群青と真紅 2【《㉑》ジョングクの苦悩】 | Yoっち☆楽しくグテを綴る♡

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テテとグクの Me Myself写真集にインスピレーションを得て【群青と真紅】をブログ内で執筆中です️

グクとチョン伯爵
🎂Happy Birthday 🎉



前回の物語


【ジョングクの回復】


時は既に一年の締めくくりに入ろうとしていた。
「今朝は凄く寒いな、、、」
「はい、やっと冬らしくなって参りました」
テヒョンの身の回りの世話する従者が応えた。
フランスのこの年は珍しく初冬が暖かかったので、季節が遅れを取り戻すかのように一気に進んだ。
着替えを終えたテヒョンは、窓辺に行くと窓を開けて外の空気に触れた。
窓の下には庭園に続く小さな小道があって、その先に白い息を吐きながら走ってくる人影が見えた。
「ジョングク!!」
声が届いたようで、その人影は大きく手を振りながら徐々に近付いて来る。

ジョングクのリハビリはもう仕上げに入っていて、走れるまでに回復した。
医師からの勧めもあり、ゆっくりと走るリハビリを取り入れ、毎朝警護を2人付けて走っていた。
ジョングク達が走る側で、ブラッドハウンド犬が一緒になって走っていた。この犬は《ルネ》といって、フォンテーヌブロー宮殿で飼われている、れっきとしたフランス宮廷の犬だ。ジョングクがリハビリで庭園を行き来するようになってから、遊んで欲しくてついてくるようになった。
「元気だなぁ、、、」
テヒョンは見守るような表情で、ルネとふざけ合いながら戻って来るジョングクを見つめていた。

ジョングクは、丁度テヒョンが居る部屋の窓の下に差し掛かった所で、
「おはようございます、テヒョン様!」
と声を掛けた。
寒い空気の中で頬がピンク色に染まっているのが、テヒョンの所からでもよく見える。
「おはようジョングク、ルネ!」
テヒョンがルネにも声を掛けると、尻尾を降って吠えた。一緒に遊んで欲しいようだ。
「後で遊んでやるぞ!お前もご飯をもらっておいで」

警護の二人はテヒョンにお辞儀をすると、ジョングクにも挨拶をして、ルネを連れて宮殿の詰め所へ戻って行った。
「テヒョン様、支度をして参りますので、また後で、、、」
ジョングクはそう言ってテヒョンに笑顔で投げキスをした。珍しく陽気な仕草をするので、テヒョンも思わず笑って真似をした。
「殿下、お風邪をひいてしまいます」
長々と窓辺に張り付いていたテヒョンに、従者が声を掛けてきた。
「本当だ、指先がすっかり冷たくなっている、、、」
テヒョンは窓を閉めて、すぐに暖炉の前に座り込む。

「殿下、チョン伯爵がすっかりご回復なさって、本当にようございました」
「うん・・・本人の努力もあるが、、それはフランス宮廷や政府の協力と、君達のように世話をしてくれる人達の存在があってこそだ。本当に感謝している」
「我々はチョン伯爵の尊い聖戦に、尊敬の念を持っております。お命が危ぶまれましたが一命を取り留め、また、ご婚約者でいらっしゃる殿下が、ずっと寄り添われてここまで辿り着かれた事に、感動致しております」
「ジョングクの勝利は皆が言うように敵と一対一で対峙するという、戦争としては最も危険な状況下でのもの。称賛されるのは当然であろう。でも、私の場合は婚約者として当たり前だと思った事をしたまで、、、」

従者はテヒョンの飄々とした気取らない姿に驚くが、改めて敬意を持った。
王族だとか王位継承権を持つ立場とかで権威を振りかざす事なく、自身のあり方を堂々と表に出す姿は、逆により一層高貴な様を感じさせたのだ。
一般に知られる王族の人間は、決して自らの手で献身的に誰かの世話をすることはしない。
だがフランスや他のヨーロッパ諸国では『英国の大公子は瀕死の婚約者の看病の為に、船に乗ってフランスへ駆け付けた』という話が美談となって広がりつつあった。

