精神を研ぎ澄ませ。ここで集中力が切れたら負けだ。
 周辺の空気が張り詰めていく。向こうとはそれほど離れていない。普段よりも剣は重く感じる。それは同じ条件だが、圧倒的にこちらは不利である。下手をすれば、すぐに勝敗は決まってしまうだろう。今はどちらが先に出るか、ただただ探りあいをしている。
 一瞬、体が僅かに動いたかと思ったら、あっという間に距離を縮められ、下から右腕が振り上がってくる。体で受け止めてしまわぬよう、後ろに重心を移しながら、剣先で流すように軽く受け止めた。剣先どうしが短くこすれる音が響く。これで勢いを受けることなく、振り上げた先へと送り流すことができる。だが攻撃に移ることは出来ない。
 続けざまに第二打が来た。今度は左腕が真横から振られる。さすがにうまく流せず、勢いに負けて剣が左へと傾いた。視線を正面に移すと、右腕がすでにスタンバイしている。これはまずい。
 目には見えないくらいの速さで逆手持ちされた剣が元の位置に戻り、それと同時に、待ってましたとばかりに右の剣が横から向かってくる。狙いは首元のようだ。
 俺はすばやく後ろへと飛びのいた。間一髪逃れられた。受け止めなかったこともあって、勢いは殺されずに、そのまま大きく空を切る。同時に姿勢が少し乱れた。
チャンスだ!
 着地と同時に、膝にバネをためていたので、一気に駆け出した。背中側ががら空きだ。ここに一撃を入れれば勝てる―そう思った。
 だが狙ったはずの体は、ヒラリ、と俺の剣先を避けた。その直後、背中に木の棒を思いっきり叩き込まれた。姿勢が元に戻ってしまったようだ。真後ろからうけた衝撃で体のバランスが総崩れし、ダイブするように真正面から転んだ。これではもう受身に入るしかない。俺は右に視線を移し、再び剣を手に取ろうとした。
 だが相手のほうが早かった。木でできた模造の剣の先端が、首元に突きつけられている。視線を後ろにまわすと、クミさんが俺をまたいで、見下ろしていた。
 当然だけど、また負けた。

鳥「背中大丈夫?」
 「鞘があったので、ギリギリセーフでした。でもちょっと痛いです」
鳥「無理しないでよw。それにしても、よく耐えられるよね」
 「訓練なのでしかたないです。まあ、あの時に比べたらまだマシですよ」
鳥「あの時はある意味修羅場だったwww」
 思い出しながら俺も苦笑した。背中がまだ痛む。
 ここに来てから、もう三ヶ月が過ぎた。雰囲気にも慣れて、毎日がとても楽しい。結局タメ口はできなかったけどね。
 今は鳥さんと一緒に狩りをしている。ネザーでやらかした分、なにか出来ないかと思い、結構大変な仕事である「狩り」を受け持つことにしたのだ。元々それを担当していたのは鳥さんで、実際は受け持つというよりは、むしろ共同作業だった。大変ではあるけれど、やりがいもあるし、鳥さんとも仲良くなった。そのおかげでずっと続けている。
 今朝はクミさんに連れられて稽古をしていた。一対一で対峙して、戦闘形式で行うものだ。当たり前のことだけど、いつもクミさんにコテンパンにやられる。時々ここはどうするか等々、改善点やアドバイスをくれることもある。
 実感はないけれど、多分腕は少しずつ上達しているのだろう。まぁ、俺が勝つなんて事は、真夏に雪が降るのと同じくらい、ありえないことだけどね。
 ちなみに、先ほどの「あの時」というのは、クミさんの攻めが圧倒的過ぎて、俺が気絶したことだ。何があったのか、その時のクミさんはいつも以上に殺気立っていた。やるべきか躊躇するほどだったけど、引いても何が起きるか分からないので、結局いつもどおり対峙したのだ。
 その後俺は気を失った。後で聞いた話によると、クミさんが俺を担いで運んでくれたそうだ。幸いソーラさんとアイクさんの手当てのおかげもあって、一時間後に目が覚めた。体に異常は感じなかったけれど、大事をとって3日間安静にすることになった。クミさんも、ともさんからこってり絞られたそうだ。それだけ怒るのも、よっぽどのことだったらしい。
 俺が安静にしている間、クミさんは部屋に来て色々と手助けをしてくれた。だけどその姿は、いつも見ている落ち着いた姿ではなく、どこか混沌とした感じだった。反省しているのはわかったけれど、見ていて痛々しかった。クミさんもその時、痣と傷だらけの俺を見て、ショックを受けてしまい、一時期自己嫌悪にまでなったそうだ。
 あの時ほど、散々だったことはない。




