群青と真紅 67【 Yin Yang の二人】 | Yoっち☆楽しくお気楽な終活ガイド

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終活のガイドをさせていただきます

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ガチガチのグテペンです
現在、テヒョンとジョングクをモデルに小説を執筆中☆



前回の物語


物語の続きが始まります✨✨✨



【休暇明け】


「それでは殿下、お品物のお引渡しはこれで完了となります。」
去年の暮れに、フルオーダーで依頼していたジュエリーがようやく完成した。
「今回も想像以上に美しく仕上げてくれましたね。とても気に入りました。」
「ありがとうございます。私どもも制作を重ねながら、美しいフォルムにとても感動致しました。」
目の前で美しくラッピングされた箱が一つ、テヒョンが自身で身に着ける方は、ジュエリーケースのままベルベット地のトレーに乗せられ手渡された。
早速自分用を身に着ける。
「よくお似合いでございます。」
テヒョンは何度も角度を変え眺めた。
「本当にカルティエは、秀でた職人を沢山お持ちですね。さすがです。」
「お褒めに預かり光栄でごさまいます。殿下がデザインを考案された今回のジュエリー制作は、私共も心から楽しませて頂きました。本当にありがとうございました。」
カルティエのチーフデザイナーは、深々と頭を下げると、次の顧客の元へと移動して行った。人気のデザイナーは息つく暇もないようだ。

出来上がったジュエリーを持って自分の部屋に戻り、鍵付きの戸棚に大事にしまう。『喜んでくれるだろうか』受け取ってくれる人の姿を想像すると自然に顔がほころんだ。
部屋から執務室に移動する時もニヤニヤが止まらなかったようで、すれ違う職員達が皆振り返った。



夏休暇の間にそれなりに溜まっていた仕事に手を入れ始める。
ふと目に止まった私信の中に、プロスペクトニーのレオ・サイモンのサインがされた封筒を見付けた。ペーパーナイフを取り出して封を切る。
中からおぼつかなく折り畳まれた画用紙が出てきた。広げてみると子どもが描いたであろいう人物が二人いる。
テヒョンはふふっと笑うと更に封筒の中に入っていた手紙を開いた。
書面はレオからで、テヒョンから贈ってもらったクマとウサギのぬいぐるみのお礼と、ダニエルとルーシーから、そのお礼にと描いた絵について説明が書かれていた。

部屋の扉を叩く音がしてデイビスが紅茶を持って入ってきた。
「デイビス、この絵を見てくれ。」
「随分と可愛らしい絵でございますね。」
デイビスはティーカップをテヒョンの前に置きながら、向けられた画用紙の絵を見た。
「プロスペクトニーを訪問した先の子ども達が描いた私とジョングクだそうだ。」
「ああ、スミス様からうかがいました。殿下とチョン伯爵に、とても懐いていらしたという子ども達でございますね。」
「うん、そうなのだ。早速だがこれを額縁に入れてくれないか。飾っておきたい。」
「はい、かしこまりました。すぐにご用意致します。」
デイビスは絵を預かるとすぐに執務室を出た。

デイビスが詰め所に戻るとミセス・ブラウンがデイビスの手に持つ絵に気付いた。
「それは何です?」
「何に見えます?」
デイビスがそっと開いて絵を見せた。
「まぁ!可愛らしい絵ですこと。」
この時詰め所にいた他のスタッフ達も寄ってきた。
「殿下が御領地先で知り合われた子ども達が描いた、殿下とチョン伯爵の似顔絵だそうですよ。」
「私達にも見せて下さいませ!」
「どちらが殿下で、どちらがチョン伯爵でいらっしゃるのかしら。」
「でもとても可愛らしいわね〜。」
女中達が楽しそうに騒いだ。
「殿下がとても気に入られて、額縁を着けるように仰せつかりました。」
「テヒョン様は本当にお優しい方でいらっしゃる。」
ミセス・ブラウンはしみじみと言った。
デイビスは額縁を探す為、絵を大事に持って美術品の資材室へ向かった。

その頃テヒョンは更に私信の中に、ジョングクが差出人になっている封筒を見付けていた。
ペーパーナイフで丁寧に封蝋を剥がして中に入っているカードを取り出した。
テヒョンは書かれているカリグラフィー書体を見て驚いた。なんとも美しい手書きだったのだ。これはジョングク自身が書いたのだろうか。
誕生日の食事会への招待状になってはいるが、文中に《テヒョン様》の表記があり、更には甘い言葉が記してあったので、印刷ではなくジョングク自身が書いたのは間違いないだろう。
彼にこのような特技があるとは。と、テヒョンは感心した。
休暇中にジョングク自身から聞いたのは誕生日に迎えに行きますという事だけで、招待状を送ったなどということは聞いていなかった。
テヒョンは予想外のサプライズに益々、9月1日か楽しみになった。


