堪航性担保義務2 -堪航性の具体的な内容等 | 海事法まとめノート

海事法まとめノート

英国海事法を勉強している日本の弁護士です。海事法の知識をまとめています(記事の内容は特段の断りがない限り、英国法の解釈を示したものとご理解ください)。質問は歓迎ですが、回答にはお時間をいただきます。現在都合により更新しておりませんが、6月頃から再開予定です。

堪航性担保義務とは具体的にどのようなことを意味するのでしょうか。

 

一般的に、船舶、その装備及びシステムが、航海にあたり遭遇するであろう危険に合理的に耐え得る状態、及び、これらの危険から貨物を合理的に保護できる状態であれば、堪航性の要件が満たされると解釈されています。また、堪航性担保義務には、Cargoworthness(堪貨能力)も含まれます。すなわち、船主は、船舶を特定の貨物を受け入れ、運送するのに合理的に適した状態にしなければなりません。

 

堪航性を欠いた典型的な例としては、エンジンの故障、船体の亀裂及び船員の不足が挙げられます。また、船員の能力が不足している場合、備品が不適切である場合及び書類に不備がある場合なども含まれます。その他には、コンパス、電気系統、揚錨機等の欠陥、不適切な燃料の積載、不良潤滑油の使用などが挙げられます。

 

書類の不備に関してThe Derby [1985] 2 Lloyd’s Rep. 325を参照。

 

また、船主は、船舶を特定の貨物を受け入れるに適切な状態にする義務を負います。この義務は堪荷能力ともいわれます。

具体的には、冷凍貨物の運送を請け負ったにもかかわらず、冷凍設備が故障している場合、貨物の余剰水を排出するためのポンプが不適切である場合などが挙げられます。

 

 

次に堪航能力を具備すべき時期について触れます。

 

航海傭船契約の場合、原則的には、当該契約の発航時において、堪航能力のある船舶を提供する義務があると解されます。

 

したがって、それ以前の時点で不堪航があったとしても、発航時までに修復すればよいということになります。

 

また、あくまで航海開始時における責任ですので、発航時より後に発生した不堪航についても責任を負いません。複数の航海を請け負う連続航海傭船の場合には、それぞれの航海の開始時に当該義務を負うと解されています。

 

 

 

定期傭船契約の場合、原則的には、船舶の引渡し時に堪航性担保義務を負います。したがって、引渡し後に発生した不堪航には当該義務は及ばないことになります。

 

一方で、定期傭船契約のフォームの一つであるニューヨークプロデュースフォームの36行では、傭船期間中、船体・機関及び装備を完全な稼働状態に置くものとすると規定しています(Maintenance条項)。これにより船主は傭船期間中の船舶の堪航性を保持する義務を負うと解されます。Maintenance条項は堪航性担保義務を補う義務ということができます。

 

この義務は船主に絶対的な義務を課したものではなく、reasonable diligenceを尽くす義務と解されています。その意味で、コモンローによって課される堪航性担保義務とは異なるというべきでしょう。

 

ただし、契約書上絶対的な義務であると定めることも可能です。

 

Adamastos Shipping v. Anglo-Saxon Petroleum [1958]1 Lloyd’s Rep. 73において、"being tight, staunch and strong, and every way fitted for the voyage, and to be maintained in such condition during the voyage, perils of the sea expected"との文言について、控訴院は絶対的な義務であると判示しています。

 

 

Cargoworthness(堪貨能力)についてですが、船主は積荷の開始時から当該義務を負うと解されますが、原則的には、一旦貨物が積載された後は、当該義務は継続しないと解されます。

 

最後にHague Rules又はHague Visby Rulesが摂取されている定期傭船契約について触れます。定期傭船契約の場合、上述のとおり、船主は、本船の引渡し時にのみ堪航性担保義務を負います。問題は、HRHVRが適用されることによって、定期傭船契約中に行われる全ての航海の開始時に堪航性担保義務が認められるのではないかということです。この点については、結論は明確ではありません。HR/HVRは、”before and at the beginning of the voyage”に堪航性担保義務を課すものであるから、船舶の堪航性についてdue diligenceを尽くす義務は定期傭船契約中の全ての航海において発生すると主張する者もいます。また、Onego Shipping & Chatering BV v JSC Arcadia Shipping (“The Socol 3” )(QB)においてHamblen Jは以下のように述べています。

 

Where there is loading port at more than one port under a charterparty, the relevant “voyage” is the voyage for the cargo in question and the duty of due diligence therefore arises at each different port