先週、投稿した第三章 パート12がうまく投稿できておらず、気付くのが遅れてしまいました。

続きを楽しみにしていた皆様には、多大なご迷惑をおかけしてしまい、申し訳ありません。

今後、このようなことがないように、より注意してまいります。


まだこの物語は続きますので、楽しんでいただけると幸いです。
と「仲間にお願いする時は、謝っちゃダメだよ。謝る理由なんてないんだから。それに、仲間っていうのは、お互いが助け合うのがあたりまえ。お礼を言うのは当然だけど、お願いする時には、謝らなくていい。相手が忙しかったりとかなら別だけどね」
 「は、はい」
と「よし。それじゃもう一度」
 かなり戸惑ったが、一線を越えるような勇気を持って、俺は言った。
 「誰か、肩を担いでもらえませんか」
ア「わかった。よっぴーさん、手伝ってくれる?」
鳥「了解」
 「お願いします」
 二人のおかげで、何とか立ち上がることが出来た。これで問題なく戻れるだろう。ゆっくりと歩き始めた時、ともさんが言った。
と「ようやくこれで課題クリアだね」
 「課題?」
ソ「ほら。「誰かに頼る」ってこと、昨日はなしたでしょ」
 「あ…。すっかり忘れてました」
ソ「もうww」
と「でもこれで、また一つ成長できたってことでいいじゃないww」
 一つどころじゃない。今日は今まで生きてきた中で、一番得たものが大きく、そして何物にも変えがたいものだった。言葉で表せないほどの、本当に貴重なモノだ。
 2日前、生活していけるか、なじめるかどうか不安だった。だけど今は―そうなると断言できる。いや、なってみせる。
肩を支えられて、一歩ずつ進みながら、俺は確信した。


