シンフォニー・オブ・アートーイメージと素材の饗宴 | パラレル

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群馬県立館林美術館で開催中の「シンフォニー・オブ・アートーイメージと素材の饗宴」展に行って来ました。


多くの音で構成される交響曲のように、アート作品も多様な要素が集まることで作られているものがあります。

本展は、アート作品の表現や成り立ちを「集める」という視点から注目し、館林美術館コレクションを中心に様々な作品を紹介するものです。

 

展覧会の構成は以下の通りです。

 

1 集積する形・素材

 形や色

 イメージやモチーフ

 素材を集めて

2 集められた生きものたちー博物誌より

3 繊維の集積 ファイバーアート

 

まずはアート作品の表現に「集められた」要素を探していきます。

パターン化した色や形を集積した表現による絵画、同じモチーフを集めて構成した立体などのほか、ストーリーを伝えるために多くのモチーフが集められた物語的な表現を紹介しています。

また同じ素材を集めたり、異なる素材を積み重ねたりする表現も取り上げられています。

 

オノサト・トシノブ《二つの円》(1957年 群馬県立近代美術館)に見られるように、抽象表現を探究したオノサトは、織物のような細かい縦横の線が描かれた背景に、赤や青などの単色で塗った円を画面の中央に配置した「ベタ丸」と呼ばれるスタイルを確立しました。

その後、円の中まで細かい線で区切り、鮮やかな色彩で塗り分けた「分割円」と呼ばれる描き方へと移行します。

円はひとつから始まって、複数描かれるようになり、表現も複雑さを増しています。

 

山中現《星空Ⅵ》(1987年 寄贈(旧I氏コレクション))は、不思議な感覚に囚われる作品です。

山中の1980年代の作品は、白と黒、グレーを基調としたモノクロームの画面に、生き物のような細長い形を配するシリーズとなっています。

夜景や宇宙空間を想起させる深みのある黒い背景には、書道用の墨を細かく砕き、水につけて乳鉢で擦り潰した「漬け墨」を使っています。

山中は、ものの形そのものを表すことにより、「光」と「影」から三次元的な空間を創り出すことに関心を注ぎ、壁や地面に落ちた影の存在を強調したり、極力排したりして、まるで無言劇が始まる舞台のようなイメージを導き出しました。

 

金田実生《夜が少しずつ降りる》(2005年 群馬県立館林美術館)は、夕闇の迫る時刻、地平線と丘陵がうっすらと見える遠景の手前に、光の粒が空にのぼっていくかのように浮かんでいます。

自然の息遣いや生命の囁きに目を向けながら、金田は自らが身近な世界で感じ取った様々な感覚を抽象的な画面に描き出しています。

カンヴァス(布)ではなく、紙に油彩で描くのは「痕跡が残りやすく『取り消せない』という緊張感」があるためだといいます。

これらの作品には、パステルのような爽やかさと艶やかな質感が生まれ、宇宙を思わせるような空間が生まれています。

 

物語を伝えるために、たくさんのイメージを集めて作られた作品があります。

梅沢和木《BLACK OMEN and CloudSBX》(2020年 寄託作品)は、インターネットから集めた画像を元にしています。

大量に集めたキャラクターなどの画像をパソコンで加工して再編成し、それをプリントアウトしたものに絵具などでペインティングを施し、混沌としたイメージの集まりで作り出された宙に浮かぶ城のような光景は、情報があふれるインターネットの世界を表しているようです。

 

山口晃《深川寺参詣圖》(1994年 群馬県立館林美術館)には、勢いよく雲が降りてくる山間の参道を古今の人々が行き交い、様々な時代様式で積み重なる寺院や非現実的な構造の門が立っています。

本作は、作者が日本の美術史における自らの絵画の在り方を問う作品として描いた、大学卒業制作作品です。

明治期に西洋から移入された油彩を、西洋の遠近法は用いず、鳥瞰的な空間を作り、自身の原点である子どものお絵描きの延長で、現実と想像を織り交ぜた建築構造物や時代を超越した人間模様を緻密かつ精彩に描き出しました。

 

作品の元になる材料に注目して、同じ素材や様々な素材を集めた作品を紹介されています。

コバヤシ麻衣子《そこからいる》(2021年 寄託作品)に大きく描かれている擬人化された白い動物は、コバヤシがデビュー以来描き続けているキャラクターです。

可愛らしい見た目をしていますが、何らかの感情を伝えるような表情をしており、単色の背景はどこか不穏さを感じさせます。

全体の印象を形作っているのは、絵具の下に重ねられた素材にあるのかもしれません。

ランダムに割いた和紙をコラージュのように画面全体に貼り付けて下地を作り、和紙の重なりから生まれたニュアンスを活かしてアクリル絵具で描き、繊細な表現を作り出しています。

 

ホセ・マリア・シシリア《赤い花々Ⅰ》(1998年 群馬県立館林美術館)は、作品の中に吸い込まれそうになるような感覚にさせる作品です。

乳白色をした透明感のある質感と、そこに浮かぶ鮮やかな赤。

蜜蝋と油絵具を合わせて用いることにより生み出されています。

1990年代頃から作者は、この技法を用いて鮮やかな色彩の花を描いています。

シシリアにとって、美しい花は生命の象徴であると同時に死の象徴です。

敬虔なイスラム教徒の姿に感銘を受けたシシリアは、神を表すためのものとしてコーランを作品に用いるようになりました。

自然の移ろい行く生命を現すと同時に、宗教的な精神性を半透明の蜜蝋の層に閉じ込めているのです。

 

また、ゲスト・アーティストとして、ファイバーアートを制作する二人のアーティストによるコーナー展示もあります。

徂徠友香子は、羊毛を集めたフェルト作品を作っています。

大きさや色、形を自由自在に操れるフェルトの技法によって、不思議な世界を出現させています。


徂徠友香子《Energeia》(2015年)作家蔵


徂徠友香子《Entropia》(2017年)作家蔵

 

出居麻美は、絹、綿、ウールなどの繊維素材を、織ったり染めたり、縫ったりと色々な手法を使って作品を作っています。

使用済みのお菓子の袋を集めて使った作品も展示されています。


出居麻美《on the road》(2010年)作家蔵

出居麻美《NO RETURN》(2022年)作家蔵


展示風景より

 

モチーフや素材が集まることで響きあい、個性豊かな表現を見せてくれるアート作品。

その世界を堪能してみませんか。

 

 

 

 

 


 

会期:2024年4月20日(土)-6月23日(日)

会場:群馬県立館林美術館

   〒374-0076 群馬県館林市日向町2003

開館時間:9:30-17:00

休館日:月曜日(4月29日、5月6日を除く)、5月7日(火)

主催:群馬県立館林美術館