☆、ごめんなさい。ちょっと未消化な気がして、もう一話追加しました☆
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目の前に広がるのは、憧れた海。
冷たい水、冷たい砂、寄せては返す波、吹き抜けて渦巻く砂混じりの潮風。
見上げれば、満天の星、月も高く微笑んで。
…そして、波の音を掻き消していた、プロペラの音もいつか消えて、波音としっとりと濡れた空気だけが辺りに漂う。
「カズ、寒ぃよ、もう行こうぜ」
「ふふ、そうだね」
波打ち際、浸した足は、ほんとにとても冷たくて。
海で遊ぶなら、やっぱり夏だね。
11月26日、さっき知ったばかりのサトシの誕生日。
もう、秋も終わる。
ニヤニヤしながらオレたちを置いてった操縦士は、
今頃、あの月の向こうを飛んでるのか。
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「プレゼントは、カズ。今日からずっとおれのだからな…」
光に紛れながら上昇するヘリの中、抱き締められて、低い掠れた声が耳に囁く。
「サトシ…」
首筋に顔を埋めて、大きく息を吸って、空っぽのカラダを、サトシの香りで一杯にする。
そして見つめ合って、触れ合う唇。
一夜の夢が忘れられなかった。
ずっと恋い焦がれていた。
込み上げるものを必死で堪えて、温もりを受け止める。
―カラダは許しても、唇は許さない―
どっかの娼婦の健気な心意気、実践してたことは、秘密。
一年振りのキスが、こんな甘いなんて…・
ああ、ダメだ…
フワフワ意識が飛びそうになった…
「おいっ! そんなとこでいちゃつくな! 突き落とすぞっ!」
操縦士が怒鳴る。
「うっせー! 久しぶりなんだよっ!」
ドカッって、前のシートを蹴飛ばして、サトシはますますオレを強く抱き寄せた。
「ほぉー、そんな態度取るんなら、金、俺がいただくからな」
「はぁ?」
「今回のギャラに、もらっとく」
「なに言ってんだ?おれんだろが!」
オレを抱いたまま、声を張り上げてる。
「俺がいたから取り戻せたんだろ?」
松本も、負けじと大声で応えてるけど…、
「金? 金って、なに?」
「あ…、い、いや、なんでもねぇ」
うそ、目を逸らしてる。
ピンときた。
「…オレに関する金?」
「ピンポーン!」
「松本!」
正解…?
「この金は、キミを買い戻した金だよ」
驚くオレに松本がサラリと続けた。
「…どういうこと?」
貼り付いてた肩を押してその顔を覗き込めば、点滅するライトの中、ふくれっ面のサトシ。
「ね、どういうことだよ?」
「何でもねぇって…」
「向こうが、お前を手放すのに要求してきた金だよ」
「っつ! 言うな!」
ドカッ!
松本の背中を、シート越し、サトシがまた蹴飛ばす。
「…オレを、買ったって…、こと?」
「違う、そういうワケじゃ…」
「まぁ、そういうワケだな」
「お前は黙っとけって!」
「だって、そうだろ」
「…おれは、ただ、借金の肩代わりをしただけで」
一緒じゃん。 オレを買うヤツらとさ。
ただそれが、1時間か、長期間かってことだろ?
「ね、松本サン、降ろしてよ」
「へ?」
「どこでもいいから!せっかく連れ出してくれたのに、悪いけど」
「カズ、おれは…」
「どうせオレなんか、金で買えばいいってことなんだろ!?」
「…違う」
「違わないっ!」
さっきまでの高揚感がスッと引いて、一瞬で空気が凍る。
バラバラバラ… 耳障りなプロペラの回転音だけが響いて…。
「なぁ、いい考えがあるんだけど」
操縦士の軽い声。
「松本、もう黙れ」
「だ、か、ら、この金があるから、カズさんは拗ねてんだろ?」
「拗ねてなんて! いいから、降ろせよ!」
「いやいや待てよ。こんな空ン上、どこで降ろせってのさ」
それよりも、と松本がシートの横にあった黒いバッグを持ち上げた。
「これに降りていただくのが一番じゃね?」
「…それって…」
「そう、金だよ。その人がキミを手に入れるために作った金」
「…やめろ」
「いや、やめねぇ」
掛けてたサングラスを外し、現れた大きな目がギロリとオレを捉える。
「これは、そのヒトが自分のこの先の人生全てを担保にして、寝る間も惜しんで働いて、必死こいてギリギリ頑張って、ようやく作った金だよ」
「いいって言ってんだろ!」
「ムチムチのオンナに迫られても手を出さず、いっぺんヤったきりの薄っすいオトコのカラダ思い出して、夜な夜な一人でコト済まして…」
「あんたは、そんな想いのこもった金と、汚ったねぇヤツらの欲塗れの金を、一緒だって言うだもんな!」
「………そんな」
「違いが分かんねぇんだったら、やっぱ、捨てちまうのが一番だろ」
「…………」
「そうだよ。そのヒトは、この金払って、あんたを買った。 だから、ジッとしとけば、何もしなくても一日待てばあんたを手に入れることが出来たんだ」
「………」
「それなのに、今夜一晩のためにこんなに大げさなコトして、そのカラダ、守ったんだぜ?」
「………」
「もう、どこにもやらねぇって、誰にも触れさせたくねぇって言ってさ。ばっかじゃねぇの!」
そんなにもオレのこと…
「松本、おま、いい加減に…」
ポロポロ… 両方の目から一気に涙が溢れた。
「うわ、な、泣くなっ! もうマジ黙れ! カズが泣いてっだろ!」
「あー、泣いちゃったか、んなら、益々、これ、いらねーな」
救いようがないね。
ウソもホントも見分けられないほどに汚れきった自分…
「もう泣くなって、おれは、カズがいればいい。あんな金なんかいらねぇんだよ」
こんなオレのどこがいいんだよ。
薄っぺらなカラダに抱きついて、涙をグイグイ拭われて、なんでサトシまで泣いてんのさ。
「頼むから、泣くな…」
…嗚咽を漏らす唇が、また塞がれる。
…っく、うっ、くっ、苦しい…
「んふふっ、ははは…」
ぼーっとしてきた耳に、松本の笑い声が響いた。
「おい、亮ってヤツ」
「は、はい」
「おまえ、いま聞いてたよな。あの人、これいらねぇって確かに言ったよな?」
「はい…ってか、あの、えっと、え?えっ?」
オレより状況がわからなくて、すっかり気配を消してた亮が、松本に睨まれて、コクコク頷きながらキョドってる。
「はい、もーらった。これで当分、遊んで暮らせるぜー♪」
「あっ!お前、汚ねぇぞ!」
ドカッ!
