群青と真紅 70【〜 truth 〜深まる絆】 | Yoっち☆楽しくお気楽な終活ガイド

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アラフィフの生活や周辺で起きたことを書いています☆
そしてときどき
終活のガイドをさせていただきます

現在、BTSの底なし沼にハマり浸かっております
ガチガチのグテペンです
現在、テヒョンとジョングクをモデルに小説を執筆中☆



前回の物語

物語の続きが始まります✨✨✨


【〜颯〜】


テヒョンは風を切って駆け抜けていく。
心が急くその先にいるのは、心を揺さぶられる魂の持ち主。
初めて交流を交わした後、また直ぐに会いたくなって、今ではすっかり通い慣れたこの道を馬に乗って疾走らせた。

『ちょうど1年前のあの日と同じ秋の陽の中で、彼を思いながら通り過ぎた街並み。
あの日のわくわくとした思い出が、逸る僕の気持ちを益々加速させる。
こんなにも会いたい、そばに居たいと彼を求め乞うなんて・・・
僕の想いはもう意識を超えてしまった。自分でも手に負えないほど、お互いの魂が引き寄せ合っているとしか説明がつかないのだ。』

二人は海岸に打ち寄せては返す波のように、心の揺れ動きを巡ってきた。
その度に大きな懐と、慈愛の心で寄り添い静かに待っていてくれたのは、、、  

そう、いつもジョングクだった。

何があっても、テヒョンがいつだって最後に行き着く所はジョングクなのだ。

『身も心も僕の居場所はジョングク以外に考えられない。』

急いで彼の元に駆けていくテヒョンの背中に、追い風が後押しするように吹いてくる。
前方には段々とチョン伯爵家の門が見えてきた。



門番が駆けて来る馬に気付いた。
「おい、あれは、、、キム公爵ではないか?」
そこにいた門番達が目を凝らす。
「本当だ、急いでお取次ぎを早く致せ!」
「いや、もう間に合いません!」
「キム公爵ならお取次ぎはいらないのではないか?」
門番が慌てるが、館まで取次に行くのが間に合わない程、馬の脚が速かった。
「やあ、こんにちは!」

テヒョンは一旦馬を停めて声を掛ける。

「いらっしゃいませ、キム公爵!」
門番達が声を揃えて応えた。テヒョンはにっこり笑うとまた馬を走らせ館に向かう。

「ハンス様!キム公爵がお見えです。」
従僕の誰かが叫んだ。ハンスは窓から外を見下ろすと、テヒョンが馬に跨がったまま玄関前にいる姿を目にした。
驚いたハンスは慌てて執務室を出ると、急いで玄関に向かった。 
息が上がったまま玄関の扉を開けた.。
「やあ、こんにちは。ジョングクはどこです?」
「キム公爵、、、もうお体はよろしいのですか?・・・・」
「ええ、この通り。・・・それより、あなたの呼吸の方が随分苦しそうだ。大丈夫ですか?」
テヒョンのその言葉にハンスは拍子抜けしてしまった。

「ジョングク様はパックスと一緒に、この先のお庭に・・・」
「ありがとう!」
テヒョンはハンスが言い終わらない内に、馬を走らせ教えられた庭に向かった。
「・・・やれやれ、、、」
ハンスはテヒョンが走り去る後ろ姿を眺めながら、その場に崩れて座り込んだ。
「ハンス様!どうされました?」
従僕が慌てて近付いてきた。
「いや、私は大丈夫だ。それよりキム公爵がおいでになられた。お支度を急げ。」
「はい、かしこまりました。」
ハンスは一息つくと立ち上がり、
「高貴なお身分の方がお一人でお出掛けとは、危のうございますと、確か1年前に申し上げた筈でございます・・・」
と呟いて笑った。


