下校時間近くに雨が降ると、職員室の前の公衆電話が解禁されて「お迎えコール」の子どもたちが殺到する。
おうちの人が傘を持って来てくれたり、車で迎えに来てくれたり、
そんなバタバタが一段落してから、わたしはランドセルから小さな折り畳み式の傘を出して、ひとりで帰る。

大抵のお母さんたちは車で迎えに来て、自分ちの子どもとそのお友だちとかを乗っけて行くんだけど、
そして、そんなとき、
「かぼちゃちゃんも乗ってかない?」
って声を掛けられる度に、
「大丈夫!傘あるし」
わたしは、へっちゃらに答える。
低学年の頃から「お迎えはムリ!自力で帰ってこい!」と言われて、2本の傘(下校途中で雨が降ったときのためにランドセルに1本、教室の机の中に1本)を持たされていたから、突然雨が降ったって全然困らない。
それに、傘は2本とも母が大好きな柄だったから、雨の日はいつも母がとなりにいてくれてるみたいでうれしかった。

松浦さんのお母さんは運転ができないから、歩いて迎えに来ていた。
雨の日だけじゃなくて、風が強い日もうんと寒い日も、いやほぼ毎日迎えに来ていた。
たまに松浦さんが誰かと帰ろうとしても、校門の辺りでお友だちはお母さんに「しっ!」とかされていた。

これは、クラスの誰もが「松浦無敵親子しか記憶に残っていない」と言い切る6年生の春の遠足のお話。

春の遠足は、松島。
朝からあんまりお天気が良くなくて、午前のうちにポツポツ雨が降りだして、お昼にはどしゃ降りになった。
せっかく松島に来たのに、どこにも移動できなくて旅館の大広間みたいなとこでお弁当を食べることになった。
食べ物があって、お友だちがいれば、どこだって楽しい。
みんながワイワイはしゃいでいると、
「時間の無駄じゃないですか?とにかくわたしたちは帰りますから!」
大人の金切声が頭の上を抜けて行った。

「雨がもう少し小降りになったら、遊覧船が出るそうですし」
金切声では負けないはずのはるこ先生がなだめるように穏やかに言った。
「もぉ!いつ小降りになるんですか?いつ止むんですか、雨わー!」

うるせー・・・(;´Д`)


『りょうちゃんちのクリスマス』

りょうちゃんちは、お寺さん。
お坊さんのパパ(←もう、この時点で日本も外国もあったもんじゃない感満載のご住職なんだけど)は、わたしの母と幼なじみで母の葬儀で大泣きしながらお経をあげてくれた、わたしにとって大好きなおじちゃん。
りょうちゃんちは、基本仏様のおうちだからちゃんとお釈迦さまのお祭りもするけど、クリスマスも忘れない。
今ほど派手じゃないけど、お墓に続く坂道にイルミネーションを飾ったり、お地蔵さまにサンタクロースの格好をさせたり、子ども心に「バチ当たんじゃね?」と内心ドキドキしたものだ。
クリスマス間近になって、りょうちゃんちに遊びに行くと決まってクリームてんこ盛りのホットケーキがおやつに出てくる。
自分ちで食べるホットケーキもイケるけど、よそんちでおよばれするおやつって、なんであんなにうまいんだろう!
りょうちゃんちのママが作るホットケーキはホントにおいしかった。
「ママはホットケーキしか作れないの。クリスマスにはホットケーキ5枚重ねてクリームドバッてして、みかん缶とかもも缶ドバッてして、デコレーションケーキよぉ~♪とか言うんだ。ええぇぇヘ(゜ο°;)ノて感じだけど、んまいんだぁ(〃∇〃)」
りょうちゃんは、それでも「年に1回だからそう思えるんだと思う」と冷静な分析も怠らないのだった。