テヒョンの仕事の中で最重要項目となった、領主の違う2つの土地を挟んだ農業用用水路建設は、各々の土地の測量が終わり、ニールが現地を周って最終確認をした。次に行われるのは国と両領主との調印式で、それが終わって正式に着工に入ることになる。
ただ調印式は形式的なものなので、すでに国家事業としての予算は組まれて、請負い業者の入札が始まっていた。
テヒョンの元には、双方の領地にとって用水路を通すのに、地形的にも利便性でも1番相応しい場所の特定と、その測量情報がニールからの報告書で上がってきていた。地図に分かりやすく目印を付けて、報告書のどこにそれが記されているのか見やすい工夫がされていた。
「ニールの優秀な仕事ぶりが手に取るように分かるな。」
テヒョンは報告書をスミスに見せた。
「そうでございますね。仕事が早いので段取りも組みやすいそうですよ。」
「よいことだな。ではこれらを調印式に持参する書類として綴っておいてくれ。」
「かしこまりました。」



【ジョングクの誕生日】


9月1日
この日の朝は早朝からテヒョンはそわそわしていた。
予定よりも早くジョングクが迎えに来ることになったのだ。
入念にスキンケアをしてヘアスタイルを整え、着ていく衣装のチェックをした。
珍しく遅く起きた大公が、なんとなくせわしない宮殿内に気付く。
「招待された側のテヒョンが、まるで主役のようだな。」
食堂で朝の珈琲を飲みながら笑った。
「テヒョン様の弾んだお声を聞くと、こちらまで楽しくなりますなぁ。」
オルブライトが大公の隣で一緒に笑う。

着替えを済ませたテヒョンは、しまってあったプレゼントの小箱を取り出すとポケットに忍ばせた。自分で物を持つことは通常しないが、こればかりは自分で持っておきたかった。
身支度が整った頃、デイビスが部屋にやってきた。
「殿下、チョン伯爵家からの馬車が到・・・」
言い終わらないうちにテヒョンは、デイビスの横をすり抜けて走って部屋を出て行った。
階段を降りて大広間まで来ると、ジョングクが待っていた。
「おはようございます、テヒョン様。お迎えに上がりました。」
笑顔で立っている彼の胸の中へ、飛びつきたい衝動を抑えて弾む声で迎える。
「おはよう!お誕生日のお祝いを言う前にジョングク、君に見せたいものがある。」
降りてくるなりジョングクの手首を掴むと、テヒョンはまた階段を上がった。

「テヒョン様!危のうございます、、、」
ジョングクは必死に付いていく。
そのまま執務室まで二人は走って行った。息を切らしながら部屋の中へ入り、テヒョンの机の所まで来ると、すぐ横の飾り棚の上を見て言った。
「これを見てよ。」
額縁に飾られた絵を指差した。
「随分と可愛らしい絵ですね。子どもが描いたものですよね。」
「うん。ダニエルとルーシーが描いた、僕と君だそうだ。」
「わぁ、、本当ですか?ん〜・・・さてどちらがテヒョン様でどちらが私なんでしょう?」
「眉毛がキリッとした方が君じゃないか?」
「なるほど。」
二人は笑った。
「それにさ、ほら見てよ。僕達ちゃんと手を繋いでいるんだよ。」
「あ、本当ですね!私達を仲良く描いてくれて、嬉しいですね。」

二人はじっくりと幸せな可愛い絵を眺めると、自然と視線を合わせた。当たり前のように近付いて抱きしめ合う。ジョングクが抱きしめたままテヒョンの頬にキスをすると、
「私もテヒョン様に早くお見せしたいものがございます。」
と耳元で言ったかと思うと、今度はジョングクがテヒョンの手首を掴んで歩き出した。
二人が大広間まで戻ってくるとスミスとデイビスが待っていた。
「いってらっしゃいませ、テヒョン様。」
スミスが笑顔で送る。
「行ってらっしゃいませ、殿下。ではチョン伯爵宜しくお願い致します。」
デイビスも深々とお辞儀をして送った。
「では行ってくる。」
テヒョンは満面の笑顔で返した。

