群青と真紅㊾【貴公子達のオペラ鑑賞《ロッシーニ Elisabetta》】 | Yoっち☆楽しくお気楽な終活ガイド

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ガチガチのグテペンです
現在、テヒョンとジョングクをモデルに小説を執筆中☆

皆さんオペラって観たりしますか❓
今回はライヴはライヴでもオペラに出掛けるキム公爵とチョン伯爵のお話です😄

前回の物語



物語の続きが始まります✨✨✨


【新しい二人】


己の弱さに呑み込まれるのだ
優しさなど「力」には及ばぬ
そなたは、だから、
永遠に苦しまなければならない

『まただ・・・。誰なんだ?』
いつか魘されながら聞いた言葉が、また眠りの中で反復して語りかけてきた。
一体どういうことなのか?
あの声の主は誰なのかジョングクには未だに見当もつかなかった。
ただの夢だと切り捨ててはいけない気がして、何か胸騒ぎがすることだけは以前と変わらない。
眠気からすっかり覚醒したが、しばらくベッドの中で考え込んでいた。


「さぁお着替えをなさって下さいませ、ジョングク様。」
ハンスが着替えを持って急かすようにベッドサイドで声を掛けた。
そこで我にかえりやっと着替えを始める。
着替えを手伝いながら、
「お父上は《ミサ》にお出掛けになりました。」
と少し重く静かな声でジョングクに伝えた。
久しぶりに聞いた《ミサ》の言葉。何かあったのだろうか・・・。ジョングクは緊張した面持ちで、
「僕は行かなくてよかったのか?」
と訊いた。

チョン伯爵家の《ミサ》は一般の教会で執り行う《日曜礼拝》等とは違う。
教会にチョン伯爵家系族の重鎮が集まるのだが宗教とは全く関係がなく、有事に繋がるような事変の兆候があった時に、国王管轄とは別に執り行われるものだった。
ハンスは緊張したジョングクの様子に気付き、
「ジョングク様には大公子殿下と楽しいクリスマスを過ごされるようにと、仰せでございましたよ。」
と笑顔で応えた。ジョングクは緊急性がないものと理解し安心して、
「そうさせてもらうよ。」
と応えた。


昼の食事はジョングクの部屋に用意された。クリスマスツリーには新しい蝋燭が灯され、夜とは違う煌きを放っていた。着替えを終えたテヒョンが戻って来ると早速ツリーを見上げて、
「昼間もとても綺麗だな。」
と言いながら改めて飾り付けを見て回った。
ここでハンスとデイビスはお辞儀をして静かに部屋を出て行く。
「さ、テヒョン様お席へ。」
ツリーの飾り付けに興味津津で、色々とオーナメントに触れていたテヒョンの手を取って席まで案内をする。
手を掴まれてトクン・・と胸が弾んだ。テヒョンは《手を繋ぐ》ことが特別な意味を持つなんて思ってもみなかった。

ジョングクが椅子を引いて座らせてくれる。今回の催しではテヒョンに対して完璧なホスピタリティをみせてくれている。
お互いに向かい合ってテーブルに座り食事が始まった。
昨夜のことがまだ余韻として残っている二人は視線を交わすだけで、なんとなく会話が成り立った。いつものテヒョンとジョングクらしからぬ静かな食卓ではあったが、お互いの雰囲気には幸せが感じられた。
「今日の君はやけに静かだな。」
「テヒョン様こそ。」
間が空いてお互いを見ると、可笑しくなって吹き出した。
「私はあなた様との静かなひと時も楽しく過ごせますよ。」
「僕も同じことを感じていたよ。」
言いながらテヒョンがチキンソテーをカットしてフォークに刺した。と同時にジョングクがテーブルに身を乗り出して、フォークを持つ手を握るとテヒョンのチキンを食べた。

