俺たちはゲートのあるところに戻り、事の次第を伝えた。ほかのグループでも出口が見つからなかったようで、ずっと掘り進めていたらしい。そこから全員で出口まで向かい、下へと足場を掘って、道のようなところにたどり着いた。壁際には坑道のようなものがあいており、そこが前線基地となった。昨日聞いた話だと、何でもネザーには遺跡があるとか。改めてバステンさんに聞くと、たぶん遺跡の一部だろう、とのこと。俺はまた、アイクさんとわとさんの三人で道なりに探索をすることになった。俺はいつでも打てるよう、弓を左手に持って進んだ。
ア「上に気をつけてね」
 「あ、はい。確か空を飛ぶモンスターがいるんですよね」
ア「そう。ブレイズとか、ガストとか」
 「ガスト?お客さんのことですか?」
わ「それはゲストww」
ア「わとさん、ナイスつっこみww」
わ「いいボケだねwww」
 こんな調子で笑いながら、奥へと探索を続けた。

 しばらく歩みを進めると、数十メートル先の岩壁に、明らかにマグマとは違う黄色い光を見つけた。それを見た瞬間、「モンスター!?」と思ってとっさに弓矢を構えた。
ア「大丈夫。あれがネザークォーツだよ」
 「あれが?」
わ「そうだよ。松明よりも明るくて、なんにもしなくても、ずっと光る」
ア「それにしても弓矢の構え、はやかったなぁw」
 「ここのモンスターは強いと聞いていたので、あせっちゃいました(笑)」
 近くまで寄ると、確かに松明よりも強い光を放っている。これは明かりにもってこいだろう。アイクさん、わとさんがピッケルで採掘を、俺が周りの警戒をすることになった。
 数分もたたないうちに、その場にあったネザークォーツをすべてゲットした。なんでも、数もそんなに無いのでかなり希少らしい。つまり、これを見つけたということは―、相当運がいい、ということかもしれない。
 回収したものをなくさないように、一旦、前線基地に戻ることにした。ほかのグループでも取れていれば、後は帰るだけだろう。幸い、今までネザーのモンスターに遭遇していないから、この調子なら安全だ。やっぱりラッキーだ。運がいい。アイクさんを先頭に、もと来た道を戻りはじめた。
 その直後、背後から赤ん坊の声が聞こえた。気のせいかと思った。だが二人も聞こえたようで、かなりあせっている。
 俺は隣にいたわとさんに聞いた。
 「わとさん、今のは一体」
わ「あれがガストの鳴き声。ハッキリと聞こえたから、かなり近くにいる」
ア「ムサシ君、構えて!」
 そういわれて、どこから現れても攻撃できるよう、警戒しながら弓を構えた。だが当のガストはどこにもいない。確かに聞こえたはずなのに。
ア「―そうか。みんな走れ!下にいる!」

 早朝、黒曜石で作られたゲートの前に、10人のメンバーが集結した。改めて並んだメンバーを見ていると、迫力を感じる。この中に俺がいるなんて、一昔前だったら想像もしなかっただろう。
と「全員そろったね。じゃあ予定通り行くけど―、着火に当たって鳥氏から一言」
 俺はよっぴーさんが何を言うか、少し期待しながら待ったが、何も言わずにサッと火打石でゲートに火をつけてしまった。
と「おおぃwww!!」
ア「あっさりとつけたwww」
よ「だって何言ったらいいんですかwww」
 周りの雰囲気は笑いに包まれた。それと同時にゲートは紫色の光が、ドアのような形になった。あたりには紫の粉のようなものが舞っている。確か、エンダーマンも同じように粉が舞っていたような。
 他のメンバーは次々にゲートに飛び込んでいった。きっと何度も行っているから慣れているのだろう。当然だけど俺は少し不安だった。黒みを帯びた紫色の光を見ていると、先がぷっつりと絶たれていそうだ。運悪く、別のところに飛ばされるのではないか…。まあそれは無いと思うけど、やっぱり怖い。
 躊躇していると、ソーラさんが助け舟を出してくれた。
ソ「大丈夫?」
 「…あまり大丈夫ではないです」
ソ「それじゃ、一緒に飛び込もうか」
そう言ってソーラさんは手を握ってくれた。ありがたい。
 「た、助かります」
 そう言うと、ソーラさんはにっこりと微笑んだ。このやり取りを見ていたのか、まだ飛び込んでなかったあちゃみさんが近くに来てくれた。
あ「あたしも一緒にいくよ!ムサシ君!大丈夫だからね!」
 「お、お二人とも…、本当にありがとうございます」
ソ「それじゃ、「せーの」でいくよ」
 「は、はい」
 そして俺とソーラさん、あちゃみさんで「せーの」で合わせてゲートに飛び込んだ。一瞬、視界が暗くなったけど、ソーラさんの手をしっかりと握っていたおかげで、不安はなかった。

