていて挨拶をした。
そして表に出ると、フランス近衛連隊の連隊長が敬礼をして迎えた。道中は近衛連隊が警護に当たる。三人が馬車の近くまで来ると世話になった職員達に礼を言った。
「お世話になりましたね。あなた方のご厚意には心より感謝申し上げます」
テヒョンに続き、
「本当にありがとうございます。どうぞ皆さんもお元気で」
と、ジョングクも礼を言った。
職員達は涙ぐみながら、
「どうぞ道中お気を付けて」
と声を揃えて言って頭を下げた。

いよいよ馬車に乗り込もうとした時、少し離れた場所から飼育員に連れられたルネの姿を見た。飼育員が頭を下げるとテヒョンとジョングクは手を振った。
馬車の扉が閉められて近衛兵の先導で進み始めた。
暫く進んだ時、進行方向に背を向けて座っているセオドラ卿が、馬車の外に何かを見つけた。
「ルネが追いかけて来ているぞ」
「え!?」
ジョングクが車窓を開けて頭を出して後ろを見た。
すると飼育員を振り切って吠えながら走ってくるルネが見えた。飼育員や職員達が追いかけるが捕まらない。

「ルネ NO!!ハウス!ハウス!」
ジョングクが叫ぶが言うことを聞かない。それどころが呼ばれたと思ったようで逆効果になった。
「駄目だ、危ない馬車を止めよう!」
テヒョンが言うと、セオドラ卿が横に付いている近衛兵に馬車を止めさせるよう指示を出した。
馬車はすぐに止められた。
ルネは馬車の扉に前足をかけて悲しそうに鳴いていた。テヒョン達が連れ去られると思ったのだろうか。
「ルネ、、、連れて行けないのだ。戻りなさい」
ジョングクは言いながら泣いていた。かなり情が移ってしまっている。

ようやく飼育員が追いついた。
「も、、、申しわけございません!」
ゼイゼイと息を切らしながら謝った。
「いや、仕方がない事だ。ルネが悪いわけではないから、叱らないでやって欲しい、、、」
「はい、、、分かりました。ささ、今度こそ抑えておりますのでお早く!」
飼育員は身体ごとルネを抑えた。それを確認して馬車は再び走り出した。
ルネは動こうとしたが後から来た職員達も立ち塞がったので、身動きが取れず吠えるだけだった。ジョングクはもう振り向かなかった。
沿道に出ると市民達が歓声を上げながら見送ってくれた。テヒョンは手を振って応える。ジョングクも涙を堪えながら手を振った。

ある程度距離を進むと、市民の姿もなくなって馬車の音だけになった。
ジョングクは後ろに流れていく木々を窓越しにずっと見ていた。
「可愛かったな、、、ルネ」
テヒョンがそう言ってジョングクの手を掴んだ。
「とても、、、」
ジョングクはまだ涙声だった。ルネはかなりの大型犬だがまだ仔犬で、赤ちゃんの面影を残す優しい瞳で見上げてくるのがとても愛くるしかった。
リハビリで走っている間、毎日無邪気に懐いて付いてくる姿にどれだけ癒され、助けられた事だろう、、、懐かしい日々を思い返し、ジョングクはまた涙目になった。
「ジョングク、屋敷に帰る前にルネの匂いを残したままでは駄目だぞ。パックスはお前に噛みつくかもしれんわ」
セオドラ卿が言って笑う。

「これって、、浮気になるのでしょうか、、、」
「僕に訊くなよ」
テヒョンが突き放したように言うので、セオドラ卿は更に笑い出した。テヒョンもそっぽを向きながら笑った。
しんみりしていた馬車の中がようやく和んだ。
途中でフォンテーヌブロー宮殿で用意してくれた昼食を食べ、更に休憩を何度か挟み夜に差し掛かると、予め夕食を手配していたレストランで摂った。
そして、ようやく夜中にパリに着いた。
「やっと着いたな。パリからフォンテーヌブローに向かう時の君は、横になったままだったのが、今では信じられないほどだ」

テヒョンは元気に回復したジョングクの姿を改めて見て嬉しい気持ちになった。
「さあ殿下、かなり寒いのでお早く中へ、、、ジョングクも急げ」
セオドラ卿が二人を早々に馬車から降ろした。
この日の宿は迎賓館になっている宮殿だった。フランス陸軍の庁舎近くにあるので治安の心配は無かった。
外は雪が降りそうな位の寒さだ。ジョングクはテヒョンの肩に手を回して、守るようにして宮殿内に入った。
「お疲れ様でございました。温かいお飲み物をご用意致しております。お休みの前にどうぞ温まって下さいませ」
職員に促されて応接の間に案内された。

