前回の物語
物語の続きが始まります✨✨✨
【実戦に続く道のり】
カレー港______
ジョングク達がフランスのカレー港に到着すると、ヴァンティエストの援護をする為に、連合軍から派遣された連隊が迎えに来ていた。
この部隊は、今までの戦闘で援護するという形だけで次々と敵方を鎮圧させた精鋭部隊だ。
艦艇から降り立ったジョングクの前に、連隊の指揮官が出迎えの挨拶をする為に近づいて来た。
「大佐?・・・・チョン大佐ではございませんか!?」
「なに?、、、トーマスか!?おお、トーマスではないか!」
「お久しぶりでございます!チョン大佐!」
ジョングクは驚いた。目の前にいたのはあのトーマスだったからだ。久しぶりの再会に肩を抱き合う。
「援護射撃や威嚇砲弾の名手が揃った連隊が、我々に付いてくれると聞いていたがお前の所だったのか。かなり早い勢いで戦闘、暴動を鎮圧させているそうだな。」
「現地に着いてから、戦闘に参加する度に何度か連合軍同士で各部隊を再編致しまして、兵士達の体力を温存させたのです。」
「なるほどな。そのおかげで正確な攻撃が継続出来たわけだ。無駄打ちと、落とす命も少なくて済む、、、」
《命》の言葉が出て二人は目を合わせた。そうだ、無駄に命を落とすなどジョングクもトーマスも望んではいない。
「あの、、、」
まだトーマスには理解が追いついていない事があるようだ。
「大佐が連合軍の野戦部隊として出征される事は、軍広報から伺っておりました。ですが今回私は《ヴァンティエスト》の援護に回れと、内密に指示が下ったのです、、、全て機密事項だということで詳細を知らされることはなく、今こうしてここに迎えに参ったわけで、、、」
二人の間に沈黙が漂う。ジョングクがニヤリと笑った。
「そうなのだ、私はそのヴァンティエストの指揮官として派遣されてきた。元々我が国の機密組織として編成された、第44特殊部隊の私は大佐なのだ。テヒョン様から直々に辞令を受けて忠誠を誓った。誇り高きテヒョン様の部隊だ。」
「大佐、、、では貴方様は、、、」
「そう、私はヴァンティーダ族の人間なのだよ。」
トーマスは一瞬驚いた表情をしたが、すぐ納得したような笑顔になった。
「大佐は、あの誇り高きヴァンティーダであったのですね。やはり、、、貴方様には以前から何か特別な空気が漂うのを感じておりましたが、、、」
トーマスは言いかけて、パッと姿勢を正した。
「改めまして、ご到着をお待ちしておりました!我々一同、第44特殊部隊の父であられるキム・テヒョン殿下への忠誠をお誓い申し上げます。」
トーマスがテヒョンのエンブレムが刺繍されている軍旗に向かい宣誓すると、率いる連隊の隊員達もそれに従い敬礼をした。
ジョングクとトーマスは固く握手を交わした。
「それではこれから、皆様を駐屯地にご案内致します!」
駐屯地までは全員馬での移動だった。
トーマスの連隊を先頭と最後尾の二つに分けて、間にヴァンティエストを挟むようににして隊列を組んだ。
トーマスはジョングク達と共にいて、一つ前を先導していた。
アンジェロがトーマスを見ながら訊ねる。
「あの元気ハツラツなあの者は指揮官か?」
「はい。彼は元々我が国の連合軍の指揮官です。第二陣の野戦部隊の大尉をしております。名前をトーマス・ジョンソン男爵といいます。」
「お前の知り合いか?」
「はい、友人の一人です。母国では王宮付き近衛騎兵連隊に所属しております。」
「王宮の近衛兵が連合軍にいるのか?」
アンジェロは驚いた。
「彼は近衛師団の近衛兵以上の戦闘力がありますよ。」
「いやしかし何故わざわざ連合軍に入ったのだ?命令か?」
「いいえ、彼自らの志願です。理由は我々と同じですよ。」
「ああ、なるほど・・・そうか、、戦争なんてもんは切ない男ばかりを生み出すだけだな。」
アンジェロが詩人のような言い方をするので、ジョングクの口から笑いが漏れた。
「こんな時に笑わせないで下さいよ、兄さん。」
「バカだな、こんな時だからこそ笑った方がいいんだ。」
トーマスが何やら言い合う二人に気付いて振り返った。