 一瞬、無限の闇の中に放り出された気がした。だけどよく見ると、足元はしっかりと見えるし、周りは洞窟のようにごつごつとしている。闇に見えたのは、その周りを構成している赤黒い石だった。バステンさんが言っていた「裏の世界」…自分の目で見ると、イメージしていたものとは全く異なる世界だった。こんなところがあるなんて、なんて世界は広いのだろう。
ソ「ムサシ君、気分はどう?」
 「あ、はい。大丈夫です。おかげで、なんともありません」
ソ「よかった~」
 「あちゃみさんも、ありがとうございます」
あ「いえいえ!あたしも初めて入る時は不安だったけど、イメージしてたほど怖くなかったでしょ」
 「たしかに、最初入る時だけ怖くて、今はそうでもないですね」
あ「でもここからが大変だからね。何かあったら聞いてね」
 「はい!」
 他のメンバーは周囲に松明をしき、明かりを確保していた。そのおかげで周りの状況が少しずつつかめてきた。どうやら現在地は、ネザーの洞窟の中らしい。
 その後、数名のグループに分かれて、それぞれが別方向にネザークォーツを捜索することになった。バステンさんだけゲートで留守番だった。俺はアイクさんと、わとさんの三人でさがすことになった。ピッケルで赤黒い石(名前は忘れた)を壊して、前へ前へと進んでいく。意外ともろいのですぐに穴が出来る。わとさん曰く、この石は火をつけるとずっと燃え続けるそうだ。面白いので少し持って帰ることにした。
だが掘っても、掘っても、先は見えてこない。
わ「しかし深いな。どこまで続いているんだ?」
ア「もうとっくに他の人が見つけているような気がする」
 「もうちょっと掘ってみましょう」
わ「元気だね、ムサシ君…」
ア「じゃあ、そこの壁を壊したら、いったん戻ろう」
 「わかりました」
 そう言って俺は、右から思い切りピッケルを振った。小さな衝撃音とともに壁が崩れ、視界が一気に広がった。巨大なマグマの滝や、明らかに手が加えられた橋のようなものが目に飛び込んできた。
 その光景に、俺は唖然とした。こんなものがこの世界にあるなんて。
 「…。」
わ「おぉ!ついにムサシ君がやった!」
ア「みんなに伝えてこよう。とりあえず戻るよ」
 「は、はい!」

 その後、ともさんたちはそれぞれの部屋に戻ったけど、バステンさんが隣に来てくれて、ネザーについての簡単な解説をうけた。バステンさんは物知りな上に、それを活用していろんな道具やアイテムを作っている。ネザーは例えると裏の世界であること、変わった敵もいること、向こうでしか手に入らない鉱石があることを教わった。
バ「しかしびっくりしたよw。ネザーを知らないなんて」
 「しょうがないです。今まで農作業や鉱石採掘しかしていなかったので」
バ「まあそうだけどさww。みんな一緒に行くから心配はいらないよ。ただ、モンスターにだけは気をつけて。こっちとはぜんぜん違って、空を飛んでいるのもいるし、結構強いから。まぁいざって時は、ムサシ君がおとりになってくれるからねwww」
 「いやいやいや(笑)、捨て駒にしないでください」

 部屋に戻り、仕度を始めた。バステンさんの指導どおりに、剣やピッケル、簡易ベッドとかを入れた。特に重要なのは矢だ。飛んでいるやつに対しては、これしか対処法がない。切らさないように、普段の3倍以上持っていくことにした。
 丁度仕度が終わったとき、ドアがノックされた。返事をすると、ともさんとソーラさんが入ってきた。一体どうしたのだろう。
と「いきなりごめんね。ちょっといい?」
 「は、はい。大丈夫です。準備も終わりましたので」
そう言うと、少し間をあけて、ともさんが言った。
と「実はね、今回ネザーへ行くことは、ネザークォーツが第一の目的じゃないんだ」
 「え?じゃあ、いったいなんで―」
と「ムサシ君に、わっち達のグループに慣れてもらうためだよ」
 「…どういうことですか」
と「まだここに来て2日目だから、慣れていないのはしょうがないけど、わっち達のところに来たからには、ムサシ君には一日でも早く、思いっきり楽しめるようになって欲しい。だから、このタイミングでネザーを計画したんだ。全員で何かを成し遂げれば、おのずと距離も縮まると思ってね」
 ともさんが言い終えると、ソーラさんが続いた。
ソ「この二日間、ムサシ君は誰にも、何も頼まないでお部屋の整理をしていたよね。今日の晩ご飯も、作るのを手伝ってくれた。もちろんそれは、悪いことではないし、「手伝いますよ」って言ってくれた時、私とってもうれしかったよ。
 だけどね、自分ひとりでやるだけじゃなくて、ムサシ君には誰かに頼って欲しいの。頼れるようになるってことは、距離が縮まることでもあるからね。それで、ともさんに相談したら、ネザーに一緒に行こうってことになったの」
 俺が知らないうちに、二人には気を使わせてしまっていたようだ。
 「…すみません。心配かけてしまって」
と「いや、いいんだよ謝らなくて。ムサシ君は今まで一人暮らしだったから、人を頼るって事はすぐには出来ないかもしれないけど、明日ネザーに行ったら、「頼る」事をテーマにして欲しい。このことは他のメンバーにもさっき伝えたから、心配はいらないよ。分からないことがあったら、誰でもいいから聞いてね」
ソ「おせっかいでごめんね」
 「いえ、大丈夫です。ありがとうございます」
と「まぁ最悪、ピンチになったらムサシ君におとり役になってもらって、そのスキにわっち達は逃げようw」
ソ「それいいですねww」
 「さっきバステンさんにも同じこと言われましたよ。ソーラさんも悪ノリしないでください(笑)」
 三人で笑った。これなら明日は大丈夫だろう…俺はそう確信した。

