子供のころから字は決して褒められたものではなく、
よく母親からはーートーちゃんは字が上手なのに、おまえは誰の血をついできたんだろうねぇーーと言われた。そう言う母親も決してヘタではなかった。いやむしろ上手だった。
字が上手な人は、自分を自が上手とは言わないーー
こうして育ったわたくしめは、長じて新聞記者に。
字は下手ながら、取材記録をまとめるのは上手で、
メモを書く速さは抜群。
そのため何が書いてあるのかよくわからなくなることもしばしば。
だからわかるところだけを生かして継ぎ接ぎ、あとは意訳でまとめるスタンス。
まるで英語の翻訳である。
するといい具合にまとまった記事になる。
だから時には、取材された側はーー俺こんなこと言ったけなあーー
と思ったに違いないが、そういうお叱りは受けたことがない。
むしろ、いい塩梅にまとまってーー俺っていいコメントするじゃんーー
くらいに思ってくれた方も多いのではーー。
それはともかく、そんなこんなで一向に悪筆は治らない。
そこで最近始めた筆であいうえおかきくけこさしすせそーー
と書き連ねるボクの心の修養ーー。
これが気持ちの修養となり、つぎに字がうまくなるというよりも、
字間のバランスや収まりを考えおよび、
次第にまとまった眺めになっていった。
字の上手は実は文字形の美しさというよりも、
真ん中に間を取って、きれいに配列されているかどうか。
むしろそれが決め手とさえ思われるーー
次に我が名を書き連ねる。
6文字を書き連ねる。相変わらずの悪筆だが、
徐々に眺めが整い始めた。
次に漢字で我が名をーー。
ここからはいつものボクの字でへたくそ。
サンズイにあおのバランス、水のバランス、
人偏に憂うーーこれはもともと読めなくはない、
たまに眺めが整う—-といった感じ。
こうして書いていくうちに
やればできるじゃん――のレベルに。
一文字一文字がゆっくりとバランスしながら
しかも一定のリズムで書くことができる。
仕事でもよく使うペン字はさらにバランスがよくなり、
見た目も眺めもいいーー。
そして普通の字になっていった。
これなら普通の字だからそう悪くない。
綺麗、上手ーーの世界ではないが、
これ誰の字――くらいにはなっている。
マル文字風でボクに似た字を書く娘に是非見せてあげたいものだ。
娘にはいつも言われていた。
お父さんの字はいつもへたっぴだから、読めないーー
競馬やってる時間があったら、字を書く練習やったらーー
えへんえへん。