「お二人は仲がよろしいのですね。」
「ああ、まだ紹介していなかったな。
これはアンジェロ・ディ・ソレンティーノ中佐で、私の母方の従兄でもある。ナポリ王国のヴァンティエストだ。」
「そうでしたか。初めまして中佐、トーマス・ジョンソンでございます。どうぞ宜しくお願い致します。」
「こちらこそ宜しく、大尉。今日までの君達の働きぶりはよく聞いている。」
トーマスはヘラクレスの彫像のような容姿をしたアンジェロに、軍人としての屈強さを感じた。
アンジェロの方もトーマスを近衛兵らしい端正な顔立ちだと思ったが、しかし体つきには鍛え上げられた強靭さを感じた。
アンジェロとトーマスはお互いに敬礼をして挨拶をしめくくった。
「あの、、大佐。テヒョン様やキム公爵家の皆様はお元気でいらっしゃいますか?」
「ああ、とてもお元気でいらっしゃるぞ。テヒョン様も大公殿下もスミス殿も。」
「そうですか、、、良かった。」
ジョングクはトーマスが訊きたい事は、それだけではないであろうことは分かっている。だがなかなか訊ねてこない。
馬の蹄の音だけがただ続いていく。ジョングクは痺れを切らして訊いた。
「フランシスやアンディの事をどうして訊かない?」
トーマスが真っ直ぐ前を向いたまま応える。
「身内の話は憚れます、、、」
「馬鹿だな、、、訊けよ。戦闘が始まればそんなこと言っていられないのだぞ。」
「大佐、、、」
「何を躊躇して恐れている?お前は家族の為にここにいるのだろう?出征前に私にそう話してくれたではないか。お前のエネルギーとなる家族の話だ。遠慮なく訊け。」
トーマスはその言葉にふっと笑みをこぼした。
「家族は、、、私のフランシスとアンディは元気でおりましたでしょうか?」
ジョングクは頷きながら笑って応えた。
「うん!フランシスは健気にお前の留守をしっかり守っていたよ。アンディはもうひとり遊びが出来るようになっているぞ。」
「ひとり遊びですか、、、」
トーマスはフフっと笑って、
「早く一緒に遊んでやりたいです。」
と、父親の顔を見せた。
「フランシスがトーマスは手紙に泣き言を書いてこないと言っていた。だが、それこそが《我慢》しているからだと彼女には分かってしまうのだ。私のテヒョン様と同じで察しが鋭いからな。」
二人で笑う。
「少しは手紙に弱音も書いてやれ。それは決して不甲斐なさの露呈ではないぞ。フランシスは自分は必要とされていると思うだろうし、信頼の証じゃないか。お互いにそれは必要な事だ。」
トーマスは視線を遠く前に見据え、
「そうですね、、、」
と応えた。
ジョングクは話しながら、自分にも言い聞かせているようだった。
「久しぶりにこのようなお話が出来て、国で皆様方と過ごした日々を思い出します。」
「必ず帰ってまた笑って暮らすのだ。」
「はい!」
二人の脳裏にはテヒョンやフランシスやアンディの笑った顔が浮かぶ。幸せを絵に描いたような人々の笑顔を涙に暮れさせるような事は許さぬと、ジョングクもトーマスも改めて心に刻んだ。
暫く隊列は進んでいたが、ようやく目的地が見えて来た。
ジョングク達が到着した駐屯地は、フランスとベルギー王国の国境を跨いだ、同盟国で設営された連合軍の本拠地だった。
ここでジョングクは、査察隊から偵察隊へと役目が変わった捜査官から、セルゲイ・ヴィダ・アルテミエフの最新の潜伏状況の報告を受ける事になっている。
彼等捜査官は古くから隠密捜査を担ってきたヴァンティーダ族だ。
司令本部に集まったのは、大佐のジョングク、中佐のアンジェロ、大尉のトーマスと捜査官三人の合わせて六人。
冒頭から捜査官は重い口調で話し始めた。
「アルテミエフの居場所を突き止めるのに、かなり時間を費やしましたが、、実は、、、D帝国から動かずそこに居たことが分かりました。」
「なんと!・・・・」
どうやらアルテミエフは、自分の影武者をいくつか遣わしたようで、敵の査察を目眩まし優位に行動していたようだ。
「念術を使っても全て反応が返って来ないのでおかしいと思っておりました。