家に別れを告げた後の二日間、俺は自分の部屋を整理することにした。ソーラさんの協力で、二階のスペースに部屋を作ってもらったのだ。そして隣の部屋にはクミさんがいた。ソーラさん、わざと仕組んだのかな(笑)。
ミーシャはしばらく部屋に置くことにした。ネコは新しい環境に慣れるまでは、あまりうろうろさせないほうがいいからだ。しばらく時間がたてば、家全体を歩き回れるようになるだろう。
いきなりクミさんが様子見に部屋に入ってきた時はびっくりした。一瞬、襲われるのでは、とも思ったけど(あの時の殺気がすごかったからナ…)、「調子はどう?」と、まだ雰囲気に慣れていない俺を気遣ってくれた。そして部屋でうろついているミーシャを抱きかかえた。ミーシャは俺以外にかかえられたことがないから、どうなるか少し心配だったが、雰囲気に落ち着いたのか、ゴロゴロ言って甘えていた。ネコを抱くクミさんは、名画になりそうな姿だった。
「かわいい」
「もしかしたら、クミさんの部屋に住みつくかも」
「そしたら、もらっていい?」
「それはダメです(笑)」
冗談で言ったが、クミさんが本気でとらえそうで少し心配になった。

二日目の昼過ぎに整理整頓がおわった。それからソーラさんが夕食の準備をしていたので、手伝うことにした。ソーラさん曰く、男性陣のほとんどは料理が下手らしく、一度showさんとわとさん、バステンさんに全て任せたら、かなり悲惨だったらしい。大体想像はつく。料理法もわからずに闇雲に進めても、大概は悲惨に終わる。実際、昔の俺がそうだったからね。
太陽が沈み始めた頃に夕食が完成した。普段なら日が沈んで暗くなったころに出来るそうだ。
「助かったよ。料理上手なんだね」
「ある程度ですが(笑)。ソーラさんのほうが俺よりずっと上手ですよ」
「ありがとうw。そのうち全部任せようかな」
「それは…、考えておきます」
「期待してるねww」

 夕食をメンバー全員でとった。一日目もそうだったが、まるでパーティでもしているようなテンションだった。当然、クミさんははしゃがないけど、楽しんでいるらしかった。俺はまだこの雰囲気にはなじめていない。まだ来てから二日目だからしょうがないけど、いつかなじめる日が来るのだろうか。
 食事が終わった後、突然ともさんが立ち上がった。
と「みんな、明日はネザーに行こうと思うんだけど、どう?」
 ネザー???何じゃそりゃ。はさみのことか?それはシザーか。
わ「いきなりですねw」
と「いやぁ、ずっとネザークォーツ取りに行きたいって思ってたけど、今までやらなかったから、どうかなぁ…と思ってw。誰か予定ある人いる?」
 誰も発言しなかった。当然俺にも予定はない。
と「…じゃあ、今夜準備して、明日の朝出発でいいね?」
「オッケー!」
「行きましょう!」
 俺はとっさに手を上げた。「あの、ネザーって何ですか」
 全員の驚きに満ちた視線が一気に向かってきた。だって知らないからしょうがないじゃないですか…。
あ「もしかして、ネザー知らないの?」
 「はい」
と「www。やっぱりムサシ君は面白いなぁwww」
 ともさんが笑っていると、他の人たちもそれにつられて笑い出した。




一晩家を空けたことはほとんどない。相変わらず、レイたちは見張り番をしっかりとこなしていたようだ。ともさんは家をみて少しはしゃいでいる。
「うわー、これがムサシ君の家かぁ」
ともさんにお願いして、一度家に戻ることにしたのだ。親戚に事の次第を伝えなければならないし、何より、レイたちをそのままにしておけない。ソーラさんとアイクさん、あちゃみさん、そしてともさんも一緒に来てもらった。
この家に俺以外の人が来たことはない。狼達がどう反応するか心配だったが、特に暴れる様子もなく安心した。ソーラさんとあちゃみさんは、マークとシェパードをなでている。二頭ともうれしそうだ
「ムサシ君、親戚の人にはもう伝えたの?」
アイクさんが話しかけてきた。
「もう伝えてあります。少し心配していましたが、達者でやれと言われました。まあ、向こうも村の人がいますし、だいじょうぶですよ」
「そうだね。家はどうするの」
「鍵は開けっ放しにします。そうすれば村の人も利用できるし、何かと便利だと思うので」
アイクさんにお願いして、家の中にある鉱石や資源は全てカバンに詰めてもらった。これがあれば幾ばくか役に立つだろう。丁度、レッドストーンが必要だとバステンさんが言っていたので、備蓄したものを持っていけば、喜んでくれるはずだ。
「みなさん。行きましょう」
「えー、もうちょっとあそんでいたい!」
「ちゃみん、もうちょっとで夜になっちゃうよ。おいてくけどいいのw?」
「それはヤダww」
全員が出たところで、狼達を出した。俺はしゃがんで、狼の目線に合わせた。全員「待て」の体勢でこっちをみている。
「みんな、今までありがとう。俺はこれから、こことは別のところで生活することにした。勝手に決めてしまってごめん。みんなのことは絶対に忘れない」
そうして俺は一頭ずつ、感謝をこめて頭をなでた。出来れば連れて行きたいけど、やっぱり洞窟は通れない。ここで自由にしたほうが、彼らにとっては最良だと思った。
最後になでたのはルークだった。ルークの頭には少し大きめの特徴的な傷がある。これは一年くらい前、昼間にうろついていたエンダーマンと戦っていた時に、不意に攻撃を受けてできた傷だ。エンダーマンはワープするから、その先にルークがいたことが襲われた原因だと思う。仕方ないことかもしれないけど、俺がもっとしっかり戦っていれば、傷を受けることはなかったのかもしれない。それ以来、ルークの姿を見ると、申し訳なく思ってしまうことがあったが、それでも俺を慕ってくれていた。頭をなでられることが一番大好きだった。
ルークをなでおえた後、俺は立ち上がって叫んだ。
「さあ行け!達者で暮らすんだぞ!」
狼達は戸惑っていたが、すぐに森へと走っていった。4頭とも、途中で振り返ったけれど、迷いを捨てたのか、また森の中へと走り始め、奥へ消えていった。
「元気で…」
ミーシャが俺の脚にすりついて「ニャー」と鳴いている。慰めてくれているのだろうか。ミーシャは子猫の時から育ててきた。野生ではおそらく生きていけない。放すわけにはいかないので、連れて行くことにした。
「大丈夫?」
ソーラさんが話しかけてきた。俺はミーシャをかかえた。
「大丈夫です。少し寂しいだけです」
「それ大丈夫っていうのw?」
「たぶん…。しばらくしたら慣れると思います。それにあの4頭は伊達じゃないですし」
「ムサシ君がそういうなら、きっと大丈夫だね」
ソーラさんはそう言って微笑んだ。とても優しい微笑みだ。
「それじゃ、わっちたちも帰ろう!」
ともさんの掛け声を合図にするかのように、みんな歩き出した。俺はかつての家を、振り返ってしまわぬよう後にした。その時ふと、ある言葉を思い出した。