サトシがまた、シートを蹴った。
「なんだよ、いらねぇって言ったじゃん。それに、何度も言うけど、俺がいたから、これ、取り戻せたんだぜ?」
「…そりゃ、そうだけど…ってか、なんであそこに金があるって分かったんだよ」
「2日後にでかい取引が決まってて、手元に大金があるのに、わざわざ別に用意しないだろ?」
「おお、なるほど…」
ココ、ココって、こめかみトントンやって、
「ふふ、しょーがねぇから、半分で手を打ってやるよ」
アイドル顔負けの見惚れるような笑顔で、レバーをグイッと引いた。
「それでも結構な額だぞ…」
「へへ、まいどー。御用の際は、またどうぞ、ご贔屓に~」
「くそ…、翔くんがいればこんなことになんなかったのに…」
「残念でしたぁ♪」
ヘリは、ぽっかり浮かんだ月の真下を横切って、陸に向かって大きく旋回した。
ノド、痛てぇ。
ヘリの騒音に負けじと大声でわぁわぁ言い合って、結局、最後、操縦士はオレたち二人を、この砂浜に降ろしてったんだ。
すぐ近くに、サトシの親父さんが所有してるコテージがあるんだって。
「予定じゃ、レストランで昼、食ってから海で遊ぶつもりだったんだぜ。こんな真夜中なんてよー」
後ろでぼやく声。
オレは、冷たい水の中、波にさらわれる砂を土踏まずに感じながら、ただ、突っ立ってた。
のぼせた頭を冷やしたかった。
松本サン、オレのためにあんなコト、言い出したんだろ?
あとで知ったら、オレが傷つくって思ってさ。
あのヒトが、自分のコトうまく弁護するって、到底思えないもんな。
サンキュ。
イケメン操縦士。
「カズ、寒みぃって!」
耐えられなくなったのか、サトシが駆け寄ってきた。
「もうこっち来い!」
言いながら、オレの手を取る。
「うわっ、冷てぇ!」
グイと引き寄せられて、バシャバシャ水しぶきが跳ねて…
まるでベタな恋人同士みたいだ。
めっちゃ、寒みぃけど。
海水、マジしょっぱいし。
死ぬぞー、って騒ぎながらサトシはオレを乾いた砂の上に引っ張ってくけど、
かじかんだつま先が痺れて、思うように歩けない。
「うわ…」
「おいっ!」
よろけて、その場に崩れ落ちる。
それでも繋いだ手は離れなくて、二人して砂に転がった。
「お前、なに、やってんだよ」
「足が、動かなくて…」
ばっかだな… 呟いて、サトシが全身でオレを包み込んだ。
そして、チュッと、軽く唇に触れて、すぐに離れて…
「キス、冷てー」
「うん、寒い」
笑いながらもう一度触れて、サトシの温かい舌が、オレの上と下の唇を順に温めてくれた。
そのまま、柔らかい舌が首筋に降りてきて、脈打つ血管を辿り、味わうようにペロリと舐めてチリりと強く吸いついた。
あ…
一瞬で、全身の血が沸く。
ぶるっとカラダが大きく震えて…
「寒い?」
「…早く、温まりたい。カラダごと、全部」
「おう、行くぜ!」
なんとか立ち上がって、歩き出す。
寒いフリして誤魔化したけど、ホントはそれほどでもない。
うそみたいにカラダが火照って、アナタが欲しくて堪らないんだ。
そう、震えるほどに。
これも、内緒。
オレたちは、砂を蹴って駆け出した。
どこへでも、どんな知らない世界でも、一緒なら平気。
もう、この手が離れることはないって、信じられるから。
このまま never let you go.
もう二度と離れない…。
あした、また来たい。
おう、いつでも、何度でも。
うん…
寒みぃけど。
一緒なら…
ね。
おしまい♡
☆またそのうち、番外編書くかもです☆
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