今でこそ缶コーラの直飲みを平気でやっちゃえるわたしだけど、子どもの頃は炭酸があまり得意ではなかった。
得意じゃないけど味は好きだし、基本いやしいから、みんなにつられてよくファンタグレープとか買っていた。
あのシュワッと感が程よく飛んでからでないと飲めなかったけど、生ジュースにはない人工的な味わいがお気に入りだった。


「ごろちゃん」こと吾郎くんは、小学校に入ったばっかの頃から剣道をやってて、月に1回道場の子たちと地区のゴミ拾いとかして『市政便り』に載ったこともある、地域にやさしいエコ武道家だった。

これは、「えっ!?もぉ夏( ; ゜Д゜)!?」的な早すぎる激暑を体験した4年生のときの梅雨前のお話。

あんまり暑くて!!
あんまり暑くて、わたしたちはいつも行く駄菓子屋に飛び込んだ。
「コーラくださーい」
「おれ、サイダーね」
まだお金も払ってないのに、みんな勝手に冷蔵庫から好きなものを取り出して飲み始めた。
「す、涼し~(*´∨`)」
ごろちゃんは、冷蔵庫のドア全開で仁王立ちしていた。
「好きなの取ったら、さっさと閉める!!(´Д`)」
いっつもやさしいお店のおばちゃんが、暑さとごろちゃんの子どもならではの無神経さにイラッとして声を荒げた。
「ごめんなさい…」
ごろちゃんは、それでも未練たっぷりに冷蔵庫の前を離れようとしなかった。
「ごろちゃんも何か飲んだら?」
のぼるくんが2本目のコーラを今度は少し落ち着いて飲み始めた。
「ん……(゜゜;)(。。;)」
ごろちゃんは、なかなか決まらない。
「ねぇ、おばちゃん、エアコン効いてねーんじゃね!?」
「エアコンがねーだよ!!」(*≧∀≦*)ノシ
男子たちのさらに暑さをヒートアプさせるネタも終わり、ごろちゃんはやっと決心した。
「おれ、ソフトクリーム!!」

(@ ̄□ ̄@;)!!

この暑さでクリーム系行きます?

「ソフトって…バカなんじゃね!?ますますのど乾くべよー!?」
「炭酸だよ、炭酸!!暑いときは炭酸!!」
のぼるくんに加勢してヒロくんまでがごろちゃんの「好きなもの」をばっさり否定した。
ごろちゃんは、しばらく困ったぽくしてたけど、
「んじゃ、コーラ」
と、あっさり気持ちチェンジした。

「あんた、あんなに迷ってようやくソフトクリームに決めたんじゃん!!
なんで、ソフトクリームに固執しない!?
あんたのソフトクリーム好きさ加減は、こんなヤツらに左右されるほどちっぽけだったんかい!?」

普段のわたしなら、たぶんそう思った。
だけど、今日のわたしは違う。
「んだ!!それでいいよ、ごろちゃん♪暑いもんね(〃^ー^〃)」




たかが車で往復10分の通勤でさえからだのあちこちが悲鳴を上げる今の自分に、片道1時間の運転は辛さ以外ない。
だけど、行かないことはもっともっと辛い。

わたしみたく住まいも仕事もなくなって外に移った者も、仮設に留まってずっと中で踏ん張ってた人たちも、あの瞬間日常を破壊された人みんなが集まる日が今年もやってきた。

今年は新しい市民会館も出来て、追悼式もより立派に行われるみたいだ。
震災直後に全国ネットで、
「被害はいかがでしたか?一番必要なものは何ですか?」
と聞かれたとき、
「うちはこんなときのためにと蓄えていたので、大丈夫です!助けはいりません」
と大見得切ってヒンシュクを買った市長の挨拶の中に、原発のこと線量の変化、今も続く海産物の漁獲自粛、未だに仮設に残る人々への労りの言葉など、今年こそ期待できるのだろうか?


わたしがやっとこさ現場に着くと、
消防団のハッピを着たかずおくんが「こっちこっち♪」と手を振った。
今年もおんなじ顔が揃っている。
同級会の会長をやってるぼーちゃんが、みんながそれぞれ持ち寄った花束やお供え物をきれいに並べていた。ぼーちゃんはA型だから、きちんとしてないと気持ち悪いらしい。

毎年、みんなで海を見る。
海のむこうの、そのずっと先を見る。
「今年も来たよ」


何年経っても、海岸沿いのクレーンの数が減ってからも、常磐線が開通しても、自動車道が完成しても、
わたしたちは、ここに来る。
立派な市民会館じゃなくて、ちゃんとこの場所に集まるよ。
連れて行かれたみんなは、今どんな顔をしてる?まだどっか痛くて泣いてるか?
残された者たちは、少しの間泣くよ。
明日からまた笑えるように、今だけ泣くよ。

あの日から1回も洗濯したことがないというかずおくんのハッピの袖がテカテカに光ってた。
あの日から止まったままの時間の欠片があちこちに残っていた。





「行くどー(`□´)ノシ」
のりおくんが力強くキックした。
前向きのときはあんまり気づかなかった氷のでこぼこが後向きになると不安定も重なって予想以上に大変ぽい。
のりおくんの挑戦は、ものの数秒であえなく終わった。
ただ終わっただけならいい。
のりおくんは、滑って足を溝に変な風に引っ掛けて倒れた。
倒れたばかりか、まったく動かない。
「のりお!!大丈夫かー!?」
男子たちがのりおくんを囲んだ。
「だから、言ったべι(`ロ´)ノ待ってろ、先生呼んで来っから!!」
まゆみちゃんは今何か騒いだかと思ったらあっという間にいなくなった。

何分かして、真っ青になった阿部先生がまゆみちゃんとバタバタ走って来た。
先生はのりおくんを医務室に担いで行った。

男子たちは、風に煽られながらその場にじっとしていた。
みんな何もしゃべらなかった。
女子の中には泣いてる子もいた。
わたしは怖くてまゆみちゃんの手を握っていた。まゆみちゃんも力いっぱいわたしの手を握っていた。

のりおくんはすぐに病院に運ばれたけど、足首をねんざしただけだった。
1週間くらいお休みして、のりおくんはまた元気に登校した。
心配してたみんなに満面の笑みで「大丈夫大丈夫♪」と言ってたけど、自分が怪我をしたせいでみんなの遊びをひとつ減らしたことを気にして、その倍の「ごめん」を繰り返した。
そして、学校を休んでた日に毎日お見舞いに来てくれた阿部先生にはごめんなさいをした後も「先生、校長先生に叱られたかな」とひどく心配していた。


漁師になったのりおくんが海で遭難してもうすぐ15年目の春が来る。
雪混じりの深夜、消防屯所のサイレンで飛び起きた人たちが岸壁に立ち並んで、真っ暗な沖の先を見つめた。
同級生の数が次々と増えてきた。
季節外れの雪の中、みんな沖だけを見据えてその場にじっとしていた。
わたしは怖くてまゆみちゃんの手を握っていた。まゆみちゃんもわたしの手を強く握り返して、
「陸でさえこんなに寒いのに…」
と泣いていた。


のりおくんの棺には、ひとつだけ見つかった毛糸の帽子が納められた。
のりおくんは、上がって来なかった。