「私達の話が美談になっていると聞いて、些か気恥ずかしい思いもあるのだがな」
テヒョンは複雑な笑みを浮かべた。従者はにっこり笑うとこう言った。
「暴動から始まり戦争にまでなって、ヨーロッパ中の人々は心身ともに疲弊しております。我が国では終戦直後から暴徒が略奪を繰り返してパリは混乱しておりましたし、、、そこに心温まるお二人のお話がございました。皆心救われたことでございましょう」
「・・・そう捉えてくれますか、、、」

「はい。最初の頃はチョン伯爵のご容体は、決して予断を許さないものだと伺いました。それが殿下がお見えになってから、見事にご生還なされて皆に喜びが広がりました。チョン伯爵のご回復は、戦争で傷付いた全ての人々にとっても復興の力添えになっていると信じております。今や《英雄》でございます」
テヒョンは改めて《英雄》という言葉を聞いて、そういえばアルテミエフにとどめを刺し、その場で処刑をした時の状況について、未だジョングクの口から聞き及んではいない事を思い出した。
罪人の処刑直前にジョングク自身が刺された事は本国で聞いている。だが、アルテミエフを仕留めた時の話は本人はおろか、アンジェロもトーマスも口には出さないでいた。

実は、アンジェロは英国の国王宛にアルテミエフ処刑までの詳細を報告書にして送っていた。元々は特殊部隊の最高責任者である、大佐のジョングクが提出するべきだったのだが、本人が昏睡状態であったので代筆を務めた。
アンジェロはフランスを離れる前に、テヒョンに『ジョンは帰国後、もしかしたら軍務について審議に掛けられるかもしれない、、、』と話していた。
テヒョンがその時、あの日何があったのかと訊いてみたのだが、今は何も知らない方がいいと口を噤んだ。ただ帰国してから召集が掛かり、テヒョン自身が驚かないように、という配慮で話してくれたようだ。

ただ一つだけ教えてくれた事がある。
「ジョングクは敵を殺傷する度に、その人数を数えていた」という事だった。
テヒョンは何とも言えない辛さを感じた。命に対する重みや尊さを片時も忘れず、それでもそれを奪っていかなければならなかった地獄が伝わってくるのだ。
テヒョンはアンジェロの言う事を受け入れ、詮索することなく今はただジョングクに寄り添う事だけに専念しようと決めていた。
この先何が起ころうとも全て受け入れられる自信があった。自身を信じ、ジョングクの生命力を信じてここまで来れた実績がある。
だから、何があっても《越えていける》そんな確固たる自信が備わっていた。

テヒョンの指先が温まった頃、部屋の扉にノックの音がした。従者が扉を開くとジョングクが着替えを終えてやって来た。
「おはようございます、チョン伯爵」
「おはよう」
迎える従者に挨拶をしながら入って来る。そして両手を広げるとフワリとテヒョンを腕の中に包み込んだ。更に肩に頭を乗せると両腕に少し力を込める。テヒョンも応えて抱きしめた。

まるで小さな子どもが、母親の抱擁の中で自分の居場所を確認するかのように、ジョングクはテヒョンの肩に甘えた。
「それでは失礼致します」
従者が二人の姿を見届けて静かに部屋を出て行った。 
意識を戻し目を覚ましてから、ジョングクはよくこうして甘えた抱擁をするようになった。
テヒョンも特に何も言わず、自然にそれを受け入れていた。

「あなた様が確かに私の腕の中にいるのだと、、、こうして抱きしめる度に実感致します、、、、」
その言葉に、やはり戦場での事がかなり影響しているのかもしれないとテヒョンは思っていた。
それで思う存分抱きしめられていると急に頭を上げて、
「テヒョン様、朝食に参りましょう。とてもお腹が空きました、、、」
と、食欲に負けた言葉が出た。
「ははは、、、分かった、では行こうか」
テヒョンはジョングクの髪をクシャっと撫でて軽くキスをすると、一緒に部屋を出て行った。