暖炉が勢いよく燃えていて、部屋の中は暖かい。テーブルにはワインやホットココア、紅茶の他に、軽食も用意されていた。テヒョン達が席に着くと給仕が飲みたい物を用意してくれた。
テヒョンはホットココアを飲みながら、
「そうだ、帰国したらデイビスのホットココアを飲んでやってくれるか?」
と言った。ジョングクは何だろうというような顔をしながら、
「はい。分かりました」
と応えた。何かしら理由があるのだろうなと、笑みを浮かべながら飲み進めるテヒョンを見て思った。

「殿下、私はそろそろお先に失礼致します。まだこちらにいらっしゃいますか?」
「はい。私はこれを飲み終えるまでここにおります」
「分かりました。ではまた明日。おやすみなさいませ。ジョングク、殿下を頼むぞ」
「はい父上。おやすみなさいませ」
セオドラ卿は部屋を出た。
二人はゆっくり寛ぎながら、カップを片手に談笑を楽しんだ。ジョングクは軽食も食べていた。
「もう本当に身体は元に戻ったようだな。見ていて気持ちがいいよ」
見事な食べっぷりに感心した。

「やたらお腹が空くのです。帰国して太ったら、結婚式の衣装が入らなくなりますよね」
ジョングクの口から《結婚式》の言葉が出て、テヒョンは今更ながら胸が弾む思いを感じた。
そうだ自分達は同士婚という形で結婚をする婚約者同士だった。既に《伴侶》だとかセオドラ卿を《義父上》と呼んでいながら、セレモニーへの期待感のような高揚を感じるのだ。
「結婚式か、、、」
テヒョンが思い巡らす瞳で、呟くように口にする。

「やっと、テヒョン様が名実ともに私のものになるという事を公式に宣言出来ます」
ジョングクはそう言いながら席を立つと、テヒョンの席に回り後ろから肩を抱き締めた。肩に回されたその腕を掴むとテヒョンは、
「やっと、、僕達の願いが叶うのだな」
と言った。
「はい、、、とても待ち遠しく思っておりました、、、」
ジョングクが耳元で熱く言って頬ずりをした。テヒョンが振り返り唇を向けると、すかさず捕らえて口づける。
唇に伝わるお互いの体温を確認し合って離れると、二人は目を合わせて笑い合った。

すると急にジョングクがテヒョンの手首を掴んで立ち上がらせた。
「お、、おい、どうした、、、?」
「早くお部屋に参りましょう、、、私の魂があなた様を欲しております、、、」
ぐっと顔を近づけニヤリと笑う。
「え、、、明日は早いのだぞ、、」
少しはにかみながら制したが、嬉しさが滲み出ている口角をジョングクは見逃さなかった。だから掴んでいる手首を少し強く引いて、応接の間からテヒョンを連れ出した。
次の日の朝、テヒョンとジョングクが揃って食堂に入ってきた時、見るからに寝不足の顔をしている二人に、セオドラ卿は何かを察し溜め息をついて笑った。


朝食の後この日の段取りを聞いて準備をする内に、いよいよ出発の時間になった。
駅までは馬車で移動する。外に出るとこの日の朝はさほど寒くはなかった。
テヒョン達を乗せた馬車は、真っ直ぐパリ駅に向かう。テヒョンは夜のパリの街をジョングクがいる病院に向かって、馬で疾走した事を思い出していた。
だが無我夢中だったので、ほぼ覚えていないことに気付いた。
今は朝の光の中、隣にジョングクがいて穏やかな気持ちで帰ることが出来る喜びに浸った。
「蒸気機関車に乗るなんて、初めてでございます」
ジョングクはワクワクした様子だ。
「英国で最初に汽車に乗った王族は僕だけだろうな」

「殿下は早くお前の元に着く為に、馬車の代わりに汽車に乗られてパリまで来られたのだ」
セオドラ卿の言葉にジョングクは感激した表情に変わった。
「何も知らず、、、申し訳ありません、、」
「君は危篤の状態だったのだから、知らなくて当然だろう。でも、おかげで汽車に乗れたのだ、その速さを堪能出来たのはよかった」
テヒョンは気負わせないような言い方をした。
「ありがとうございます、、、テヒョン様、、、」
ジョングクは感謝してもしきれない思いだった。

