『浄土思想 釈尊から法然、現代へ』 | パラレル

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中公新書から刊行された『浄土思想 釈尊から法然、現代へ』を読んでみました。

岩田文昭『浄土思想 釈尊から法然、現代へ』(2023年)中公新書

 

仏教の大きな流れの一つに「浄土思想」があります。

浄土思想とは、清らかな仏の国土である浄土に往生し、そこにおいてさとりを得て仏になるという思想です。

経典には様々な仏の浄土が説かれています。

その中で、日本では阿弥陀仏が住む極楽浄土が最もよく知られています。

 

浄土思想・浄土教は「物語」によって成り立っています。

その中核にあるのが、無量寿経という経典に説かれた「法蔵説話」です。

衆生を救おうとする法蔵という名の菩薩の誓いが完成して、仏になったという筋書きです。

 

また、観無量寿経に説かれた「王舎城の悲劇」も重要です。

この悲劇は、親子の間で繰り広げられた葛藤と苦悩の物語であり、浄土教が広がるうえで大きな役割を果たしてきました。

 

経典に説かれたこれらの物語は人々の心に深く訴えてきました。

しかし、本書が注目するのは、そこから新たな物語が生み出されてきたことです。

日本で浄土思想が多くの信者を獲得していったことを理解する鍵は、浄土教の物語が動的に関連していったさまを知ることにあります。

 

目次

はじめに

第一章 物語の力と浄土思想

 1 経典への向き合い方

 2 浄土三部経

第二章 中国の浄土思想

 1 観無量寿経の解釈

 2 善導の神秘的体験と生涯

 3 浄土思想の大成者

 4 善導の布教方法

第三章 平安浄土思想から法然へ

 1 源信の往生物語

 2 日本浄土思想の元祖法然

 3 法然の神秘的体験と法然伝

第四章 法然門下の諸思想

 1 念仏と自由思想

 2 證空の生涯と思想

 3 當麻曼荼羅の流布

第五章 親鸞の浄土観と物語論

 1 親鸞の生涯

 2 親鸞による浄土の非神話化

 3 親鸞の夢と親鸞伝

第六章 二十世紀の新たな物語

 1 近角常観の「実験の物語」

 2 阿闍世コンプレックスと『ブッダ』

終章 物語は現代に続く

あとがき

 

いうまでもなく、物語にも様々な種類があり、それが開く世界も多様です。

そのなかにあって、浄土教の物語はその固有の宗教的現実を開いてきました。

浄土教の歴史は、その物語が人々の心に訴え、そこからまた新たな物語が生まれながらダイナミックに展開してきた歴史といえます。

本書は、そのような浄土教の歴史を物語という観点から描いています。

浄土思想の本質に迫ってみませんか。

 

 

 

 

 

筆者プロフィール

岩田文昭(いわた ふみあき)

1958年生まれ。京都大学文学部哲学科(宗教学)卒業。同大学大学院文学研究科博士課程満期退学。1986-87年ルーヴァン大学高等哲学研究所留学。京都大学博士(文学)。専攻は宗教学・哲学。現在、大阪教育大学教授。

著書『フランス・スピリチュアリスムの宗教哲学』(創文社 2000年)

  『近代仏教と青年』(岩波書店 2014年)

共編著『知っておきたい 日本の宗教』(ミネルヴァ書房 2022年)

   Religion and Psychotherapy in Modern Japan,Routledge,2014