失ったものも多い。
もう取り戻せない。
この説明の付かない変貌。
「昔はこの道の、もう此処まで山が迫ってた!」
この辺りは依藤野、嬉野と呼ばれていて、
赤松の広大な原野。その窪地に無数の池があって、
それが谷水となって下の田畑を潤し、村が生まれた。
久米谷と呼ばれている。
播州平野の東端、久米谷は伝説と神話の里である。
所々に麦わら葺きの農家が点在して、
まるで古里の原風景を思わせる風情があった。
蛇ころび、
という伝承が残っている。
八岐大蛇に似ている。
龍神信仰、龍は水を司る架空の霊獣。
つまり氾濫を繰り返し、川が暴れたのだろう。
久米谷は大蛇が、暴れのたうち回って出来上がった土地だというのである。
誰かが天空から見ていたとでも言うのか・・?
このネーミングの旨さに、唸った。
子供の頃は兎に角マッタケがよく上がった。
山から帰ってきた爺さんの天秤棒がしなうほどに・・。
明けても暮れてもマッタケ御飯、学校にまで弁当に持たされて、
それがイヤでイヤで、マッタケだけを箸で弾き飛ばして、喰っていた。もう~、マッタケの味、忘れたけど・・。
この高台、山道の所々が開墾地、スイカ畑があって、
人家もまばら.後は赤松の原野。
ダム(人造湖)の水がポンプアップでこの高谷に上がり、木が切り倒され開発が急ピッチで進み、それに伴って赤松の原野が消えた。
「一本松、二本松、憶えてます?」
「兵教大の急カーブが一本松、信号の交差点が二本松!」
「まさか、あそこに信号が出来るとは・・!」
「夢にも思ってなかった!!」 (笑)
ゴールデンウィーク。
この依藤野にも帰省家族と子供の歓声で賑わっている。
気にも止めていなかった大木に、紫な花。
「あれ? ・・何の花でしたっけ?」
「・・うん、・・あれ、桐! 」
「・・ぁ! 桐かぁ~! 」
もう、桐の木を忘れている自分に驚いた。
それにしても、大木!!