馬車の前まで来るとジョングクが人差し指を唇の前に立てた。怪訝な顔をしたテヒョンに対してニヤリと笑うと、ゆっくり扉を開けた。
「さ、お乗りになって下さい。」
促されて馬車に乗り込む。するとシートの奥に少し大きなバスケットが置かれていた。ジョングクが続いて乗り込むと扉を閉めた。
この時、バスケットの蓋が動いたのでテヒョンは驚いた。ジョングクがその蓋を開けた。
「見て下さい!テヒョン様!」
何かがひょこっと顔を出した。見ると中に仔犬が入っていた。

「うわっ!仔犬ではないか!」
ジョングクは驚いているテヒョンの前で仔犬を抱き上げると膝の上においた。
「今朝、父から贈られた新しい家族でございます。」
「おお!そうか、、、可愛らしいな。ウェルシュ・コーギーだな。僕に抱かせてくれるか?」
「はい、どうぞ。」
テヒョンは早速仔犬を受け取ると膝の上に乗せた。仔犬は怖がることも嫌がることもなく大人しくしている。
馬車が静かに動き出した。その動きにも驚くことなくテヒョンの膝の上で寛いでいる。

「テヒョン様にお願いがあるのですが、、、」
「改まってどうした?」
仔犬の顎を撫でながら訊いた。
「この子の名前を一緒に考えて頂けませんか?」
「うん、いいよ。それで?もういくつか考えているのか?」
「はい、、、でもあまりピンとくる名前がなくて、、、」
「なるほど、、、僕も色々考えてみよう。」
「ありがとうございます。」
仔犬はすっかりテヒョンに甘えている。ジョングクは伯爵家に到着するまで、目の前の可愛らしいテヒョンと仔犬の様子をずっと眺めていた。

馬車が到着すると、伯爵家の前ではハンスと従僕や女中達一同がテヒョンを迎える為に並んでいた。
仔犬のバスケットを持ってジョングクが先に降りると、従僕の一人がそそと駆け寄りそのバスケットを受け取った。
そしてテヒョンが降りてくるとお辞儀をして皆が迎える。
「ようこそいらっしゃいましたキム公爵。」
ハンスが一歩前へ出て早速屋敷の中へ案内する。
「今日はジョングクのお祝いの為に楽しませてもらうよ。」
「ありがとうございます。是非に!」

「本日はセオドラ卿が夕方まで不在でございます。キム公爵をお出迎え出来ず、またご一緒出来ない事を残念がっておりました。失礼をお許し下さいと言付かっております。」
「ははは、相変わらず律儀なお方ですな。気にしてはおりませんよ。セオドラ卿もお忙しいのは存じておりますからね。」
「いつもながら恐れ入ります。ではどうぞごゆっくりしていらして下さい。」
テヒョンは直接ジョングクの部屋に通された。
「じきにジョングク様が参りますので、どうぞこちらでお待ちになっていて下さいませ。」
ハンスはそう言うとソファを勧め、既に用意されてあった茶器で紅茶を淹れるとテヒョンの前に置いた。
「では私はこれで。」
ハンスはお辞儀をすると部屋を後にした。

テヒョンは去年のクリスマス以来のジョングクの部屋を久しぶりに眺めながら紅茶を飲んだ。クリスマスのデコレーションが無い状態は初めて見る。
元々の彼の部屋は華美な装飾等は無く、数点の絵画が均等に飾られ、奇麗に整えられていた。
しばらくするとジョングクは仔犬と一緒に部屋に来た。
「お待たせ致しました、テヒョン様。」
入口から仔犬がコロコロ駆けて入ってくると、一目散にテヒョンの足元に来てまとわりついた。
「ははは、、、分かった、分かった。ほらおいで!」
嬉しそうに仔犬を抱き上げた。

「もうすっかりテヒョン様になついてしまいましたね。」
「僕を気に入って貰えて嬉しいよ。
やはり家庭犬はいいな。我が家も僕が10代の頃までは、家の中で一緒に暮らした子はいたけど、亡くなってからは迎えていないんだ。今では宮殿の護衛犬だけだからな。」
「この子を気に入って下さったのでしたら、どうぞ一緒にいつでも可愛がってやって下さい。」
「うん。是非そうさせてもらうよ。」
「昨日、父がこの子を誕生日に合わせて連れてきて・・・」
ジョングクは思い出し笑いをした。
「いきなりお前の弟だと言うんですよ。でも父が1番喜んでいるように見えました。」
「その時のセオドラ卿の顔が思い浮かぶな。」