「何かの終わりは、新しい何かの始まりである」
そう聞くと、クミさんは体を俺のほうに向け、真っ直ぐ見つめてきた。視線から目を離そうとしたけど、なぜか出来なかった。クミさんはゆっくりと口を開いた。
「…あなたの顔を洞窟から戻るときに見ていたけど、昔の私にそっくりだった。小さい頃から恥ずかしがりやで、他の子を避けていたせいで、誰も私に近づかなくて、友達なんかつくれなかった。でも本当はみんなと一緒に遊びたいし、笑いたいって思っていた。今のあなたの目は、その時の私のような、寂しさでいっぱいの目に見えるの」
そう言ってから、両手で俺の手を優しく包んだ。温かさがじんわりと伝わる。頬が赤くなるのが感覚でわかった。クミさんは続けた。
「今の私があるのは、ともさん達のおかげでもあるけど、同時に「変わりたい。一緒に笑いあえるような仲間がほしい」って思って、行動した結果でもあるの。もしあの時、動こうとしなかったら、今の私はいない。あなたが寂しさから抜け出そうとするのなら、それは今しかないと思う。特に、あなたは優しくて、見知らぬ人だった私達を助けようと、自分から危険の中に飛び込んだほど、勇気がある。だからこそ、あなたの良さをわかってくれる人たちの元にいるべきだと思う」
言い終えても、クミさんはじっと俺を見つめていた。

言われて、始めて気付かされた。確かに―そのとおりだった。
幼馴染なんていなかったし、いるとしても周りには大人だらけ。友達もいなかったし、当然遊び相手もいなかった。ずっと…寂しかった。
「羨ましい」は結局、俺自身が寂しいと感じる事を隠すための、ベールに過ぎなかった。本当は心のそこから仲間が欲しくてたまらなかったのか。どこかで不意に感じていたむなしさは、「仲間と一緒に笑いあいたい」って俺のこころが求めていたからなのか…。
毎日毎日、寂しいことは感じていた。だけど、ただ景色を眺めたりするだけで、その穴をなくす為の具体的な行動は何一つしてこなかった。その結果が今の俺だ。
それでいいのか?
本当にそれでいいのか?


―いいわけがない。



「…本当に、いいんですか?」
俺は言った。クミさんはそれを聞いて、少し微笑んだように見えた。
「もちろん」
「…それじゃあ、きまりだね」
ともさんはそういうと、席を立ち、俺の隣まで歩いてきた。
「君を新メンバーに迎える!これからよろしくね!ムサシ君!」
ともさんが手を差し伸べてきた。俺は立ち上がって、しっかりと両手で握手した。今までの羨ましさ、むなしさが夢だったんじゃないかと思えるくらいにうれしくて、泣き出してしまいそうだった。それは同時に、俺自身が変わるための第一歩を、やっと踏み出した瞬間でもある。

「それじゃ早速メンバー紹介しようか」
「その前に…」
俺は続きをさえぎった。そして、
「…いつまで後ろにいるんですか」
そう言いながら後ろを振り返った。実はクミさんが話し始めたあたりから、俺の真後ろに人がいて、盗み聞きしていたのだ。
不意打ちにびっくりしたのか二人とも少し後ずさりした。一人は女性で、とても活発そうなひとだ。もう一人は男性なのだが、なぜか雪だるまの格好をしている。そんなに冬がすきなのかな。
「えぇ~、何でわかったの!?」
「だって向こうの窓に思いっきり映っていましたから」
「やられたな。こりゃw」
「せっかくびっくりさせようとしたのに~。ともさん、もうちょっと早く合図だしてよw」
「しょうがないよwww。今回はムサシ君が上手だった」
そう言ってから3人は笑っていた。どうやら俺をはめるドッキリだったようだ。ソーラさんも笑っている。クミさんは…やっぱり表情がよく分からない。
「クミさん。本当にありがとうございます」
小声でお礼を言った。聞こえたようで、クミさんはまた少しだけ微笑んだ。素敵だった。