しかし、D帝国に残した捜査官の一人が飛ばしていた《念》に反応が見られたので、まさかと思い再度念を飛ばしてみた所、見事に皇帝の宮殿から強い反応が返ってきました。」
この捜査官のいう【念術】とは、ヴァンティーダ族が持つ超霊力の一つで、特定の人物の捜索などに使われた。
ターゲットとなる人物へ念を飛ばして、それに対する反射反応で居場所を突き止める事が出来た。
「チョン大佐、D帝国の皇帝は呪術洗脳されております。」
「もしかして、、アルテミエフがやったのか?」
「はい、あの者は呪術の使い手だという情報があります。覚醒はしていない為、ヴァンティーダとしての本来の力はありませんが、呪術は代々訓練が受け継がれているらしく、かなり使えるらしいのです。」
「では皇帝は呪術によって、王位継承権略奪の加担をするように洗脳されているというのか?」
「はい。それで我々は皇帝への洗脳を弱める為に、こちらから妨害波動を行っております。」
「敵側に気付かれずにやるのが一番だが、そこは上手く出来ているか?」
静かに報告を聞いていたアンジェロが訊いた。
「波動を送る際に、アルテミエフ本人には一時的に結界を張っておりますので大丈夫でございます。」
「波動を出しながら遠隔で結界を張れるのか?」
「我々は皆、それが出来ます。」
捜査官はニヤリとして自信を込めて答えた。
「中佐、彼等はヴァンティーダ族きっての超霊技術の覇者ですよ。」
「そうだったな。だが一人が同時に別の術を使いこなすとは相当な進化じゃないか?」
「そのおかげで私達が行動しやすくなりましたよ。捜査官の諸君、よくやってくれた。」
「はっ!」
「波動送波は継続して行うのか?」
「洗脳が解けるまで、現在も継続しております。」
「ならばそれと並行して俺達も進軍した方がいいな。」
ジョングクは深く頷いた。
「チョン大佐、我々偵察隊もキム・テヒョン殿下への忠誠をお誓い申し上げます。」
リーダー格の捜査官がそう宣言すると、司令本部に掲げられている第44特殊部隊名《Duke of Venus(金星の公爵)》とテヒョンのエンブレムが刺繍された軍旗に向かい、捜査官三人が揃って背筋を伸ばし敬礼をした。
「ありがとう。」
礼を言うとジョングクも敬礼をした。
「大佐、引き続き作戦会議でいいか?」
見守るようにして見ていたアンジェロが声を掛ける。
「はい。」
という返事を聞いて、アンジェロは直ぐに司令本部を出ると集合を掛けた。
ヴァンティエストとトーマス率いる連隊が集められ、作戦会議が始まる。地図を広げ敵国に向けての進軍ルートを確認し、あらゆる不測の事態に備えての対応を確認する。
「我々は明日、D帝国に向けて出発する。
現在D帝国では、ドイツとオーストリアから派遣された連合軍が、戦闘を続けている状態だ。敵は軍隊だけではなく過激派も混在しているそうだ。」
ジョングクは部隊の者達に向けて話す。
「我々の使命は戦闘ではなく、あくまでもセルゲイ・ヴィダ・アルテミエフの処刑だ。その為に我々は派遣されたのだ。なんとしても、必ず息の根を止める。その意志を改めて共有しておきたい。」
「「はい!」」
出発の朝、ジョングクは胸元からロケットペンダントを取ると、開いて中のテヒョンの写真に口づける。
『テヒョン様、これから使命を果たしに行って参ります。』
大切な人の眼差しに心の中でそう話し掛けた。そして写真を閉じると軍服の中にペンダントを大事に戻した。
そして後ろを振り向くと、控えていた隊列をぐるりと見渡して、大きく指揮杖を振り上げて号令を出した。
「前進!!」
馬に跨ったヴァンティエストの一団が一斉に動き出した。それに合わせるように、
「それぞれの隊列に分かれ進め!」
トーマスが自身が率いる連隊に号令を掛けた。既に戦闘準備はされている。大砲での砲撃を担う砲兵隊を筆頭に、いつ敵が現れても迎撃出来るよう、各々のライフル銃の装備は万全だった。
目的のD帝国に到着するまでには、侵入を阻む敵側の防御兵達をいくつか突破しなければならなかった。
目的の場所までの道のりは長い。途中でテントを張りキャンプをしながらの移動が続いた。中継地点では味方の連合軍から食料と水の補給と、頑張って自分達を運んできてくれた馬の交換をして更に先に進む。