「パックス!いいぞ!ほら、これが取れるか?」
ジョングクは噴水の辺りでパックスと遊びながら、時々空を仰いである人を想っていた。するとパックスが、もっと遊んでくれというように足に絡みついてくる。
「ははは、、分かった、分かった。よしよし。」
絡みつくパックスを抱き上げようとした時、馬のいななきが聞こえた。
ジョングクが頭を上げて、聞こえた方を向くと誰かが馬に乗って走って来るのが見えた。


テヒョンは館から少し離れた芝の間の小道を駆けていた。すると噴水の近くでパックスと戯れているジョングクらしい姿を見つけた。テヒョンが馬を急かせるとその拍子にいなないた。
あの姿を確認しただけで、胸の鼓動が切なく速くなる。一気に彼に向かって馬を疾走らせた。 
「ジョングク〜〜〜!!」
声を先に届ける。
「・・・テヒョン、、、様?」
ジョングクの声が震えた。
テヒョンはもどかしくなって、かなり手前で馬を降りると、そのまま駆けて行く。

ジョングクはパックスを下ろすと走り出した。
「テヒョン様っ!!」
「ジョングクッ!!」
もう二人共名前を呼ぶ声が、叫び声に変わっていた。
お互いの距離がようやく近づく。
テヒョンが大きく両手を広げ、そのままジョングクの胸に飛び込んだ。ジョングクはテヒョンを受け止めると、きつく抱きしめる。
「テヒョン様、、、もう大丈夫なのですか?」
テヒョンは少し頭を上げると、心配そうに見つめる顔を両手で包み、返事の代わりに口づけをした。
初めて交わす深い、とても深い口づけだった。
ジョングクは目を見開いて驚いたが、やがて瞼を閉じて、自分からもテヒョンの唇を求めた。

二人はもう何年も会っていなかった想い人同士に思えた。お互いの両手は、その存在を確かめ合うように狂おしく弄り合う。
絡めた唇はそれ以上混ざり合えないのに、それでも深く甘く求めることを止められない。
気が付くとテヒョンもジョングクも涙で頬が濡れていた。震え呼応する二人の魂は、お互いの瞳から想いの雫となって流れ出る。
もうこの二人を阻むものなど、何もなかった。
ただ、あるとしたら・・・
二人の足下でワンワンと吠えているパックスだけだ。
テヒョンとジョングクはやっと唇を離した。二人で名残惜しそうにお互いの口元を見る。自然に笑みが溢れると、額を合わせて無言の会話をした。

パックスは容赦なかった。更にワンワンと吠えながら、飛びついてくる。
とうとう二人は笑い出してしまった。
「分かったよ〜〜。」
ジョングクはパックスを抱き上げた。
「邪魔したら駄目だよ〜。」
そう言いながらテヒョンが頭を撫でると、パックスは顔を舐めてきた。
「テヒョン様、ちょっと待っていて下さい。」
ジョングクはパックスをテヒョンに渡すと、スタスタと歩いてテヒョンが乗ってきた馬の所まで行った。馬はどこかへ行くこともなく大人しく足元の草を食べていた。垂れ下がった手綱を取るとゆっくりとテヒョンの元に戻って来た。

「ああ、、、すっかり忘れていた。ありがとう。」
テヒョンは礼を言うと、馬の額を撫でた。
「この子を厩舎に連れて行きます。テヒョン様は先に屋敷に戻りますか?」
テヒョンは馬越しに首を横に振った。
「いや、君と一緒に厩舎に行くよ。」
今は片時も離れたくない、、、テヒョンはそう思っていた。
厩舎までの道のりを二人は馬を挟んで歩いて行く。パックスはテヒョンの腕の中で、すっかり大人しくなっていた。

「お元気な姿が見られて、本当に良かった・・・」
ジョングクは心から安堵した。実際にテヒョンの姿を見るまでは、気が気ではなかったのだ。
「せっかくの君の誕生日だったのに、僕の事情で騒ぎになってしまったな。」
「いいえ、私の方が取り乱してしまったので、申し訳なかったです。」
テヒョンはフッと笑みを漏らした。
「でもそのおかげで、ずっと心に引っ掛かっていたものが解けたのだ、、、」