馬車は無事にパリ駅に着いた。
駅舎の前には駅長が待っていた。テヒョンが馬車から降りてくると、そそと近付いて来て恭しく挨拶をした。
「おはようございます大公子殿下」
「おはよう。あの時は世話を掛けたな」
「いいえ、私どもの汽車がお役に立てて光栄でございます。それに、、、チョン伯爵のご回復、誠におめでとうございます」
駅長がジョングクに握手を求めた。
「ありがとう。沢山の方々に助けられた事、ありがたく思っています」
「さあ、皆様にお乗り頂く汽車にご案内致します」

ここまででテヒョン達が乗った馬車を守ってきた警護が交代になる。パリ駅からカレー駅までは、フランス陸軍特殊部隊の隊員が警護に就いた。
改札を抜けると黒ぐろと光る大きな車体が、白い蒸気を噴き出してホームに停車している姿が見えた。
「ほう、、立派な車体ですな」
セオドラ卿が驚いた。
「これに、テヒョン様が乗ってこられたのですね」
ジョングクもまじまじと見上げて言った。
「こちらが皆様にお乗り頂く貴賓車両でございます」
駅長が扉を開く。

テヒョンから先に乗り込むと、前回とは違い背もたれも座席も赤いベルベットのクッションが施されていた。
そして更に、窓にはドレープが美しいカーテンが付いていた。
「随分と内装が変わったではないか」
「はい。次またいつ高貴な方がお乗りになるか分かりませんので、早急に改装をさせました」
「ふふ、、私が乗った時は木の感触が強かったからな」
テヒョンの言葉に皆が笑った。
「ではそろそろ発車の時刻でございますので、私はこれで。どうぞ皆様道中お気を付けて。また是非今度はご旅行で、フランスへお越し下さいます事をお待ち申し上げております」

駅長が深々とお辞儀をすると、テヒョン達の車両を降りて扉を閉めた。
汽笛が鳴って出発を知らせる。車輪の軋む音と共にゆっくりと車体は動き出した。
「わあ!動きましたよ!」
ジョングクは車窓に顔をつけるようにしてはしゃいだ。
「まるで小さい子どもだな」
セオドラ卿は呆れて言うが、本人は気にせずにまだ車窓にへばりついていた。 
テヒョンはにこにこしながらその様子を見ている。
「あの日の私からすれば、夢のようですよ義父上」
セオドラ卿はその言葉の重みに頷いた。

汽車は順調にスピードを上げていく。ジョングクは流れ行く景色をずっと眺めていた。
最初の停車駅に汽車が着くと、テヒョン達の昼食が運ばれた。昼にはまだ早いのだが、この駅で準備をしないと次の停車駅では昼を過ぎてしまうのだ。
「なんだか小旅行みたいで楽しいです」
相変わらずはしゃぐジョングクにテヒョンとセオドラ卿は顔を見合って笑った。
「幸せなやつだな」
「ジョングクらしいです」

ジョングクがせっかく楽しんでいるので、テヒョンもそれに乗ってやることにした。二人は車窓から見えるフランスの田舎の街々を見て楽しんだり、昼食をあれやこれや言いながら頬張ったり、心の底から楽しんだ。セオドラ卿は二人の姿を見ながら、苦しかった日々が癒されていくのを感じていた。そして、テヒョンの命懸けの行動力と、ジョングクの生命力に驚くと共に改めて二人の尊い絆に感謝をするのだった。
やがてテヒョンとジョングクは二人揃って眠り始めた。楽しげな会話で賑やかだった車内は、車輪が進んで行く音が聞こえるだけになった。セオドラ卿がお付きの者からブランケットを預かると、自ら二人に掛けてやった。


辺りが暗くなり始めた頃、汽車はようやくカレーの駅に到着した。
「ジョングク!着いたぞ!」
早くに目を覚ましていたテヒョンが、まだ眠っているジョングクを起こした。
眠気まなこで頭をもたげると、覚醒し切れない様子で辺りを見回した。
「さ、降りる支度をするぞ」
テヒョンは笑いながらジョングクのクラバットを直してやった。
「やれやれ、、、殿下に身繕いをさせるとは大した側近だな」
セオドラ卿は呆れながら笑った。