第三章 終
ソ「落ち着いた?」
 「…すみません。迷惑をかけてしまって」
ク「あなたは何も悪くない」
ソ「クミさんの言うとおり。全然気にしなくていいよ」
 二人の言葉のおかげか、段々と落ち着いてきた。おかげでいつもどおりの感覚が戻りつつあったが、ふと、何かが欠けたような感覚があった。周りを見ると、手放したはずの剣が見当たらない。
 「あれ、俺の剣は」
ク「ごめん。投げた」
 「はい?」
ク「ガストがいたから、とっさにあなたの剣を投げたの」
 「…」
 嘘だと信じたかったが、既に俺自身がその決定的場面を、至近距離で目撃してしまったので、どうしようもなかった。
 今まで、ずっとあの剣を操り続け、昼夜問わず、洞窟でも肌身離さず持っていた。時には研いで切れ味をあげ、ヒマがあれば磨いていた。とても愛着のあるものだった。結果的にそのおかげで助かったわけではあるが―、ショックだ。
と「そんな顔しないの。剣なら、バステンさんが作ってくれるよ。クミさんが使っているのも、バステンさんが考えて作ったんだよ」
 「え、本当ですか」
バ「そうだよ。クミさんのヤツはダイヤの剣なんだ。鉄よりも軽いし、かなり長持ちするからね。ダイヤもまだ数はあるから、ムサシ君がご希望なら、同じような剣を作ることも出来るよ」
ク「私もダイヤの剣にしたほうがいいと思う。今まで鉄だったから、軽くなる分剣さばきも良くなるはず」
 「確かに…。バステンさん、戻ったらお願いしていいですか」
バ「もちろん!形やデザインも教えてね」
 「ありがとうございます!」
 意外な形で、ダイヤの剣が手元に来ることになった。そして大きくなる期待と反比例するように、鉄の剣への執着が消えていった。でも今まで世話になったことは紛れも無い事実だ。俺は心の中で、おそらく跡形もなくなっているであろうかつての剣に、「今までありがとう」と呟いた。これで弔いになってくれればいいのだけど。
と「さて、ネザークォーツもゲットしたし、戻ろうか」
ア「いつまたモンスターが来るかわかりませんからね」
 俺も出遅れないように、立ち上がろうとした。だがその時左足の太腿に、強引に引っ張られるような強烈な痛みを感じた。突然の事態で、尻餅をついてしまった。あまりの痛さに思わず声が出てしまう。
 「痛っ!!」
ソ「どうしたの!?」
 「あ、足を攣ったみたいです」
 慎重に左ひざを曲げ、足の裏を両手でつかんで、手前にむかって引っ張った。何度か繰り返すと、最初よりもだいぶマシになった。だけどまともに歩ける状態ではない。
ア「大丈夫そう?」
 「さっきよりマシですが、歩くのはちょっとキツイです」
ソ「だいぶ無理していたのかもね」
 「そうかもしれません…。すみません、誰か手を貸してもらえませんか」
と「ダメだよ」
 「え…?」


 周りには、ともさん達が集まっていた。どうやら周囲に敵はいないらしい。クミさんはいつの間にか横で立っていた。
 俺はすぐに起き上がり、土下座した。頭部を強く打ち付けてしまうほどのスピードで頭を下げた。額に衝撃が走る。
「申し訳ありませんでした!!!」
 ほとんど叫ぶような形で俺は謝罪した。いや、こんなことで済む話ではない。俺は自分勝手な妄想で謝りきれないほどの迷惑をかけたのだ。ともさんに対しては突っかかり、ソーラさんの気遣いも無視してしまった。
だが何よりも一番いけないことは、自らの命を自分から危険にさらしたことだ。何も知らない一般人が聞いたら、「勇気ある人」というだろうが、それはいらない心配を過重にかけてしまうことになる。誰だってそんな人と一緒に居たら、命がいくつあっても足りないと感じるし、余計な不安をかかえてしまう。
 どれだけ謝っても、もう許してはもらえない―追い出されてしまうだろう。でもそうなったのは、全て、勝手な思い込みをした俺が悪い。全部、受け入れよう。
 たった3日間だったけれど―楽しかった。
 俺は続けて何か謝罪の言葉を述べようとした。
だけど遮られた。
ク「ごめんなさい」
 思わず、は?と口に出してしまった。隣を見上げると、クミさんがともさん達に向かって頭を下げていたのだ。
ク「私がもっとしっかりしていれば、こんなことにはならなかった」
 待って、もう何も言わないで。我慢できず、俺は立ち上がった。
 「何で謝るんですか!クミさんは何も悪くないです!全部俺のせいです!」
ク「あなたは悪くない」
 「だってクミさんがやられたと勝手に思ったから」
ク「それは私が戻るのが遅くて―」
 さらに言い返そうとしたが、ともさんの「ストーップ!!」で中断させられた。
と「とにかく!…3人とも、無事でよかった。これ以上はきりがないからもう終わりね」
 「でも、俺は皆さんに…」
 姿を見てしまうのが、なんとなく許されないような気がしてうつむいた。
と「気にしない気にしない。クミさんだって、昔同じことしてたからw」
ア「あの時のほうがずっとすごかったですよねw」
ク「あれは忘れてほしい」
と「まあいいじゃないw。それにムサシ君は、仲間を助けるために自分から戦いに行ったわけでしょ。ぜんぜん悪いことじゃないし、むしろわっち達が感謝しなきゃいけない」
ソ「そうそう。自分を責めなくていいよ。何度も助けてくれてありがとう」
バ「実際、居なかったら大変なことになっていましたからね」
鳥「確かに。あの時動けなかったですし」
s「俺もどうなっていたことか」
あ「showさんは半分自業自得でしょw。ねぇ、わとさん」
わ「同意w。剣を忘れてくるなんてね」
s「そんなぁ」
 そんな会話を交わしながら、まるでさっきの出来事がなかったかのように、俺以外の人は笑っていた。
 どうして許してくれるのか、どうして誰も責めないのか…頭で考えてもわからなかった。ただ心の中では、春に差し込んでくる、美しく、優しい朝の光のような温かさを感じていた。誰を拒むこともなく、否定することもなく、ただ受け入れてくれるような感触。こんなぬくもりは初めてだった。
 その時、俺は気付いた。


