アメリカに留学中のことです。
学内で、学校運営のためのボランティアが募集されました。卒業生に寄付金をお願いする電話をかけるのです。
面と向かって話をするのでも英語力に問題があるこの私が知りもしない相手に電話をかけるなんて出来るわけないのですが、募集の紙には、こう書いてありました。
「電話をかけるのはちょっと無理、と思う貴方は、皆のためにポップコーンを作ったりジュースを配ったりしてください!」
それならできるわ。
世話になっている学校に少しでも恩返ししたいと願いまして、私はその晩、指定された場所へと赴いたのでした。
私を迎えてくれたのは元気の良さそうな女性スタッフ。部屋の中では学生や職員が、ずらりと並んだ電話の前に座り、話をしています。
私 「ボランティア募集の紙を見て来たんです」
ス 「まあ、ありがとう、さあここに座って!」
私 「いえ、私は英語が上手に話せませんからポップコーンを」
ス 「何言っているの、それだけ話せたら充分よ! さあさあ!」
と言うわけで、出来るわけないことをする羽目になりました。
渡された卒業生リストに記載されている電話番号にかけまして、寄付のお願いをしていく。どんな手続きでお金を送ってもらうんだったか忘れましたが、電話に出てくれた人たちは皆、早速寄付を送ると言ってくれまして、私はなかなか順調かつ気分良く仕事を進めておりました。
が。
ある女性に電話をかけまして、同じように名乗り、寄付金をお願いしたところ。
沈黙………。
返事をしてくれないのは身元でも疑っているからなのかしらと不安になり、もう一度最初から説明をしようとした時。
すすり泣く声が聞こえてきたのです。
「あ、あの…」
「寄付したいわ。私、S大学を愛しているわ。寄付したいのよ」
「あ、ありがとうございます」
「本当に、寄付、したいのよ…」
感情を抑えようとしている、静かな泣き声。寄付したくてもできないのだということだけはわかりました。
今の私の英語力は当時の10分の1くらいに落ちていると思いますが、それでも今なら、少しでもいいから彼女の話を聞こうとしたと思います。その上で、寄付できない事を気にしないでと伝えて、離れていても私たちは仲間ですよ、幸せを祈っていますよと伝えて。
問題は語学力ではなかった。
あの時、私は、うろたえてしまったのです。問題を抱えてつらい涙をこぼす “知らない人” にどう接したらいいのか、わからなかったのです。それも、状況としては、私が泣かせてしまった形でしたから。(ついでに言うと、関係ないことで電話代を使っていいのかというみみっちい心配もあることはありました)
私は、どうもありがとうございましたと言って、電話を終わらせました。
彼女にあの電話はどう響いただろう。どうして、何か一言でもいいから暖かい言葉をかけられなかったんだろう。こういう時に人間力が測られますよね…。
今だって勘が鈍いし、言葉の裏を察するのが苦手で額面通りに受け取るし、どんな言葉と行動が喜ばれるかもよくわからないのですけど、
今ならもう少しまともな対応ができただろうと思います。
余談ですが、電話をかけるのが終了した後、ボランティア学生にはご褒美が与えられました。どこでも電話をかけていいわよと許可が出たのです。全米から集まって寮生活をしている学生たちでしたから、皆喜んで実家に長距離電話をかけていました。
私も実家にかけてもいいですかと訊きましたが、「申し訳ないけど、海外はハワイまでで勘弁して」 と断られました。 当り前じゃ。
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