ジョングクは笑ったが、どこか表情が重い。テヒョンはすぐに察して『・・言ってみろよ。』と言うように腕に触れ促した。
テヒョンの腕の中から仔犬を抱き上げると、
「最近の軍務は、より強靭な動きを鍛錬する実践訓練になっております。」
低く重たい声色で話した。テヒョンは黙っていた。
「父は帰宅してすぐにベッドに潜り込む私を気遣い、この子を連れて来てくれたようです。」
テヒョンはジョングクの毎日が心身を擦り減らすほど過酷で、疲れ果てているのだと悟った。例のヨーロッパのあちこちで起きている戦闘や暴動は、収まるどころか激化する一方だ。ここ半世紀近く戦闘がなかったからといって、この国に火種が飛ばない保証などなかった。軍に就いている者は役職に関わらず、誰もが瞬時に戦闘態勢に入れるよう訓練が強化されていたのだ。

テヒョンはジョングクの手にじゃれついている仔犬の頭を撫でながら言う。
「この子の名前だけど、Pax (パックス)はどうだ?ラテン語で戦争がない状態の《平和》を意味する言葉だ。」
「パックス・・・なるほど、素敵な意味ですし呼びやすいですね。」
ジョングクはテヒョンを見つめてにっこり笑う。
「ありがとうございますテヒョン様。この子の名前はパックスに致しましょう。」
「おめでとう。君の名前は今日からパックスだぞ。」
テヒョンがパックスと名付けた仔犬の顎を撫でると、その手にしがみついてじゃれてきた。
「どうやら名前が気に入ったようですね。」
パックスはテヒョンとジョングクの顔を交互に見上げていた。

「今日はこの子を早く見せたくて早い時間にお迎えに上がらせて頂きましたが、、、」
言いながらゆっくりとテヒョンの頬に触れた。
「何よりも早くあなた様に会いたかった、、、」
テヒョンは何も答えず、指の感触を頬で受け止めながら体をジョングクの肩に預けた。自分も同じ気持ちでいたなどと、わざわざ言わなくても分かってくれていると思っている。ジョングクの方も、自然に甘えてくるテヒョンの姿に胸一杯愛しさが広がった。
しばらく二人は黙ったままでお互いへの想いに熱を感じ、向けられる想いに浸った。

「ジョングク・・・」
テヒョンはパッと体を離すと、ポケットに忍ばせていたあの箱を取り出す。
「これを君に。」
「え?・・私にですか?」
「そうだよ。開けてみてよ。」
ジョングクは細く小さなリボンを解き、包を開けた。中には金の箔押しの飾りが施された真っ赤な箱があった。
その箱を開けると、ここでテヒョンがその中からジュエリーケースを取り出した。そしてジョングクに向けるとゆっくり蓋を開いた。
中にあるものを見たジョングクの瞳が、今大きく開いて輝いた。

「とても美しい・・・これを私に?」
テヒョンはにっこり笑って、ジュエリーケースの中からブレスレットを取り出すと、裏返して先ず刻印を見せた。チョン伯爵家の紋章の左右に《J》と《T》の文字があった。
「君と僕の名前の頭文字だよ。」
そして今度は表に向ける。
「これはね、東洋の陰陽太極図をモチーフにして僕がデザインしたんだ。」
陰と陽の勾玉模様が、赤と青の雲形の流線を描いているそのデザインは、赤の丸型の中心にターコイズの石がはめてあり、青の丸型の中心にはサファイアの石がはめてあった。それは cloisonne (七宝焼)で出来ていて金で縁取りがされていた。

テヒョンはブレスレットを撫でながら話した。
「宇宙はニつの太極で一つに成り立っている、相反する二つの内どちらかが欠けても成り立たない。そして、陰の中にも陽が、陽の中にも陰が備わっているという考え方が僕は好きで、、、まるで君と僕の事ではないかって思ったんだ。」
ジョングクは感動で泣きそうな顔をしてテヒョンを見た。
「さぁ、手首をこちらに出して。」
テヒョン自らジョングクの手首にブレスレットを着けてやった。そしてその上に手を置いて包み込んだ。

「お誕生日おめでとう。」
テヒョンは心から祝いの言葉を伝えた。
「・・ありがとうございます。テヒョン様。」
ジョングクは胸が一杯になって思わず肩を引き寄せ抱きしめる。
「待って、、、」
そう言ってテヒョンが一旦離れると、徐ろに右手首のカフスボタンを外して、袖口をめくった。
「ほら見て。僕もお揃いのを着けているんだよ。」
言いながらブレスレットを裏返す。
そこにはキム公爵家の紋章を挟んで、左右に《T》と《J》の文字が刻まれていた。