車両の扉が開くとカレー駅の駅長が顔を出した。
「お疲れ様でございます、大公子殿下、、、」
「駅長!」
挨拶もそこそこで、テヒョンはホームに降り立つと駅長の肩を抱きしめた。駅長は驚いてよろけた。
「危ない!、、、」
お付きの者や、警護の者が慌ててテヒョンと駅長を支えた。
「これは失礼致しました、、、」
駅長は謝ったが、テヒョンは構わず話し始めた。

「ありがとう、、、やっとあなたにお礼が言えた。君達が便宜を図ってくれたおかげで、、、見てくれ、、、大佐を連れて帰れるぞ」
テヒョンはそう言ってジョングクを紹介した。
「ああ、、、貴方様が偉大なるチョン大佐でいらっしゃいますか、、、」
「偉大、、、かどうかは分かりませんが、初めまして駅長」
駅長は両手でジョングクの手を握ると深々と頭を下げた。

「ありがとうございました。私の大切な殿下に早く会わせて下さって」
「私はただ殿下の仰せの通りに手配をしたまで、、、しかし、、、お元気になられて本当にようございました」
駅長は感激の涙を流していた。
「あなたは私達の恩人ですよ」
「殿下にそのように仰って頂くなど、畏れ多い事でございます」
「おかげで帰りは回復した息子と私も汽車に乗る事が出来て良かった」
セオドラ卿の満足そうな言葉に、駅長は感無量といった様子で頭を下げた。

駅長に先導されホームを歩いていると、
「大公子殿下!お迎えに上がりました」
改札の方からテヒョンを呼ぶ声がした。
見ると司令長官のジョナサン・マッキントッシュとキャンベル海軍大尉にキャプテンのグレッグが揃い待っていた。
「わざわざ駅まで来て下さったのですか?」
「私の職務は国王陛下の代理である貴方様をフランスへお送りするだけではなく、無事に我が国へご帰還されるまで、お供させて頂く事にございます」
司令長官は敬礼をするとにっこり笑い、
「とは申しましても、、、私は待ち切れずにおりました。大佐のチョン伯爵が回復された吉報に、胸震えた者の内の一人でありますから」
と言ってジョングクに向くと握手を求めた。

「よくぞ敵の息の根を絶ち、更に重篤な傷を負いながらも見事に復活された!君は国と英国軍の誇りです」
「海軍司令長官自らのそのお言葉、身に余る光栄でございます。ありがとうございます」
ジョングクは敬礼で応えた。多少複雑な笑顔を浮かべていたが、それはテヒョンにしか分からなかった。
「お帰りなさいませ、チョン大佐!大公子殿下とご一緒にお迎え出来て大変嬉しく思います」
「お待ちしておりました、大公子殿下、チョン大佐!心してお二人を我が国までお送りさせて頂きます」
キャンベル海軍大尉とキャプテングレッグもテヒョンとジョングクの姿を見て興奮気味だった。規定を犯しながらも無事に王族を目的地まで届け、それが結果的に功を成したのだ。

司令長官は別として、キャンベル大尉とキャプテングレッグは本来なら非番だった。しかし、《大公子殿下とチョン大佐を迎える日程》が決まると、非番を返上し真っ先に任務に就く事を申し出たのだった。
「さあ、では旗艦にご案内致します。夜に差し掛かりましたが、我々の船は蒸気機関でございますので、夜の出発も問題ありません」
カレー港に近付いて行くとガス燈の灯りに照らされて、夜の海にあの大きな船影が見えてきた。

「いよいよ、、、本当に私は国に帰ることが出来るのですね」
ジョングクが旗艦を見つめたまま実感を込めて言うので、テヒョンは肩に手を回し、
「そうだよ、、、君は僕達の元に戻って来たのだ。だからこうして一緒に帰国出来るのだ」
セオドラ卿も感激している息子の頭を撫でながら、
「さあ、一緒に帰るぞ」
と言って真っ直ぐ旗艦を見つめた。

司令長官達は黙ってテヒョン達の会話を聞いていた。どれだけ想像を超えた、厳しい現実に立ち向かってきたのかを思うと、軽はずみな言葉など掛けられないと思っていた。
カレー港に到着するとキャンベル海軍大尉とキャプテングレッグは、先に旗艦にの方へ向かって行った。
港にはフランスの外務大臣やフランス海軍の司令長官もいて、テヒョン達を見送った。
旗艦の乗り込み口までレッドカーペットが敷かれ、その両脇にはフランス衛兵隊が、ずらりと並び捧げ銃(ささげつつ)の状態で待機していた。
英国最高司令官代理であるテヒョンを先頭に、フランス海軍司令長官の先導で歩き、その後ろを英国海軍司令長官がジョングクとセオドラ卿と共に歩いた。

