特別展「法然と極楽浄土」 | パラレル

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東京国立博物館で開催中の「特別展「法然と極楽浄土」」へ行って来ました。


平安時代末期、繰り返される内乱や災害・疫病の頻発によって世は乱れ、人々は疲弊していました。

こうした状況にあって、浄土教を大成した中国唐代の善導の教えに接した法然は、1175年、阿弥陀仏の名号を称えることによって誰もが等しく阿弥陀仏に救われ、極楽浄土に往生することを説き、浄土宗を開きました。

その教えは貴族から庶民に至るまで多くの人々に支持され、現代に至るまで連綿と受け継がれています。

 

本展は、法然による浄土宗の立教開宗から、弟子たちによる諸派の創設と教義の確立、徳川将軍家の帰依によって大きく発展を遂げるまでの歴史を、国宝、重要文化財を含む選りすぐりの名宝によってたどるものです。

 

展覧会の構成は以下の通りです。

 

第1章 法然とその時代

第2章 阿弥陀仏の世界

第3章 法然の弟子たちと法脈

第4章 江戸時代の浄土宗

 

相次ぐ戦乱、頻発する天災や疫病、逃れられない貧困など、平安時代末期の人々は苦悩に満ちた「末法」の世に生きていました。

この時代に生を享けた法然は、比叡山で天台僧としての修行を積みますが、43歳の1175年、唐の善導の著作によって専修念仏の道を選びました。

 

「南無阿弥陀仏」と称えれば救われるという教えは、幅広い階層の信者を得ます。

しかし、既存仏教からは念仏停止が強く求められ、ついに法然は75歳の時、讃岐へ配流されるに至りました。

やがて帰京し、80歳で往生を遂げます。

 

『往生要集』の絵巻としては現存最古の作例である《往生要集絵巻 巻第五》(室町時代 15世紀 東京国立博物館)が紹介されています。

巻第五では、極楽の十楽を取り上げ、巻頭の阿弥陀聖衆の来迎に始まり、極楽浄土によって得られる様々な喜びや楽しみがつづられています。

 

《法然上人絵巻》(鎌倉時代 14世紀 京都・知恩院)は、法然の伝記を描いた絵巻のうち、最もよく知られた名作です。

阿弥陀仏の四十八誓願にちなみ、全48巻という圧倒的な量で仕立られています。

江戸時代の文献によると、後伏見天皇の勅命で1307年から10年かけて制作されたといいます。

 

1204年、延暦寺衆徒が蜂起し、専修念仏停止を天台座主に訴えました。

《七箇条制誠》(1204年 京都・二尊院)は、この動きを背景に法然が門弟に対し記したものです。

阿弥陀仏以外の仏や菩薩を謗るのをやめることなど、七箇条にわたって禁止事項をあげています。

法然以下の門弟190名の署名があります。

 

《迎接曼荼羅図(正本)》(12〜13世紀 京都・清涼寺)は、法然に帰依した熊谷直実の念持仏と伝わる来迎図です。

往生者のもとに向かう阿弥陀聖衆の周囲に多くの化仏や宮殿が現れており、九段階の往生(九品往生)の最上位とされる九品上生往生を表します。

上部には来迎を終えて極楽浄土に帰ってきた阿弥陀一行を描いています。

 

法然は、阿弥陀如来の名号「南無阿弥陀仏」をひたすらに称える専修念仏を何より重んじていました。

貴賤による格差が生まれる造寺造仏などは必要ないと説いており、法然自身は阿弥陀の造像に積極的ではありませんでした。

しかし、それを必要とする門弟や帰依者が用いることは容認したようで、彼らは阿弥陀の彫像や来迎するさまを描いた絵画を拝しながら、日頃念仏を称え、臨終を迎える際の心の拠りどころとしたのです。

 

《阿弥陀如来および両脇侍立像(善光寺式)》(鎌倉時代 13世紀 福島・いわき市)は注目です。

インド伝来として著名な長野・善光寺本尊の阿弥陀三尊像は、古来厳重な秘仏ですが、中世以降は浄土系宗派の注目も集め、模造が盛んに造られました。

本像は浄土宗名越派の中心である福島・如来寺に伝来しました。

光背や中尊の台座は1304年に補われた可能性があります。


《阿弥陀如来坐像》(鎌倉時代 13世紀 京都・阿弥陀寺)は、京都府城陽市にある阿弥陀寺の本尊です。

理知的な表情で、肉付きがよくボリュームのある胴部に対して腰を極端に絞っており、引き締まったプロモーションが印象的です。

像底は底板で閉じられていますが、像側面にあいた孔から内部に納入文書があることが確認できます。

 

《阿弥陀二十五菩薩来迎図(早来迎)》(鎌倉時代 14世紀 京都・知恩院)は、急角度の対角線構図で速度感を強調した表現から「早来迎」の名で知られ、最も有名な来迎図の一つです。

皆金色身の尊像表現や、緻密な濃彩の画風から、14世紀初頭の作と考えられます。

桜咲く春の情景と白雲上の黄金の仏達が醸し出す色彩感覚は特に秀逸です。

 