「それで、、、苦しくはございませんか?」 
ジョングクはそう訊いて、たてがみが揺れる向こう側にいるテヒョンの横顔を見た。テヒョンは少し空を見上げた。
「苦しいよ、、、悲しくて、辛くて、考えたくなかった。」
「テヒョン様・・・」
「だけど、それでも感謝の気持ちが自然に浮かんで来るんだよ、、、僕を必死で守ってくれた人達がいたから、今こうして僕は人生を歩めているからね。」

テヒョンはそう言って笑った。
「そうですか、、、良かった、、」
「君もその一人だろ?僕を1番に守ってくれる、、、僕の大切な人だ。」

ジョングクはテヒョンの言葉に、一気に胸が熱くなった。大切な人から《大切な人》だと言われる幸せ。
満面な笑顔で自分を見てくれるその姿が、本当に可愛くて、愛おしくて仕方がなかった。大人の紳士をとても可愛らしく思うなんて、恋とは不思議なものだなと改めて思った。

厩舎に着いてテヒョンの馬を馬丁に預けた。
「テヒョン様のお馬だ。2、3日お世話を頼む。」
テヒョンが横で聞いていて、驚いてジョングクの顔を見た。
「ではキム公爵、お預かり致します。」
馬丁の声に前に向き直ると、
「急にすまぬな。よろしく頼む。」
と声を掛けた。馬丁はニッコリ笑うとお辞儀をした。
「さ、テヒョン様パックスをこちらへ。重かったでしょう。」
「あ、、うん。」
ジョングクはパックスを受け取ると、二人は厩舎を出た。

「ジョングク、、、」
「あなた様は、、帰しませんよ。」
ジョングクはテヒョンの言葉を遮って、真剣な眼差しを向けて即答した。
「え、、?」
何を言おうとしたか、分かって返って来た言葉に、テヒョンの胸が甘く疼いた。
「私の我儘を聞いて頂きます。」
今度は優しい笑顔を向けて言った。
「では、、どんな我儘を言われるのか、楽しみにしていよう。」
テヒョンは少しはにかみながら言った。



【出会いから1年】


屋敷に戻りジョングクの部屋に行く。部屋に入るとハンスが早速お茶を運んできた。
「キム公爵、今回はごゆっくりご滞在頂けるのでしょうか?」
「ええ、ご迷惑でなければ。」
「迷惑などあろうはずがございません。伯爵家の職員達は公爵がおいでになると、皆が色めき立って喜びます。」
「ハンスもその内の一人だものな。」
ジョングクが笑いながら言う。
「はい、勿論でございます。公爵にすぐに懐いてしまったこの子と一緒でございますよ。」
ハンスはパックスを抱き上げながら言った。
「犬と同じということか?」
ジョングクがからかうと、3人で笑った。

「どうかごゆっくりお過ごしになって下さいませ。ジョングク様も普段お忙しくされていらっしゃるのに、お休みがあってもなかなかゆっくりなさいませんから、キム公爵とご一緒に休息を取って頂きたいと思っております。」
ハンスは体の休息の事ではなく、精神面での休息を言っているのだとテヒョンは気付いた。
それだけジョングクの軍務は激務化していた。大公やセオドラ卿が頻繁に国王と会合を重ねているのも、テヒョンは知っているのだ。それが戦争回避の為であることも。
「では後ほどお夕食をこちらに運ばせて頂きます。」
ハンスはそう言うと早々と部屋を出た。

「なぁ、、ジョングク。僕の出生の話は聞いているか?」
「はい。あの日の誕生日の夜に、父上から伺いました。」
「僕達は従兄弟同士であったのだな。・・・なんとも不思議な巡り合わせではないか。」
「父上は導かれた運命ではないか、と申しておりました。」
「導かれた、、運命・・・・」

