患者は70歳代女性。
   主訴は義歯の新製希望。

 患者は平成21年に歯科医院で金属床併用エステティックデンチャーを製作しており、今回16年が経過したため義歯の新規作製を希望して同医院を訪れた。

 担当医は、義歯の設計を旧義歯と同様とし大連結子には床の厚みが薄くでき、食事時の冷温感が伝わりやすい金属床を選択し、32⏋間と⎾34間にメタルフック、⎾4遠心にメタルレストを設定し、3⏋から⎾4までをメタルアップとした。3⏋と⎾4に、審美を重視して唇頬側腕をノンメタルクラスプにした。また、欠損部床下内面は、咬合圧を緩和させ、かみしめ感を感じられるループ・シリコーンエステティックデンチャーにした。
 担当医は患者に、義歯の設計と使用する材質、治療手順を説明し同意を得た。

 担当医から弊社に、指示書(図1〜3)、上顎対合歯模型(図4)、下顎作業用模型(図5)およびバイトが届けられた。

(図1)

(図2)

(図3)

(図4)

(図5)

 

 担当技工士は咬合器に作業用模型を付着し(図6)、通法に従い金属床を製作し人工歯配列を行った。

(図6)

 

 担当医によって口腔内での試適が行われ、適合および咬合状態に問題が認められなかったため完成するよう指示を受けた。
 担当技工士は、試適時に問題が無かった状態を保ちながら、慎重に金属床併用ループ・シリコーンエステティックデンチャーを完成させた(図7〜10)。

(図7)

(図8)

(図9)

(図10)

 

 担当医より、16年前に本症例を手がけた弊社技工士・成田に直接ご連絡をいただきました。
 患者様は当時お作りした義歯を16年間にわたり快適にご使用されており、今回あらためてこうおっしゃったそうです。

「自分の年齢を考えて、これが最後の義歯になるでしょう。だからこそ、また同じように作ってほしい」

そして新しい義歯を装着された瞬間、患者様は満面の笑みを浮かべ、こう語られました。

「今回も本当に素晴らしい。これでまた16年使えれば、私は90歳を迎えることになります。これで安心です」

 16年という歳月を超えて、再び私たちの技工物が患者様の人生に寄り添えること。この喜びこそが、私たちの仕事の何よりの誇りであり、技工士冥利に尽きる瞬間です。

 

担当技工士

旧義歯製作担当技工士   :成田 慎

金属床          :加藤靖了
エステティックデンチャー :司馬 武