空と 海と 君と 20 | Blue in Blue fu-minのブログ〈☆嵐&大宮小説☆〉

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嵐、特に大野さんに溺れています。
「空へ、望む未来へ」は5人に演じて欲しいなと思って作った絆がテーマのストーリーです。
他に、BL、妄想、ファンタジー、色々あります(大宮メイン♡)
よろしかったらお寄りください☆

 

 

 

 

 

 

 平日午後3時、相変わらずの賑やかな坂道を上りきり、辿り着いた『Gallery Sakura』。

あらゆる種類の人間が忙しく行き交う街だが、さすがに週のど真ん中、のんびりと絵画観賞をする者はいないようだ。

ポッカリと人が途切れた空間に『Sakura』は静かにたたずんでいた。
 
 
(閉館日かな?)
 
静かすぎるその様子に、知らず歩調が緩む。
 
ゆっくりと近づいた入口のドアの横、置かれたイーゼルのキャンバスに『OPEN』の文字を見付けてホッとする。
それでも音を立てるのは躊躇われて、そっと木製の取っ手を引く。
 
「おじゃまします…」
 
半身を中に入れ見渡すが、やはり人影はない。
振り返り、『OPEN』の文字を再確認してから体全部をドアの中に滑り込ませた。
 
無人のカウンターの記名帳に、備え付けのペンでとりあえず名前を記しておく。
 
 
静かな館内。低く流れるクラシックがかえって静けさを際立たせている。
 
でも、画廊とは普段はこんなものなのだろうと和也は思った。
この前の賑やかなパーティの方がイレギュラーだったのだと。
 
(確か、この奥…)
 
気を取り直して、展示を確かめながら少年を目指す。
 
だが、記憶の場所に少年はいなかった。
代わりに展示してあったのは、白い花の絵。
 
ああ、そうか、と、すでにひと月が過ぎていることに今更気付く。
同じ絵をいつまでも展示しているわけがない。
 
和也は気落ちしつつも、目の前の花の絵に近づいてみる。
 
前の絵よりも一回りほど大きいサイズ。
描かれているのは、出窓に置かれた白い花と窓の外の自然のままの雑木林。
花瓶に活けられた白百合の整えられた静の佇まいと、自生する蔦を自身に絡ませ、好きに枝葉を伸ばす雑木。
静と動、束縛と自由、難しい事は分からないが、徐々に不思議な感情が胸に降りてきて腹に落ち、その最奥を疼かせる。
 
(…なに、これ)
 
 
確かめてみれば、やはり、『satoshi 』のサインがある。
 

別に扇情的なものが描いてあるわけじゃない。

清楚な白百合と、暗くざわつく手つかずの荒れた藪。それだけなのに、和也は立っていられなくなった。

 

ヨロリと後ずさりして膝裏に触れたソファにドサリと腰を落とす。

理由の分からない鼓動を刻む胸に両手を当てて、はぁはぁと大きく呼吸を繰り返す。

 
「ふぅ…」

 

ようやく収まりかけた頃、

 

「…どうしたの?」

「ひっ!!」

 

急に声をかけられて、体が跳ねた。

思わず出てしまった悲鳴に、慌てて口を塞ぐ。

 

 

声の方に振り向くと、1メートルほど間を開けた右側に男が一人座っている。

軽く前かがみの姿勢になって上目遣いに和也をジッと見つめていた。

 

浅黒い肌に整った細めの眉とたれ気味の目、スッと通った鼻筋、滑らかな頬、艶のある唇。

 
 
(キレイな人…)
 
一瞬見惚れてしまったが、男の探るような視線に気付いて、何とか引き攣った笑顔を作った。
 

「すっ、すみません。人がいるって気付かなくて、変な声、出しちゃって…」

「ふふふっ、びっくりさせたね。こっちこそごめん」

 

 

柔らかな笑い声。微笑んだ唇はふっくらと柔らかそうで、小さな笑顔一つでクールな印象がガラリと変わる。

 