『あきらくんちのクリスマス』

あきらくんちは、お父さんがいない。
まだ本当に小さいときにお父さんが仕事の事故で亡くなって、お母さんがひとりであきらくんとあきらくんの弟を育ててた。
あきらくんも弟もちゃんと大学まで出たのだから、今にして思えばお母さんはお父さんが残してくれたお金を子どもの将来に使おうと決めて、生活費は全部自分で賄うつもりだったのかもしれない。あきらくんのお母さんは、化粧もしないでオシャレもしないで、働きずめであきらくんたちを育ててた。
町内のおばあさんがクリスマスイヴに急逝したとき、母に連れられてお通夜に行ったわたしのとなりに、仕事帰りのまんまの服装であきらくんのお母さんが並んだ。
うちの母と同じ世代なのに、なんだかおばあさんのにおいがした。
「いつもあきらと仲良くしてくれて、ありがとね」
お焼香が済んで、あきらくんのお母さんはそう言ってやさしい笑顔を見せた。
「大丈夫?顔色良くないよ」
わたしを除けて、母が心配気に覗き込むと、
「うん、大丈夫。がんばってクリスマスプレゼント届けないと」
あきらくんのお母さんは、元気もりもりのポーズをして帰って行った。
「無理してからだ壊さないといいけど……」
母はいつまでもその後ろ姿を見送った。
「あきらくんのお母さん、だいじょぶかな」
わたしもつられて心配になると、母はわたしを覆うように抱きしめて、
「大丈夫、大丈夫!あきらくんたちがサンタになって、あきらくんのお母さんに元気をいっぱいプレゼントしてくれるから」


あきらくん、
お母さんサンタは、もうすぐおうちに着くころかな。
クリスマス来るよ(*^▽^)/★。.:*:・'°☆。.:*:・'°☆


ジングーベー、ジングーベー、すっずがなるぅ♪ シャンシャンシャンシャン。.:*:・'°☆


『ひろゆきくんちのクリスマス』

その年のクリスマスは、お父さんが立派なもみの木を用意してくれるとかで、ひろゆきくんはずいぶん前からしつこいほどみんなに自慢してた。
「飾りいっぱい付けっから、必ず見に来いよな!」
さあ‼もみの木今日届きます(*≧∀≦*)の朝、
「帰ったらすぐ飾り付けできるように、ちゃんと準備しといてね」
と、お母さんに何度も何度も指示を出して、もちろん授業はうわの空で、
下校のチャイムと同時にダッシュで帰宅してみると、
「あったー♪ヽ(´▽`)/」
庭のまん中には、子どもの力では絶対運べないくらいでかいもみの木が横たわっていた。
「わぁーい(゜▽゜*)すげー!すげー!」
ひろゆきくんはもみの木の周りをぐるぐる走った。走って、走って、何周目かで何か違和感を覚えた。
冷静にツリーの姿をイメージしてみると、一番肝心な、お星さまを乗っけて「はい、飾り付け終了♪」になるはずのてっぺんの部分が
ばっさり折られてるではないか‼
「わぁー( ̄□ ̄;)!!」
びっくり仰天のひろゆきくんが中途半端にすげぇもみの木の前で呆然としていると、
ひろゆきくんのじぃちゃんがやって来て、
「なんだ、ひろちゃん、今帰りか」
と声を掛けながら、慣れた手つきでモサモサの枝をひとつふたつ折りして、寡黙に去って行った。
何かに導かれるようにじぃちゃんのあとを追ったひろゆきくんが目にしたもの、それは、
今折って来たばかりのもみの木の枝をさらに細々しくして、薪風呂にバキバキくべるじぃちゃんの姿だった。
「今日は寒いから、早く風呂沸かすべと思ってな」

じぃちゃん、ありがてぇ(つд;*)
いやいや、じじぃ!やらかすんじゃねぇよι(`ロ´)ノ



『かおりちゃんちのクリスマス』

かおりちゃんにはひとつ下の妹がいる。
その年のクリスマスは、なぜか妹が生クリームのケーキを食べたいと主張して一歩も引かず、アイスクリームのデコケーキが恒例のかおりちゃんちはちょっと揺れた。
「じゃあ、今年はまみちゃん(妹)の希望通り普通のケーキにしようか?」
お母さんが泣いて暴れるまみちゃんに負けてかおりちゃんに提案した。
「やんだ‼アイスのケーキはクリスマスしか食えないじゃん!」
そう言って今度はかおりちゃんもまみちゃんの倍以上泣いて暴れた。
ケーキごときでハルマゲドン。
しばらくして、大騒ぎの茶の間にばあちゃんが登場して平和が訪れた。
「かおりはアイス食え。まみちゃんはアイスでねぇの食え。ばあちゃんが買ってやる」
かくして、かおりちゃんは無事アイスケーキでサイレントナイトを迎え、まみちゃんも生ケーキでホーリーナイトを過ごした。
株急上昇のばあちゃんは、アイスも生クリームもいやしく食べて、腹を下して入院した。かおりちゃんとまみちゃんは、冬休みの大半をばあちゃんの病室で過ごした。