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パラレル

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高崎市タワー美術館で開催中の「日本画オノマトペ」展でこれは、と思う作品、松尾敏男《波涛翔龍図》(2001年 高崎市タワー美術館)の主観レビューをお届けします。


本作は、画題にある通り、「荒れ狂う波」の中から「天に駆け上がる龍」が姿を現した瞬間が描かれています。

龍が天へ昇る推進力を強調するように、足元の波はダイナミックにうねっています。

それは、「ごぉぉぉ」というような音が聞こえてきそうな激しさです。

 

一方、龍の表情はどこかコミカルで、誰かに呼ばれて振り返っているようにも見えます。

さらに、動きはゆっくりで、マイペースさを感じます。

単に恐ろしいだけではない、「品格」が漂っているのです。

この対比が面白い作品です。

 

一般的に、昇龍と波涛は縁起の良いモチーフとされていることから、新春展覧会で目にすることも多いです。

一風変わった《波涛翔龍図》。

つい見入ってしまうことでしょう。

 

 

 

高崎市タワー美術館で開催中の「日本画オノマトペ」展へ行って来ました。

「ざあざあ」「ふわふわ」「きらきら」「しんしん」

こうした言葉をきっかけに絵画を見ることで、描かれた情景の温度や湿度、動きがより鮮明に想像できます。

日常的に思わず口をついて出る、このような擬音語や擬態語のことを「オノマトペ」といいます。

 

本展は、日本画の世界に「音」や「感覚」という新しいフィルターを通して触れることができる、非常にユニークな遊び心のある企画です。

 

展覧会の構成は以下の通りです。

 

水の音

人の営み

いきものたち

秋の気配

ふれて感じる

浮世絵でオノマトペ

 

日本画は本来“静“の芸術であるー

こうした先入観を裏切ってくる点が本展の一番の魅力です。

例えば、横山大観《朝陽映島》の前に立つと、波が打ち寄せる「ザブーン」という迫力や重低音が聴こえてきそうです。

 

また、「正解のオノマトペ」が提示されていない点が重要です。

キャプションはあくまで控えめで、鑑賞者自身が言葉を当てはまる余白がしっかり残されています。

この“余白“こそが、日本画の魅力とよく噛み合っています。

 

本展を通して感じるのは、オノマトペはモチーフではなく、「技法」から生まれるということです。

にじみやぼかしからは「ふわっ」「じわっ」と広がる空気感、筆致のリズムからは「すっ」「しゃっ」とした動きの気配、などです。

特に雪景色や静物画では、描かれていない部分が「音」を吸い込むように感じられ、静寂そのものがオノマトペになる瞬間があります。

 

さらに、複数の作家を並べて鑑賞すると、同じ自然モチーフでも音の質が全く異なることに気付きます。

力強い構図の作品からは、音も太く、「どん」「ばさっ」、繊細な線描の作品からは、「さらさら」「ひそひそ」といった感じです。

結果として、日本画=静か、というイメージが解体され、作家ごとの”音の人格”が立ち上がってきます。

 

本展は、日本画を「見るもの」から「感じて、言葉を生むもの」へと変える展覧会です。

短時間でも深く没入できる、密度の高い鑑賞体験が得られることでしょう。

 

 

 

 

会期:2025年9月27日(土)〜12月21日(日)

会場:高崎市タワー美術館

   〒370-0841 群馬県高崎市栄町3-23 高崎タワー21(入口4階、出口3階)

開館時間:午前10時〜午後6時

   金曜日のみ午前10時〜午後8時

   (入館はいずれも閉館30分前まで)

休館日:月曜日(祝日の場合は開館し、翌日休館)

 

美術出版社から刊行された『絵でわかるアートのコトバ』を読んでみました。


「美術検定」実行委員会・編(2011年)『絵でわかるアートのコトバ』美術出版社


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