「何か、顔赤いけど…、平気?」

 

「はい、大丈夫です」

 

 

「そっか…」

 

「…………?」

 

男はしばらく和也を見つたままで、視線に耐え切れなくなったころようやく和也から視線を外して体を起こした。そして顔を正面に戻すと、両手を後について上体を軽く反らした。

 

背はそれほど高くはない。だが手足が長くて、均整のとれたスタイルをしている。

ゆったりとした黒い薄手のニットのたくし上げた袖口から、筋肉の筋が浮かぶ腕が伸び、その先のほっそりとした手と指で上半身を支えている。何気ないポーズだが何故か美しく、現実味のないその姿はまるで水彩画のようだった。

 
(!…なにやってんだ、僕は)

 

和也は初対面の男を凝視している自分に気づいて、サッと目を逸らしたが、胸の鼓動は未だ治まっていない。それどころか却って騒がしくなってきている。

 

そして、なぜかカラダが…、疼く。

 

「ねぇ、この絵、好き?」

 

身動き出来ず俯いていた和也に男が問いかける。

顔を上げると、男は絵に目を向けたまま横顔で続けた。

 

「おれ、何か気に入らないんだよね。なんであの百合、あんなに白いの?」

 

整った綺麗な横顔、だが、意外と男っぽい口調で口をとがらす。

 

「色?」

 

そう言われてみると、確かにそんな気もする。

 

 

でも和也はその不自然な白さに、窓の外に出たい、藪の中に飛び込みたい、なのに囚われて動けない百合の歯痒さとジレンマを感じたのだ。

 

「ねぇ、どう思う?」

 

男が再び和也の顔を覗き込む。

ゆったりとした襟ぐりから鎖骨が見えている。和也の目はその窪みに吸い寄せられた。

 

「ど、どうって、僕は好きです。この画家さんが、好きなので…」

 

「ふーん…」

 

 

男は目を絵に戻して首を傾げる。繊細な指がしなやかな首に触れている。微かに動く喉の膨らみさえも和也の視線を釘付けにする。

 

「どこが?」

 

声と同時に男は体をずらし、左腕に触れそうなくらいに体を寄せてきた。右側には円柱があり動く事が出来ない。和也は益々焦った。

 

「どこが好きなの?」

 

男が囁くようにソフトに繰り返す。

耳朶をくすぐる低い声。まるで口づけされているような…。

 
…………

 

和也は軽いパニックに陥ってしまった。

揺れる視線を下に落とせば、男のはいているダメージ加工のジーンズから、滑らかそうな白い太腿が目に飛び込む。

 
男の全てが和也の視線を引き付けてしまう。
 
「ね、どこ?」
 
肩が触れて吐息が耳にかかる。
 

「!!…なっ、なんか、すごく、工口くて、かっ、体のどっかが疼くよう、な、あっ…」

 

自分の言葉に驚いて再び口を塞ぐ。

 
「…………///!!」

「…………ぶぶっ!」

 

少しの沈黙の後男は吹き出して、弾けたように笑いだした。

 

「あははは…!」

 

意外と高くて、楽器の音色のような笑い声を上げながら、ソファに転がっている。

身体を二つに折り曲げて、苦しそうに身を捩って。

 

その様子を呆気に取られて見ていると、後ろから女性の声がした。

 

「先生、どうしたんですか?」

 

男に駆け寄るスタッフらしき女性。

 

「先…生?」

 

「大丈夫ですか?」

 

しゃがみ込んで心配そうに男の背中に手を置く。

男がぶんぶんと首を振る。

 

「む、村沖さん、何でもない、よ、んふふっ…」

「でも、何がそんなに?」

「何でもないって、大丈夫」

 

ようやく笑いが収まったのか、男は涙を拭きながら体を起こした。

 

「おれ、行くよ。何か元気が出た。ちょっと落ちてたんだけど、彼が引っ張り上げてくれた」

 
立ち上がって、おっと、と唇に人差し指を当てると、

 