 これが『仲間』なんだ、と。


 あまりにも大きな優しさと、ありがたさに、目が潤んだ。見られたくなくて、必死にこらえようと歯を食いしばったが、抵抗むなしく決壊した。雫が頬をつたう。どうかバレないでほしい。
あ「あっ、ムサシ君泣いてる!」
と「ど、どうしたの!?鳥ちゃんに何か言われた?」
鳥「ちょww、なんで俺ww」
 「…だって…」
 立っていられなくて、その場に膝をついて座りこんだ。もうバレているが、見られるのがすごく恥ずかしくて、右手で顔を覆った。だが俺の願いとは裏腹に、涙は次から次へとあふれた。
結局、涙が枯れるまでにかなりの時間を要した。その間、クミさんは背中をさすってくれて、ソーラさんもそばに来て慰めてくれた。

 俺はまた、助けられた。


 何が起きたかわからなかった。
 一瞬、高速で移動する生き物か何かに胴体をつかまれたと思ったら、いつの間にか仰向けに倒れている。少なくとも、死んではいないらしい。そして体の上には、その「何か」が乗っかっている。わけがわからぬまま、意識が飛んだような状態で天を仰いでいたら、突然目の前に人の顔が移りこんできた。
 「…クミ…さん」
 俺の頭は状況を処理できないまま、より一層混乱した。なぜクミさんがここに…?まさか、幽霊なのか?それとも幻影なのか?暴走しすぎて、夢を見ているのか?何か言いたかったが、口がうまく動かない。クミさんは俺の顔を覗き込んでいる。そして後ろに視線を移したかと思ったら、左腕を支えにして上半身をあげ、同時に右手で何かを上空に投げた。その数秒後、空中で火薬が爆発するような音が周囲に響いた。
 具体的なことをすぐに把握できなかったが、少なくとも―助かったようだ。
ク「大丈夫?」
 ハッキリと聞こえた。幽霊ではなかった。
 「…どうして」
ク「なに」
 「クミさん、や、やられたんじゃ」
ク「どういうこと」
 目まぐるしい状況の変化に俺はついていけなかった。何を言えばいいのか、言葉の整理もつかない。声も出せない。それを察したのか、クミさんも追及しなかった。
遠くのほうから、いくつもの足音が向かってきていた。