そのあとすぐに、メンバーが紹介されて、俺も簡単な自己紹介をした。いきなりの展開だけれど、みんなすぐに受け入れてくれた。なんていいグループだろう。
ともさんが言った。
「とりあえず自己紹介は終わりだけど…。みんな、ムサシ君、タメでいいよね?」
「さんせい!」
タ、タメ?なんじゃそりゃ?何かを貯めるのか?
「タメってなんですか?」
「え?しらないの?タメ口って事だよ」
「タメ口!?いやいや、俺あきらかに最年少ですし」
「気にしない気にしない!みんなオッケーって言ってるし」
それならと思い、お言葉に甘えて部分的に使うことにした。
そして、ここに住むからには、絶対にやらなければならないことがある。
「あの、ともさん」
「なに?」
「お願いがあるのですが…」
「さて、俺は帰ります」
「待ってください。こんなにも色々としていただいたのに、何もしないなんてできません。お礼させてください」
ソーラさんが言った。だけど俺は部外者だし、正直ここから離れたかった。さっきから羨ましいという思いが強くなっていて、さっさと消し去りたかったのだ。
俺は立ち去ろうとした。立ち去ろうとしたのだ。
だけど正面から「一歩でも動いたら死ぬ」的な殺気を感じて足を止めた。クミさんがジーっとこちらを切れ味のある視線で捉えている。
「…泊まっていきなさいよ」
クールを通り越してアイスのような声で、クミさんは言った。10秒ほど考えた挙句、身の安全を優先することにした。やむを得ない。
「…じゃあ、お言葉に甘えて」
俺は方向をかえて、豪邸のほうにゆっくりと脚を進めた。ソーラさんは素敵な笑顔で案内してくれている。アイクさんと目が合ったが、おどけたような感じで、申し訳ない、というように両手を合わせていた。
美しいバラには棘があるとは、こういうことか。


思っていた以上に中は広かった。俺は入り口すぐのリビングに通された。アイクさんはリーダーを呼んでくるそうだ。ソーラさんはお茶を入れている。そして俺の隣にはなぜか…クミさんが座っていた。まるで看守に見張られる囚人の気分だ。もう入ってしまったら、俺は逃げないのに。
しばらくしてアイクさんが、一人の男性を連れてきた。髪が赤くて、服装はなんとなく海賊をイメージしてしまう。だけど第一印象とは対照的に、とても打ち解けやすそうな雰囲気を持った人だ。リーダーと言われても、全く違和感は無い。
「君がクミさんたちを助けてくれたんだね。仲間を救ってくれて、本当にありがとう。」
赤い髪の人は言った。まるで友達と話しているかのように感じる。
「いえ、偶然居合わせただけですから。それに俺は救われた側の人間でもありますし」
そう言ってクミさんをちらりと見た。よく分からない表情だ。
「申し遅れました!わっちの名は、赤髪のとも。君は?」
「俺は―、ムサシといいます」
「ムサシ…。かっこいい名前だね」
「ど、どうも」
それから俺は、クミさんたちと出会った経緯、自分のことについて話した。途中ソーラさんがお茶を運んできてくれて、ともさんの隣に座って話を聞いていた。初対面の人に対してこんなにも話ができるなんて思ってもいなかった。ともさんの雰囲気のおかげだろう。こんな人がリーダーなら、毎日楽しいに違いない。
話がある程度終わると、ともさんが言った。
「結構おもしろい人なんだね。ムサシ君が戦っている姿、みたかったなぁ」
「いやいや(笑)、そんな大した腕じゃないです。それに俺、途中でコケましたし。クミさんがいなかったら完全にアウトでした」
「クミさん、めっちゃ強いからなぁww」
ともさんは笑っていた。その時、さっきから隣でなにか考え事をしていたソーラさんが、不意に口を開いた。
「ねえ、ともさん。ムサシ君をメンバーに入れてあげるのはどう?」

は!?はいぃ!!??
いきなり何を言い出すんですか!?

「さっきから話を聞いて考えていたけど…、やっぱり一人で暮らすよりも、みんなで協力していったほうがいいと思うの。その方がいろんなことができるし。私たちも元々友達同士で、それが繋がって今こうして生活しているけど、「仲間がいてよかった」って思うことがいっぱいあったの。
もちろん無理強いはしないけど、ムサシ君さえよければ仲間に入れてあげたい。ともさんはどう思う?」
「わっちは大賛成だよ。話を聞いただけでも、とても良い人だってことはよくわかったし。何より、仲間をたすけてくれたからね」