法然のもとには彼を慕う門弟が集い、浄土宗が開かれました。

法然没後、彼らは称名念仏の教えを広めようと、それぞれ精力的に活動をおこないます。

九州(鎮西)を拠点に教えを広めていった聖光の一派である鎮西派は、その弟子良忠が鎌倉などを拠点として宗勢を拡大しました。

また、証空を祖とする一派である西山派は、京都を拠点に活動を展開しました。

 

《綴織當麻曼荼羅》(中国・唐または奈良時代 8世紀 奈良・當麻寺)は圧巻です。

浄土教の三大聖典の一つ『観無量寿経』の経意を綴織の技法で表した作品です。

阿弥陀如来を中心とする広大無辺の浄土世界が展開します。

浄土教の拡がりに伴い、その価値が高く評価され、本作および同図像は當麻寺の名を冠して通称されるようになりました。

 

《当曼荼羅縁起絵巻》(鎌倉時代 13世紀 神奈川・光明寺)は、《綴織當麻曼荼羅》の成立に関わる説話を描いた絵巻です。

浄土信仰に篤い姫は、化尼(阿弥陀の化身)に従い、蓮糸を準備し、観音の化身である女がそれを用いて曼荼羅を織り上げました。

姫の臨終には阿弥陀聖衆が来迎しました。

料紙を縦に用いた異例の大画面が圧巻の国宝絵巻です。

 

《末代念仏授手印(生極楽本)》(鎌倉時代 1228年 福岡・善導寺(久留米市))は、筑後の善導寺を開いた聖光が、法然の教えの真義を後世に伝えるために著したものです。

師弟の証として生極楽に授けられた聖光自筆本。

「南無阿弥陀仏」と称える称名念仏こそが、浄土に往生するための正行であるとする法然の教えを徹底して説いています。

 

後柏原天皇宸翰《一枚起請文》(室町時代 1522年 愛知・大樹寺)は、一枚の紙に専修念仏の意味を仮名まじりの平易な文章で記したもので、口称念仏こそ本願の念仏に他ならないと説いています。

法然の教えが広く支持を集めるにしたがい、歴代上人たちの求めにより貴人が書写することも行われ、本作は後柏原天皇の揮毫とされます。

 

浄土宗中興の祖聖冏が伝法制度を確立し、その弟子聖聡が江戸に増上寺を開くと、体系化された浄土宗の教義は全国へ普及していきました。

その流れは三河において松平氏による浄土宗への帰依へとつながり、末裔の徳川家康が増上寺を江戸の菩提所、知恩院を京都の菩提所と定めたことにより、教団の地位は確固としたものになりました。

 

伝徳川家康筆《日課念仏》(江戸時代 17世紀 東京国立博物館)は、徳川家康がその晩年に自らの減罪を念じ、ひたすらに「南無阿弥陀仏」を書いたものです。

整然と隙間なく書かれた名号の中に「南無阿弥家康」が見えます。

浄土宗に帰依した家康の内面をうかがえる作品です。

 

《浄土三部経》(江戸時代 17世紀 茨城・弘経寺)は、2代将軍徳川家忠の娘、千姫ゆかりの飯沼弘経寺に伝わる経典です。

千姫は、大坂冬の陣で夫・豊臣秀頼が没した後、本多忠刻に再嫁し、後半生は同寺第10世了学に帰依し、多大な寄進をしました。

この経典は、千姫の孫娘が書写し、同寺に奉納したものです。

 

祐天は5代将軍徳川綱吉等の帰依を受け、増上寺第36世を務めました。

《祐天上人坐像》(江戸時代 1719年 東京・祐天寺)は、祐天上人の没後まもなく、綱吉養女の寄進を受けて造られたもので、口を開いて念仏する姿を写しています。

この像を安置し、廟所として整備したのが祐天寺です。

 

展覧会の最後に《仏涅槃群像》(江戸時代 17世紀 香川・法然寺)が紹介されています。

法然寺は、高松藩初代藩主松平頼重が、法然上人配流の地にあった寺を移して、1668年から3年かけて造営しました。

十王堂、来迎堂などにも群像がありますが、圧巻はこの仏涅槃群像です。

大小あわせて83軀の中から26軀を展示されています。


展示風景より


展示風景より


展示風景より


展示風景より


展示風景より


展示風景より


2024年は、浄土宗開宗850年を迎える節目の年です。

困難な時代に分け隔てなく万人の救済を目指した法然と門弟たちの生き方や、大切に守り伝えられてきた文化財にふれる貴重な機会となります。

法然による開宗の前後から、近世に至るまでの浄土の教えと、その祈りの姿を観に行きませんか。

 

 

 

 


 

 

会期:2024年4月16日(火)〜6月9日(日)

会場:東京国立博物館 平成館

   〒110-8712 東京都台東区上野公園13-9

開館時間:9時30分〜17時00分

   (入館は閉館の30分前まで)

休館日:月曜日、5月7日(火)

   ※ただし、4月29日(月・祝)、5月6日(月・祝)は開館

主催:東京国立博物館、NHK、NHKプロモーション、読売新聞社

特別協賛:キヤノン、大和証券グループ、T&D保険グループ、明治ホールディングス

協賛:JR東日本、清水建設、竹中工務店、三井住友銀行、三井不動産、三菱ガス化学、三菱地所、三菱商事

特別協力:浄土宗開宗850年慶讃委員会、文化庁

協力:NISSHA

お問合せ:050-5541-8600(ハローダイヤル)