 事の詳細は次のようなものだった。
 クミさんのグループが探索していたルートには、階段や枝分かれした道が数箇所あり、入り組んでいた場所だった。showさんは一番後ろを歩いていて、気付いたらなぜか迷子になっていたそうだ。うろつけばさらに迷ってしまうため、その場を動かないようにしていたら、探しに来たクミさんと合流した。そこから戻ろうとした時、突然ウィザースケルトンの群れが出現して、襲い掛かってきた。ソーラさんを一人で待たせていることもあって、二人は走って逃げたが、その先は道が陥没していた。クミさんは難なく飛び越えたが、showさんはそうは行かなかったようで、立ち往生してしまった。このままでは襲われてしまうので、クミさんはshowさんに先に逃げるように促し、自身は回り道をして元のルートに戻った。前線基地への一本道に差し掛かった時、俺が一人で戦っているのが見えて、同時に上空にいたガストが狙っているのに気付いた。それから一気に走り抜けて、3体のウィザースケルトンを切り倒し、ガストの弾から俺を助けてくれた。
 ちなみにshowさんが持っていた剣は、はぐれた時にクミさんが投げ渡したものだった。showさんは剣を持ってくるのを忘れていたらしい。本来は両手持ちだが、片方だけでも、十分戦うことは出来たそうだ。
 
 つまりは、俺の勝手な妄想に過ぎなかったのだ。

 なんて事をしてしまったのだろう―。


ア「まずいよ、このままじゃウィザースケルトンもこっちに来る!」
バ「何とかして倒さないと!」
 二人の声が耳に入ってきたと同時に、意識に一筋の光がさしたような感覚があった。ソーラさんの声が俺のすぐそばから聞こえるが、何を言っているのか分からない。聞き取れないのだ。今まで全然気がつかなかった。ともさんはあせっていて、みんなに何か指示を出している。さっきよりも身長が高くなっているように見える。なぜだろう。
ソ「…君!?大丈夫!?」
 やっと声が聞こえた。気付いたら俺はいつの間にか座り込んでいた。あまりの出来事に錯乱して、立っていられなかったのだろう。本来の対処法ならば、落ち着くためにその場に座り続けるのがベストだが、今その選択肢はない。俺は立ち上がった。
ソ「立たないで。座っていたほうがいい」
 「それは、できません。…ごめんなさい、ソーラさん」
 顔を見てしまわないように、俺は入り口に向かった。
 showさんが前方にいるから、迂闊に弓矢を使うことはできない。かといってそのままにしたら、ヤツらが来る。打開するためには、前線で誰かが戦うしか、方法はない。今それができるのは俺だけだ。
 いつか誰かを守るために、助けるために、自らの腕を磨いてきた。ここで自分勝手に錯乱して、座り込んでどうする。そのせいでともさん達が襲われてもいいのか。
 ―いい訳がない。やるなら、いまだ。
 俺は両足へ力をため、ウィザースケルトンの集団に向かって、一気に走り出した。同時に背中の剣を抜く。
「うおおおぉぉ!!!」
 気付いたら無意識に叫んでいた。後ろから誰かの声が聞こえてくる。
 
 いつのまにかshowさんとすれ違っていた。群れの数は5体。先頭は道の左側にいた。一気に距離が縮まる。ヤツは剣を振り上げ始めた。俺は右足で飛び上がり、走った勢いを利用して顔面に蹴りをお見舞いした。左足にかなりの衝撃が伝わったが、うまくいった。骨の体は背中から奈落のそこへと落ちていく。上半身がぶれて倒れそうになったが、剣を持った右手で支えて、何とか着地できた。
 反対側の斜め前からは次が向かってくる。だが攻めの最初のパターンは見切った。素早く俺は立ち上がり、ヤツが剣を振り下ろさないうちに、右に動いてがら空きの胴に剣を叩き込んだ。真っ二つに斬られた体は、風に流されるように道に伏していった。次に備えて剣を両手で構え、正面に視線を移す。
 道のど真ん中から3体目が向かってくるが、残りの2体は怖気づいたようにその場に突っ立っている。まるで意思があるかのようだが、今は関係ない。続けて胴を狙いたかったが、少し距離があって無理だった。先ほどと同じように、ヤツの剣を受け止めた。一気に剣を押し込んでくる。俺は体を移動させようとした、その時―
「危ない!」
 背後からソーラさんの声がハッキリと聞こえた。状況が理解できなかったが、左上に目線を移動させたとき、見覚えのある煙の塊がこっちに向かってくるのが見えた。俺は動き始めていたが、この場から離れるため、ヤツの胴体へ強引に右足を押し付け、蹴り飛ばした。だがその反動で体が後ろに反り返った。すぐに姿勢を安定させたが、もう遅かった。目と鼻の先にその爆発物は接近しており、今走り始めても間に合わない。
 これでもう終わりなのか―。納得できないまま、「死」を覚悟した。