ようやく敵国が見えてくる所まで、ジョングク達一団が進んで行くと、その先で轟音と共に物凄い勢いの土煙が上がった。
【戦地にいるジョングクからの手紙】
キム公爵邸_______
朝、テヒョンはベッドから出ると、窓辺に立って空を見上げる。
ジョングクが出征して4ヶ月が経とうとしていた。胸元からロケットペンダントを取って開くと、凛々しい瞳でこちらを見る愛しい人の顔があった。テヒョンはその写真に口づけた。
『君は今どこにいるの?無事でいるのか?』
投げ掛ける術(すべ)もなく、心の中の彼に呼び掛ける。
ノックの音の後にデイビスが入って来た。
「殿下、お目覚めでございますか?」
「おはよう、ここにいるぞ。」
デイビスは声のする方を向いて、主人の姿を確認した。
「おはようございます。国王陛下から大公殿下とご一緒に、宮廷へ参内するようにとお呼びでございます。急ぎお召し替えを」
「そうか分かった。」
テヒョンはペンダントを閉じると、急いで用意された服に着替えた。
着替えを終え玄関に向かうと、大公もオルブライトを伴い降りてくる所だった。
「おはようございます父上。」
「おはよう、出掛けられるか?」
「はい。」
「では参ろう。」
馬車は既に玄関口に停まっていた。スミスが見送りの為に待機している。
「おはようございます、大公殿下、テヒョン様。」
「おはよう。もうこれからはずっとデイビスを伴わせてよいのだな?」
「はい。テヒョン様専属の従僕として、私の補佐も要らない位に成長致しました。ですので全任したいと思います。宜しいでしょうか?」
「うん、問題ない。」
テヒョンはデイビスを見ながら応えた。
「デイビス、しっかりテヒョン様にお仕えするようにな。では、皆様方行ってらっしゃいませ。」
スミスが見送る中、大公とテヒョンは馬車に乗り込んだ。オルブライトとデイビスが続いて乗ると馬車は動き出した。
国王からの呼び出しとなると、派遣させた連合軍の話に違いない。それを察して馬車に乗ってから、黙ったままでいるテヒョンを見て大公は声を掛けた。
「きっとジョングクからの最初の経過報告があったのではないか?」
「そうだとよいのですが、、、」
テヒョンは笑い切れない笑顔で応えた。
大公もオルブライトもデイビスもただ見守るしか出来なかった。
宮殿に到着すると、すぐに国王の私室に通された。
そこには既にセオドラ卿の姿があった。
「おはようございます両殿下、陛下は直ぐに戻られます。」
大公とテヒョンが挨拶を受けると、すぐに国王が姿を見せた。
「おはようございます国王陛下。」
「叔父上朝早くにありがとうございます。テヒョンもセオドラ卿も忙しい中呼び出してすまないな。」
大公とテヒョンは座るように勧められて腰を下ろした。
「今日呼び立てたのは他でもない、ジョングクから戦況報告が上がってきたのだ。」
テヒョンは国王の顔を見た。
「まずは先にジョングクから届いたお前宛の私信を渡そう。」
国王はジョングクの名前を聞いて、真っ先に反応したテヒョンに封書を差し出した。
「第44特殊部隊は機密部隊だから、個別に書簡を交互に送り合うことは出来ぬ。情報漏洩を防ぐ為に、全て国王である私に送られてくる。部隊に送る時も私からしか送れぬ。」
「では私からの書簡を陛下にお預けしても宜しいでしょうか、、、」
「ああ構わぬぞ。今日明日で間に合うのであれば託せ。」
「ありがとうございます。」
テヒョンはジョングクからの封書を受け取って、それを胸ポケットにしまうと国王が読み上げる、戦況報告に意識を向けた。
「どうやらジョングクの部隊はトーマスが率いる連合軍の連隊が援護に就いたようだ。」
「では二人は一緒に行動しているということですか?・・・これは偶然ですか?」
「偶然ではないのだ。トーマスの連隊はヨーロッパ中から派遣された連合軍の中で、戦闘と暴動の鎮圧を一番多く成し遂げた、並み居る精鋭が集まった部隊なのだ。」
大公がそれらの功績に敬意を持って話した。