「初めてテヒョン様にお会いした、エジンバラの離宮、、、本来であればご招待を辞退する予定でした。」
「偶然だな。僕も参加するつもりはなかったのだ。」
「あまり宮廷行事に積極的ではない私に、父上からそれでは失礼になると説得されました。」
「僕は国王陛下のご命令だ。キム公爵が参加すると告知したのだから必ず出席せよと、半ば強制だった。」
二人は顔を見合うと吹き出して笑った。

「やっぱり私達は導かれたのですね。」
「国王陛下とセオドラ卿に感謝せねばならぬな。」
もしあの日、二人がエジンバラの離宮に居合わせなかったなら、今の二人のようにはならなかったのだろうか?
そんな事を二人は思い巡らした。
急にテヒョンのティーカップがカタリと動いた。ジョングクがテヒョンを引き寄せて口づけたのだ。不意を突かれたテヒョンはティーカップから手を離すと、その手をジョングクの胸に置いた。するとすかさず手のひらで包まれ指を絡められた。
それだけで大切に扱われてる実感が湧いて、自然に身を委ねるように甘えた。
ジョングクの方は、躊躇なく全身で甘えてくれることで、守る者としての自尊心が満たされて、心の底から力が漲ってくるのを感じた。

秋の夕風がふわりとカーテンを揺らして、仲睦まじく寄り添う二人をからかう様にくすぐる。悪戯な風にジョングクの前髪がテヒョンの額を撫でた。
「くすぐったい、、」
テヒョンが笑う。
「それは私のせいではありません、、、」
ジョングクは更に強く抱きしめると、もう一度唇を重ねた。



「テヒョン様。」
「うん?」
「ヴァンティーダの血を半分受け継いでおられても、あなた様が覚醒されていなくて良かった、、、」
「ジョングク・・・・」
腕枕で微睡んでいたテヒョンは、ジョングクの言葉に視線を上に向けた。
「我々ヴァンティーダの宿命を背負うのはとても過酷です。それをあなた様に背負わせたくありません。」
テヒョンはジョングクの人見知りの理由が見えた。人見知りではなく交流を避けていただけなのだ。『過酷』だと口にした裏で、どんな葛藤と戦ってきたのか計り知れなかった。
今度はテヒョンが包み込むように優しく抱きしめた。


夕食前、テヒョンの宮殿から被服類が届けられた。
「テヒョン様、まさかどなたにも何も言わずに来られたのですか?」
ジョングクが驚いて訊いた。
「いや、ジョングクの所に行くと申してきた。でなければここに届け物をする事は出来ないし、大騒ぎになるじゃないか。」
「そうでした。でもそれだけ、、でございますか?」
「うん。」
ジョングクはテヒョンのあまりにも素直な『うん』の返事で、心を持っていかれてしまった。
『確か去年初めていらした時も、お供を連れずにお越しになったはずだ。お一人だけでの来訪にハンスが驚いていた。』

ジョングクは笑い出してしまった。
時々テヒョンは見た目の威厳とは違う、天真爛漫な姿を見せてくる。それが可愛くて仕方がなかった。
びっくりする程の相反する姿は、更にテヒョンの魅力になるのだか、その誰にでも見せる訳では無い姿を1番見せている相手はジョングクだった。
「何で笑っているのだ?」
「いいえ、特に理由はございません。」
テヒョンは訝しげにジョングクを見た。
『ああ、やめて下さい、そんな表情をされたら・・・』テヒョンの眉間にシワを寄せた表情に、我慢が出来ずに吹き出した。
「僕を見て笑っているではないか!」

ジョングクは笑いが止まらなかった。
「ジョングク〜〜!」
テヒョンがバシッと肩を叩いた。
9月1日のあの日、テヒョンにとって衝撃的な事実が分かったあの夜。
あれから数日しか経っていないのに、テヒョン自身が元気である事が救いだった。空元気であればこうして一人で馬を飛ばして会いに来るなどあり得なかっただろう。
「まぁまぁ、楽しそうでございますね。そろそろご夕食になさって下さいませ。」
ハンスが食事のワゴンを運んできた。

