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パラレル

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高崎市タワー美術館で開催中の「日本画オノマトペ」展でこれは、と思う作品、奥田玄宗(1996年)《月山秋燿》高崎市タワー美術館 の主観レビューをお届けします。


出羽三山の主峰、月山に取材した作品。

山越に昇る月、朱に輝く紅葉と月光を映す湖を描いています。

秋の澄んだ空気や光に照らされた山の稜線、紅葉の色づき、天空との調和が広がることで、観る人が秋の自然の美しさを身体で感じられるような構成になっています。

 

水面の月は明るく輝き、まるでスポットライトを浴びているかのよう。

周りは朱で囲まれており、神々しい雰囲気を醸し出しています。

深まる秋を描いた作品ですが、異世界へ迷い込んだかのような錯覚を覚えます。

また、水平線が目立ち、静かな印象を受けます。

 

これは、単なる写実ではなく、写生を通して得た実景を昇華させ、内面的な感情や精神性を色と形で表現しているのではないでしょうか。

自らが自然と対話し、感得した理想の山水を描いているように思えます。

 

高崎市タワー美術館で開催中の「日本画オノマトペ」展でこれは、と思う作品、松尾敏男《波涛翔龍図》(2001年 高崎市タワー美術館)の主観レビューをお届けします。


本作は、画題にある通り、「荒れ狂う波」の中から「天に駆け上がる龍」が姿を現した瞬間が描かれています。

龍が天へ昇る推進力を強調するように、足元の波はダイナミックにうねっています。

それは、「ごぉぉぉ」というような音が聞こえてきそうな激しさです。

 

一方、龍の表情はどこかコミカルで、誰かに呼ばれて振り返っているようにも見えます。

さらに、動きはゆっくりで、マイペースさを感じます。

単に恐ろしいだけではない、「品格」が漂っているのです。

この対比が面白い作品です。

 

一般的に、昇龍と波涛は縁起の良いモチーフとされていることから、新春展覧会で目にすることも多いです。

一風変わった《波涛翔龍図》。

つい見入ってしまうことでしょう。

 

 

 

高崎市タワー美術館で開催中の「日本画オノマトペ」展へ行って来ました。

「ざあざあ」「ふわふわ」「きらきら」「しんしん」

こうした言葉をきっかけに絵画を見ることで、描かれた情景の温度や湿度、動きがより鮮明に想像できます。

日常的に思わず口をついて出る、このような擬音語や擬態語のことを「オノマトペ」といいます。

 

本展は、日本画の世界に「音」や「感覚」という新しいフィルターを通して触れることができる、非常にユニークな遊び心のある企画です。

 

展覧会の構成は以下の通りです。

 

水の音

人の営み

いきものたち

秋の気配

ふれて感じる

浮世絵でオノマトペ

 

日本画は本来“静“の芸術であるー

こうした先入観を裏切ってくる点が本展の一番の魅力です。

例えば、横山大観《朝陽映島》の前に立つと、波が打ち寄せる「ザブーン」という迫力や重低音が聴こえてきそうです。

 

また、「正解のオノマトペ」が提示されていない点が重要です。

キャプションはあくまで控えめで、鑑賞者自身が言葉を当てはまる余白がしっかり残されています。

この“余白“こそが、日本画の魅力とよく噛み合っています。

 

本展を通して感じるのは、オノマトペはモチーフではなく、「技法」から生まれるということです。

にじみやぼかしからは「ふわっ」「じわっ」と広がる空気感、筆致のリズムからは「すっ」「しゃっ」とした動きの気配、などです。

特に雪景色や静物画では、描かれていない部分が「音」を吸い込むように感じられ、静寂そのものがオノマトペになる瞬間があります。

 

さらに、複数の作家を並べて鑑賞すると、同じ自然モチーフでも音の質が全く異なることに気付きます。

力強い構図の作品からは、音も太く、「どん」「ばさっ」、繊細な線描の作品からは、「さらさら」「ひそひそ」といった感じです。

結果として、日本画=静か、というイメージが解体され、作家ごとの”音の人格”が立ち上がってきます。

 

本展は、日本画を「見るもの」から「感じて、言葉を生むもの」へと変える展覧会です。

短時間でも深く没入できる、密度の高い鑑賞体験が得られることでしょう。

 

 

 

 

会期:2025年9月27日(土)〜12月21日(日)

会場:高崎市タワー美術館

   〒370-0841 群馬県高崎市栄町3-23 高崎タワー21(入口4階、出口3階)

開館時間:午前10時〜午後6時

   金曜日のみ午前10時〜午後8時

   (入館はいずれも閉館30分前まで)

休館日:月曜日(祝日の場合は開館し、翌日休館)