 その後、周囲の警戒を行いながら、クミさんとshowさんの帰りを待った。俺は上にガストやブレイズが居ないかどうか警戒した。応援に行くのが一番いいのだが、先はかなり枝分かれしているらしく、万が一迷ってしまったら二次被害がでてしまうので、向かうことはできない。遠くの方からは、破裂音のようなものが数度聞こえてきた。何の音かは区別できないが、二人がそれに巻き込まれていないことを、ただただ祈るしかなかった。それが二人に対して出来る唯一のことだ。
 不安が渦巻きすぎて、上空への注意力が落ちかけた時、背後からわとさんの喜びに満ちた声が響いてきた。
わ「showさんだ!」
 視線を移すと、そこにはこちらに向かって走るshowさんの姿があった。よく見えないが、何かを手に持っている。俺はとっさにshowさんの背後に視線を移した。そこには、さっきまで想像したくもなかったはずの光景が迫っていた。
 後ろから来ていたのは、ウィザースケルトンの群れだった。数は正確に把握できないが、ざっと4、5体はいる。showさんとの距離はさほど近くはないが、かなり危険な状態だ。これでは俺一人で相手するのはかなり厳しい。かといって、このまま接近させれば、ともさん達に危険が及んでしまう。
 どうすべきか考えをめぐらせながら、showさんの姿を見ていた。段々とその姿は大きくなる。そして手に持っているものが何なのか、認識できたとき、俺は驚きを隠せなかった。

 それは、クミさんの剣だった。

 なんでshowさんがクミさんの剣を、しかも片方だけ持っているのか?showさんだって剣は持っていたはずだ。それにクミさんは両手で逆手持ちして戦っていた。それが本来の戦闘スタイルなら、慣れない片方ではかなり不利な状況に陥ってしまうのでは?たとえshowさんが剣をなくしたとしても、よっぽどのことがない限り、クミさん一人がいれば十分対応できるはずなのに…。
 絶対に考えてはいけないことが、光のような速さで頭をよぎった。
 「まさか、クミさんが…」
と「そんなこと考えちゃダメだ!」
 「じゃあ、何でshowさんが剣を持っているんですか!他にどんな理由があるんですか!」
 俺はともさんに突っかかっていた。洞窟で情けない俺を助けてくれて、雰囲気になれない俺を気遣ってくれて、そして―何よりも、今、ここにいるきっかけを作ってくれたのは、全部クミさんだ。恩人以上と言っても過言ではない。そんな人の安否が絶望的な状態で、本来考えるのがタブーなことに考えを向けないこと自体無理だ。不可能だ。
 どす黒い不安は、瞬く間に俺の精神と心を浸食し始めて、狂乱の海へと陥れようとしていた。気のせいだろうか、めまいがして、意識が薄れていく
…。
 「ともさん、もしもの時は、弓矢で援護をお願いします」
と「何、え?ムサシ君!?」
 「行ってきます!」
 俺は一気に駆け出した。二人の姿がより大きく見え始めてくる。
 道幅は狭い。すれ違うのは不可能だろう。それならば―
「鳥さん、ソーラさん!道の片側によってください!」
 ソーラさんが、鳥さん側に寄ってくれた。声は聞こえたようだ。そのせいで走るのが遅くなり、ヤツとの距離はより縮まった。しかし俺と二人との距離も近い。
 ヤツは剣を大きく上げ、二人に切りかかった。だが間一髪、振り下ろされた剣を受け止めた。危なかった。激しい衝撃だったが、なんとか耐えた。ヤツの背は高く、そのせいで額の辺りに剣の持ち手が来ていた。後ろをちらりと見ると、鳥さんとソーラさんが恐怖と驚きの目で見ていた。俺は叫んだ。
「行って―、ここは俺が食い止めますから、早く!!」
 二人はゆっくりと立ち上がり、基地に向けて走っていった。これでいい。後はコイツを片付けるだけだ。
 確かに力は強い。下手をすれば押し込まれてしまうくらいだ。だけどスケルトンは骨で出来ていて、意外ともろい作りになっている。こいつもそうなら、体だってもろいはず。本体への直接攻撃で、十分な致命傷を与えられる。
 ヤツはさっきよりも力をこめて、押し込もうとしてくる。このままではやられてしまうが、あえて、このままでいい。俺が抵抗しないことを感じたのか、ヤツは一気に剣を押し込んできた。今だ!
 俺はサッと体を左に移動させ、自分の剣をヤツの刃から素早く離した。力を前にかけ過ぎたせいで、ヤツは前のめりになった。足元がぐらついている。スタンスを確保した俺は、そのまま一気に剣を振りあげ、弧を滑らかに描くようにヤツの背中を切り裂いた。予想通り、骨の体は真二つになり、道に突っ伏した。湿った木のような音が響く。
 「…勝った」
 かなり厳しい戦いだった。一体だけでも手こずったのに、こんなのがあちこちにいるなんて、想像したくない。俺は剣をしまい、入り口に向かって走り出した。