いきなりの展開で戸惑った。まさかこうなるなんて…。
確かに気持ちはありがたい。俺にとってはただ当たり前のことをしたに過ぎないのに、こんなことを言ってくれるのは、正直とてもうれしい。だけど、俺にも今の生活があるし、いきなり見知らぬ人間が入っても混乱するのではないか。
だけど、一番の理由は、自分の中にくすぶっている「羨ましさ」をさっさと消し去りたかったのだ。こんなお荷物な感情、さっさと降ろして火をつけて燃やして、その灰を海なり、山なり好きなところにばら撒いて葬りたい気分だ。持っていても何の価値もないし、力もないし、暖かくもなんとも無い。それを持っていたとして何になる?飼いならしたとして俺に何のメリットがある?ただこころの中にむなしさが巣くって無制限に増殖するだけだ。究極の「無駄」でしかない。
二人には申し訳ないけど、断ることにしよう。
「お気持ちはありがたいです。でも…申しわけないですがお断りさせ―」
「本当にそれでいいの?」
会話をさえぎっていきなり話しかけてきたのはクミさんだった。今まで何も言わなかったので驚いた。
「え、どういうことですか」
情けない。
助けに来た人間が、助けられる側になるなんて…こんな、こんな美しいおとぎ話を思いっきりひっくり返したような話があるか!!本来なら、アイツら全部倒して、助けを求めていた人々救って、「いや、当然のことですから。それよりお怪我はありませんか、お嬢さん」とか言って気ぃ使うのが理想だろ!!!本来あるべきストーリーだろ!!!!
それに比べて、俺の惨めさといったら…ああぁ…。

頭を抱えて今にも喘ぎそうだったが、目の前に手が差し伸べられたのでやめた(危なかった)。見上げると戦闘服の女性がこちらの様子を見ている。
「あ、どうも」
手をつかんで立ち上がった。そして彼女の顔を正面から見たとき、心臓が今にも破裂しそうな勢いとスピードで動き始めた(元々止まっていたわけじゃないよ)。
その人―クミさんだっけ―はメガネがよく似合う美人なのだが、次元が違う。なんと言うか、「かわいい」とか「きれい」とか、とてもそんなレベルの言葉では言い表せないというか、俺みたいな大人になってもどこかに子供っぽさを残している人間が、その場にいてはいけないような雰囲気を感じてしまうのだ。あまり笑わないのか、豊麗線がなかったけれど、とても気品のある顔立ちだ。こんな人に会うのは初めてだったので、どうすればいいかわからなくなってしまった。
「大丈夫?」
クミさんが話しかけてきた。とてもきれいで、クールな声だ。その目はまっすぐに俺を見ていて、視線を合わせるのも緊張してしまう。
「だ、大丈夫。助けてくれて、あ、ありがとう」
「こちらこそありがとう。仲間が怪我をしたから、動けない状態だったの」
そういってクミさんは俺の後ろに視線を移した。
振り返ると、黒い服を着た男性が、他の男性と女性に介抱されている。女性のほうは春のような服装をしており、もう一人の男性のほうは青い服と、黒いズボンを着ている。ちょっと変わった格好だ。
俺はすぐに近寄った。
「大丈夫ですか?」
「あ、はい!助けてくれて本当にありがとうございます!」
女性のほうが答えた。他の2人からもお礼を言われた。黒い服の男性はどうやら足を怪我したらしい。
「まさか、骨折したんですか!?」
「いやいやw、足を踏み外して捻挫しただけですよ」
「でもshowさん、それじゃ歩けないでしょ。アイクさん、肩を担いで帰れますか?」
「大丈夫だと思う。ソーラさんはshowさんの荷物をお願いします」
アイクさんはそう言って、左肩を担ごうとした。俺は自分の荷物と剣を背中に背負い、右肩を担ぐために、showさんの右腕を後頭部に回した。
「そんな、わるいですよ」
「いいんですよ。それに一人よりも、ふたりの方がいい。手伝います」
「助けてもらった上に、ここまでしてもらわなくても」
「これくらい、なんてことはありませんから」
最初は少し困惑していたが、クミさんが「お願いしたら?」と言ってくれたおかげで、3人とも納得してくれた。俺はクミさんに視線を移して言った。
「あぁそうだ、クミさん、周りの警戒をお願いします」
一瞬、クミさんは驚いたような表情を浮かべたが、すぐに頷いてくれた。とても頼りがいのある返事だ。
クミさん達は採掘のために洞窟に入ったらしい。歩いている途中でshowさんが足を踏み外して捻挫してしまい、ソーラさんが手当てしようとしたとき、ゾンビの群れが現れたそうだ。俺が聞いた悲鳴は、その時驚いたソーラさんが叫んだものだった。本人は恥ずかしがっていたけど、それがなかったら今頃どうなっていたか分からない。きっと気がつかなかっただろう。
他にも仲間たちが5人いて、一緒に暮らしているという。普段は畑や資源の採集をしているそうだけど、たまに全員で冒険に行くこともあるそうだ。羨ましい。

showさんを担ぎながら洞窟を無事抜け出すことができた。空はもう暗くなりかけていたが、周りは明るかった。なんだろうと思いながら正面に視線を移したとき、俺は絶句した。
そこには山をバックにした、豪邸ともいうべき巨大な建物がそびえていたのだ。屋根は赤く、壁は木でできている。一体何部屋あるのか想像できないくらいに大きい家だ。こんな大きさは生まれて始めて見る。家の正面にはこれまた広大な麦畑も広がっていて、その周りも整地されている。
「…。」
口をあんぐりとあけたままで、俺は真っ直ぐに豪邸に向かって進んだ。向こうに人影が見えたが、こちらの様子を認識したらしく、二人駆け寄ってくる。両方とも男性で、一人は上に水色、下に黒い服を着ている。もう一人はこれまた変わった服装で、体は人なのだが、なぜかクチバシがついている。まさか新種のモンスターか?
「showさん!一体どうしたの!?」
「洞窟で足をくじいたの。わとさん、よっぴーさん、家に運んであげて」
「わかった!」
そういって二人はアイクさんと俺と交代して、showさんを担いでいった。
「…キャー!…」