食堂にはセオドラ卿が既に席に着いていた。立ち上がりテヒョンに挨拶をする。
「おはようございます、殿下」
「おはようございます。今朝はまた一段と寒くなりましたね」
「本当に、体調にはお気を付け下さいませ。ジョングクは特にな」
テーブルに着いて暫く話しをしていると、食事が運ばれて来た。
ジョングクは黙々とフォークを口に運んだ。身体が着実に回復した為か、エネルギーを欲しているようだ。
テヒョンもセオドラ卿もジョングクの食事の姿を見て、全く食べられなかった時期が嘘のように感じた。

食事が一通り終わり、カフェ・オ・レが注がれる。セオドラ卿が一口飲んだ後に切り出した。
「ジョングクの帰国の許可が下りましたぞ」
「本当ですか!?」
ジョングクが身を乗り出して訊いた。
「ヴァンティーダの医師もニュウマリーの医師も、お前の回復力には驚いておったぞ。以前よりもかなり強固になっているとな。もう充分に船での帰還に耐えられるそうだ」
セオドラ卿は普通に話をしていたが、目尻のシワには息子の回復に心からの喜びが見えた。テヒョンは父親の顔を見せる義父に、当たり前なのだが親の愛情を感じた。

「では、日程はいつ頃になるのでしょう?」
「殿下は国王陛下の代理という公式のお立場でのご滞在でございますから、今後予定がされている、フランス国王や政府主催の催しにご参加された後、ということになりそうですな」
セオドラ卿の言う通り、この後テヒョン達の帰国までには、フランス宮廷及び政府主催の様々な行事が続いた。
そして最後に英国大使公邸に於いて、英国王室主催でフランス国王夫妻と首相、大臣クラスを招いての晩餐会が催された。

テヒョンやセオドラ卿は通常の正装で、ジョングクは大佐として軍服の正装で全ての行事に赴いたのだが、ジョングクはどの催しの場でも、なんとなく落ち着かない様子だった。
更に《英雄チョン大佐》としての対応だけに、戦時中の話が話題の中心になり質問攻めになる事もあった。
とかく自分が現地で戦闘を経験していない高官等に限って、興奮気味に功労者の武勇伝を聞きたがる。ジョングクは複雑な表情で淡々と説明をしていたが、却ってそれが余計に聞く側の興味を刺激してしまったようだった。

「大丈夫か?」
テヒョンは異変に気付いて、静かに声を掛けた。
「はい、、大丈夫です」
取り繕うような笑みで応えたが、テヒョンには誤魔化せない。
セオドラ卿も息子の様子には気付いているようで、視線を向けないまでも意識はしていた。
ジョングクの心には、確実に戦争の影が落とされていた。そうだ、そうなのだ、、、何も影響されていないわけがなかった。

テヒョンはジョングクの心を思うと苦しい気持ちになったが、見守る姿勢を続けようと改めて思うのだった。本人の口から、彼を苦しめる《見た事、あった事》を聞けるまでは寄り添う以外最善策は無いと感じた。その役割はまた自分しかないという自負もあり、より一層愛情を注ぐことに気持ちを置いた。

セオドラ卿もよく分かっていて、息子の事はテヒョンに一任するつもりでいた。
ただ、帰国後に開かれるであろう大佐としての軍務について、審議会が開かれると想定しているので、そこはヴァンティエストの統括を担う責任者として、また父としても息子と一緒に挑む腹積もりはできていた。ジョングクもそれは認識しているだろう。


ある日の午後、テヒョンとジョングクは遊戯室に居て、ビリヤードを楽しんでいた。
ジョングクは上機嫌で玉を次々にポケットに落とし込んで行った。
「ビリヤードは久しぶりですが、前より調子が良いみたいです」
ビリヤードも楽しんでいたのだが、帰国が出来る事が本当に嬉しかったようだ。しかし、次のキューを撞いたところでポケットを外した。ジョングクは悔しそうに舌を出した。
「やっと僕の番だな」
テヒョンはタップにチョークを着けながら言うと、狙いを定めて手玉を撞いた。