食卓の準備をしながらハンスはテヒョンの様子を伺った。何もかも事実を知った後どう心理的に影響したのか、ハンス自身もテヒョンの誕生を見守っていた内の一人だ。心配で仕方がなかった。
しかし、今までと変わらずジョングクと笑い合っている姿を見て安堵した。


「キム公爵、ソレンティーノ伯爵が明日帰国される前に、お会いになりたいと申されております。お会いになりますか?」
「明日お帰りになるのか。
では、宜しければ食後のお茶をご一緒にいかがですかと訊いてくれますか?」
「はい。食堂になさいますか、こちらになさいますか?」
「ジョングク、ここでもよいか?」
「勿論でございます。」
「では、そのようにお伝え致します。」
ジョングクの誕生日に初めて会った伯父。自分のルーツを知っている血の繋がった身内の一人だ。
尚且つジョングクとの繋がりも共通して持っている。テヒョンはきちんと話をしなければならない相手であると思った。

夕食の後、ハンスが紅茶とワインを持って入って来た。
夕食の食器を下げテーブルを整えると、そのまま部屋を出た。それと入れ違うようにソレンティーノ伯爵がジョングクの部屋へやって来た。
「どうぞ伯父上。」
ジョングクが迎え入れる。
ソレンティーノ伯爵はジョングクの肩を擦った。そして正面を見ると真っ直ぐにテヒョンに向かって歩いてきた。
テヒョンは立ち上がった。

「お寛ぎの所、お邪魔をして申し訳ありませんな、テヒョン様。」
「いいえ、私の方こそあの日きちんとご挨拶出来ずに失礼致しました。」
テヒョンとソレンティーノ伯爵は初めて握手を交わした。
「立派な公爵になられましたな、、、」
伯爵は感慨深げにテヒョンを見て言った。
「伯爵は生まれた時の私しかご存知ないのでしたね。」
「はい。我が一族はナポリを拠点とした貴族ですので。あの時はあなた様がお生まれになる大事で、主要なヴァンティーダ族の長がこの国に集まりました。」
やはり自分の出生は、ただ事ではなかったのだとテヒョンは思い、一体どれだけの人達に影響を与えたのだろうと考えた。

「英王室も我々もテヒョン様をお守りするべく、皆で誕生をお待ち致しました。そもそもが前例のない事。無事にお生まれになれるのか、それは不安や心配が尽きませんでした。」
ジョングクは紅茶とデザートをテヒョンとソレンティーノ伯爵の前に置きながら聞いていた。
「しかし、あなた様は皆の心配を超えて元気な産声を上げられました。それはそれは見目麗しい王子のご誕生だったのですよ。お健やかなご誕生に皆が喜びました。」
「今も元気だけは取り柄でございますよ。」
テヒョンは笑って言う。

「いやいや、それだけではありませんぞ。テヒョン様の麗しいお姿もさることながら、沢山の功績の噂はナポリにも届いておりますよ。それも全て大公ご夫妻が大切にお育て下さった証。大公妃殿下がお亡くなりになられてからは、更に公爵家の方々が総意で心寄せられて、ご教育なさったと伺いました。」
亡き母の事に触れ、テヒョンは気に掛かっていた事を思い切って訊いてみることにした。
「伯爵。1つ確認したい事が、、、」
「はい、何でしょう。」
「これは、伯爵にしか伺えない事です。私は覚醒していないと聞きましたが、本当に母上の死に影響していないのでしょうか、、、」
「テヒョン様、、」
ジョングクが話に割って入ろうとして、ソレンティーノ伯爵に遮られた。

「テヒョン様、それはあり得ない事です。
もしも何かしら影響すると分かっていたなら、あなた様は監視の付いた、かなり厳しい状況下で暮らさねばならなかった筈でございます。」
ここでソレンティーノ伯爵は何かを思い出したように笑い出す。
「これは失礼。
幼少期のあなた様は本当に活発で、よくお怪我をなさっていたそうですよ。お付きの方や使用人達がお怪我の手当の際に、血液に触れる事もあったそうです。でも、誰一人その為に亡くなったり、体調を崩したりする者はいなかったと聞いていおります。」