テヒョンは目を丸くして目の前で美味しそうに咀嚼をするジョングクを見た。
「あなた様がそばにいるとこんなマナー違反もしたくなります。」
言った後の唇が光る。
今度はテヒョンがフォークを置くと、身を乗り出して自分のナフキンでジョングクの唇についたソースを拭った。
「目の前で可愛いことをされると、世話を焼きたくなってしまうよ。」
「正真正銘の王子様に世話をして頂くなんて、私は世界で1番の幸せ者でしょうね!」
照れ隠しで笑ってテヒョンを見る。
今日のジョングクはとても上機嫌な上、大胆でいつもの彼とは違って見えた。

ジョングク自身も随分大それたことをしていると分かってはいたが、テヒョンの可愛い反応を見たいという衝動に駆られていた。また気付かなかった自分の一面にも興味をそそられた。
テヒョン自身はジョングクの思いもよらない行動や言葉に、未知の部分に触れている楽しさを味わっていた。
人とはこんなにも変わるものなのか。いや、元々彼自身が持っている性質なのかもしれない。
社交が苦手とはいえコミュニケーション能力は抜群にある。
でもそれが自分にだけ心開いてくれているのだとしたらそれが嬉しかった。

食後にジョングクがホットミルクを用意して持って来た。
「テヒョン様これを入れて飲んでみて下さい。」
4cm 角のキャドバリー社のチョコレートを数枚テヒョンに渡した。
言われた通りに何枚か入れてみる。
スプーンでかき回すとチョコレートが溶けて、ミルクがマーブル状に変わった。
「お好みで枚数を調整して下さいね。」
テヒョンが一口飲んでみる。
「う・・ん、美味しいホットチョコレートだ。」
ホットココアといいホットチョコレートといい《カカオ》はテヒョンの甘い想い人の味になった。


【二人でのオペラ鑑賞】

昼下がり
デイビスがキム公爵家に戻る為挨拶に来た。
「それでは殿下、私はこれで公爵家に戻ります。」
「うん、気をつけてな。」
「ではチョン伯爵、殿下を宜しくお願い致します。」
「しっかりお守りするので大丈夫ですよ。」
「午後もよいクリスマスでありますよう、楽しんでらして下さいませ。」
そう言ってデイビスは深々と二人にお辞儀をすると公爵家へ帰って行った。

テヒョンとジョングクはロッシーニのオペラ『イングランドの女王エリザベッタ』を観るためにロイヤル・オペラ・ハウスに出掛ける事になっていた。
クリスマスで夕方から教会に出掛ける者も多い為に、この日のオペラは夕刻前に終わるようプログラムが組まれていた。
既に観劇用に着替えを済ませていたテヒョンとジョングクは、チョン伯爵家の馬車で出発した。2台目の馬車にはハンスと護衛2人が乗った馬車が続いている。
王位継承権を持つ王族との外出には、公私共に必ず護衛が付いた。その為完全に私的な外出をするのはなかなか難しかったが、そんな事を気にするでもなくテヒョンは楽しそうに車窓の外を眺めている。

「こうしてオペラを観劇するのは久しぶりだけど、君と一緒なのは初めてだからワクワクするよ。」
「私も芸術鑑賞自体が久しぶりです。テヒョン様がいらっしゃらなければ、しばらくは離れたままになっていたでしょう。」
「では久しぶりで楽しみだな?」
「はい。音楽も演劇も好きですから。」
二人が談笑している間に馬車は劇場に到着する。
更にそのまま貴賓専用の出入り口に通された。
チョン伯爵家の紋章が付いた馬車が、横を通り過ぎるのを見た観覧者達が色めいた。

「ジョングク様よ!」
「テヒョン様もご一緒にいらっしゃるわ!」
あっという間に人集りが出来た。
柵で区別がされた門の先に、馬車から降りるジョングクが見えると黄色い歓声が上がった。続いてテヒョンが手を取ってもらいながら降りて来ると更に大きな歓声が上がった。
この時テヒョンは人々がいる方に笑顔を向けて軽く手を振った。
悲鳴のような歓声が上がり周囲の人々がどよめいた。
ジョングクは驚いた。今まで敬遠していた婦人方からの歓声に笑顔で応えるテヒョンの姿を初めて見たからだ。
婦人方にとっても想定外だったに違いない。