狙った玉は次々とポケットに引き込まれて行った。そして結果は同点に終わった。
「わぁ、、同点ですよ。そうでした、そうでした!テヒョン様もビリヤードはお得意でしたよね」
テヒョンはニヤリと笑った。
そこへ侍従がやって来た。
「殿下、お客様がお見えでございます」
「お客?」
侍従が一旦戻って行く。
「どなたが見えられたのでしょうね?」
そして侍従が戻って来た

「ガブリエル・テレーズ・ド・ヌヴェール伯爵夫人でございます」
その婦人は入口でカーテシーで挨拶をした。
「お久しぶりでございます。大公子殿下、チョン伯爵」
「ああ!貴女はフランシスの従姉のガブリエル嬢でしたね」
「テヒョン様、苗字が変わられていらっしゃいますよ」
ジョングクが気付いた。
「はい。あれから私も結婚致しましたので、今はヌヴェールを名乗っております」

「それで伯爵夫人になられたのですね。ご結婚おめでとう」
「ありがとうございます。大公子殿下とチョン伯爵もご婚約なさっていらっしゃいますよね、おめでとうございます」
「「うん、ありがとう」」
二人が揃って言ったので、息が合ったテヒョンとジョングクを見てガブリエルは笑った。
「今日はわざわざ会いに来て下さったのかな?」
「はい!お二人がフランスにいらっしゃる事は存じておりましたが、チョン伯爵が大変な状態でいらしたので、お目通りをお願いするのも躊躇致しておりました」

「そうだったのですね」
「今はほら、こんなに元気ですよ」
ジョングクが胸を張って見せた。
「ああ、、本当に良うございました。ご回復とうかがうまでは、それは不安やら、心配やら、、、気が気ではございませんでした。でも吉報を聞きしましてから、早速面会のお取次ぎを夫に頼んだのでございます」
「そうでしたか、、ご心配をお掛けして申し訳ない」
ジョングクは頭を下げた。
「ああ、お謝り頂かなくとも宜しいのです」
ガブリエルは恐縮した。

三人の挨拶の頃合いを見て、ワゴンが運ばれて来た。
「ヌヴェール伯爵夫人が作られましたエクレール(エクレア)でございます」
ワゴンに乗ったお皿には、細長いシューの上にショコラがかけてあるお菓子が並んでいた。
「そうだ、貴女はフランシスのお菓子の先生でいらしたな」
「あら!それは大袈裟でございますわ。無類のお菓子好きなだけですのよ」
言いながらケラケラ笑った。
「これは、どんなお菓子なんです?」
「中にカスタードクリームが入っていて、シューは軽くて食べやすくなっております」

ワゴンを運んできた給仕係はテーブルがある方に行って、茶器やお菓子の皿をセッティングしていった。
「今日は一緒に清(しん)国のお茶もお持ち致しました。甘いお菓子にとても合いますの」
給仕係が手伝って、ガブリエルが自らお茶を淹れると、室内に香ばしい香りが広がった。
準備が出来ると三人でお茶の時間を楽しんだ。
「貴女も本当にお菓子作りが上手だ」
「本当に。フランスでも美味しい手作りのお菓子が頂けるとは、、、」
ジョングクは嬉しそうに言った。

「沢山召し上がって頂けて、作りました甲斐がございますわ」
美味しそうにパクパクと食べるジョングクの姿をにこやかに見ていた。
「そういえば、もうお国にお帰りになるのだとか、、、」
「ええ、ようやく彼を診てくれていた医師から帰国の許可が下りたのですよ」
「そうですか、、、喜ばしい事ではございますが寂しくなりすわ」
「フランスが落ち着かれましたら、是非また我が国へお越し下さい」
「はい、必ず。フランシスのアンドリューにも会いたいですし」
この後も三人はフランシスの結婚式の思い出話や、アンディーの話などで盛り上がった。
夕方近くまで過したガブリエルは、名残惜しそうにフォンテーヌブロー宮殿を後にした。


