(…相変わらずヘタ過ぎる…。再↑)
荒れ狂う波の音が聞えた気がした。
「すごい…」
正面の二百号はあろうかと思われる大きなキャンパスに描かれた嵐の海は、余りにリアルで、今にも覆いかぶさってきそうな迫力ある大波に、このまま引き摺り込まれてしまいそうで、思わず背中が震えた。
和也は、咄嗟に目を閉じかぶりを振った。
一呼吸して再びそっと目を開けた時、荒海の前に仰向けに横たわる智を見つけた。
絵具に汚れたシャツを着て、無精ひげを生やしたその姿は、まるで大波に呑み込まれて、浜に打ち上げられた船乗りのようだった。
無造作に投げ出された四肢。
少しだけ口が開き、目は閉じたままでピクリとも動かない。
「智!?」
驚いて駆け寄り、膝まづいて胸に耳を当てる。すぐに温かいぬくもりとリズミカルな鼓動が伝わってくる。
和也はほっとして体を起こそうとした。
ふいに腕を掴まれる。
そのまま引き寄せられて、再び智の胸に倒れこんでしまう。
背中に回された腕が食い込むほどにキツク 抱 き 締 められる。
「会いたかった…」
柔らかい声が、心音と共に心地良く耳に響く。
「僕こそ…」
智は和也の顔を胸に押し付けたまま体を反転させた。床に落ちそうになった肩を力強い腕がすくい上げて包み込む。体がぴたりと重なり、そして、二つの鼓動も重なった。
「和、シよう…」
吐息で囁かれて体に電流が走る。
「でも、お腹が空いて死にそうなんでしょ?」
抗ってみる。
「何より、心を満たしたい…」
和也の腰のあたりでもう一人のサトシがすでに存在を強く主張している。
「心より、カラダって感じだけど…」
智が顔をあげ、長い指で和也の顔を優しく撫でた。
「それは、お互い様だろ?」
目が、もう、すごく工口いよ…
視線を重ねて囁かれ、ココロを見透かされてしまったことに、益々呼吸が荒くなる。
自分では分かりようもないのだが、智に 抱 かれている時、和也の目の色と表情は全く変わってしまうらしい。
智は、ずっとそれを見ていたい、と言う。
「自分だって…」
和也は、真上にある智の顔の、額に掛かる髪を指でかき上げた。
「こんな目…」
形のいい眉からくるんとしたまつ毛、キレイな形の目の輪郭を指で辿る。普段は穏やかで優しいこの目が、欲 望 が 迸 る時、ギラギラと強い眼差しに変わる。
腰に伝わるサトシの脈動がさらに大きくなる。和也のモノもそれに応えて一気に膨 らみ、それだけでもう 達 してしまいそうになる。
思わず目を閉じる。
「あ、閉じないで」
「だって…」
それは、容易なことではない。昂 ぶるとどうしても目を閉じてしまう。すると智は、それなら声を聞きたいという。声は逆に抑えることなど出来ない。
息を荒げた和也の上気した頬を、智のざらついた頬がちくりと刺す。その微かな刺激さえも全身を 疼 かせる。
「…ああ…ぁぁ…っ」
「いい… もっと聞かせて…」
囁く智の掠れた声と、カリッと噛まれた耳朶の痛みに、和也の理性は簡単に消え去った。
二人は 抱 き合い、揺れながら智が描いた嵐の海に呑み込まれて行った。