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パラレル

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東京国立博物館で開催中の「特別展 「運慶 祈りの空間ー興福寺北円堂」」へ行って来ました。


国宝・興福寺北円堂は平城遷都の立役者・藤原不比等の功績を称え、元明・元正天皇の発願によって721年に建立されました。

その後、二度の災禍を経て、鎌倉時代に復興されたのが現在の北円堂です。

この時、造像を担当したのが運慶率いる一門の仏師たちでした。

九躯の仏像のうち、弥勒如来坐像と無著・世親菩薩立像は北円堂に現存し、四天王像は中金堂に安置される像を旧北円堂像とする説が有力です。

 

本展では、鎌倉時代復興期の北円堂を国宝七躯で再現しています。

 

会場中央に鎮座する弥勒如来坐像(運慶作 鎌倉時代 1212頃 奈良・興福寺)は、興福寺北円堂の本尊像です。

厳しい眼差し、柔らかく膨らんだ頬、両肩を開いて胸を張る姿勢、右手をゆったりと構えた堂々とした体躯、適度に引き絞られた腹回り、誇張のない自然な衣文といった、写実を基本とした表現は古典彫刻を学んだ成果がいかんなく発揮されたもので、鉢の張った頭部、穏やかに弧を描く髪際線といった新様を織り交ぜながら、鎌倉時代彫刻の新たな古典と呼ぶに相応しい出来栄えを示しています。

 

その背後には、無著菩薩立像(運慶作 鎌倉時代 1212頃 奈良・興福寺) 、世親菩薩立像(運慶作 鎌倉時代 1212頃 奈良・興福寺)が立っています。

無著像は、その深遠な表現を静寂ながらも圧倒的な存在感が見る者の心を捉えて離しません。

世親像は、無著の弟で、老相の無著像に対し、逞しい壮年相に表されています。

目に水晶を嵌める玉眼技法の最も成功した作例です。

 

その周囲を囲むのが、四天王像です。

《四天王立像(増長天)》(鎌倉時代 13世紀  奈良・興福寺)は、剥き出しにした八重歯や手の甲に浮く血管などのリアルな表現とともに、胸甲の人面・鬼面、腹帯の獅嚙などユーモラスな表現も併せ持っています。

 

《四天王立像(持国天)》(鎌倉時代 13世紀 奈良・興福寺)は、面部や甲冑の表現など、奈良時代の彫刻を学んだ成果が随所に見られ、復古的な意識を持つ復興像であることを物語っています。

 

四像とも激しい動勢と怒りの表情が、静寂の極みとも評すべき弥勒像、無著・世親像の表現とは大きく異なります。

この違いは異質のものと捉えるのではなく、対比の妙を意識した表現の幅とみるべきでしょう。

 

現在、北円堂に安置されている諸尊は、再建当初とは在所を変えています。

本展は鎌倉時代再建時の北円堂内部を彷彿させ、興福寺でも二度と拝観できない荘厳となっています。

奇跡的な企画を目撃しませんか。

 

 

 

 

会期:2025年9月9日(火)〜2025年11月30日(日)

会場:東京国立博物館 本館特別5室

   〒110-8712 東京都台東区上野公園13-9

開館時間:9時30分〜17時

   ※毎週金・土曜日および9月14日(日)、10月12日(日)、11月2日(日)、11月23日(日)は20時まで開館

   ※入館は閉館の30分前まで

休館日:9月29日(月)、10月6日(月)、14日(火)、20日(月)、27日(月)、11月4日(火)、10日(月)、17日(月)、25日(火)

主催:東京国立博物館、法相宗大本山興福寺、読売新聞社

特別協賛:キヤノン、大和証券グループ、T&D保険グループ、明治ホールディングス

協賛:JR東日本、清水建設、竹中工務店、三井住友銀行、三井不動産、三菱ガス化学、三菱地所

特別協力:文化庁

協力:非破壊検査

お問い合わせ:050-5541-8600(ハローダイヤル)

 

 

国立新美術館で開催中の「時代のプリズム:日本で生まれた美術表現 1989-2010」展でこれはと思う作品、《巫女の祈り》の主観レビューをお届けします。


本作(映像作品)を見ればすぐに分かりますが、巫女というスピリチュアルな雰囲気を纏った人物が登場します。

しかし、彼女はサイボーグのようなコスチュームを着ており、その雰囲気と対立しています。

そして、大事そうにガラス玉を見つめ、祈っているように見えます。

 

さらに、背景は空港のように見えますが、ぼんやりと霞んでいます。

まるで、ガラス玉を通して見ているみたいに。

 

彼女はナショナリティへの理解を通して、相互理解をしようとしているのではないでしょうか。

そこでは、国籍も国境も関係ありません。

そう考えると、国内はもとより、世界中から人々が集まる空港は、背景として格好の場となります。

 

最後に、彼女自身も私たちに理解して欲しいように見えます。

巫女であるが、テクノロジーが生み出すサイボーグのコスチュームを着た、明らかに私たちが持っている常識から外れた彼女を。

その判断は私たちに委ねられているようです。


森万里子《巫女の祈り》(1996) 作家蔵

 

 