女性の声だった。一瞬で体が硬直した。一瞬幽霊とも思った。俺はそういう類が苦手なのだ。
だけど遠くから聞こえたその声は、なんというか、覇気があるというか、生気が感じられたというか、そんな声だった。
なんでこんな深くて暗くて危険なところに人がいるんだ?大体なんで叫んだ?まさか、幽霊を見…(あるわけないだろ)。
考えられる理由は1つだ。

「まさか、モンスターに!?」
こうしてはいられない!すぐに助けに行かねば!でも金はどうしよう!?せっかく見つけたのだから、せめて採掘だけしてから…。いやいやそれじゃゲス過ぎるだろ自分!俺はそんな非情な人間じゃないだろ!何のために今まで剣を振り、弓矢の腕を磨いてきた!?早く行かないと死んじまうぞ!いやでも、もし行って戻れなくなったら…

「ああぁ!もう!!」
俺は金への執着を捨て、弓を持ちながら声が聞こえた方向へ駆け出した。

幸いなことに、金を見つけた地点からは一本道が続いていた。叫んだ本人が無事であることを祈りながら俺は必死で走った。奥からは声が聞こえてくる。
「―な!さが―」
「は―にげ―」
「―さん!む―ないで!」
「わた―きつけ―ら!」
どうやら複数らしい。向こうの状況は大体わかった。
声は次第に大きくなり、正確に聞き取れるようになった。同時にゾンビのうめき声が耳に入る。かなりの数だ。一人で相手できるとは到底思えない。走り続けると、その先に左への曲がり角があった。どうやら現場はその先らしい。俺は鋭く角を曲がった。


そこにいたのは、4人の「人」だった。年はわからないが、若い女性と男性が二人ずつだ。そして10体くらいのゾンビの群れに立ち向かっていたのは、腰に二本の鞘をかけ、二刀流で戦っている女性だった。髪は少し短く、いかにも戦闘用っぽい服を着ている。それにしては露出が多いような(ゲフンゲフン)。他3人は少し距離を置いた後ろの壁に避難している。
俺が走っていた道は、3人のちょうど上にあいていた洞に通じていた。向こう側では、ゾンビが戦闘服の女性に大勢で襲い掛かっている。
「クミさん!にげて!」
3人のうちの女性が叫んだ。だが戦闘服の女性は怯む様子も見せない。すげえ度胸だと思ったが、これでは不利すぎる。
俺は弓を構え、一瞬に近い(と勝手に自負している)スピードで矢を番え、一体のゾンビに狙いを定め、押さえていた指を離した。矢は空間を切り裂く鳥のように飛び、ゾンビの頭に命中した。ヤツは糸が切れた人形のように、パタリ、と倒れた。
「…!」
戦闘服の女性が後ろを振り返った。こちらの姿は見えているはずだ。俺は叫んだ。
「いきなりで申し訳ないが、加勢させてもらうよ!」
 そして3本矢を放ち、2体の頭・腹に命中させて倒した。だがこれでは対処できないほどゾンビはまだ残っている。
 俺は少し助走を付けて穴から飛び降りた。あまり高くは無いから、膝を心配する必要も無いだろう。荷物のカバンを右手で放り、背中の剣を抜いた。そして両手で剣を持ちかえて足を蹴りだし、一気にゾンビ集団との間合いを詰めた。

 矢で倒した分、ゾンビの群れの密度は少なくなっていたから戦いやすかった。最初に左から襲い掛かってきたヤツの腹に剣を押し付け、肩に向けて一気に引き抜いた。斬られた体が転がっていく感覚が伝わる。続けて右から来たが、引き抜いて上げたままの剣を、体を少し右にひねってからそいつに振り下ろす。勢いに流されて、ゾンビの体は右斜めに倒れていった。正面からは3体目が向かってきたが、俺は剣先を横にし、体のひねりを加えて勢いよく左に振った。手ごたえを感じた。だが勢いよく振りすぎたせいで、視線が動いてしまい、右斜めから襲ってくるゾンビに気付くのが遅れた。ヤツは右腕を振り上げた。
「くっ」
かわそうと後ろにジャンプしたが、運悪く倒したゾンビの体に左足が引っかかり、バランスが崩れた。
「うわっ!」
思い切り背中から転び、その衝撃で剣が手から離れてしまった。ゾンビはかなり接近している。今剣を構えても間に合わない。俺はとっさに右足を上げて膝を曲げ、蹴り飛ばそうとした。
だがその瞬間、ヤツは青色の剣に切り裂かれ、背中から倒れていった。何が起こったのかわからなかったが、よく見ると先ほどの戦闘服の女性がこちらに背を向けて、残った3体に立ち向かっている。よく見たら彼女は逆手持ちをしていた。
ゾンビたちはいっせいに襲い掛かったが、戦闘服の女性は右腕、左腕と剣を振り、一気に切り刻んでしまった。その姿は、まさに圧巻と言って良いほど、美しい動きだった。ヤツらは弱弱しく情けないうめき声を上げながら、地面に伏していった。
〈きっかけは、本当に些細なことから始まる〉