「本当ですか?」
「はい、どうかご心配なさいますな。実母からの母乳で育てられていないヴァンティーダの子どもは、覚醒しないということは何代にも渡り既に実証がされております。しかし、今回の事は何もかも初めての事でしたので、あなた様のご成長記録はしっかり取られております。今後同じように生まれてくるかもしれない子ども達の為に、こちらの王室も私共ヴァンティーダも改革を始めているのです。」
テヒョンの顔が安堵に変わる。

「お可哀そうに、、、お心を痛めておいででしたか?母君は最初のお子様出産後の産褥期が、あまりよろしくなかったと伺っております。あなた様のせいではありませんよ。
それよりも、あなた様の存在が我々種族の新しい活き方に一投を投じたのです。誇りを持って頂きたい。」
テヒョンはジョングクの方を見た。ジョングクは笑って応えた。


「伯父上、ワインをいかがですか?」
「おお、是非頂こう。」
ジョングクがボトルの栓を開けて、グラスに注いだ。
「二人の甥と一緒にお酒を酌み交わせる時が来るなど、思ってもみなかった・・・」
ソレンティーノ伯爵は嬉しそうにテヒョンとジョングクと乾杯をすると、じっくりとワインを味わいながら楽しんだ。
しばらく3人で楽しんだ後、ソレンティーノ伯爵は席を立った。
「では、テヒョン様今夜はありがとうございました。明日の出発の事もありますので、この辺で休ませて頂きますよ。」
「こちらこそお話を聞いて下さり、ありがとうございました。」
「ではお休みなさいませ。」

ソレンティーノ伯爵が部屋を出ると、ジョングクは優しく後ろからテヒョンを抱きしめた。
「テヒョン様、、、一度に色々な事があって、ご不安な事が沢山ありましたよね、、、」
「そうだな・・・自分が何者か知った時、、、特に母上の事についてはもしかしたら僕のせいではないかと、すぐに思ってしまったのだ。」
「お支え出来なくて申し訳ないです、、、」
「馬鹿だなぁ、君が僕の支えだからこそ、会いたくて馬を走らせて今ここに居るんじゃないか。」
ジョングクは今度は強く抱きしめた。
テヒョンは大公から、ジョングクが今回の件の責任を感じているようだと聞いた事を思い出した。

「今回の事については、君には何の非もないよ。」
テヒョンはくるりと向きを変えた。
「知るべくして真実を知った。それだけのことだ。」
ジョングクはじっとテヒョンの目を見つめていた。ふとその視線をテヒョンは外す。
「正直、、、父上の本当の息子ではなかった事は、、まだショックが残ってるんだ、、、」
ジョングクはテヒョンの頬を撫でた。そして瞳いっぱいに涙を浮かべる。
「何で君が泣くのだ・・・?」
「あなた様の、、、心の痛みが、私の胸に訴えてくるからです、、、」

ジョングクはしっかりとテヒョンを抱きしめると、髪を優しく撫でる。
「だけど、だからと言って僕が父上に持っている愛情は変わらない。実子以上の愛情を頂いていることも知ったから。」
「そうですとも、、、そうですとも、、」
ジョングクは頷きながらテヒョンの背中を擦っていた。


次の日
ソレンティーノ伯爵が帰国の為に馬車の所まで来ると、テヒョンとジョングクが待っていた。
「これは、わざわざお待ち下さったのですか?」
「夕べ伝え忘れていた事がありましたので、、、」
テヒョンはそう言ってソレンティーノ伯爵の手を取った。
「また是非お会いしたいです。《伯父上》道中お気を付けて、、、」
ソレンティーノ伯爵はテヒョンの言葉に感極まって抱きしめた。
二人はしばらく無言のまま抱き合っていた。ジョングクはその姿を見守った。



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