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パラレル

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太田市美術館・図書館で開催中の「原倫太郎+原游 バベルが見る夢」展でこれは、と思う作品、《真夜中のやまびこ》の主観レビューをお届けします。


本作は、旧約聖書の「バベルの塔」の物語を現代的な視点で再解釈した展示の一環として制作されました。

このインスタレーションでは、暗闇の中に、光や影、そして重なり合うイメージが投影・配置されています。

タイトルにある「やまびこ」が示す通り、視覚的なイメージが反復し、こだまのように空間に広がっていく体験を生み出しています。

 

これは、混沌とした「夜」へと足を踏み入れる、幻想的な作品と言えます。

つまり、バベルの塔神話において、人々が最も団結し、最も自信に満ち、最も創造的だった瞬間が去り、崩壊後の混乱と反響を表しているのではないでしょうか。

 

塔が崩れた後、声は届かず、言葉は反響し、意味は歪む。

これはまさにやまびこ=壊れたコミュニケーションです。

作家は、”崩壊そのもの”を描かず、反響に置き換えたと言えるのではないでしょうか。


原倫太郎+原游(2025)《真夜中のやまびこ》

太田市美術館・図書館で開催中の「原倫太郎+原游 バベルが見る夢」展でこれは、と思う作品、《Mika Mika》の主観レビューをお届けします。

食材や日用品など、生活の周縁にある「使われるもの」の断片で人物画のようなものが構成されています。

その表情は生き生きとしており、躍動感にあふれています。

会場では、頭上に球体が行き交い、まるで夢の中のよう。

それに合わせるかのように、夢の世界を表しているようです。

 

しかし、一見すると何かの形を成しているようで、決定的には定まらない輪郭があります。

中央から上部にかけて、左右対称にも見える穏やかな弧や点の配置は、顔・生き物・仮面・器などを連想させますが、どれも完全には収束しません。

しかも、日用品は機能を失い、食材は食べ物として完結せず、道具は役割を果たさない。

このことから、「世界や主体が、これまでの形では保てなくなっている」という静かな崩壊の暗示と受け止めることができるのではないでしょうか。

 

それでも、本作は暗過ぎない。

それに暴力的でもない。

つまり、崩壊の最中にある「生」がまだ機能していると思われます。

それは、別の秩序へ移行する身体を示しているのではないでしょうか。

原游(2025)《Mika Mika》作家蔵

 

太田市美術館・図書館で開催中の「原倫太郎+原游 バベルが見る夢」展へ行って来ました。

創世記に記された「バベルの塔」の物語をご存知でしょうか。

人々はみな同じ言語を話し結束して天まで届く塔を作ろうとしていましたが、神がそれを知り人々の言語を乱した結果、塔は完成を見ませんでした。

これにより人間は共通言語を失いましたが、そこから再出発し現在のような多言語が共存する世界に至ります。

その意味で、この物語には終焉と始源の両義性が示されているとも言われます。

 

本展は、太田市美術館・図書館の螺旋状の建築自体をバベルの塔に見立てた体験型インスタレーション展です。

作品を鑑賞するという受動的な体験だけでなく、空間を歩き、身体を動かし、鑑賞者自身が”遊び”を通じて作品と出会えるような構成が特徴です。

 

展覧会の構成は以下の通りです。

 

1  浮遊する夢

2 美術館・図書館の守り神

3 真夜中のやまびこ

4 ロゴスの庭/リミックスワードの世界

 

第1章では、絵画やオブジェが宙に浮くように配置され、上下間隔やスケール感が揺さぶられる展示空間となっています。

夢の中で「ふわり」と場面が切り替わるような感覚を、空間的に体験させられます。

ここでは、「見る」という行為が不安定となり、意味や秩序がまだ固まっていない”夢の状態”をそのまま展示化していると言えます。

展示風景より

 

2階へと上るスロープには、太田市中央小学校5年生との連携作品が展示されており、本展の大きな魅力の一つとなっています。

専門アーティストと地域の子どもたちが共に作り上げた作品を鑑賞することで、ともすると難解になりがちな現代アートが”身近で親しみやすいもの”として立ち現れてくることでしょう。

展示風景より

 

第3章では、暗がりや影、反響を伴う展示で、視覚以外の感覚が前面に出てくる章です。

光が制限され、音や気配が強調されます。

また、作品の輪郭がはっきりしません。

その為、理解するより先に、身体が反応してしまう、という体験が起こります。

原倫太郎+原游(2025)《真夜中のやまびこ》

 

第4章は、文学・言語・意味が分解され、再編成される展示空間となっています。

ここでは、言語が「伝達の道具」ではなく、「素材」として扱われています。

言葉が通じない。

でも完全に無意味ではない。

つまり、意味の崩壊=コミュニケーションの終わりではないというメッセージが浮かび上がります。

原倫太郎(2025)《ロゴスの庭》

 

全てを見終えた時、私たち自身が「塔の中を彷徨った存在」になっていることに気付きます。

本展の核心は、バベルの塔を「人間の失敗」としてではなく、「想像力が溢れ過ぎた状態」として描き直す点にあります。

だからこそ、「答え」は用意されていないのです。

 

 

 

会期:2025年11月22日(土)〜2026年1月18日(日)

会場:太田市美術館・図書館

   〒373-0026  群馬県太田市東本町16-30

休館日:月曜日(ただし、11月24日、1月12日は開館)、11月25日〜26日、12月23日、12月30日~1月3日、13日

開館時間:午前10時〜午後6時

   ※入館は午後5時30分まで

主催:太田市、一般財団法人太田市文化スポーツ振興財団

協力:太田市中央小学校

協賛:株式会社SUBARU

助成:公益財団法人  野村財団