旗艦のそばまで来ると、甲板という甲板の上に乗組員達が脱帽し、敬礼をしてテヒョン達を迎える姿が、柔らかい灯りの中でも見る事が出来た。
テヒョンやジョングクやセオドラ卿がそれぞれ見送りをしてくれたフランス側の高官達に挨拶をした後、ゆっくり乗り込んで来ると敬礼をしていた乗組員達が、今度は拍手で迎え入れてくれた。
テヒョン達は三人共に手を振ってその歓迎に応えた。
船内に入ると『お帰りなさいませ!大公子殿下!』『お帰りなさいませ!チョン大佐!』と沢山声を掛けられた。

テヒョンとジョングクは何も申し合わせをしなくても同時に外の甲板に出て、港に向かって手を振った。
「ありがとうフランス!」
「お世話になりましたフランス!」
二人はフランスの全てに礼をするように思い切り手を振った。セオドラ卿はその二人の後ろで、黙って静かに手を胸に当てた。
そして出航の汽笛が鳴らされる。 
その合図を聞いてテヒョン達は船内に戻った。
旗艦は港を離れ、ゆっくりと夜の海を進んで行った。


【帰還】


船内では《英雄》であるチョン大佐を一目見ようと、皆が挨拶に集まった。
王族であるテヒョンも一緒なので、最初は恐る恐るでの挨拶になった。しかし二人が気さくに接してくれるので皆が感激した。
英国国内ではジョングクはヨーロッパを救った英雄として称えられ、テヒョンは瀕死の婚約者を迎えに行き、愛の力で見事に助けた天使と崇められていると乗組員達から知らされる。
「ジョングクはよいとして、私の事は随分と大袈裟になってはいないか?」
「いいえ、お二人は今や平和と慈愛の象徴でございますよ」
すっかり盛り上がる乗組員達の話に、二人は目を合わせて困った笑いをした。
ここで丁度食事の支度が整ったということになり、テヒョンとジョングクは皆の輪の中から解放された。

テヒョン達の為に設けられた食事の部屋で、三人はゆっくり夕食を食べる事が出来た。
食後、セオドラ卿は航海士から要請を受けて操舵室へ向かった。航海のスケジュール等の報告を受ける為のようだ。
「テヒョン様、、、」
「うん?」
「私は国に戻りましたら血清を受け、超霊力を抜こうと思っております」
「・・・・そうか」
テヒョンは分かっていたというような反応をした。
「腰抜けだと思われるかもしれませんが、、、」
「そのような事を誰が言えるのだ?
事情を知る者が、どう思うかは分からぬ。だが僕は君が腰抜けだなどと思ってはいないし、まず思うはずがない、、、、君には実際に戦争を終わらせた功績がある」

テヒョンの肯定的な言葉に、ジョングクはふっと力が抜けたように見えた。
「僕は棒血をうける時に、役目を果たして帰国したら、すぐに血清を受けるつもりでいたよ」
二人は顔を見合った。
「僕が母上から棒血を受けてヴァンティーダとして覚醒したのは、君の命を助けたいが為だったからね」
「、、、テヒョン様、、、」
ジョングクは安心した。テヒョンにはヴァンティーダの重責を背負わせたくないとずっと思っていただけに、大切な人の覚醒の事実を知ってから、ずっと自責の念を抱えていた。
「今回、、戦場で私の野蛮な部分を嫌というほど見せつけられました、、それはヴァンティーダの血を持っているせいだという事が根幹にあります」

テヒョンはいつの間にかジョングクのそばに座って、肩を抱きしめていた。
「君は元々争い事が嫌いなことは僕がよく知っている。だから野蛮な自分には耐えられないという気持ちがよく分かるよ。ヴァンティーダとしての誇りを持ちながらも《長》として背負う宿命との葛藤に、ずっと悩んで来ただろう事も想像出来る、、、でも、もう充分に責任は果たしたのだ。帰ったら一緒に血清を受けよう。」
ジョングクは、身体から鎖のような物が解けていく感覚になって涙が溢れた。
テヒョンの言葉には神からのお告げのような崇高さがあった。
二人はしばらく寄り添ってそこにいた。