「お二人とも、怪我は?」
と「だ、大丈夫…」
ソ「私も大丈夫。また助けてもらっちゃったね」
 「これくらいなんてことは無いです。怪我が無くてよかった」
と「ムサシ君、かっこよかったよw」
あ「一瞬で倒しちゃうんだもん。すごいね」
 「あ、あの、あんまり持ち上げないでください」
 鳥さんは俺の姿を見て少し引いている。なぜだろう。そういや、元々「よっぴーさん」って呼んでいたのに、いつの間にか「鳥さん」に変わっている。まあいいか。
ア「ところで、クミさんとshowさんは?」
ソ「それが…探索をしていたら、showさんが途中で迷子になって。丁度入り組んでいた道だったから、クミさんが探しにいった。私は居てもわかりやすいところで待っていて、そこでよっぴーさんと合流したの。そしたらいきなり襲われて…」
 「つまり、今どうなっているか分からないってことですか」
と「そういうことだろうけど、クミさんがいるから、きっと大丈夫だよ」
わ「結構ネザーでも戦っていましたからね」
 確かにクミさんは強い。ほんとに強い。showさんも剣は持っているだろうし、問題ないとは思うけど―、やっぱり不安は拭えなかった。
 不意に視線を移すと、バステンさんが何か考え事をしていた。一体どうしたのだろう。
 「バステンさん、どうかしたんですか」
バ「ムサシ君、さっき戦った時、ウィザースケルトンは一体だけだった?」
 「はい。かなり手ごわかったので、周りはよく見えませんでしたが、確かに一体だけだと思います」
バ「本当に?」
 「は、はい」
バ「…昨日説明し忘れたけど、ウィザースケルトンは元々、単体で行動することはほとんどない」
 「え?でもあの時」
バ「そう。あの状態はむしろおかしい。本来なら数体で群れて動くか、その周囲に他の固体がいる。だけどもしソーラさんたちが襲われたあたりに、ウィザースケルトンの集団がいたとしたら、一体だけ追い回していたこともある程度説明がつく。ヤツは二人を見つけたときに、群れからはぐれたのかもしれない」
 「じゃ、じゃあクミさんたちは」
バ「…遭遇してないことを祈るしかないね」
 どす黒い水が白い布の奥深くに染み込んでいくように、不安は一気に俺を染め始めた。
二人は一気に走り出し、遅れまいと俺も駆け出した。走りながら、左に振り返って斜め下を見た。するとそこには、巨大な灰色のイカが空中に浮いていた。あれが―ガストか。
ヤツは俺が姿を見たすぐ後に、煙に巻かれた球のような塊を、さっきまでいた地点の辺りに向けて、口から吐き出した。発射といったほうが正確だろうか。矢ほどじゃないが、それなりのスピードで塊は導かれるように進み、見えなくなったかと思ったら、破裂音とともに道が吹き飛んだ。二人があせっていたのは、このことだったのか。
 ガストはゆっくりと浮上すると、俺たちめがけて例の塊を飛ばしてきた。だがそれらは全て背後に着弾した。やつの動きは遅い。走っていれば、弾丸には当たらない。
 必死に走り続けると、洞窟が見えてきた。入り口手前では、ともさんとバステンさんがこっちに向けて手を振っている。ガストはまだ追ってきているが、かなり距離があいている。追いつくのは無理だ。一気に走り抜けて、洞窟の中に逃げ込んだ。入ったと同時に、バステンさんが入り口を塞いだ。アイクさんとわとさんは息がもう上がっているが、怪我はしていないようだ。
と「あぶなかったね。で、どうだったw?」
ともさんの口調は、心配しているのか、楽しんでいるのかさっぱり分からない。ともさんなりに楽しんでいるのだろうけど、必死に逃げてきたばかりの俺は、その声を聞いて少し拍子抜けしてしまった。
ア「だい、じょう、ぶ。ちゃんと、取れ、ましたよ」
 ゼエゼエと息をしながら、アイクさんは成果を報告した。偉い。
わ「ほんっと、ともさん、楽しそうな、言い方で、すね。俺たち、必死に、逃げてきたのに」
と「ごめんごめんww。ムサシ君、大丈夫だった?二人にいじめられたりしてない?」
 「…大丈夫です。あと、何があっても後者はないです!」
と「そっか。それなら安心だねw」
わ「俺ら、そんなことしませんよ…」
と「冗談だよ。それにしても、息あがってないけど?」
 「鍛えていたので、これくらい楽勝です」
ア「すげぇ…」
と「みんなだらしないなぁ。じゃあ今度から男子のみの筋トレをしようかなw」
わ・バ・ア「イヤです」

