「くみちゃん、ここんとこ持ってくれる?」
「ん、いいよ~」
ちゃーちゃんにフラれたわたしは、夏休みの友を広げてぼんやりしてたくみちゃんに助けを求めた。
「こんな感じ?」
くみちゃんは器用にベタベタをよけながら、
「あ、こうした方がいいかも」
なんてアドバイスも盛り込んで手伝ってくれた。
「ハネ動くかな~」
「ちょっと待って…………動いた( ^∀^)v」
くみちゃんとわたしがもうすぐ完成を目前にしたまさにその時、
ちゃーちゃんが鬼みたいな怖い顔でわたしをにらんだ。
にらんで、そしてわたしの扇風機を床に叩きつけた。

あーーーーーーっ・゜・(つД`)・゜・

田代おもちゃ屋にひとつしかなかった扇風機がー・゜・(つД`)・゜・
お兄ぃに小遣い借りて「分割払いでお返しします」と念書まで書かされて買った扇風機がー・゜・(つД`)・゜・

「ちょっと!何すんのさっ(`□´)」
くみちゃんがちゃーちゃんに怒って言うと、
「先にあたしに手伝えって言ったの、かぼちゃちゃんじゃん!あたしがちゃんと返事しないうちにくみちゃんに頼むなんて、悪いのはかぼちゃちゃんじゃんι(`ロ´)ノ」
ちゃーちゃんがその何倍も怒って言った。
そして、
「謝んなさいよ!かぼちゃちゃんに謝んなさいよ!」
気の強いくみちゃんにビビる風でもなく、ちゃーちゃんは「ふん(# ̄З ̄)」と教室を出て行った。

あんなおとなしい子を怒らすなんて、
腹の底から声を絞り出すほど怒らすなんて、
わたしは壊れた扇風機よりもそっちの方がショックだった。

「びっくりしたー。あいつ、でっけぇ声出せんじゃん!」

いや、くみちゃん、
でっけぇ声出させた張本人が言うのもなんだけど、
たぶんちゃーちゃんは休火山なんだよ。
油断してると、火の粉飛んで来るのさ。


その日以来、ちゃーちゃんとは特に意識したわけでもないのに、1回もしゃべらないで4年生を終えた。
5年生でクラスが替わって、さらに距離ができて、大人になった今もあの鬼の形相しか思い浮かばない。

わたしがあんな顔をさせちまった反省を込めて、今ちゃーちゃんの笑顔を必死で思い出そうとしているんだけど。


夏休みも終わったのに、教室の隅っこで工作の続きをする者、最近までランドセルの底に眠ってました感丸出しの「夏休みの友」を今更開いてため息する者、何をしたいのかでかい模造紙を広げて腕組みする者、どこからともなく漂う墨のにおい………………

4年1組の2学期は、そんな風景で始まる。
よそのクラスは、夏休みの宿題は提出して終わりなんだそうだけど、
阿部先生は、全員が全部の宿題を終わらせるまで容赦ない。
大体1週間は、普通の授業そっちのけで、
「おれら、こんなに本気で宿題やったことねぇんじゃね( ̄O ̄;」てくらい真剣に、誰もが遊び過ぎた夏の代償を払うのだ。

夏休み中にちゃんとお勉強して来るお利口さんも何人かいたけど、大抵はこの執行猶予を当てにしていた。
「8月3日の天気わかる人~?」
「天気はわかるけど、オレその日何してた?」

わたしが先生だったら、ひとりずつ蹴り倒したくなるような、
これは、そんなアンポンタンな頃のお話。


「ちゃーちゃん」こと千秋ちゃんは、普段はとってもおとなしくて、夏休みの宿題は全部終わらせて2学期を迎えるお利口さんのひとりだった。
「ちゃーちゃん、ちょっとここ押さえてて」
気の利いた工作の題材が思い当たらず、近所のおもちゃ屋で扇風機の組み立てモデルを買って来ちまったわたしがボンドでベタベタの部品を差し出すと、
「手、汚れる……」
ちゃーちゃんはか細い声で協力を拒否した。
「あとで洗えばいいじゃん。あたしなんか手の皮かボンドかわかんなくなってるよ~(〃^▽^〃)アヘアヘ」
お愛想笑いがよほどバカっぽく見えたのか、ちゃーちゃんは、
「そぉゆぅ問題じゃないんだよ(¬。¬ )」
と、ほんとに小さな声で、でも確固たる意志を持ってわたしを拒絶した。


ボンドんとこ、ちょっと押さえてくれりゃいいだけの話じゃんかー(;´Д`)モォ!

キンキンのコーラの前には、もはやソフトクリームなど頭の片隅にもない意気揚々としたごろちゃんがいた。

ごろちゃんは、みんなが見守る中まずはひと口、
「う、うめーヽ(・∀・)ノ」
「うん、うん」
次にちょっと大きくひと口、
「つ、冷てー(*≧∀≦*)」
「うん♪うん♪」
さらに、今度は男前なひと口、

「グガーーーーーーーッ!!」

!Σ( ̄□ ̄;)な、なに!?

みんなが顔を見合わせた。
いやいや、みんな同時に空耳かも…。

「ゴグァーーーーーーーーッ!!」

いやいや、空耳じゃない。
ごろちゃんがコーラを飲む度に聞こえる。

「グォッ、グァオァーーーーーーーッ!!」

ごろちゃんのゲップだ!!
トトロじゃない。

わたしはひっくり返るほどびっくりした。
今、ごろちゃんのお腹の中の炭酸くんたちが我先に外に出たがっているんだ。
ごろちゃんのお腹はあんまりでかくないから、早く出ないと大変だと思った炭酸くんたちが先を争って出たがっているんだ。



あんまりうるさくて、
何回も何回も、あんまりうるさくて、
のぼるくんが耳を押さえながら叫んだ。
「ごろちゃんはソフト食ってろ!一生コーラとか飲むなー(*`Д´)ノ!!!」

炭酸お勧めしたの、おまえだろ(*´-`)ヘッ


工事現場のような駄菓子屋を後にして、うちに帰ったわたしは、ぬるくて気の抜けたコーラ(いつもはおいしくいただくのに)を飲む気力もなくして、まだびっくりしていた。
耳に残るは、トトロの雄叫び。
目に浮かぶは、姿勢よく遥か彼方を見据えて一定のトーンを吐き続けるごろちゃんの勇姿。



成人してからみんなで集まった席でも、ごろちゃんがどこにいるかすぐわかった。
「ヴッグァーーーーーーーッ!!」
おお!!パワーアプ( ̄□ ̄)b

「あいつ、あれで婚期逃すね」
性格で婚期を逃しそうなのぼるくんの呟きが、ごろちゃんを余計不憫に見せた。

いいヤツなんだ、ごろちゃん(o^・^o)