【テヒョンとジョングクの帰還】

帰国の準備が始まった。
大事をとってジョングクの主治医が英国からやってきていた。
「先生、わざわざありがとうございます」
「いいえ、とてもご帰還までは待っていられませんでした。ですがジョングク様のお元気な御姿をこうして拝見出来て、とても安心致しました。この目で確かめるまでは不安でございましたから、、、」
主治医の言葉にジョングクは、照れ笑いのような顔を浮かべた。


帰国の予定がフランスの社交界に知れ渡ると、滞在しているフォンテーヌブロー宮殿を訪ねて来る貴族が増えた。
その数があまりにも多いので、一時的に《謁見》の場を設けて対応することになった。フランスでもテヒョンとジョングクの人気は絶大だった。
普段静かなフォンテーヌブロー宮殿が、まるで一大イベントのような賑わいだった。
「まさかこんなにも大袈裟な事態になるとは、、、大丈夫だったか?」
「私はもう長丁場でも耐えられますよ」そう言ってジョングクはにこっと笑った。

明日、テヒョンとジョングクは、ようやく帰国の途につくことになった。
二人はルネを連れて、最後の散歩をしていた。ジョングクのそばにいられるのが嬉しいのか、離れずに寄り添って歩いている。
「ルネとこれだけ仲良くなりますと、離れるのが辛くなります、、、」
「毎朝一緒にリハビリに付き合ってくれたのだ、無理もないだろう、、、」
テヒョンがルネの頭を撫でると、その手をペロっと舐めた。
「でも、この仔と一緒にいると、いつもうちのパックスを思い出してしまって、、、元気でいてくれているのか、、、」
ジョングクがルネのおでこを指でくすぐった。パックスによくやっていた仕草だ。すると、ルネは顔を真っ直ぐ向けてきて目を細めた。

テヒョンはその様子を微笑ましく見ていた。
「実はね、僕がフランスへ出発する日、パックスはハンスと一緒に見送りに来てくれたんだよ。いつものパックスらしくとても元気だった」
「そうだったのですね、、、」
「でも君とずっと離れているから、寂しがってはいるだろうな」
「ああ、、早く会いたいです」
「もう帰れるのだから、直に会えるよ」
テヒョンはルネを挟んでジョングクの肩を引き寄せた。
「ルネ!僕と一緒に走るか?」
テヒョンの誘いに、ルネは嬉しそうに跳ねて早くも走り出した。

「あ!ズルいぞ!待てよ、こら待て」
慌てて後を追いかけた。
「ふふふ・・・テヒョン様、遊んであげるというより、ルネに遊ばれてる」
ジョングクは笑いながら愛おしそうに《ふたり》のはしゃぐ姿を見ていた。
「おーい!ジョングクも早く来いよ!」
「はーい!今参りますよ」
ジョングクが駆けていくと、ルネがまた先へ先へと走り出した。《三人》は笑ったり吠たりしながら庭園を駆けずり回った。少し離れた場所で見守っていた警護の者達が、見失わないように慌てて追い掛けた。


「あーー・・・息が切れる、、」
テヒョンが芝生に座り込む。はぁはぁとかなり呼吸が上がっている。
「大丈夫でございますか、テヒョン様。ですが、いい運動になりましたね」
「そうだな、、、」
テヒョン達が休んでいると、ルネの飼育員がやってきた。
「お、どうやらご飯の時間らしいぞルネ」
ジョングクがルネのたるんだ顎の皮膚を愛撫して言った。
「殿下、チョン伯爵、ルネを迎えに参りました」
ルネは分かっているらしく、大人しく飼育員のそばについた。

「ご滞在中、この仔を可愛がって下さり、本当にありがとうございました。こちらには年若い職員が少ない為、ダイナミックに遊ばせる事が出来ずにおりました。
こうして、お二人から可愛がられている事を知られた陛下が、とても喜ばれてまた感謝されておりました」
「ルネは私のリハビリに、毎度付き添ってくれたので楽しく続けられましたよ。その上こちらもルネの遊び相手として役に立てたようで良かった」
「とんでもございません。充分過ぎる程でございます」