「叔父上の言う通りでな、ヴァンティエストの作戦を完璧に遂行させる為、トーマスの連隊が援護の為にジョングク達の元に派遣されたのだ。」
「ということは、最強の編成組織が組まれたことになるのですね。」
「そうだな。特にトーマスは兵士達の能力が偏らないため、また体力を温存させるために、多種多様に部隊を再編していたようだぞ。それが功を成して結果に繋がったのだ。」
「・・・なるほど、、、戦闘で無駄に命を落とさないようにという、トーマスの信念が感じられます。」
テヒョンが言葉を噛みしめるように言ったので、国王達は何かを思い巡らしているようなその表情を見つめた。
「では戦況報告を確認するぞ。」
国王は報告書の封を開けて書面を開いた。
しばらく書かれている文面に視線を走らせていたが、徐ろに話し始めた。
「フランスのカレー港に到着した後、第44特殊部隊はフランスとベルギー国境にある連合軍の駐屯地に向かったようだな。
それとだな、、、偵察隊からの報告で明らかになったことがある。」
国王は一瞬言葉を止めて大公とテヒョンの目を見た。
「セルゲイ・ヴィダ・アルテミエフは、D帝国の皇帝を呪術洗脳していた事が分かった。叔父上が懸念していた事が当たりましたよ。」
「やはり、、、そうでしたか。」
大公は苦々しい表情で言った。
「父上、一体どういう事なのですか?」
「いや、、今回のP国の王位継承権略奪の企てに、なぜD帝国の皇帝が手を出してきたのか、理由が全く分からなかったのだ。その後にガヴェレナ系ヴァンティーダで、それも滅んだ元皇帝の子孫が主導していたと知って、更に分からなくなった。」
「そうですよね。元々D帝国はP国に縁がないばかりか、利害関係もないですからね。そんな中で何故アルテミエフの企みに加担するのか、、、逆に不利益ですよ。」
「テヒョンの言う通りなのだ。それで何か良からぬ力を使ったのではないかと思い、ヴァンティーダの超霊力について調べていたのだ。セオドラ卿にも可能性のあるものを訊いたりしてな。」
「叔父上からその話を聞いて私も納得した。今回の報告で確証出来たということだ。」
「ヴァンティーダ本来の力は無いとしても、呪術の使い手として代々訓練を繰り返して来た元皇帝の子孫を利用するつもりで匿ったのだろうが、逆に利用されることになろうとは、、、」
セオドラ卿が冷たく言い放った。
「それで、戦況はどうなっているのですか?」
テヒョンが一番気になるところを訊いた。
「大丈夫、ジョングクは無事だぞ。」
国王は気持ちを察して先にそれを答え、戦況について説明を続ける。
「特殊部隊であるヴァンティエストの任務はアルテミエフの《処刑》であるから、まずこの者の身柄を確保する必要がある。その為に偵察隊が波動を送り、D帝国の皇帝の洗脳を解く事を行っているそうだ。」
「確か偵察隊の捜査官達は超霊技術に秀でているのでしたな?」
大公がセオドラ卿に訊いた。
「はい。それも選りすぐりの者達を集めて、隠密での捜査をさせております。」
「皇帝の洗脳が解ければ、ヨーロッパの中で立場が危ういD帝国を思えば、アルテミエフの身柄を差し出すことになろうな。」
「アルテミエフが逃げなければ、、ということでしょうが、どちらにしろ孤立させてしまえばこちらのもの。」
「ジョングクとトーマスの一団は駐屯地を離れ進軍している。途中敵軍からの砲撃を受けたようだが、どれも素人が放つ的外れだったらしい。トーマスの砲兵隊の一撃で敵側は離散したそうだ。どうやら砲弾を撃ち込んできたのは、D帝国の市民兵だったようだな。」
国王は報告書の更に先を読み続けた。
「市民に大砲を撃たせるなど正気ではない!一般人を徴兵してまでやるような戦闘ではないのだ。」
大公が怒りを顕にする。テヒョンはジョングクが《砲撃を受けた》という事実に動揺が隠せなかった。いくら戦況報告書を書いた時が無事であったとしても、《今》はどうなのか、、、。戦禍の中に入ったならば、戦闘は激しさを増すばかりであろうことは優に想像出来る。
「これが書かれたのか2カ月前だ。今の詳しい状況は分からぬが、我が国の報道部隊によれば、ヴァンティエストとトーマスの連隊は既にD帝国国境付近に着いているそうだ。」