朝、外に出たいというテヒョンの要望が通って、ジョングクと二人でデッキに出た。テヒョンのように王族が航行中の船の外に出る事は危険とされて、許可なく出られなかった。
「お寒くはございませんか?」
ジョングクはテヒョンの首にストールを巻いた。
「ありがとう大丈夫だ。・・・ああ、今日も天気が良さそうだな」
「この季節に晴れの日が続くなんて珍しいですね」
「こうして落ち着いた状態で、君と海が見られるのが幸せだ」
「私も同じでございます。・・・実は出征の日、出航して私は堪らなくなって直ぐに船内に入ってしまいました」

「そうか、、、」

テヒョンは笑った。


「僕は艦艇が見えなくなるまで見送っていたよ」

「やはり、、、そうだったのですね、、、」

「でも泣いていたんだ、、、」

「テヒョン様、、、」

「そんな顔するなよ、もう過ぎた日の事だ。今はこうして・・・・一緒にいるのだ」

そう言って身体をジョングクに預けた。

二人はそれぞれ国を出る時は一人だった。寂しさや不安を抑え独りで見た海が、今は二人で眺めながら国に帰ろうとしている。

こんなにも喜ばしい事はない。

ますますお互いに愛しさが増すばかりだ。

暫く静かに海を眺めていたが、どうにも寒くて我慢出来なくなって船内に戻った。


「う〜〜〜寒かったな!」

「テヒョン様の頬も鼻の頭も真っ赤ですよ」

「君も同じだぞ」

お互いの鼻を摘んで笑い合った。

セオドラ卿はそんな仲良く戯れ合う二人を見ながら、

「この旗艦におる者は、独身者か妻や想い人と離れておる者ばかりですぞ。彼らには目の毒でしょうな、、、」

と哀れむように言った。

「そうか、、、それはいかんな」

テヒョンはそう言いながらもニヤニヤが止まらない様子だった。しかしセオドラ卿は、苦境を越え心から幸せな笑顔を見せる二人を見るのが嬉しかった。だからわざと制するような事を言ったのだ。

「さあ、殿下もジョングクも朝食ですぞ」

三人は食事が用意された部屋へ向かった。



旗艦は順調に航路を進み、ようやくロンドン港が遠くに見えてきた。

「大公子殿下、直に港に到着致します。」

司令長官が下船の準備をしてもらう為にキャンベル大尉と共にテヒョンの部屋までやってきた。

「もう到着なんですね」

「夕べに引き続き、今日も海が穏やかなので、順調過ぎる位でこざいました」

「では殿下、お支度のお手伝いをさせて頂きます」

キャンベル大尉が着替えの衣装の準備に入る。

「お支度がお済みになりましたら、操舵室でお待ち申し上げております」

司令長官が退室すると、テヒョンは下船の支度を始めた。



旗艦が港に近付いていて、後少しで着岸の体制に入るという頃、テヒョンは操舵室に案内された。既にジョングクとセオドラ卿がそこにいて、テヒョンが来るのを待っていた。

そこにいる乗組員達が一斉に敬礼で迎える。

「これで殿下とチョン伯爵の長い旅が終わりを迎えるわけですね」

司令長官が静かに語りかけた。

「ええ。心おきなく我が家に帰れます。な?ジョングク」

「はい、、、いろんな意味で長うございました、、、」

ジョングクは操舵室の窓から見える、外の様子を感慨深げに見つめながら呟いた。


「君はもう自由だよ。もう悩み苦しむこともないんだ。戦いで刻まれた悪夢は僕も一緒に背負うのだから」

「はい。ありがとうございます」

テヒョンの真っ直ぐな瞳がジョングクの心に力を注いだ。

二人の会話を聞いていた司令長官が、

「あのお二人の絆がとても強く見えます。誠によいご関係性ですな、、、」

と、感心したように言う。

「そうですね、紆余曲折は沢山あったのだとは思いますが、よく乗り越えられたと思っております」

セオドラ卿は目の前にいる息子達が、今までぶつかって来ただろう壁を思い巡らせながら応えた。


「ご子息がアルテミエフの処刑まで任務を遂行出来た詳細は、陛下から伺っております。更に命に関わる負傷を負っての偉業でしたから、お父上としてのご心情お察し致します」

司令長官は軍人としての立場よりも、子を持つ親としての立場でセオドラ卿に寄り添った。

その人情味のある言葉にただ黙って頭を下げた。

チョン伯爵家は特異な軍務を代々担ってきた家系である事は、司令長官の立場として勿論知っている。それ故に実戦ともなれば通常の軍人よりも過酷な戦い方をするわけで、体力的にも精神的にも想像を絶する負担が掛かる事を理解していたのだ。