そろそろ鉱石が不足し始めたので、洞窟に行くことにする。以前から家の目と鼻の先にあった洞窟内を探検していて、今回はさらに奥を目指す予定だ。
簡易ベッドや食料、弓矢、火打石などの持ち物チェックを行い、カバンを肩からかけた。剣を背中の鞘にしまう。これは鉄を使って俺が磨き上げたものだ。ダイヤでできた剣もあるらしいが、万が一なくしたり、折れたらどうしようもない。ただでさえダイヤは貴重なのだから、やたらに使えるわけが無い。
それに、たとえダイヤよりも鉄が劣っていたとしても、剣さばきを磨けばある程度ならばカバーできると思っている。そういや、「○○の性能の違いが、戦力の差ではないことをおしえてやろう」なんて誰か言っていたような。
ドアを閉めて、家の囲いの入り口に向かっていた時、あちこちから鳴き声が聞こえた。周りを見ると、レイたちが何か言いたげな表情で、俺を心配するような目で見ている。狼は平地や小高い山に連れて行けるが、高低差が激しいこともある洞窟では、落ちてしまうかもしれないので連れて行けない。
「大丈夫。俺が留守の間、家の周りを頼むよ。」
そう言ってドアを開け、後ろを振り返ってしまわないように扉を閉めた。


かなり深いところまできた。前はマグマやエメラルドを取って帰ったのだが、現時点での収穫は鉄と石炭のみだ。まあ石炭は松明の材料になるから、すぐに役立ってありがたいけど。
前回は二股に分かれた道の一方に入った。途中で行き止まりだったので、今回はもう一方の道を行くとしよう。
迷わないように、前回のルートを土砂でふさぎ、松明を洞窟の左上に付けながら進む。こうすれば戻る時に、進む方向の右上に松明があることになるから、迷わないですむのだ。道が分かれている時は、土や丸石で一方を塞いだり、砂ブロックを使って松明の塔を作り、帰る方向を書いておく。われながら名案だ(笑)。

石炭や鉄を採掘しながら、行き止まりまで進んだが、どうも違和感がある。本来なら、天井や地面は凸凹で下手すりゃ危ないのに、壁や足元は平らにならされたようになっている。明らかに自然のものじゃない。それに行き止まりの壁は、上から崩落して塞がったようになっている。
「もしかして」
おれはピッケルを体に対して平行になるように構え、先端を思い切り正面の壁に当てた。鉄と石がぶつかる音が鳴ると同時に、まるで吸い込まれるように、上に積もっていた石が奥へ奥へと流された。開いた空洞からは弱い光が差し込んでくる。
「これは―、炭鉱だ」
そこにあったのは、木の柱と、レールの跡、松明であった。明かりはかなり奥深くまであるらしく、向こう側もよく見える。レールは少しだけしかなく、かなり前から人が足を踏み入れてないことが伺える。
かつて、村々を越えて多くの人々が炭鉱を作り、お互い助け合って採掘をしていたという話を聞いたことがあるが、まさか本当に見つかるとは思わなかった。探検大好き人間なら、這ってでも行きたいと思うだろうが、あいにく俺にはそんな趣味は無い。それに迷ったら元も子もないのだ。愛しいミーシャやシェパードたちにも会えなくなってしまう。
だが鉱石がある可能性は格段に上がったのは間違いない。洞窟にいられる今のうちに探索はしておこう。分かれ道があれば、ブロックでふさぐなり、柱を壊すなりすればいい。
俺は自分にそう言い聞かせながら、偶然見つけた炭鉱の入り口に足を踏み入れた。
「生きて帰れるかな…」

「帰れるかな」ではない。「帰る」のだ!

目論んだとおりだった。
数え切れないほど分岐点が見つかったが、迷わないように道をふさぎ、一本道にした。途中曲がり道や階段があるなど、かなり深くまで続いているようだ。幸いモンスターには洞窟に入ってから一度も出会っていない。気付いていないだけかもしれないけど。
ハイリスクだが、同時にリターンも大きい。石炭や鉄鉱石、レッドストーン、ラピスラズリが見つかった。今までで一番の収穫だ。途中、炭鉱に巨大な穴が開いており、そこから水やマグマが流れる深い渓谷を発見した。おそらくその下にはダイヤがあるに違いない。ピッケルで足場を壁伝いに作れば、降りられないことも無いが、面倒なのでやらない。今の目的は、炭鉱の奥深くまで進むことだ。
渓谷が望める穴を通過し、しばらく歩くと、左下の床がキラキラと光を浴びて輝いている。一瞬「ホタルか?」と思ったが、すぐにその疑念は消え去った。

「キ、金だあああぁぁ~~~!!!!!!!」
歓喜のあまり思わず叫んだ。実は今まで金を実際に見たことは一度も無かった。ダイヤやエメラルドは実物を見たことがあるけれど、金は話でしか聞かなかった。
まさかこんなにも黄色に光っているなんて…。あ、そうか、これを「金色」というのか。確かに黄色にしては透明感ありすぎだな。大体何でホタルと間違えるんだ。そもそも洞窟内にいるほうが異常すぎる。きれいな水辺にいるべきだ。自分バカすぎるだろ。
まあいいや。これで、これで、これで念願だった金が手に入る!!
俺は今までに無いほどのにやけ顔をいっぱいに作りながら、ピッケルを取り出した。周りにモンスターがいないかどうか入念に注意し、安全を確認した。そして、ピッケルを振り上げ渾身の力で振り下ろそうとした、その時―