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パラレル

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三菱一号館美術館で開催中の「フェリックス・ヴァロットンー親密な室内」展でこれは、と思う作品《お金》の主観レビューをお届けします。


画面に描かれるのは、女性に話しかける男性。

情緒的な関係ではなく、利害によって結ばれた関係が露骨に示されています。

感情よりも計算が渦巻くブルジョワ社会の冷たさを、シンプルな線だけで皮肉たっぷりに描いています。

 

19世紀末のパリでは、上流階級と新興ブルジョワジョワジーが消費社会を謳歌し、男女関係は欲望と金銭が交錯する場でした。

ヴァロットンはそこに潜む欺瞞を、冷徹な視線で切り取りました。

 

本作では、黒い影が画面の大部分を占め、息苦しいほどの緊張感を演出し、限定的な白い部分に描かれる人物に視線が集中するようにしています。

そうした視覚的な単純化が、見えない会話や関係性を想像させ、社会批評を鋭くしています。

 

こうした点は、エドガー・ドガの作品とも類似点があります。

どちらも人間を公的な場ではなく、室内・密室で捉えています。

そこに描かれるのは、親密さに潜む不安・緊張・支配関係です。

つまり、美しいようで、美しくない現実を隠しません。

 

そして、どちらも単なる理想化された女性像から離れます。

ドガはしばしば冷徹な視線でその現実を描き、ヴァロットンはさらにそこに金銭が介在する歪みを明確にします。

二人はともに、社会の装飾を剥ぎ取り、人間の隠された関係性に光を当てたと言えるでしょう。


フェリックス・ヴァロットン《アンティミテ》(1897-98年) 三菱一号館美術館

フェリックス・ヴァロットン《お金》

 

三菱一号館美術館で開催中の「フェリックス・ヴァロットンー親密な室内」展へ行って来ました。

フェリックス・ヴァロットンは、スイス・ローザンヌに生まれ、19世紀末パリの前衛芸術家グループ「ナビ派」とともに活躍しました。

16歳でパリに出て画塾アカデミー・ジュリアンに通い、サロンに出品する一方、1891年より木版画に着手します。

「外国人のナビ」と称され、華やかな都市生活の裏側を風刺とユーモアをもって描き出しました。

 

本展では、画家没後100年を記念し、同館コレクションからヴァロットンが室内を描いた代表的な版画作品を紹介しています。

 

展覧会の構成は以下の通りです。

 

1 はじめに 室内の肖像

2 世紀末の室内

3 アンティミストの室内

 

本展で注目されるのは、ヴァロットンが描いた私的な空間を舞台にした木版画や版画作品群です。

これらは単に「部屋の風景」ではなく、登場人物の関係性、感情、あるいは「社会の裏側」に潜む緊張や不穏さを静かに、しかし鋭く浮かび上がらせるものです。

特に連作として知られる《アンティミテ》では、夫婦や男女の駆け引き、欲望や孤独、欺瞞といった人間ドラマが、モノクロの抑制されたトーンによって映し出され、見る者に静かな衝撃を与えます。

フェリックス・ヴァロットン《アンティミテ》(1897-98年) 三菱一号館美術館

《嘘》

《きれいなピン》

 

「親密」に見えて、どこか居心地の悪さーーあるいは緊張や不安を孕んだ空気。

それが、19〜20世紀当時の都市ブルジョワ社会の裏側を暗示するようで、ただ美しいだけではない、リアリティと生の機微を感じさせます。

 

また、ヴァロットンの真骨頂である、日本の浮世絵から影響を受けた大胆な白黒のコントラストが冴え渡っています。

彼は、背景や服を「真っ黒な平面」として塗りつぶすことで、見る人の想像力を刺激します。

黒い塊が、単なる影なのか、それとも不吉な何かの象徴なのか、見る人の心理状態によって見え方が変わります。

フェリックス・ヴァロットン《怠惰》(1896年) 三菱一号館美術館

フェリックス・ヴァロットン《暗殺》(1893年) 三菱一号館美術館

 

本展は、作品の背景やモチーフ、時代性にフォーカスを絞り、「室内」というテーマに沿った濃密な切り口は鑑賞者の理解を深めやすく、ヴァロットンの”人間を見るまなざし”をじっくり味わうことができます。

「この二人に何があったのか」を妄想しながらの鑑賞をおすすめします。

 

 

 

会期:2025年10月11日(土)〜2026年1月25日(日)

会場:三菱一号館美術館

   〒100-0005 東京都千代田区丸の内2-6-2

主催:三菱一号館美術館

※アール・デコとモード展と同時開催のため、本展のみの入場はできません。

 

 

 

三菱一号館美術館で開催中の「アール・デコとモード 京都服飾文化研究所(KCI)コレクションを中心に」展でこれは、と思う作品、《シロクマ》の主観レビューをお届けします。


本作は、滑らかなフォルムと、愛らしさの中に秘められた動物の野性が特徴的です。

アール・デコ博覧会では、大使館パヴィリオンの玄関ホールに、リュールマンが指揮を執ったコレクショヌール館の大広間のテーブルにも小型のシロクマが置かれました。

 

本作の最大の特徴は、徹底的な単純化です。

通常、動物彫刻といえば毛並みや筋肉の隆起をリアルに描写するのが一般的でしたが、ポンポンはそれらを一切削ぎ落とし、つるりとした滑らかな表面に仕上げています。

また、表面の凹凸をなくすことで、シロクマの持つ純粋な「形」と「存在感」が際立っています。

 

これは、アルベルト・ジャコメッティとの類似点があるように思われます。

一見すると「ツルツル丸い(ポンポン)」と「ゴツゴツで細長い(ジャコメッティ)」で、真逆のように見えますが、両者は「写実」を捨てて、「本質」を求めたという点で強く結びついています。

 

つまり、表面的なリアルさを捨てて、本質だけを残そうとした姿勢に共通点が見出せるのです。

彼らは、目に見える姿形を超えて、生命の核心に触れようとしたのです。


フランソワ・ポンポン(1921-24年)《シロクマ》群馬県立館林美術館