港がはっきりとテヒョンとジョングクの目に捉えられた。ようやく母国に着いたのだ。

旗艦は着岸の体制に入り、静かにゆっくりとそして確実に港に着けた。

「到着です!」

キャプテングレッグが宣言する。

「お待たせ致しました。旗艦は無事に到着致しました。お疲れ様でごさいます。そして、、、お帰りなさいませ!」

司令長官の言葉に、乗組員達がテヒョン達に敬礼をした。

「ありがとう、、、皆さんもご苦労様でした」

テヒョンの言葉で艦内に拍手が響いた。


係船索をブイに巻き付け、更に錨が降ろされ船体を固定させると、タラップが掛けられた。

陸軍元帥と海軍元帥が、最高司令官代理のテヒョンを迎える為、船内に入って行った。続いてジョングクを迎える為に、陸軍司令長官が船内に入った。

そして、二人の元帥を伴ってテヒョンが降りてくる。するとテヒョンとジョングクの出迎えの為に、集まっていた国民達の歓声が上がった。続いてジョングクが陸軍の司令長官とマッキントッシュ海軍司令長官と共に姿をあらわすと、更に歓声が多く上がった。

テヒョンとジョングクは手を振って歓声に応えた。


タラップを降りるとレッドカーペットが敷かれていて、フランスを出た時と同じように、近衛兵が捧げ銃をして外務大臣と出迎えの体制をとっていた。

そこへテヒョンが到着する。

「殿下、大変な長旅お疲れ様でございました」

握手をし、深々と頭を下げる大臣に、

「ありがとう。皆さんの尽力のおかげで、チョン伯爵を無事に連れて帰って来れました」

と声を掛け、隣に続くジョングクの方を向いた。


「任務成功おめでとう。大変な激務でした、、、お疲れ様です。あなたの帰りを皆でずっと待っていましたよ。よくぞ元気で帰還されましたな!」

「ありがとうございます。おかげ様でこの通り生きて帰還する事が出来ました。療養中に皆様からお寄せ頂いたご厚意に、厚く御礼申し上げます」

ジョングクはそう応えると敬礼をした。

大臣は肩を叩き抱きしめた。テヒョンとジョングクは並んでレッドカーペットを歩いた。セオドラ卿は外務大臣とその後に続く。港には割れんばかりの歓声と拍手が上がり、二人を迎え入れた。



暫く歩いて行くと馬車が待っていた。それは国王の馬車だった。確かにテヒョンは国王代理ではあったが、粋な計らいをしてくれた事が分かる。

馬車に乗り込む前にテヒョンがジョングクに耳打ちした。

「旗艦に掲げてある旗を見てごらん」

ジョングクは旗艦の方へ振り向き、言われた通りに見上げた。

「あ!」

そこにはテヒョンと司令長官の紋旗と共に、ジョングクの紋旗も掲げられていた。セオドラ卿も気付いてそれを見た。

「おお、、、出発の時は夜で分かりませんでしたが、、、あの場所に紋旗が掲げられるなど、なかなか無いことだぞ、ジョングク」

ジョングクは感激をして潤んだ瞳でじっと見入った。


「さあ、そろそろ参るぞ。陛下がきっとお待ちかねだ」

テヒョンとジョングク、セオドラ卿は一緒に国王の馬車に乗り込んだ。

「陛下の馬車に乗せて頂くなど、本当に恐れ多いことでございます」

ジョングクがシートに座ると、内装を見回して言った。

「ジョングクと私まで同乗を許されるとは、、、」

セオドラ卿もただただ驚くばかりだった。

「陛下の御心が伝わりますね。遠慮なく乗せて頂きましょう」

対照的にテヒョンは楽しそうだった。

そして馬車は港を出発し、国王の待つ宮殿へ向かった。



沿道には沢山の国民が二人を迎える為に並んでいた。その列はなんと、ロンドンの宮殿にまで続いていたのだ。街のあちらこちらでは、ジョングクの功績を称える横断幕や、テヒョンとジョングクを敬う旗などが飾られていた。

