響け!ユーフォニアム3 の黒江真由キャラ設定が絶妙すぎる件 | 1971年からの地図

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部活を舞台にする物語の多くには主人公と対になるライバルの存在がある。


そのパターンは様々で天才対努力家、エリート対雑草、熱血対クール、パワー対テクニック、直感型対知性型といくらでも例があげる事ができ、すでに出尽くした感さえあるように思う。


だが過去の自分がifの世界線で成長してきた結果、自分の上位互換として現れるパターンというのはあっただろうか。


過去の自分と同じ属性を持つ敵キャラを成長した自分が一蹴というパターンはあるけれど、過去の自分が別の世界線で順調に成長して今の自分より力が上になって現れる、というパターンはちょっと記憶にない。加えて言うと敵、というより味方として現れるのだ。


響けユーフォニアム3期に登場する黒江真由とはそんな稀有なキャラクターだ。


主人公の黄前久美子に対しての黒江真由とは、名前にブラックがあるからといって性格悪いかと言えば全然そんなことはなく、むしろ作品中ベスト善人の部類に入るほど性格は良く、そしてそれがこの物語をとても複雑なものにしているのがユーフォニアム3期の最大の見どころになっている。


黒江真由は九州の吹奏楽強豪校から3年になって転校してきたという設定の新キャラで、全国大会にも出場、金賞も受賞したメンバーでもあり楽器の実力も性格も申し分ない。だが転校生という理由で最初は制服も前の高校のセーラー服だったりという感じで、北宇治メンバーとはまだ見えない壁がある、といった描かれ方をしている。


部長である主人公の久美子もそんな真由に何となく苦手意識を持っていて、それでも表面上は何もない風で接しているのだけれど、やがて真由が久美子に自分の本心、本性を吐露したことがきっかけで彼女が苦手な理由を自覚することになる。


「彼女は昔の自分に似ているからだ」と。


名前の付け方もうまくて、真由・久美子どちらの名前にも50音のあ段、か段、ま段が含まれていて、若干アナグラム的な構成がされている。当然共通でないところもあるので、それが似ているけどあくまで別の人格でもある、という作者のメッセージが込められているのかも、という気がしている。


私はアマプラ視聴組で8話まで見終わった時点でコレを書いているのだが、8話というのは関西大会に向けたオーディションで久美子が真由に負けてしまうという波乱の回で、合宿2日目の朝にソリ交代が発表されるまでの過程が描かれている。


注意して見ると確かに久美子には負けフラグが立ちまくっていて、それに気がつかない、このままで間違っていないという思い込み、根拠の無い願望が原因で、自分自身を変えて真摯に向かってきた真由にソリの座を奪われるという物語的には面白いのだけれど、当事者にはこれ絶対なりたくないな、というギスギス展開となっている。


確かに主人公目線だと部長という役目があるが故にプレイヤーとしては練習量ハンデを抱えたうえでの理不尽な交代劇であり、久美子からすると「やったんですよ!必死に!。」と言いたいところなのだが、反対の真由サイド視点で見ると、争い事が向いていない性格なのに敢えて主人公に本音、嫌ごとを晒してぶつかり、自分が勝てば部の雰囲気を壊すと分かっていながら本気でオーディションに勝ちに行き、それが久美子の望む事なら北宇治のためになるなら貧乏くじでもなんでも引いてやるぜ!というのはむしろ真由の方が北宇治魂全開主人公ポジに見えてくる。


上手い人が吹く、学年(=部の貢献度)は関係ないとした事で、北宇治は強豪校になってきたのは事実ではあるけれどもかつて自分が選んだその選択が逆に自分の地位を脅かすようになる。個人としては辛いことだけれど部全体であればそれは仕方のない事、というのは建前ではあるけれど実際あればこれはどうだろう。

おそらく正解というのは無くて、結局のところは結果次第であり出来るのは後悔のない選択をする、くらいの事であろう。


黒江真由は全国大会の金賞経験者だ。ひょっとしたら前の高校ではチームワーク重視の上級生優先の構成で結果を残しているのが普通で、それを経験している真由は北宇治のやり方は正解ではない、と言いたかったのかもしれない。


私は原作の方は未読なので、真由の過去については全くの想像でしかないのだけれども、そういった解釈もできてしまうというところに作者の絶妙なキャラクター設定を感じている。


また8話では久美子、真由、奏が同じテーブルで食事をするシーンがあり、互いに水をとってくる流れでなかなか3人揃わない、というところがあるのだけれど、実はそのテーブルの直ぐそばにはヤカンが置いてある描写がある。


気を抜いていると見落としてしまうけれどよくよく考えると怖いシーンだ。目の前にあるヤカンを使わずわざわざ遠くまで水をくみに行くってどういう心情なんだろうって。


原作にヤカンがあるかどうかはわからないけれど、もし無いのであれば、そんな登場人物の細かい心情まで作り込みをしている京アニスタッフの力量もまた本当に凄いものだと思う。原作に脚色をするというならこうあるべきだと、何処ぞのテレビ局の原作クラッシャーに見せてやりたいくらいだ。


おそらく全国大会では久美子がソリを奪還して金賞エンドとなるのだろうが、その結果より過程の方にとても興味がある、というのもなかなか経験のできない話で、そんな貴重な経験のできる本作もシリーズごとあと数話で全て終わってしまうというのが心底残念に思っている。


あとはあすかパイセンの登場待ちというところ。