空へ、望む未来へ ⑥ | Blue in Blue fu-minのブログ〈☆嵐&大宮小説☆〉

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嵐、特に大野さんに溺れています。
「空へ、望む未来へ」は5人に演じて欲しいなと思って作った絆がテーマのストーリーです。
他に、BL、妄想、ファンタジー、色々あります(大宮メイン♡)
よろしかったらお寄りください☆

 その後智は椎名や心理療法士の治療、そして何よりも潤の存在が心の支えとなり,順調に回復していき、3日もすると松葉杖で歩けるようになった。だが、潤の意識はまだ戻っていなかった。


 智は同じフロア―にあるICUまで日に何度も通った。その日も二人を隔てるガラスに額を押し当てていると、
「また来てるのか」
と背後から声を掛けられた。振り向くと、椎名が相変わらずの仏頂面で立っていた。
「先生、潤はまだ目を覚まさないの?」
何度したか分からない質問を繰り返す。
「ああ」
同じ答えが返ってくる。
「そっか…」
「でもな」
椎名ががっかりした智の顔を覗きこみ、目線を合わせると、
「今朝、俺の声に脳がほんのわずかだけど反応したんだ」
と、そっと告げた。途端に智の表情がぱっと輝いた。
「ほんと? すごい! きのうまで、全然反応無かったんでしょ?」
「ああ、そうだ。もうこれからはどんどん良くなるぞ」
堪え切れずに仏頂面を解いて微笑む。「
やったー!」
智は松葉杖を忘れ思わず飛び跳ねそうになり、慌てた椎名に体を押さえられた。智は椎名の腕をぎゅっと掴むと、
「先生、僕、中に入れないかな。潤と話がしたいんだ」
潤んだ瞳で椎名をみつめた。

「そうだな、今日、検査をして、大丈夫そうなら、明日試してみよう」
椎名は松葉杖を拾い上げながら答えたが、本当は最初からそのつもりだった。
「ほんと? 約束だよ」
智が嬉しそうに右手の小指を指し出した。戸惑っていると、
「先生、約束、早く」
小さな手が椎名の右手を引き寄せ、小指を絡めた。
(温かい…)
この温もりが失われることが無くて本当に良かったと椎名は改めて思った。
「約束だ。必ず潤と話をしよう」
「うん!」
智は潤んだ目で再びガラスに額を押し付けた。

 

 ドキドキする胸を押さえ病室に戻った智は、キャビネットから潤の剣を取り出した。
(潤が目を覚ましたら、一番に見せてあげよう)
折れ曲がった部分は椎名と一緒に何とか直すことが出来た。大分不格好になってしまったが、きっと喜んでくれるだろう。椎名と話し合った結果、両親の死のことはしばらく伏せておくことにした。
(僕がちゃんと潤を守ってあげなくちゃ)
智は新たに心に誓った。


(それにしても…)


潤が大丈夫だと分かった途端、ここはいったいどこなんだろうという疑問が再び甦ってきた。
 他の質問には全て椎名が答えてくれた。でも、ここは何処で、何という病院かとか、なぜ、テレビや雑誌は決まったものしか見られないのかという問いに対しては、
「そこは俺の管轄じゃない」
と口を閉ざす。智の疑問は膨らむばかりだった。


翌日、椎名は約束通り智をICUに入れてくれた。久しぶりに間近で見る潤は、少し痩せてはいたが、顔に傷もなく今にも目を開けそうに見えた。
ドキドキしながら、
「手を握ってもいい?」
と椎名を見上げると、
「ああ、そっとな」
マスクの奥から籠った声が答えた。
智は恐る恐る、まだ、チューブで繋がれている潤の手にそっと触れた。
ふと気がつけば、ベッドのネームプレートに智が贈った手作りペンダントが下げてある。
それが目に入った途端、二人の過ごしたたくさんの思い出が一気に溢れてきた。
「潤、 早く起きるんだ。じゃなきゃ、もう遊んであげないよ。ライダーごっこの続きをしなきゃ、カードゲームだって、まだ、決着がついてない。保育園のみんなだって、エースストライカーがいなきゃ、サッカーができないって、きっと待ってるよ!」
語りかけるうちに感情が昂り、涙が溢れてきた。潤の表情は動かない。
「起きろってば! 5歳になったら、一人で起きるって約束しただろ!」
指に力が籠る。潤の体が揺れ、器具の触れあう音がする。
「智、落ち着け。焦るんじゃない」
椎名がそっと肩に手を置いた。
「うん…うん、分かってる…」
零れ出た涙を拭こうと、智は潤の手を握ったまま、右手を頬に押し当てた。
ふいに智の体に緊張が走った。
「せ、先生…」
「どうした、気分でも悪いか?」
椎名が額に手を当てる。
「ち、違うよ、違う…」
と呟いて、視線を潤と繋いだ自分の手に落とす。
「え、何だ? まさか?」
智は小刻みに頷いた。
「うん…、潤が、潤が、握ってる。ほんの少しだけど、僕の手をにぎってる!」


 続く…