「どうなさったのです?今まで避けておいでだった歓声に応えられるなんて。」  
「そうだな・・・ただ、応えてあげたくなったのだ。・・・それに、」 
テヒョンがニヤリと笑う。
「君と一緒にいられることを自慢したいのかもしれない。」
「え?」
「ほら、君も一緒に笑って手を振ってみて。」
テヒョンに促されてジョングクも一緒に手を振った。
更に大きな歓声が上がった。
護衛が声の大きさに危険を感じて咄嗟に二人の前に出た。テヒョンが『大丈夫だ、何もされたりはしない。』と声を掛けて場内へ入った。

キム公爵と側近のチョン伯爵が観劇に来ている噂はあっという間に広がって、二人の姿が見えるとロイヤルボックスに向かって拍手が湧いた。
テヒョンとジョングクは観客席に会釈をしながら席に着く。
間もなく場内が静かになると、オーケストラピットから管弦楽団の奏でる序曲が流れてきた。
テヒョンは体に反響するメロディーに震えた。ジョングクの方へ向くと、オペラへの期待に笑顔を見せた。
今回のオペラの構成は序曲、第1幕で約1時間12分、2幕で約1時間4分。途中休憩を挟み約2時間46分となっていた。

1幕が終わり休憩時間が始まる。劇場内のラウンジで軽食を楽しめるのだが、テヒョンとジョングクはロイヤルボックス内でサンドイッチやワインを楽しんだ。
しかし、劇場に来ていた高官や貴族達の挨拶を受けたりと何かと忙しかった。
「ジョングク1幕はどうだった?」
テヒョンがプログラムを見返しながら訊いた。
「演者の方々の歌唱力にずっと圧倒されておりました。」
「うん!物語の緊迫感に更に凄みが湧くからな。」
ジョングクは上演中楽しみながらも、隣で物語に没頭していくテヒョンの横顔に見惚れていた。ただそれは内緒にしておいた。

イングランドの女王エリザベッタ』は女王と将軍の恋、親友や将軍の裏切りなどテヒョンとジョングクにはやや不釣り合いな物語ではあったが、最後には人の命を犠牲にしてまで生き存える事をよしとしなかった登場人物達の勇敢な姿に心救われた。
女王エリザベッタは将軍やその妻等を許し、自身は恋を捨て女王として生きることを自分に言い聞かせ玉座に戻る。
将軍は民衆の元に戻され復職する。女王は民衆に称えられ幕を閉じる。
恋を諦める決意の後歌われるカヴァレッタで「この心より恋よ去れ」が合唱される場面は圧巻だった。

テヒョンもジョングクもエリザベッタの堂々たる君主の目覚めに感動し、演者に惜しみない拍手を贈った。
演者達は1列に並ぶとテヒョン達のロイヤルボックスに向かって深々とお辞儀をして応えた。
その後拍手が鳴り止まずカーテンコールが何度が続いた。

興奮冷めやらぬ中劇場を後にする。出入り口には先程好演した演者達がテヒョン達を見送る為に待っていた。
「大公子殿下、チョン伯爵、エリーナ・ニコルソンでございます。本日は御観劇ありがとうございました。」
エリザベッタを演じたプリマ・ドンナが挨拶をした。
「とても素晴らしい歌声をありがとう。迫真の演技と共に私の胸に響き渡りました。」
「有難きお言葉とても光栄に存じます。殿下のお言葉を宝に更に邁進して参ります。」
「期待しておりますよ。いつか我が家での合唱会にもお出で頂きたい。」
「夢のようでございます。お呼びが掛かる日を心待ちにしております。」

見送られながら劇場を出ると、ひと目でもテヒョンとジョングクを見ようと待っていた婦人たちの歓声が飛んできた。
護衛が二人にぴたりと付いた。
テヒョンとジョングクは軽く手を振って馬車に乗り込んだ。
黄色い声の中を馬車が走り出す。
「では、テヒョン様のご自宅に向かいます。」
ジョングクはそっとテヒョンの手を取り繋いだ。
夕暮れ時のロンドンはガス灯に照らされきらびやかだった。


※ 画像お借りしました


ロッシーニ『イングランドの女王エリザベッタ』参考 wikipedia