「おれがここに来たこと、翔には黙っといて」

 
と悪戯っぽく女性に笑いかける。

 

「…はい」

 
それから、座ったままの和也に振り向くと、

 

「この事もね」

 

唇にあてた指がスッと伸びてきて和也の頭をくしゃっとした。

そのまま引き寄せられ、

 

また、会えた…

 

頬に唇を寄せて囁くと、男は嬉しそうな笑顔を最後に見せて、ステップでも踏むような軽い足取りで出口の方に歩いて行った。

 

和也はぼうっとしたままその後ろ姿を見送った。

 

 

「…お客様、大変失礼しました。あの、何があったんでしょうか?」

 

和也と同じようなポカン顔で女性が尋ねる。

 

「いえ、別に何も…、ってか、先生…って、あの人、誰なんですか?」

 

触れられた場所と囁かれた耳が熱くて、髪を整える振りをしてそっと押さえる。

女性は驚いたように目を見開くと、

 

「あら、ご存知なかったんですか? 彼は画家の 『satoshi』 ですよ」

 

と百合の絵を指さす。

 

「ええっ!?」

 
頭部だけじゃなくて全身が燃え上がってしまう。

 

「ご存知ないのも当然ですけどね。ほとんど媒体には出ていませんもの。あ、どうぞ、こちらへ。失礼したお詫びにコーヒーでもお淹れしますので」

 

 

「は…い」

 

収拾の付かない頭のまま、和也はフラフラと女性の後に続いた。

 
 
 

 

 

「あなた、『 office sora 』の二宮さん?」
 

ホールのゲスト用の椅子に座り、館長・村沖舞子と記された名刺を眺めていたら、本人が慌てた様子でコーヒーを運んできた。

 

「はい。そうですけど、何で…」
 
と言いかけて、村沖の手元にさっき書いた記名帳があるのに気付いた。
 
「このサイン、あなたね。かずなりさんって読むんでしょう?」
 
コクリと頷けば、
 
「私、あなたのこと知ってるのよ。あなたの会社の国分さん、一度、ご挨拶に見えたの。今後ともよろしくお願いしますって」
 
その際にスタッフの一人として和也の名刺を渡し、これ、かずなりって読むんですよ。と紹介したとのことだった。
 
「また後程、ご挨拶に伺わせますっておっしゃってたけど…」
「あ、すいません。今日はそういうつもりじゃ…、また今度ちゃんとご挨拶に…」
「いいわよ。わざわざ出直さなくても」
 
恐縮する和也に、笑いながらヒラヒラと手を振る。年齢は40代半ばくらいだろうか、いかにも出来る女性という感じだが、さっぱりとしていて嫌味なところが全く無い。
リニューアルする店舗も村沖が管理するらしいとのことだった。
 
簡単な自己紹介の後、和也は聞きたくてウズウズしていたことを口にする。
 
「あの、さっきの人、画家の 『satoshi』 さんなんですか?」
「ええ、そうよ。我が社一押しの新進気鋭の若手画家。櫻井店長のことご存知ね? 彼とは中学と高校が一緒で、その頃からかなりの才能だったらしいわ。店長が彼の才能に惚れ込んでて、社を上げて応援してるのよ」
「え?同級生?」
「そうよ。もうかれこれ15年くらいの付き合いになるんじゃないかしらね」
「そう…、なんですか…」
 
翔は 『satoshi』 のことはよく知らないと言った。
 
確か2度目に会った時にも、和也が口にした 『satoshi』 の名前に、仕事の話はしたくないからと明らかに不機嫌な反応を見せた。以後和也はその名前を言わないようにしていたのだが。
 
 
「このギャラリーも、大野智のためにオープンしたようなものなのよ」
 
村沖の言葉が鼓膜を震わせる。
 
...翔さん、どうしてあんなウソを?
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
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