雨、雨、雨。
独居老人、ただ一人。
草庵に雨が降る。
何かがすえて発酵し、何かが悶えて、発情してる。
なのに独居老人、ただ一人、相手も無く、やるせない。
四国山中、篠突く豪雨。
黒雲迫る札所山門の天井板の、眼光鋭く睨む竜の目。
白装束に身を包み、孤立無援の歩き遍路。
爺々にも、かっては、そんな日もあったのに・・。
長年月掛けて買い漁った蔵書、何万冊。
もう、それも読む気力も失せた。
もとはと言えば、
漱石の『坊ちゃん』
偶然読み出したあの少年期。
世の中に、こんな面白いことが、あるなんて・・。
あの興奮をまだ、忘れていない。
清のことを話すのを忘れていた。―――その後ある人の周旋で街鉄の技手になった。月給は二十五円で、家賃は六円だ。清は玄関付きの家でなくとも至極満足の様子であったが気の毒なことに今年の二月肺炎に罹って死んでしまった。死ぬ前日おれを呼んで後生だから清が死んだら、坊ちゃんのお寺に埋めてください。お墓のなかで坊ちゃんの来るのを楽しみに待っておりますと言った。
そして、最後の一行。
だから清の墓は小日向の養源寺にある。
こんな終わり方、無いよなぁ~。
爺々の人生、『坊ちゃん』
その後日談を知りたくて、本を買い漁ったとも言える。
夢中になることの、もどかしさ、儚さ・・。
その傷心憔悴、飯が旨くなかった。
まるで砂を囓っているようで、味気なかった。
その傷心、失恋に似ていた。