「お互いにこのイニシャルを手首の内側に当たるように着けてるから、僕の脈がここから熱となって君に届いて、君の脈も僕に熱となって届くよ。僕はそう信じている。」
テヒョンの情熱的な思想が、とてもロマンチックな祈りになってジョングクの心を射抜いた。
そして素材の金は熱伝導率も高く、肌に馴染みやすいこと、また錆が付きにくく肌身離さず着けていられることも考えられていて、いつも着けていていて欲しいというテヒョンの願いが感じられた。
ジョングクは激しい軍務の中でもバンドを巻けば常に装着出来るだろうと思った。
「私も肌身離さず、あなた様に私の想いを届けるためにずっと着けていたいと思います。」
テヒョンは嬉しそうにジョングクの手首にキスをした。

「あっ!パックス!」
ジョングクが急に大きな声を出した。
見るとパックスがカルティエの空き箱を咥えたり、転がして遊んでいた。
ジョングクが追いかけて阻止しようとする。テヒョンがそれを見て大笑いをした。
「パックス!頑張れ!」
「あ〜〜そんな煽ったりして、駄目ですよ〜〜テヒョン様、、、」
「空になった箱だ、いいじゃないか。」
「いいえ、あなた様から頂いた物は、例えリボンや包装紙でも私には大切な物です。」
言いながらパックスをなだめてそっと箱を取った。

彼の細やかな感性にテヒョンは感動する。続けてリボンや包装紙も拾い上げ奇麗にたたんで、一式を大事そうに棚の引き出しの中にしまうのも見ていた。
テヒョンはパックスを抱き上げるとベッドに座った。
ジョングクは棚の前から振り返ると、テヒョンがパックスと一緒にこちらを見ている姿が目に入った。あまりの愛らしさに目を細め、テヒョンの隣に腰を下ろした。
「小さい物まで大事にしてくれてありがとう。」
テヒョンはパックスを撫でながらジョングクに笑顔を向ける。
「あなた様は私の大切な宝物でございますから。あなた様に関わる全てが私には重要なことなのです。」
言い終わらない内に肩に腕を回すとパックスごとテヒョンを抱きしめた。

「テヒョン様、先ほどの陰陽のお話がとても素敵でした。」
「そうか?」
テヒョンはどこかに視線を向けて話す。
「陰陽の考え方は、想い人同士に於いてはお互い相手の要素も持ち合わせているとも解釈される。そう考えれば多種多様なものを人々は持ち合わせて世の中は成り立っているとも言えるな。」
ジョングクは、空を眺めながら話すテヒョンの横顔に、思慮深さや果てしなく世界の先を見据えている視野の広さに、益々惹かれていくのを感じた。

テヒョンの美学というものは、多分誰よりも沢山学び、知識を吸収し自分のものにして、またそれを知恵として活かし、時代を遥かに超える独自の哲学にしてきた賜物だろうとジョングクは感じた。
彼の美学は容姿の美しさに更に光を充てている。
今回はそれがジョングクの誕生日プレゼントに現れた。とても情熱的な形で。
こんなロマンチックで尊い贈り物があるだろうか?
『この方だけは一生かけても絶対守り通したい。』
ジョングクは着けてもらったブレスレットの、ターコイズとサファイアの部分を指でなぞり、そっと手のひらで包むと《念》を掛けた。


テヒョンはじっとジョングクを見つめていたが、彼の首元に右手を伸ばしてクラバットを解いた。そして躊躇することなくブラウスのボタンを3段目まで外すと、そのまま胸元に手を滑り込ませた。
ジョングクは眼の前でされるがまま、いたずらに笑って見つめてくる瞳をずっと見ていた。テヒョンはゆっくりと彼の胸元から、ネックレスに通された指輪を取り出した。
「この指輪にいつもテヒョン様への想いを込めておりますよ。あなた様も身に着けて下さっていますね。」
ジョングクはテヒョンの右手を掴んで、誕生日に贈ったお揃いの指輪に触れた。
これで、《指輪》と共に《ブレスレット》が揃いお互いに肌身離さず身に着けるものが増えた。

幸福な雰囲気の中、寄り添う二人の足元で、パックスが自分もかまって欲しいとキャンキャン鳴いていた。




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