「これは凄いな、、、」

「怖いくらいです、、、」

「ですが、有り難い事でございますな、、」

テヒョンもジョングクも左右に代るがわる手を振り続けていたので、だいぶ腕も首も疲労していた。

そして馬車はやっと国王のいる宮殿の門をくぐった。


「ああ、何も変わっていません、、、」

ジョングクが幾度も通った宮殿の敷地内を懐かしそうに見て言った。

馬車が国王専用の出入り口に着いた。

すると近衛兵が馬車の扉を開いた。

「お帰りなさいませ!皆様」

なんと、その近衛兵はトーマスだった。

「トーマス!」

テヒョンが先に馬車から降りて、トーマスに抱きついた。

「テヒョン様、、、お帰りなさいませ、、、」

「ただいま!」

トーマスは既に泣いていた。

「トーマス、、、」

トーマスはもう一人の声の方を向いた。するとジョングクが続いて降りてきて、トーマスに抱きついた。


「大佐!!・・・ああ、、、お待ちしておりました!」

「帰って来たぞ!自分の足で」

「本当にようございました、、、」

トーマスは涙でくしゃくしゃになった。

テヒョンやジョングクも泣いていたが、相変わらずトーマスはその上をいっていた。

「ジョンソン大尉、向こうでは礼を言う暇もなかったが、、、随分と世話を掛けたな。色々と手を尽くしてくれてありがとう。とても助かった」

「とんでもございません、、、私も無我夢中でしたので、、、」

セオドラ卿は握手をすると、トーマスの肩を抱いた。


「では、、、皆様、陛下がお待ちでございます」

もらい泣きをしながら待っていた侍従が三人を案内した。

宮殿内に入ると居合わせた貴族達が、テヒョン達に気付いて挨拶をした。そして拍手で称えた。

控えの間に着くと扉の前にいる近衛兵が、三人を中へ入れた。

「今しばらくこちらでお待ち下さいませ」

侍従はそう言うと控えの間を出ていった。


間もなく侍従長が迎えに来た。

「お帰りなさいませ殿下、チョン伯爵、セオドラ卿」

侍従長も心なしか涙目になっていた。

「ただいま」

テヒョンが応えると、頷きながら握手をした。

「お待たせ致しました、陛下がお待ちでございます」

三人は部屋を出て、国王の部屋の前に来た。

扉を守る近衛兵が踵を鳴らして合図をすると、少し間があってから勢いよく扉が開いた。するとすぐそこに国王の姿があった。


国王はテヒョンとジョングクの姿を確認すると、いきなり二人一緒に抱きしめた。

「お前達、、、許さぬぞ、国王をこれほど心配させるなど、決して許さんからな!」

「申し訳ございません、、、陛下」

ジョングクが泣きながら言う。

「我が儘を申しまして、、申し訳ございませんでした、、、」

テヒョンも涙ながらに言った。

「・・・馬鹿者が、、、」

国王も涙を我慢しながら苦言を言い放つが、ついに涙が流れた。

「二人とも、、、よくぞ帰って来た!!待っておったぞ、、、待っておった、、、」

国王は力強く二人を抱きしめながら泣いた。セオドラ卿は静かに近付いて、国王の背中に手を当てた。


周りで見守っていた者達が、皆もらい泣きをしていた。

ようやく国王はテヒョンとジョングクを解放した。

「陛下、大切な馬車をお送り下さり、感謝申し上げます」

「お前達だけだぞ」

国王はそう言って笑った。

「さあ、お前達の為に昼の食事を用意してあるのだ」

「有難き幸せにございます」

ジョングクが嬉しそうに応える。国王は笑って、

「二人とも先に行ってよいぞ」

と、促した。

「ではお先に参ります」


テヒョンとジョングクはお辞儀をすると、侍従に案内され国王の部屋を出て行った。

「ご苦労でしたな、セオドラ卿」

国王は振り向いて、改めて握手を求めた。

「恐れ入ります。色々ございましたので、正直生きた心地はしませんでした」

「ジョングクがあのように回復出来たのですから、喜ばしい事です」

「大公子殿下のおかげでございます。あの方がいらっしゃらなければ、ジョングクは助かりませんでした」

「私はあいつのあの真っ直ぐな気迫には勝てなかった、、自分しかジョングクを助けられないという絶対的な信念ですよ、、、」

「私も同じでございました。ですので何度も陛下の名前を出させて頂き、説得致しました」


「そのせいで私はテヒョンにとって悪者になったわけだ、、、」

セオドラ卿は『はい』と答えて笑った。国王も笑い出した。今こうして笑えるのも、テヒョンの意志を尊重したからこその結果だからだ。

「では我々も参りますぞ」

「はい」

国王とセオドラ卿は、テヒョン達を追って食事の席へ急いだ。



※ 画像お借りしました

グレナディアガー(Wikipedia)