国立新美術館で開催中の「時代のプリズム:日本で生まれた美術表現 1989-2010」展へ行って来ました。


本展の起点となる1989年は、日本では昭和天皇が崩御し、海外ではベルリンの壁が崩壊、中国天安門事件、東欧革命、米ソ冷戦終結など、国際政治状況が大きく揺らいだ年です。

また、2001年の米国同時多発テロ、2008年の世界金融危機(リーマン・ショック)などが示すように、この20年間は、政治的、経済的、社会的、文化的にも変革と激動の時代でした。

 

ダイナミックな20年で、日本のアーティストたちは、どのようにオリジナリティを模索して多様な表現を発信し、国際的な認知を獲得したのか。

また、海外から来日したアーティストたちは、どのように日本から刺激を受け咀嚼し、作品に反映したのか。

本展では、この時代の特徴的なテーマをあえて絞り、国内外の約50人のアーティストによる作品と、写真で構成することを試みています。

 

展覧会の構成は以下の通りです。

 

プロローグ

レンズ1 過去という亡霊

レンズ2 自己と他者と

レンズ3 コミュニティの持つ未来

 

日本では、1980年代に入ると国際的アーティストが来日し、また日本人アーティストが国際展に参加する動きが活発化しました。

1989年を転換点として、革新的なエネルギーと新たな批評性にあふれた表現が登場します。

アーティストたちにとってのリアルな日常や社会状況を自身の表現に取り込もうと試行し、日常的な素材を用い、ポピュラーカルチャーを引用するなど、アーティストの等身大の生き方を反映する、多様でインパクトのある作品が現れました。


森村泰昌《肖像(双子)》(1989) 森美術館


椿昇《エステティック・ポリューション》(1990) 金沢21世紀美術館

 

第二次世界大戦終結から時間と距離を置いて、戦後生まれのアーティストたちは過去の重みを踏まえながら戦争や核のトラウマ、植民地支配の記憶といった課題に取り組み、歴史の通説を疑ってその読み直しを行いました。

レンズ1では、彼らが過去とどのように向き合い、作品化していったのかを探っています。

 

奈良美智の作品群では、ベトナム戦争時に米軍が使用した化学兵器「エージェントオレンジ(枯葉剤)」にちなみ、頭がまるで兵士のヘルメットのようになめらかでオレンジの光を放っている子どもや、ナイフを手にし、切断された花の前でにやりと笑みを浮かべる子どもが描かれています。


展示風景より


会田誠《美しい旗(戦争画RETURNS)》(1995) 東京国立近代美術館

 

冷戦体制崩壊以降、アイデンティティの問題、つまりグローバル社会における自己と他者との問題がクローズアップされました。

レンズ2では、ジェンダーやセクシュアリティという対象に様々な角度からの問いを投げる作品、文化的アイデンティティをどう解釈するかという問題に取り組んだ作品など、普遍的な、時代を超えた問題意識を炙り出した作品を紹介しています

 

イ・ブルは、父権に対する異議申し立てをし、自由な動きを阻む社会の規範や障壁と格闘する女性の切実さを表現するために、都内各地を移動しながらパフォーマンスを展開しました。


イ・ブル《受難への遺憾ー私はピクニックをしている子犬だと思う?》(1990) 作家蔵


西山美なコ《ザ・ピんくはうす》(1991/2006) 金沢21世紀美術館

 

グローバル化のなかで、他者との共生を模索するアーティストたちの取り組みは、様々なかたちで従来のヒエラルキーを解体し、境界を乗り越える機動力を生み出してきました。

レンズ3では、地域社会や既存のコミュニティとの関わりを模索し、人々と社会とのつながりや関係性を新たに構築していくプロジェクトの可能性に目を向けています。


川俣正《トロント・プロジェクト1989/コロニアル・タヴァーン・パーク》(1991) 東京都現代美術館

 

《第3章 ようこそ西京にー西京オリンピック》は、架空の東アジア都市「西京」を創造し、当時開催中であった北京オリンピックに応答して独自のオリンピック大会を組織しました。

それは、オリンピックのような国家的競技大会が芝居がかった見世物と化していることを諷刺しているかのようです。


西京人《第3章 ようこそ西京にー西京オリンピック》(2008) 金沢21世紀美術館


西京人《第3章 ようこそ西京にー西京オリンピック》(2008) 金沢21世紀美術館

 

2011年の東日本大震災と2020年から世界に蔓延したコロナ禍の衝撃、そして終結できない戦争や対立、揺れ動く国際社会、加速する世界の気候変動など、未来を描くことができない極めて厳しい課題を、私たちはどのように乗り越えることができるでしょうか。

アーティストが模索し挑戦し続けてきた表現から、視る側である私たちが、生き抜くために多元的な視点を読み解き、何らかの気づきを得ることはできるでしょうか。

 

 

 

 

会期:2025年9月3日(水)〜12月8日(月)

会場:国立新美術館 企画展示室1E

   〒106-8558 東京都港区六本木7-22-2

休館日:毎週火曜日

   ※ただし9月23日(火・祝)は開館、9月24日(水)は休館

開館時間:10:00〜18:00

   ※毎週金・土曜日は20:00まで

   ※入館は閉館の30分前まで

主催:国立新美術館、M+、独立行政法人日本芸術文化振興会、文化庁

共催:日本経済新聞社

助成:モンドリアン財団

お問い合わせ:050-5541-8600(ハローダイヤル)