ジョングクはルネの前にしゃがみ込んだ。
「ルネ、、、もうお別れなんだよ」
頭を撫でながら言った。言葉は分からなくても、雰囲気で何かを感じ取ったらしくクゥ〜・・ンと鳴いた。
「そんな目で見ないでおくれ、、、涙が出てしまいそうだ」
ジョングクの目はもう既に潤んでいた。
テヒョンも飼育員も悲しげな表情で見ていた。
テヒョンとジョングクは途中何度もこちらを振り返りながら、飼育員と詰め所に戻って行くルネをずっと見送った。
「パックスが見ていたら、相当やきもちを妬かれたな」
テヒョンはいつまでも立ち尽くすジョングクの腰を叩いて言った。


フランス最後の夜、二人は同じベッドで眠っていた_______
夕食を食べて食後のワインを飲んで、明日の為早めに眠りについたのだ。


己の弱さに呑み込まれるのだ。
優しさなど「力」には及ばぬ

やめろ・・・

苦しむがいい

やめろ・・・

ハハハハハ・・・

やめろーーー!!!

ギャアァァァーー!!!!

やめろーーー!!!


ジョングクはうなされて目が覚めた。
脂汗をかきながら呼吸が荒くなっている。
「大丈夫か?」
空を見ていた目がテヒョンの声の方へ向く。
「テヒョン様、、、、」
「僕がいるから、大丈夫だ」
テヒョンはジョングクの身体を引き寄せて、優しく包み込んだ。
何も言わず、訊く事もしないでただ抱き締めてやった。

「テヒョン様、、、」
「ん?」
「実は、時々、、、こうしてうなされて目が覚めます」
「そうか、辛かったな、、、」
「私は、アルテミエフの首に歯を刺した上に、、、食いちぎりました、、、」
テヒョンは衝撃的な告白を受ける。そして思い切り強く抱きしめた。
「あいつが、、、夢に出て来て、何度も私に呪いのような言葉を掛け、、、最後にはまた、、、私に食いちぎられるのです!!、、、あの苦痛の叫びが耳から離れません、、、」

なんということだ、、、、
ジョングクは夜に時折、独りで悪夢に悩まされていたのだ。
苦痛に歪む顔を見てテヒョンの胸は苦しくなった。
「水を飲むか?」
コクンと頷く。テヒョンはジョングクからそっと離れてベッドから出ると、冠水瓶から水を取り彼の元へ戻った。
一度グラスをサイドテーブルに置くと、身体を起こすのを手伝ってやる。
「一人で飲めるか?」
「大丈夫です、、、」
テヒョンからグラスを受け取ると、ゆっくりと飲み始め最後はゴクゴクと一気に飲み干した。

「・・・・すみません、ありがとうございます」
「気にするな」
テヒョンは背中を擦ってやった。
「さ、落ち着いたらまた寝直すぞ」
「あの、、、テヒョン様、、、」
ジョングクは何か言い掛けて言葉に詰まる。
「それ以上話したくない事は、無理に全て話す必要はないぞ」
「でも、、、私達は何事も、お互いに打ち明け合おうと約束致しました」
「うん。だからと言って、、、自身で消化出来ていない事まで言う必要はないのだ」

ジョングクはテヒョンをじっと見つめた。テヒョンは何もかも分かっているよといった表情をした。
「君が話せる準備が出来たらでいい。その為に僕はいつも君のそばにいるし、君の心を守ってやる」
ジョングクは安心したような笑みを浮かべた。
「ゆっくりお休み、、、」
テヒョンが言うとジョングクはその胸に顔を埋めた。こうして素直に寄り掛かってきた身体を愛おしそうに抱き締めてやった。そして思った。きっとアルテミエフの事ばかりではないのだろうと。
敵を殺傷する度に、その人数を数えていた》という話を思い出した。

表では英雄と称えられるジョングクだが、その裏には想像を絶する位の苦悩があるのだ。
もう二度とそんな思いはさせないと、テヒョンは強く思うのだった。
ジョングクが安心してスースーと寝息を立て始めた。それを聞きながら、いつの間にかテヒョンも深い眠りに入っていった。



つづく________

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