「今が正念場でございますな、、、」
セオドラ卿が静かに言ってその場が静かになった。
先程から沈痛な表情のテヒョンに、国王が言葉をかける。
「テヒョン、報告書の最後に書いてあった事を伝える。
トーマスの連隊も偵察隊も《Duke of Venus(金星の公爵)》と名付けられた、第44特殊部隊の父であるキム・テヒョンに忠誠を誓ったそうだ。」
「え?」
テヒョンは驚いた顔をした。
「これはな、使命を持った者皆がお前の名の下に忠誠心を寄せ、また支えにして戦うという誓いだぞ。」
「陛下、、、」
国王は優しい顔で頷いた。
「この戦争が終わったら、その者達を我が国に招待して労ってやることだ。それまで信じていてやるのだ。」
「・・・はい。」
大公もセオドラ卿も優しくテヒョンを見守った。
戦況報告が全て終わる。
「朝早くからご苦労であった。朝食が用意される、一緒に食べて行ってくれ。それまでゆっくり休んでいてもらいたい。」
「ありがとうございます。」
テヒョンは先に礼をしてすぐに国王の部屋を出た。足早に宮廷内にある自身の私室に向かう。途中デイビスがテヒョンの姿を見つけて声を掛けた。
「殿下!」
「デイビス、私は部屋で食事までの間過ごす。お茶も何も要らぬ。」
「はい、かしこまりました。」
立ち止まることもなく、そそくさと通り過ぎる後ろ姿をデイビスはずっと見送った。
部屋に入るとそのまま窓辺に立って、胸元にしまっていたジョングクからの手紙を取り出した。封蝋を解いて開くとそのまま顔に近づけて、大きく息を吸い込む。愛しい人の温もりを少しでも感じたい、、、ほのかなインクの香りが胸を切なくさせた。手紙に綴られている見慣れた文字に彼の面影が浮かび上がる。
テヒョンはドキドキしながら文字を追い始めた。
親愛なるテヒョン様
この手紙があなた様のお手元に届くのはいつになるのでしょうか。
私はフランスに到着後、ベルギーとの国境にある駐屯地を経て、D帝国を目指して進軍を始めました。
その前に駐屯地で誰に会ったと思いますか?なんとトーマスですよ!
「さっき陛下に聞いてもう知っているよ。」
テヒョンはクスクスと笑う。
トーマスは我々の援護の為に連隊を率いて来てくれました。連合軍の中で一番戦闘と暴動を鎮圧させた精鋭部隊です。こんな心強い事はありません!
敵国までの道のりは長く、私達は何度もキャンプをしながら移動し、ようやく敵国に近付いた頃、我々に向けて砲弾による攻撃を受けました。しかしトーマス達の迎撃により難なく突破致しました。
どうかご心配なさいませんよう、、、
とは申しましても、無理でございますよね、、、
私はあの出発の日を思い出します。あなた様はきっと私が乗った艦艇が見えなくなるまでお見送り下さったのでしょう?
「そうだよ、、、目を離すなんて出来なかったよ。見えなくなるまで僕は君を見送リたかったからね。」
テヒョンもあの日を思い出し、切なさがよみがえる。
私はあなた様がじっとこちらを見送っていることを想像して、切なくて仕方がありませんでした。だからすみません、、すぐに船内に入ってしまったのです。
もうすでにあなた様を抱きしめることも出来ないと思ったら、苦しくて仕方がなかったのです。
今でもこれを書きながら、あなた様に会いたい、抱きしめて口づけたいと思ってしまいます。
でも、だからといって決して弱気にはなってはおりません。あなた様への想望が全て私の力になるからなのです。
ああ、今もあなた様を愛しいと思う心に突き動かされています。
テヒョン様、どうかお変わりなくお健やかでいて下さい。
全ての愛と尊敬を込めて、私の愛する大切なテヒョン様へ
あなたのジョングクより
最後まで読み終えたテヒョンは、手紙を胸に抱くとしばらく窓の外を見ていた。頬には真っ直ぐに涙がこぼれ落ちた。静かな時が流れたが、鳥の鳴き声を窓辺に聞いて、切り替えたように窓から離れると、書き物机に座り便箋を取り出した。
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