 ともさんのグループ(あちゃみさん、よっぴーさん)は既に採掘を終えていた。バステンさんと合流した直後に、破裂音が遠くで聞こえたため、入り口で待っていたとのこと。入り口さえ塞いでしまえば、ガストはもう追ってこないらしい。後残っているのは、クミさんとソーラさん、showさんたちだ。事の次第を伝えるために、よっぴーさんがクミさん達のところに向かった。敵に遭遇しなければ、安全に戻ってこられるはず―俺はそう考えていた。ともさんたちも同じだろう。
 だが、その考えはあっさりと裏切られた。運がいいはずなのに。

正面の道から、二人の人影が見えた。ソーラさんとよっぴーさんだ。あの様子だと、おそらく怪我も無いだろう。俺は安心したが、それは一瞬で消え去ってしまった。
…どうも様子がおかしい。向こうには4人いるはずなのに、なぜか二人しか見えない。それに二人とも、必死で走ってはいるが、まるで何かから逃げているようだ。よっぴーさんは剣を持ちながら走っている。
あ「大変、二人ともウィザースケルトンに襲われてる!」
 あちゃみさんの叫びを聞いて、目に神経を集中させた。よく見ると、一体のスケルトンが後ろから二人を追い回している。確か昨日の説明だと、剣を持っていたはずだ。ただでさえ、向こうの世界でもスケルトンは弓矢を飛ばしてきて厄介なのに、剣を持っているなんて。
 ソーラさん達は基地にだいぶ近づいてきたが、ウィザースケルトンは懲りずにまだ追い回している。このままだと二人が危ない。敵は―1体のみ。いける。